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atelier arc-en-ciel アトリエ アルカンシエル  作者: 諏我一涙
第一歩は踏み出した
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プロローグ

 私が変わり者だって? あぁ、知っている。だって、何度も聞いているデフォルトのフレーズだから。『お前みたいな人間には初めて会ったよ』てさ。他者の私への評価はまず一番にこれがくる。

 変わり者の私を肯定的に取ってくれる人、否定的に取り自分とは相容れないと判断する人。世の中には、存在する人間の数だけ様々な考え方が存在するのだろう。

 あらゆる見地から検討してみたところ100%こどもだった時分、変わっている私を肯定してくれる人は唯一人ただひとりだけだった。厳密にはもっといたのかも知れないけれど私の認識の上ではあいつの他にはいなかった。

 ちなみにこどもとおとなの違いとは何なのか?

 私に言わせりゃ単純明解。責任を取れるか否か。または、取る努力をするか否か。勿論、大前提として法的、国語的双方の観点からその言葉の持つ意味を理解し責任の所在を自覚出来ていることとする。

 つまり、この持論から判別していくとさして年齢は問題ではなくなる。未成年か成年かは要因の一つに過ぎない。

 未成年の中にもきっとおとなはいるし成年の中にもこどもはいる。いや、この表現は正確ではないな。未成年の中のおとなを私はまだ知らないけれど、成年の中のこどもには幾度となく遭遇しているしそこかしこでその存在を見聞きしている。

 そう、残念ながら圧倒的に比率が可笑しいのだ。世の中はこどもばかりだ。

 じゃぁ、お前はどちらかって? 至極グレー。

 でも、敢えて無情に白黒はっきりさせたいので、私は自身を残念ながらまだこどもと判別している。

 少し前に甥っ子(5歳)とのやりとりでこんなことがあった。

 ファミレスでのことだ。

 子供だけに配布されるクーポンがあったらしく、甥っ子が満面の笑みで自分がたったいま貰ったそれのうち1枚を私に差し出してくれた。子供だけが貰えるんだって。ひいちゃんの分も貰ってきたよ。と説明を一言添えて。

 あぁ、『ひいちゃん』というのは私の渾名。フルネームは(しずか) 緋色(ひいろ)と申す者。て、名前も変わっているとな? 『どっちが下の名前か判んねえ』そんな台詞も聞き飽きています、はい。 

 あぁあ、脱線してしまったではないか。話をグイッと戻そう。

 私がそのクーポンを受け取り記載された文言を読み取ってから、甥っ子に笑顔を返すまでに数秒のタイムラグが生じた。

 子供とのやりとりの中で即答が不可欠な事象もあるけれど即答するには実際的に相当なる高等技術を持ち合わせている必要がある。5歳相手だからこそ諸々考慮した上で言動は慎重に選択しなければならないのが常であり、それを大前提とした上での返答が要求されるからだ。ちなみに私はその点未熟と言わざるを得ない。

 お礼を言った後で具体的な年齢について言及する文言の記載が実はありお店サイドから返却を求められるようなことがあったらのなら、甥っ子の折角の笑みが消え去ることになってしまう。かと言って、こちらからこっそり返却しようものなら必ずバレる。

 その手の行動が苦手な私の力不足と指摘されればその通りなのだけれど、子供は、大人が気付いてくれるなと願い彼らの死角で細工を試みるとき本当に目敏い。子供騙しという言葉も形無しで、実際子供騙し程度のものでは子供は騙せない。大人の自己満足の為に存在する言葉なのではなかろうか。

