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20/32

とりあえず,強制停止しよう -4-




助太刀に現れた彼らも,結界の中で十全に動けるようだ。

影に取り囲まれつつあるテュア達を確認し,続けて明らかに怪しい黒柱を見つける。


「ジェドーさん。あの柱,明らかに怪しいですよ」

「みてぇだな。だが今はアイツらを援護する。お前,動けるか?」

「任せてください!」


既に彼らは協力して影達を突破してきたのだろう。

ジェドーの指示に従うヴェルムは屋根から飛び降りると共に,テュア達の場所まで駆けていく。

その間を影の群れが押し寄せるも,彼は手にした剣で切り伏せていく。

駆け出しという名にしては,非常に卓越した剣術で距離を縮める。

遠距離砲撃のジェドーの支援を受けつつ,ヴェルムは彼女達の元に辿り着いた。

しかし,再び周囲の防御を固めるメルセ,影に呑まれたストルスと呑まれつつあるテュア,そしてそれを引っ張る令嬢の状況は,一瞬では理解できなかった。


「これ,どういう状況なんだ?」

「見た通りの状況ですわ! このお方,もう半分くらい呑まれてますのよ!」


令嬢に抱えられたテュアは既に下半身全てを影に取り込まれていた。

影には結界と同じ性質があるようで,彼女は意識を半分失いつつあった。


『テュア,意識を保って下さい。眠ると他の村人と同じように昏倒します』

「わ,分かってるんだけど……ね,ねむ……眠すぎる……」

『これは……オーナーの悪口を並べ立てれば,幾らか目が覚めるかもしれませんね』

「なに……その既にムカついて目が冴えそうなもの……」

『察しの悪い脆弱なオーナーのために,わざわざ,私が用意した機能です』

「あぁ……今だけはその毒舌が助かるかも……後で覚えときなさいよ……」

「遂に,寝言まで喋り出しましたわ!」

「これはマズいな。でも,一体どうすれば……」


ヴェルムは剣を持ちながらも,その切っ先を何処に向けるべきか迷っていた。

既に影はストルスとテュアを巻き込んで,一体化しつつある。

彼の剣術は確かに優れているが,その剣一本だけではそれらを打ち払うことは出来ない。

すると波動砲を携えたジェドーが,後方の影を吹き飛ばしながら遅れてやって来る。

言葉は一切交わさなかったが,状況をすぐさま把握して全員に指示を出す。


「メルセ,スキルを六方向に展開して,全員を宙に浮かせろ! この影達は,地中からでも生えてくるぞ!」

「分かりました!」

「ヴェルムは陣の中に沸く影を一掃しろ! 陣で宙に浮きさえすれば,新しく影が入ってくることはねぇからな!」

「は,はい!」


瞬時にメルセが,自分たちを囲うように六方向全てに魔法陣を展開する。

そして出来上がった立方体の陣形を空中へとゆっくり移動させ,彼女達全員が宙に浮かぶ。

数十mまで浮遊すると,影達はその真下から,こちらを見上げるだけとなった。

防御陣が完成する前に,立方体の上部に移動していたジェドーは,そこから黒柱に向けて波動を射出した。

今までとは異なり,かなりの威力を込めた射撃だった。

巨大な波動の塊はそのまま広場中央の黒柱に激突,大きな衝撃を巻き起こす。

だが晴れた土煙からは,様子の変わらない柱が現れる。

多少の罅を入れることは出来たようだが,倒し切るには威力が足りない。


「クソッ,やたら固ぇなあの柱。この威力で罅が入るだけか。だが,これ以上出力を上げると,村の連中を巻き込んじまう」

「私が,もっと強い陣で攻撃します。そうすれば……!」

