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atelier arc-en-ciel アトリエ アルカンシエル  作者: 諏我一涙
第一歩は踏み出した
12/49

side.A 3話 ここが俺達の帰る場所 

いまだから言えることだけれど、本当は七人が七人共、共同生活なんて一等苦手とするところだよね?

七人が七人、誰が別の人間であっても成り立たない。

きっと、そんな組み合わせの七人が揃い踏みしたんだよ。

 ドッキリのような左村(さむら)さんの登場に、緋色(ひいろ)は驚きつつも存外フリーズはしない。

「きぃさんも居るよ!」

 左村さんが門の方を振り返り、その視線を追うとそこには二台のトラックが停まっていて、

「おい、アオ! 業者さん放って行くな。一台はお前の荷物だろう?」

 きぃさんこと橋真(はしま)さんがバタバタした様子でこちらに向かって来る。

「橋真さんも! どうされたんですか? 荷物って、まさか?」

「ひいちゃん、おはよう」

 橋真さんはいつもの余裕のある笑顔を緋色に向ける。

(いやいや、橋真さん、にっこり挨拶より先に、ありますよね?)

 どこからツッコむべきなのか分からない。

「そうだよ。俺達も引越して来たんだよ」

「あれ? 近重(このえ)さんから聞いてないか?」

 まだ全員集合したのは一度だけの割に、皆、緋色に対して大分砕けた話し方をするようになっている。緋色自身、ひいちゃん呼びされてることに関してスルーしているという…。

「あの、私が転蔵(てんぞう)さんから聞いてるのは、今日から新しい人が入るってことだけで、男か女かも名前すら詳しいことは何も」

「そうなの? (あい)くんのことも?」

 左村さんが緋色に話し掛けているくせに、含みのある笑みを浮かべて俺をチラ見した。

「? はい、聞いてないです」

 厄介なのはその一瞬の視線の揺れに緋色が敏く気付いてしまったことだ。

 左村さんに返答した後、緋色が俺に向き直り顔を見上げる。

 最初に近重さんに連絡したとき、実は(しずか) 緋色(ひいろ)の幼馴染だと伝えた上で、サプライズを仕掛けたいから黙ってて下さいとお願いしておいたのだ。

「ていうか、藍は何で遥々パリから引越してきたの?」

「何で、てことはねぇだろ? お前だって一応性別は女だろうが! 古いアパートに一人きりでなんて居させらんねぇだろ?」

「華奢な女子の皆さんと私を同じだと思ってくれるな! 私は普段体力自慢の連中に交じってコンテナ運ぶ仕事をしてるし、空手道有段者で都大会チャンプなんだからね!」

 そんなドヤ顔をされても、約40cmも下から見上げられているこの体格差ではどうしたって説得力に欠ける。

「まぁまぁ、ひいちゃん」

 橋真さんが苦笑いで口を挟む。

「すみませーん、お届け物でーす」

 門の外から見知らぬ声がした。

「あ、俺の荷物かも」

 緋色から逃げるように声の主の方へ駆け寄ると、

「フランスから西日(にしび)さん宛の荷物をお届けに参りました。ですが、その、トラックが…」

 アパートの前の公道に引越し業者の4トントラック二台が縦列していて、その後方に航空便の業者の2トントラックが続いている。

 少しお待ちくださいと断りを入れ、玄関に立っている緋色の元に戻る。

「緋色、左村さんと橋真さんのトラックに続き、俺のトラックも来たから前の道、混み合っちゃてて、敷地内の駐車場に三台とも入って貰っても構わない?」

 さっきのやりとりはうやむやにしたまま、トラックを駐車場に誘導し、本格的に引越し作業開始となった。


 アパート内を複数の業者さんが行き来し、俺達三人も各々、階段を上ったり下りたり、共同玄関から自分が借りた部屋までを往復し荷物の運び込みを進めていく。

「左村さん、次、書棚いいですか?」

「橋真さん、ベッド行きますよ」

 俺の荷物は段ボールしかないとは言え、三人の引越しを同時進行で進めている状況で、廊下や階段で荷物や人が渋滞しないように業者さんの間でも業者さんと俺達の間でも逐一確認を取り合う。

 玄関に向かうと丁度、橋真さんと左村さんも下りて来たところだった。

 1階の共用食堂にいる緋色を警戒しながら小声で、

「何でお二人まで居るんですか?」

「そりゃ、引越して来たに決まってんだろ?」

 左村さんと橋真さんが眼で会話したのを俺は見逃さない。

「それは見りゃ分かるんですよ。そうじゃなくて」

「はいはい、話は後々。こんなとこで嵩張る男三人が固まってたんじゃ、邪魔になるでしょうが」

 食い下がろうとしたけれど、橋真さんに追い立てられ流されてしまった。

(俺が今日ここに引越して来ることも知ってたっぽいしな…)

