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18/32

とりあえず,強制停止しよう -2-




紙幣ばら撒き騒動から数時間経った後,地下洞窟を調査していた冒険者達が帰還した。

待ち構えていた暴走令嬢と一悶着あったが,結果として,深部には新たな扉が出現しているという報告が上がった。

場所は玉座の間,宝石を採掘していた岩肌の先にあるという。

恐らくゴブリンが供給した電力によって現れたのだろう。

得体の知れない金属で造られた扉は,その奥に大きな力の脈動を感じさせたが,一切開く気配はなかったらしい。

手で押そうが,スキルで攻撃しようが,全てを吸収するように呑み込んでしまう。

冒険者の面々も,流石にこの事態は解決できなかった。

どうすることも出来ず,村全体に手詰まり感が漂う中,テュア達はとある策を練っていた。


診療所の先生が出払っている時間帯を狙い,二人はそれを実行に移す。

誰もいない病室でメルセが他の人が来ないか見張りをしつつ,テュアは彼女に頼んでおいたモノを机の上に置く。

マドの指示を受けながら,スキルである画面を操作していく。

その動きに淀みはない。

暫くして,二人のものとは違う異質な空気が流れた。


「フフフ……」


テュア達が見つめる中,聞き覚えのある声が威圧するように笑いだす。

発生源は彼女が机の上に置いていた,白骨化した頭部。

空洞となった眼孔に赤い光を宿らせ,魔物としての形を取り戻す。

その正体は,地下洞窟で相見えたストルス。

かつての強大な魔物が,この場所で息を吹き返したのだ。


「我こそはスケルトンを束ねる王,ストルス。人間どもよ,この姿を畏怖し……」


と,調子よい言葉を並べていたストルスは重大な点に気付く。

視点がやけに低い。

少女であるテュアに見下ろされている事態に,彼は自分の姿を確認する。

するとその身体は,人型サイズの頭部のみで,手足はおろか胴体すらない状態だった。


「って,何だこの姿はぁっ!?」

「あ,どーもです,ストルスさん。地下洞窟以来ですね」

「ぬうっ!? き,貴様,テュア・リンカート!」


やけに腰の低いテュア相手に,ストルスは驚きながらも事態を把握する。

白い歯が顎を動かすと共にカチカチと音を鳴らす。


「何故貴様がここに! 我はあの弱小冒険者共に倒された筈……!」

「色々事情があって,復活してもらいました」

「な,何だとぉ!?」


素っ頓狂な声を上げる,自称スケルトンの王。

それもその筈,ストルスは冒険者達によって倒された筈だった。

元の身体を失い消滅した魔物が再び息を吹き返したのは,テュアの策である。


例の紙幣を回収する際,彼女が目にしたのはゴミ箱の中にあった骨のアイコンである。

それは以前,マドの指示にされるがまま消去した,スケルトンの残存データ。

ゴミ箱にあるデータは一度だけ復活可能という特性を思い出し,彼の再構成を思い付いたのだ。

メルセに頼んでいたのは,以前村を襲撃したスケルトンの残骸を回収すること。

何せ,地下洞窟を守護していた魔物である。

出現した謎の扉も含めて,一番事情に詳しいに違いない。

テュアから話は聞かされていたものの,かつて自分を拘束した魔物が復活した事実に,メルセは驚きを隠せなかった。


「あのスケルトンを生き返らせるなんて」

『一度消去した魔物のデータを再構築しました。ちなみに,スキル内に残留していたデータは,ストルス本体の一部であるため,完全な復活ではありません』

「駄目元だったけど,上手くいったみたいね。代わりに,私の死生観がどうにかなりそうだけど……」


テュア自身もここまで上手くいくとは思っていなかったため,多少は困惑する。

一度死んだ魔物を生き返らせるなど,常識からかけ離れた所業である。

こんな力が知れ渡りでもすれば,確かに今まで通りの日常は過ごせない。

彼女は,賢者への道のりが遠ざかるような錯覚を覚えた。