「止めとけ。アンタまだ力の調整が上手く出来てないだろう?」

「どうしてそれを……」

「んなもん,見りゃ直ぐに分かるっての。だから,別のことをやるより,今の状況を保つことだけ考えな」


グレスタワーの一件で,彼はメルセの不安定さを見抜いていたのだろう。

無理に力を使わせないよう助言しつつ,テュア達に纏わりつく影以外の敵を始末したヴェルムに声を掛ける。


「おい,ヴェルム。お前,あの柱をぶった切れるスキルがあるんだろ? それを使え」

「えっ」

「えっ,じゃねぇ。他の冒険者から聞いたぞ。お前,とんでもねぇスキルを持ってるが,全然使おうとしないんだってな?」

「そんなものがあるなら,早く使って下さいまし!」

「いや……でもあれは……」


ヴェルムが強力なスキルを持っていることは確かなようだ。

しかし何故か,彼はスキルを使うことを渋る。

冷や汗すら流しかねない動揺ぶりに,ジェドーが思い当たるように告げる。


「その慌てよう。スキル恐怖症か」

「……!」

「スキル,恐怖症?」

「スキルを使うことに,恐怖心を抱く症状だ。頑なにスキルを見せねぇから,まさかとは思っていたが。冒険者志望でそんな爆弾を抱えていたなんてな」


メルセが力の均衡を保ちながら振り返る。

本来,冒険者とは己の肉体だけでなく,探索に適したスキルを十全に活用して始めて活動できる者達を指す。

スキルを扱えない者が望んで成る職業ではない。

それでもその名を以って活動しているのは,何らかの理由があるのか。

駆け出し冒険者の表情が,それを如実に表していた。


「お前のそれは,危険なものなのか?」

「そう,だと思います」

「だが,俺の波動より小さい範囲で,あの柱をどうにか出来るんだろう?」

「突撃すれば……なんとか……」

「そんな有様で冒険者になった理由は知らん。ただ,スキルと隣り合わせの職に就いているんだ。その覚悟くらい,何処かにあった筈だ」

「でも……まだ俺は……」


眼下では影達が大きく蠢き始める。

個々に動いていた影達が固まり,折り重なるようにして高さを伸ばしていく。

このままでは,空中に浮かぶ陣形にまで届くかもしれない。

仕方ないとジェドーが波動砲の威力を調整した瞬間,傍でその会話を聞いていた令嬢が声を張り上げた。


「もう! じれったいですわ!」

「なっ……!?」

「この状況,貴方は信用されているんですのよ!? 男子ならば,その期待に答えなさいな! このままでは,ワタクシ達だけでなく皆が大変な目に遭いますわ! ごめんなさい寝坊助の貴女,少し我慢なさいね!」


先に謝った彼女は,掴んでいたテュアの身体を離す。

テュアはマドと悪口兼睡魔との戦いに終始しており,それ答える余裕すらなさそうだ。

そのまま令嬢は目にも止まらぬ速さでヴェルムの元まで迫る。

そして片手を伸ばしたかと思うと,なんと彼を剣ごと持ち上げ,その肩に担ぎあげたのだ。

高貴な衣装を身に纏う,令嬢らしからぬ御姿だった。


「なんて馬鹿力だ……」

「ばっ……!? お,お黙りなさい! 人が気にしていることを……!」


ジェドーの呟きに反論しながら,令嬢は身体を反転する。

向かう先は広場の中央,黒柱が聳え立つ場所だった。


「メルセ,でしたよね? ワタクシの前の魔法陣を解いてくださいまし!」

「な,何をする気なんだ!?」

「無論,貴方をあそこに投げ飛ばしますわ」

「はぁ!?」

「はぁも,ひぃも,ありません! 突撃するなら何とかなると言いましたわよね!? 出来る筈のことをしないなんて愚の骨頂! 貴方,このままでは何も出来ないままですわよ!?」