 その後、何度か二人に話し掛けてみたけれど、まともに取り合って貰えず、仕方なく俺は自分の作業に集中することにした。

 1時間程経つと、二人の荷運びも終わったようでトラックは三台とも引き上げて行き、やや静かになった。

 一旦休憩しませんか? と、食堂で、緋色が淹れてくれたコーヒーを飲んで一息入れる。

「もし良かったら、今夜はここで四人でご飯食べませんか? 新しい入居者さんの歓迎会です」

「あ、そしたら俺、後でこいつと買い出し行ってきます」

「ありがとう。頼むよ」

 橋真さんが緋色と俺に微笑み、マグカップに手を伸ばした。

 四人のカップが空になった頃、また玄関のチャイムが鳴った。

「私が出ます」

 席を立った緋色を何となく追って玄関まで行く。

「どなたですか?」

 緋色が声を張ると、

「郵便局です」

「郵便局? 私、何か注文してたっけ?」

 怪訝そうにしながらも、上がり框を下り、ドアノブに手を掛ける緋色。

「緋色、ちょ、待て! いまの声って、もしや⁈」

「え?」

 緋色が俺を振り返るも時既に遅し。ドアは開いてしまった。

「やっぱり…」

 ドアの向こうに立っている男を見て、溜息が混じる。

 緋色がまた外に視線を戻すと、

「来ちゃった! てへ♡」

「てへ♡ じゃねぇよ!」

 1歳上の以前(いさき)さん相手に思わずタメ口でツッコむ。

(みどり)、打ち合わせと違う」

「碧さん、紫来(しき)さんも待ってくださいよ」

鈴野(すずの)さん、高峰(たかみね)さんも!」

 俺より先に緋色が口を開いた。

 三人並び、

「来ちゃった! てへ♡」

 声を揃え、同時にニコリ。

「あんたらもか!」

 またタメ口でツッコむ。高峰さんは2歳下だけれど、鈴野さんは4歳上だ。

 アパートの中から橋真さんと左村さんも出て来て、

「おぉ、予定通りだな? 三人共」

「ナイスタイミングだよ! 碧くん、紫来さん、ダイくん」

 俺と被るかも知れない状況で、五人一遍に来ては、流石に荷物の運び込みで業者さんが困るだろうということで、事前に話し合って第一便、二便に分けたらしい。

 俺はモノローグで小さく溜息を吐いた。

 全員荷物の量の関係で二部屋借りで、部屋番号は1階から4、5号室に鈴野さん。2階は6、7号室に以前さん、8、9号室に左村さん、10、11号室に高峰さん。3階は12、13号室に橋真さん、14、15号室に西日、16、17号室に緋色。昨日までは緋色一人きりだったアパートがもう残りは1から3号室だけという、ほぼ俺達アトリエアルカンシエルの独占状態となった。

「何なんですか、本当に揃いも揃って…」

「何で藍がぶうたれるのさ? 本当は全員集合で嬉しいくせに」

 すかさず緋色にからかわれ、

「ぶうたれるとか言うなし。子どもじゃねぇ」

 言い返すと、

「藍ちゃんはひいちゃん相手だと本当に可愛いね」

 以前さんが笑い、他の皆も何時の間にか笑っていた。



 全員の引越しが一段落したところで、俺達は結局七人全員で近所のスーパーに買い出しに行った。緋色が頭の中で組み立てているメニュー以外のものも、男が六人も居ると好き勝手にどんどん籠に入れていくから、あっという間に二台の買い物カートが満杯になった。

「緋色、酒もここで買うの?」

「いや、お酒は商店街のリカーショップがいいよ?」

「おっけーい! そんじゃぁ、諸君、食材はこれくらいで満足か? さっさと会計して、酒いっくぞー!」

 大の大人が揃いも揃ってこのはしゃぎ様はどうなんだ? と思ったけれど、楽しいのは俺も同じだ。

 キャッキャウフフの以前さんの号令でレジに進み、全員で食材を袋詰めしていく。

「ところで、買ったはいいのだけれど、この量、持ち切れるかな? これからお酒も買うのに」

「バーカ。んなもん、楽勝に決まってんだろ?」

 俺は笑みに含みを持たせ、皆の方に目配せする。

 そう、繰り返しになるけれど、ここには大人の男が六人も居る。

「そっか。七人でわいわい買い物するの、楽しいね!」

 緋色が笑う。

 各々自分で詰めた袋を持つと全員が片手で済む数で、俺は緋色が持っている分を、貸せ。と手を伸ばしたけれど、だから私は力持ちだってば。と笑い飛ばされてしまった。

(こういうところも、こいつは昔から変わらないな…だから、俺は…)


 丁度帰り道にあるリカーショップに着くと、また思い思いに選んでいき、袋4つ分の量になった。

「おし、男共、ここはじゃんけんだ。負け四人が持つんだからな」

 ここは橋真さんの号令で、他の皆が右手左手とばらばらの手を前に出す。

 手が七本になったところで、俺、男共って言っただろ? と緋色は参加を制止された。

 橋真さんに言われれば、緋色もすんなり従うらしい。

「じゃ、行くぞ! 最初はグー。ジャンケン、ッポン!」

 あいこが続くかと思いきや、勝敗は一発で決まった。橋真さんと左村さんがパー、それ以外はグーで、鈴野さん、以前さん、高峰さんと俺が酒を持ち、店を出た。

「こういう場面でアオが負けるとこって想像つかないよな?」

 鈴野さんの言葉に左村さん以外の全員が即同意し、うんうんと頷く。

「そうですか? 俺だって負けますよ?」

「ほらな? 眼が負けませんよ。て言ってんだよ」

「バレたか!」

 皆が一斉に笑い、その後もアパートまでの帰路を下らないことを話し終始笑いながら歩いた。

 


 アパートの前まで着き、門を抜け共同玄関の前まで来ると、緋色が一人、前に出て俺達六人に向き直る。

「皆さん、七色荘(しちしきそう)へようこそ。それから、お帰りなさい」

あの瞬間に俺達の帰る場所は、七色荘になった。

緋色と喧嘩して、気まずくて帰りにくい日もあるけれど、それでも、あの場所に七色荘が在って、七色荘に皆が居てくれる。

それがどんなに有難くて幸せなことか、噛み締めるのにそう時間はかからなかった。



今週もお読み戴き、どうもありがとうございました。

七人が七色荘に揃い踏みなのはウキウキワクワクなのですが、“七色荘”(しちしきそう)って発音しずらいです。高確率で噛みます。


次話、side.A 4話 七人会議 は6月5日火曜日 午前0時に掲載予定です。

是非とも4話も宜しくお願いします。




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