「顎以外の力が入らん……」

「勝手に転移して逃げられると困るんで,力は制限してもらってます」

「他にも良さそうなの探したんですけど,殆ど処分されていて……残ってたのが頭だけだったんです。すみません」

「ば,馬鹿な……我がこんな哀れな姿になるなど……。何かの間違いだ……」

「まぁ,落ち着きましょ」

「これが落ち着いていられるか小娘! これでは,話ができるだけの奇怪な置物ではないか! 今すぐ元に戻せ!」

「何だか,ちょっとひょうきんになってない,ですか?」

『本来の5割程度で構成された存在なので,多少の変化はあるかと』


残留データが半分程度しかなく,万全の状態で復活させる理由もない。

転移能力や擬態能力も残っているが殆ど制限しており,データを移した対象が白骨の頭部だけということもあって,移動も困難だ。

この姿にストルスは唾を吐く勢いでわめき散らすも,テュアは足を組み,挑発するような瞳で反論した。


「言っときますけどぉ。あなたがメルセを拉致したことも,私に斬りかかってきたことも,村を襲ったことも,簡単に許されることじゃないんですよぉ?」

「む,むむ……」

「それを棚に上げて直せ,だなんて,少し調子に乗り過ぎってヤツです。少しは反省しましょうよぉ? 今の貴方じゃ,風邪引いてる私でも,多分勝てますよぉ?」

「な,何という邪悪な笑みだ……! くっ……いっそ殺せ……!」

「邪悪って,そんな酷い顔したかなぁ」

『測定,90%以上です』

「あはは……」

「マドはともかくメルセは何か言って……。と,とにかく,そんな酷いことしないので。私達はただ,質問に答えてほしいだけなんです」

「質問だと?」


骸骨は二人が拷問をすると思っていたようだが,そんなことのために蘇らせた訳ではない。

今まで起きた経緯,地下洞窟に現れた扉を明かしていく。

魔物も彼女の意志に従うしかないと,聡明に判断したようだ。

無意味に喚くことを止め,静かに彼女達の言葉に耳を傾ける。


「ゴブリン共の襲撃か。確かにあの魔物は流暢な喋り方をしない。話にはならんだろうな」

「そうなんです。なので,もっと話の出来そうな人を探していて」

「故に,我を甦らせたというのか。身勝手かつ得体の知れない娘だ。あの方の言う通りだな」

「あの方? もしかして,ザハークのことですか?」


心当たりのあるメルセが,思わずといった様子で身を乗り出す。


「フン。今更隠す必要もないか。貴様の言う通り,あの方とはザハーク様のことだ。地中で数多の骨として眠っていた我を,一つの命として具現化させた創造主だ」

「やっぱり地下に,例の魔物がいるって訳ね」

「どんな方,なんですか?」

「我もその全てを謁見した訳ではない。ただかつての我の姿ですら,赤子同然の大きさだったと考えれば,大よその想像は付くだろう」

「相当デカいヤツじゃん!?」

「しかし,あの方は先の戦いで傷を負われたらしい。ゴブリンはその傷を癒すための道具として,扱われていたのだろう」

「つ,つまり,ザハークは身体を治している最中って,ことですよね……?」


ゴブリンは地下に送った電力を燃料と言っていた。

どういう理屈なのか,魔物達が流した電気は,ザハークに供給され傷を癒すための薬として利用されているらしい。


「玉座の奥に出てきた扉は,ザハークに繋がっている……?」

「想像通りだ。そして門が出現したということは,あの方の復活は近い」

「ストルスさんは,開け方を知っているんですよね?」

「当然。門番である私が,それを知らなくてどうするというのだ?」

「じゃあ,今すぐそれを教えてください」


例の扉は物理的な方法で開けることは出来ない。

テュアは骸骨に向けてその方法を問い質すも,彼は傲慢そうに鼻を鳴らした。


「馬鹿め。何故扉の解除方法を言わねばならん? 我はあの方の命で動いているのだ。不利益になるようなことを,明かすと思うか? 全く,人間の娘とは目先のことしか頭にない愚か者のようだ」