「ひ,ひぃぃぃ……」

「テュアさん!?」

「そいつの譫言は放っとけ。全く,どいつもこいつも騒がしいったらないな……」


メルセは勢いに任せて,令嬢と向かい合う魔方陣を消滅させた。

彼女もテュアの身に危機が迫っているため,可能な手は尽くしたいと思ったのだろう。

遮っていたそよ風が舞い込み,光の粉となって散った陣の先に漆黒の柱が現れる。


「行きますわよっ!」

「なあぁぁぁッ!?」


次の瞬間,ヴェルムは素っ頓狂な声を上げながら柱に向けて投げ飛ばされた。

その速度は,まるで手慣れた大人がボールを全力で投げた時のような速さだった。

減速することもなく,少年は直線的に柱に突撃する。

そんな人間砲弾を見て,影達がヴェルムを食い止めようと動く。

黒い柱を何重にも守るように身体を寄せ合い,彼の身体を呑み込もうと両手を広げる。


「仕方……ない……!」


彼自身もとやかく言っている場合ではないことを察する。

下唇を噛みながら,手に汗握る両手に力を込める。

途端,彼の手にしていた剣が光を放ち始めた。

周囲を包んでいた闇を打ち払う程の眩しさだった。


「この光は……!」


ジェドーを含む皆が目を眩ませる中,ヴェルムは輝く剣の切っ先を正面に向けた。

剣に撫でられた空気が,空間そのものが,光の跡を残して斬られていく。

この光こそ,彼がスキル恐怖症を引き起こす力そのものだった。

影達は真っすぐに飛来するヴェルムを呑み込んだが,次の瞬間膨らんだ光の塊が内部から放出され,一気に弾け飛ぶ。

剣から迸る光が,一本の道標となって残り続ける。

最早彼を止めることなどできない。

あらゆる影の群れを一直線に切断したヴェルムは,眼前に迫った黒柱に向けて,渾身の力で剣を振るった。

たった一振り。

それだけで今まで決して折れることのなかった黒柱が,豆腐を切るように斬り伏せられた。


「やったか!?」


真っ二つに折れた黒柱は,音を立てながらその半分を地に落とす。

全く乱れのない切断面から黒い煙が舞い上がり,上空に張り巡らされた結界に届く。

ヴェルムが息を荒らしながら広場に着地したと同時に,村を覆っていたそれらが崩れ落ちた。

硝子を割るような音と共に,夕日の光が天から差し込む。

次いで日の光を浴びた影達が,黒柱と共に溶けるように消滅する。


「影が消えていきますわ!」

「それだけじゃねぇ。妙な膜も消えていく。やっぱり,あの柱が原因だったみてぇだな」


脅威が去ったことで,魔法陣がゆっくりと地上まで降下し,皆を開放する。

光を受けて,テュアに纏わりついていた小さな影も消え去る。

力を失い膝から崩れ落ちた彼女の元へ,慌ててメルセが駆け寄った。


「テュアさん! テュアさん!」

「うぅ……こらぁ,マドぉ……? 言って良いことと悪いことが……って……あ,あれ? メルセ?」