 私は一先ず記載事項を確認した後、ありがと。と甥っ子に向けて笑ったのだけれど次の瞬間に虚を衝かれた。

「でも、ほんとはオトナなんでしょ?」

 この問いに狼狽しない成年がいるのなら是非ともご教授戴きたい。嫌味ではなく切に思う。

「おとなになる努力はしてるよ…ほんとはずっとこどもでいたいけどね」

 甥っ子の言うところの『オトナ』の定義が正確に推し量れないので表記に困る。仮にオトナと片仮名にしておこう。仮だけに…。

 おそらくは私が考えるより外観的なものだろうけれど私のこの回答が正解か否か分からない。どちらかと言うと不正解だったのかも知れない。

 でも、あれがあのときの私の全力で、至極正直な気持ちだった。

 私は母親になったことがない。それどころか妻になったこともない。それどころかその両方において予定もなければ願望もない。

 何故なら、私はこどもだから。

 こどもは妻になってはいけない。まして、母親になど決してなってはいけない。

 よく、最初から親なのではなく子育てを通して学び親になっていくのだというような話を耳にするけれど、それとこれとは論点が異なる。

 そして、独身の理由にこれが挙げられることもまた忘れてはいけない。

 私と結婚しようなどと考える奇特な人間はこの世の何処にもいない。いままでもこれからも。

 その証拠に過去に、結婚しようと言ってくれていたにも関わらず、恋に焦がれていただけだったと気付いた。という中学生みたいな別れ話をされたことが二回。

 3日前に約3年付き合った人と決別したばかりである。

 話が相当逸れてしまった。再度強引に軌道修正しよう。

 100%こどもだった時分というのは15、16くらいまでのことだと認識している。あくまでも自己分析では。と、断っておきたい。

 今になって考えれば、いじめと表現されるあれなのだろうな。

 小学1年生の時分から始まって、まさか高校生になってまで…と落胆したことを憶えている。

 そういった事態に陥る原因としては理不尽なそれも幾度もあったように思う。今となって回顧すれば。

けれど、当時の私はその都度真摯に受け止めていた。人付き合いが上手くいかないのは全てにおいて自分の性格が悪いのが元凶だと。

『緋色は、生まれて16年っていう時間の中で出逢った全ての人達に迷惑をかけ傷つけて生きてきたんだよ』

 高1の秋口、夏休み明けすぐのこと。クラスメイトで一等親しくしていた、と言っても私の友人は学内に数人しかいなかったけれど、女友達から発せられたあの一言を私は一生忘れないだろう。いや、一生憶えていなければならないと思う。

 別のクラスの私を心配してくれた友人から聴いた話では、(くだん)の発言をするに至った直接的な原因は静緋色の裏切り行為で、それを火種にあることないこと当人があちこちのクラスで吹聴しているということだった。

 けれど、その裏切り行為というものは事実無根で、むしろそれは彼女がやった行いで、別口からそれが公にばれそうになり私を身代わりにしたというのが真相だ。

 私には自身の間違いに対し身代わりを差し出すという心理が理解出来なかったけれど、重要なのは彼女が私を選択した理由であり、全否定したい程の私への鬱憤が彼女の中で積もりに積もっているのにも関わらず爆発するまで私は気付かずに日々を過ごしてしまっていたということ、なのかも知れない。

 世の中には色々な人がいるのだから私の価値観だけで他者を語ることは出来ない。私にとっては些末なことが他者にとっては傷となることもあるのだと、思い知った。

 教室でも講堂でも廊下でも通学路でも、静緋色という人間の存在がそこに在ると認識した途端に、私にギリギリ聴こえる且つギリギリ何と言っているのか判別出来ない声量でこちらをちらちらと窺う様な視線を送りながら手近にいる誰かに話しかける。

 その口と眼には嘲笑や嫌悪感を浮かべており、冷たく、鋭く突き刺さった。

 そんなに嫌なやつのことなど語らなければいいのに、見なければいいのにと思ったけれど、あちらとしては論法が違うらしく、声も視線も止むことはなかった。せめてはっきり聴き取れる声量でぶつけてくれればダメージが違うのだ。聴き取れないから際限なく悪い方へ悪い方へ考えてしまい、結果、私が私自身にモノローグで暴言を浴びせ続けることとなるのだ。

 結果的に重なってしまっただけのことで、誰がタイミングを計ったというわけではないと分かっている。けれど、あの衝撃的な台詞を戴く1か月半前、夏休みが始まったのと同時に、私の(ただ)一人(ひとり)の人がロクに理由も話さず遥か彼方フランスはマルセイユへと引っ越し、私の前からいなくなってしまった。

実の家族より近しい存在。

少なくとも私はそう感じていた。“大切”という気持ちはあいつの為にあるものだと思っていた。

 いまとなっては、気配を消すことだけに神経を集中させることとなる私のその後の高校生活をあいつに知られずにいられたことは、心配をかけずに済んだという点で良かったのかも知れないと思う。

被害妄想が入っているのかも知れないとも思うけれど、当時の、家族以上の大切な人に去られ親しくしていた友人に去られた私が、人間不信にしっかりどっぷり陥ってしまったことは言うまでもない。何がいけなかったのか散々思案し思考し反省し、いっそのこと私の頭上に隕石が直撃してくれまいかと本気で願ったりもした。

 そして、矛盾しているようだけれども、私は私という人間を本当に好きだと言ってくれる友人を、私の中にある仲間を欲する気持ちの存在を、高校生活の中で自覚した。


次回、メインキャラクター登場で緋色の人生の本気の助走が始まる!

週刊目標で投稿予定 本編 side.Hi1話 運命が動き出す瞬間、人はどんな顔をするのだろう は3月20日投稿予定


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