「……」

「あの方が復活するその時を,せいぜい震えて待つ……」


瞬間,半目のテュアがストルスを持ち上げる。

方向を変え,机に置かれていた大きな桶と向かい合う。

彼女は骨を無造作に投げ捨て,彼は縦回転しながら,桶に張った水の中に突撃した。


「ああぁ!? 馬鹿止めろ! 骨が湿気る!」

「言わないと,ふにゃふにゃですよ?」

「ふごぉ!? しかもこの水,塩が入っているだろう! じ,浄化される!?」

「あれ,塩なんて入れたっけ?」

「私が……そっちの方が,効き目あるかと思って……」

『割と酷いですね。あなた方』


少し時間を置いて,桶から骸骨を取り出す。

塩水を滴らせつつストルスは荒い息を吐き続けるも,威勢の良さは変わらなかった。


「な,何をされようと……口は割らんぞ……。我はあの方に忠誠を誓った身。例えこの身が滅びようとも,その誓いは最期まで守る……!」

「これ以上は,無理みたいですよ?」

「うーん,困ったなぁ。こうなったら,私のスキルでこじ開けるしか……。マド,行けるかな?」

『現物を見ない限り確証が持てません。加えて,オーナーの外出を村人が許可するとは思えませんが?』

「あーそっかー……」


数日前に言い渡された勧告を思い出し,テュアは渋い顔をする。

グレスタワーの一件で,テュア達は村から出ることを禁じられてしまった。

これ以上余計な騒動に巻き込まれないように,という村の者達の意志だ。

その目がある以上,彼女達が無断で外出することは出来ない。

用意していたタオルで骸骨を丁寧に拭きつつ,テュアはもう一度考え直す。


「あと,もう一つ。メルセのこと,何か知ってますよね? 教えてください」

「阿呆が,誰が喋ると……」

「あぁー,手が滑っちゃうー」

「待て待て! クソッ,なんという娘だ……!」


もう一度桶に投げ込もうとするテュアを制止しながら,諦めたようにストルスが語り始める。


「その少女は,我が命を吹き込まれる前から,あの方に囚われていた。曰く,勇者の片割れだという話だったが……」

「勇者!?」

「詳しい事情は我も知らん。我はその娘を使い,他の勇者を襲え,と命じられていただけだ」

「他にも勇者がいるんですか?」

「知らんと言っているだろう。我は勇者と名乗るに相応しい才を持つ者を,手当たり次第に誘い込もうとしただけだ」

「じゃあ,テュアさんの名前を知っていたのは……?」

「あの方のお達しだ。貴様の非凡な力,どうやら我には聞こえない声を発しているようだが,あの方にとっては重要なものらしい」

『……』

「マド?」

『いえ,何でもありません』


ストルスも気を失ったメルセを引き渡されただけで,彼女の正体を知らなかった。

折角事情を知りそうな魔物との対話を行ったが,重要なことはそれ程明かされなかった。

ザハークに関して手掛かりが掴めると思っていたテュアは少しだけ落胆する。


「結局,メルセの素性は分からずじまいね」

「でも,私が勇者かもしれないってことは,間違いじゃないかも」


だが,ストルスが言うようにメルセが勇者である可能性は高い。

今までの情報と照らし合わせると,彼女はザハークと対峙して敗れ,魔物達の手足として利用されていたことになる。

代わりにザハークも手傷を負い,地下で眠らざるを得なくなった。

強大な力を持つメルセが敵わなかったとなると,非常に厄介な相手に違いない。

今いる冒険者達が束になっても,勝てるかは分からない。

ギルドは既に支援要請を出しているが,辺境の村ということもあって,それらが来るには時間が掛かる。

思った以上に事態は深刻かもしれないと考え,テュアは意を決する。


「こうなったら,事情を説得して,村の人達に協力してもらうしかないね」

「大丈夫,かな。マドさんのことを話したら,テュアさんが……」

「いっそのこと,私は縄に縛られても問題なし! そんな場合じゃなさそうだしね。あ,あと,ストルスさん。貴方も一緒に来てね」

「何故我が,貴様らと行動せねばならん」

「あの洞窟。一番詳しいのは貴方でしょ? 大丈夫,皆に説明して壊してもらわないようにしますから」

「どの道,我に主導権はないのだろう? 言っておくが,解除方法を話す気はないぞ」

「あー,はいはいー」


適当に返答しながら,テュアはストルスを持ち上げる。

村人たちと協力するにしても,一時的に避難するにしても,皆と話し合わなければ始まらない。

メルセも無言の内に頷くと,代わりにマドが意味深な動きを見せる。


『……』

「さっきからどうしたの?」

『いえ,ストルスとの会話を解析していたのですが,気になる点が幾つかあるのです』

「気になる点?」

『メルセが勇者である。そして,ザハークがストルス以上の巨大な魔物である。その前提で話を進めると,彼女達がいつテルス村にやってきたのか,その説明がつきません。それだけ大きな魔物と彼女が一戦を交えていたなら,必ず何処かで騒ぎになっている筈』

「確かに……」

『ですが,王都所属のギルドにその報告は上がっていない。この情報の不一致が,不可解でなりません』


マドの指摘も尤もだった。

地下深くに眠っているにしても,ザハークは何処からやって来たのか。

それだけの巨体ならば,動くだけでも地鳴りなどの異変がある筈だが,地下洞窟が現れるまでそんなものは一切なかった。

まさか突然現れたということも考え辛く,どれだけ頭を捻っても答えは出ない。


「ま,今考えても仕方ない。今からでも村長さんの所に行こう。話はそれからね」


病み上がりの身体を奮い立たせて,ストルスを脇に抱える。

メルセと共に村長を説得する覚悟を決める。

だがその瞬間,異様な空気が周囲を包む。

いち早くその気配に気づいたメルセが,即座に顔を上げて身構える。


「……!」

「え,メルセ? どうし……」

『テュア,敵襲です』

「えっ」


途端,窓から差し込んでいた日の光が一瞬の内に陰る。

テュア達は振り返り,外の様子を確かめる。

いつの間にか,テルス村上空には得体の知れない膜が広範囲に展開されていた。

村にいる者達を逃がさないように,空中から地面まで膜が半球状に降りてくる。

冒険者や村人たちが異変を察知すると共に,村全体が暗黒の結界に覆われた。




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