「よ,良かった……!」

「こ,これ,夕日? もしかして,私達助かったの?」

「うん。皆のお蔭で黒い柱を倒したの。影も全部消えたよ」

「いつの間に,ジェドーさんたちまで……メルセ,大丈夫? 他の人も怪我はない?」

「皆,全然大丈夫だよ」


二人は辺りを見渡す。

影の群れと共に戦っていた者達は,誰一人傷らしい傷を負っていない。

増殖と再生を繰り返す相手に,十分な戦果と言える。

既に少し離れた場所では,スキルと剣を収めたヴェルムが,ジェドー達と話し合っているのが見える。


「悪かったな。切羽詰まっていたとは言え,アンタにスキルを使わせる真似をした」

「いや,ジェドーさんの言うことは尤もでしたし。別に,気にしてないですよ」

「ワ,ワタクシもやり過ぎましたわ。ちょっと気が動転して」

「ま,まぁ,そういうこともあるし……」

「アンタの怪力は予想外だったがな」

「んん!? 今,何と!?」

「もう一回言った方が良いのか?」

「結構ですわ! 貴方,さっきもワタクシのことを怪力と言いましたわよね!? 二回! 今ので二回目ですわよ!?」

「一回も二回も変わんねぇだろ。過剰反応し過ぎだ。それとも,この単語に何か嫌な思い出でもあるのか?」

「な!? なな,何ですってぇ!?」

「ま,まぁまぁ二人とも……」


口の悪いジェドーが発端となって,令嬢が掴みかかろうとする所を,ヴェルムが言葉で押し留める。

先程とは違ういがみ合いが始まっているが,険悪な雰囲気はない。

影が消えた事で眠気も飛んだテュアは,その光景を見て微かに笑った。


「皆,元気そうで良かった」

「うんっ」

『黒柱の消滅を確認。お疲れさまでした』

「あっ,マドさん。お疲れさまです」

『あなたも大変でしたね。メルセ』

「そんなこと,ないです。皆が無事ならそれで」

「マド,ついでに私に言うことあるんじゃない?」

『言うこと? オーナーが,私に対して労いの言葉を送る件ですか?』

「それおかしくない?」

『先程,無理なキーワードを並べ立てたことが原因で,知能指数に変化が起きています。私の知能を代価にした事実を,オーナーは自覚すべきです』

「私も悲しいんだけど?」

『成程,自責の念はあると』

「違うわっ! あんなに酷いことを言われて悲しい……あれ……?」

『半ば睡眠状態だったので,覚えていないのでは?』

「お,仰る通りで……」

「私もスキルの維持に必死で,何を話していたかまでは……」

『ならば,問題ありません』

「大アリでしょ!? マドは大丈夫なの!?」

『……怒りたいのか,心配したいのか。相も変わらず,あなたの言葉は判断に苦しみますね。そんなことより,幾つか懸念事項があります。まずはテュア,あなたが抱えている彼の様子を』

「抱えて? あっ……!」


マドの指摘に気付いたテュアは,骸骨の頭部の存在に気付く。

影の消滅と共に,ストルスもその拘束から放たれていたのだ。

テュアが頭部に張り付けた接着剤によって引き寄せられ,彼は既に彼女の手の中に納まっていた。

しかし,動きはない。

影に捕らわれていた時間が長すぎたのか,眼孔の奥に宿っていた赤い瞳も消えていた。


「ストルスさん……間に合わなかったの……?」

「そんな……」

「勝手に殺すな人間」

「うひゃぁっ!?」


追悼しかねない勢いにストルスが反論すると,テュアが転げ落ちそうな声を漏らす。

意識を取り戻したようで。彼の目には再び力が宿っていた。


「貴様は本当に声が大きいな。転寝の暇もない」

「だ,だって急に動き出すから……!」

「あ,あの,調子はどうですか?」

「フン……。まぁ,問題はない」


かつて捕えていた相手に心配され,ストルスは不貞腐れた様に鼻を鳴らす。

ただの骸骨なため調子が良いのか悪いのか,判断がつかないものの,その言葉を信じる限り問題は無さそうだ。

ただ思う所があるようで,テュアに向けて問いかける。


「貴様,何故我を助けた?」

「え?」

「我はお前達の敵なのだぞ? あの方に見捨てられた哀れな魔物など,放っておけば良かった筈だ」

「それが,身体が勝手に動いたというか,何というか」

「理由も無しに助けたと?」

「だって,目の前で呑み込まれそうになってたし」

「全く,これだから人間という種族は……」


テュアからしてみれば,魔物とはいえ自身のスキルによって復活させた相手だ。

独断で生き返らせておいて,危険になれば見捨てる,などということは出来ない。

その行動が理解出来ないストルスは,呆れるような声を出すだけだった。

彼の心情に変化が現れ始めた時,別の声が皆を振り向かせた。


「二人共,大変だ!」


ヴェルムが助けを求めるように駆け寄ってくる。

剣は抜いていないものの,先程まで仲裁に入っていた彼の様子は焦燥に満ちていた。


「ヴェルム君,一体どうしたの? もしかして,ジェドーさん達の言い争いが手に負えなくなったとか?」

「いや,そうじゃなくて……。とにかく,こっちに来てほしいんだ!」


嫌な予感がして,テュア達は彼が引き返した後を追う。

向かった先は広場から少し離れた村の通り。

既にジェドー達が眠っていた村人たちを起こそうとしていた。

家の壁に寄りかかる者,道端に倒れる者,次々にその身体を揺り動かしていく。

そして時間も経たずに,彼女達は今起きている事態を理解する。


「駄目だな。ここら辺の連中は目を覚まさない」

「こちらでも,目覚める人はいませんわ!」


皆,目を覚まさないのだ。

どれだけ身体を揺さぶって声を掛けても,眠ったまま動かない。

テュア達も村人たちに近寄るも,反応は一切変わらなかった。


「皆,どうなっちゃったんですか……?」

『恐らく皆の意識は黒柱を伝って,地下に眠るザハークの元まで取り込まれたのでしょう。あの柱はザハークの一部だったと推測します』

「じゃあ,このままじゃ……」

「コイツら全員,眠ったままって事か」


閑散とした雰囲気が全体を包み込む。

結界内で眠りに落ちた者は,黒柱によってその意識を地下に送られた。

原因となる柱は消滅したため,これ以上の被害が生まれることはないが,既に村人たちのそれは転送された後だった。

今この場所で,彼らを起こす手立てはない。


「ど,どどど,どうしよう……!」

「落ち着け。目を覚まさないとは言っても,呼吸も脈も乱れはない。今直ぐどうこうなる問題じゃねぇ」

「で,でも」

「今動けるのは俺達だけだ。こういう時は冷静になって,出来ること,優先すべき事を考えろ」


残された五人の内,四人が少年少女の域を出ない者達ばかりだ。

慌てふためく彼女達を,年長者であるジェドーが冷静に取りまとめる。


「マドって言ったよな? 先ずは村の連中を安全な場所まで運ぶ。それが最優先だと思うがどうだ?」

『問題ありません。ザハークの復活が近い以上,皆を避難することが優先事項でしょう』

「安全な場所……となると,目ぼしいのはグレスタワーか。動力は落ちているが,風除け程度の役目なら果たせる」

「でもこれだけの人数,俺達五人で運ぶのは無理がありますよ?」

「そこはメルセに任せる。コイツの陣で一気に移動させれば,百人力ってヤツだ」


眠った人々を運ぶ方法として,彼はメルセのスキル使用を提案する。

確かにあの魔法陣は人を乗せた上で移動できるため,簡易的な乗り物として代用できる。

これ程効率の良い運び方はない。

冒険者も含めて百人前後の運搬に,テュアが力の消耗を危惧するも,メルセは首を縦に振った。


「メルセ,大丈夫? ずっとスキル使ってばっかりだけど……」

「うん,任せて。これは,私にしか出来ない事だから」

「んじゃ,悪ぃが頼まれてくれ」

「はいっ」

「とりあえず,手分けして村人たちをこの広場に集める。次に,メルセのスキルで一気にグレスタワーまで運ぶ。この方針で行こう」

「うーん。でも,広場に移動させるだけでも大変そう。マド,何かいい手はある?」

『ならば,ゴブリンへの助力を提案します』

「ゴブリンの手を借りるの?」


思わぬ所からの指摘に声を上げると,事情を知らない令嬢が,思い返すように視線を宙に浮かす。


「確か,数日前に捕えた魔物でしたわよね?」

「あぁ。今は俺達冒険者が拘束しているけど……」

『先程の結界は,今ここにいるストルスのように魔物相手には効果が薄いようです。加えて,ゴブリン達が意識を保っていることも確認済みです』

「ジェドーさん。ゴブリンは,起きているみたいです」

「みたいだな。なら,手を借りてみるか」

「だ,大丈夫なんですか? 自分達を襲った魔物と一緒に,村の人を救助するなんて」

「まぁ,交渉してみねぇと分からんが,手は多い方が良い。やってみる価値はある」


何も言わない内に,ジェドーは自分が交渉しに行く事を仄めかす。

魔物の手ですら借りたい状況。

ゴブリン達が目を覚ましているのなら,利用しない手はない。

元々目的を失い茫然自失となっている彼らだ。

別の目的を与えさえすれば,従ってくれる可能性もある。


『しかし,問題はその後です』

「その後?」

『恐らくザハークはグレスタワーから供給された電力,そして村人たちの意識を取り込み,復活までの準備を整えています。今の内に皆を解放しなければ,それら全てがザハークの養分となり,消えてしまう可能性があります』

「何か,手はないんですか?」

『現状,件の魔物と接触しなければ,どうする事も出来ません』


メルセが聞き返すも,流石のマドですら今直ぐに彼らの意識を取り戻す術は思い付かないようだ。

例え村人全員を避難させたとしても,容体が回復する訳ではない。

地下に眠るザハークからその意識を取り戻さない限り,永久に目覚めることはない。

テュアは眠ったままの村人たちを見返して,意を決し口を開く。


「やっぱり地下洞窟に潜るしかないってことだよね?」

「はぁ? 何言ってんだお前?」

「避難するのは賛成です。でも,このままじゃ皆の意識が戻らない。誰かが助けに行かないとっ」

「わ,私もテュアさんと一緒に行きますっ」

「お前ら……馬鹿も休み休み言え。鉄の山の時はどうにか上手くいったが,この件は俺達の手に余る。タダでさえ全体の把握が出来ねぇんだ。ガキがこれ以上,無謀な事をすんじゃねぇ」

「そうだよ。先輩達も眠ったままだし,ここから地下に潜るのは俺でも危ないって分かる。とにかくここから離れよう。ギルドにも今頃情報が届いている筈だ」

「でも,これだけの強い魔物が地下にいるなんて想定できてない筈。時間だって残り少ないし,ただ待ってるだけじゃ,取り返しのつかないことになっちゃう。だからお願いっ」

「駄目に決まってんだろ」

「ケチ!」

「ケチじゃねぇよ。分からねぇヤツだな」

「それ以前に,ワタクシは地下洞窟の先には開かずの扉がある,という話を聞きましたが?」

「そうだ。どうせアンタらが向かった所で扉は開かねぇ。ザハークって魔物にも辿り着けねぇ。大人しくギルドの助勢が来るまで待つんだな」

「でも」

「あ?」

「うぅ……」


ジェドーの威嚇に,悔しそうにテュアが表情を歪める。

村人たちの意識解放のためには,ザハークと対峙する以外ない。

しかしそれは実力が伴い,そこへ辿り着くまでの手段がある場合に限られる。

テュア達のスキルは確かに奇妙かつ潜在能力に満ち溢れたものだが,例の扉を開錠する手立てがない。

マドが解析すれば幾らか分かるだろうが,ジェドーがそれを許すとは思えない。

彼の言葉通りテルス村から避難する方向で固まりかけた時,不意にテュアに抱えられていた骸骨が声を上げた。


「……潮時か」

「ストルスさん?」

「脆弱な人間では,自力であの扉を超えることは出来ん。我が知る手段でなければ,突破は不可能だ。だが,無力となった我にも矜持がある。例え相手が我を倒し,無闇に生き返らせた人間であろうと,救われた事実から目を背けて口を噤む程,落ちぶれてはいない」

「それって,まさか」


ハッとして皆が彼に視線を向ける。

骸骨の魔物は冷静に,されど慎重な態度を崩さなかった。


「貴様らが望むのであれば,あの扉の解除方法を教えよう」


ザハークの元へと辿り着くための唯一の方法。

明かされたその情報は,彼女達の動向を大きく変えることになる。




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