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急に止まったんですけど -2-




この建物,グレスタワーは放棄されていた鉄塔を,ジェドーが独自の技術で改造した鋼鉄の塔という噂だ。

木造の建築物は一部を除いて殆ど存在しない。

通路から階段に至る所まで,何かしらの金属で構成されている。

階層ごとに発明品製造や保管に適した構造になっており,詳しい内容は画面に表示されたものの,テュアには細かすぎて理解に苦しむだけだった。

元々金属の塊が動くという認識が広まっていないこともあり,彼が何処からそれ程の技術を得てきたのか,誰にも分からないという。


上層へ向かうための方法は二つある。

鋼材を運ぶための巨大リフトと,非常用の階段だ。

しかし,それらは現在乗っ取られている。

ジェドー達が取り返しに来ると予期しているのか,付近を守るように魔物が徘徊しているため,上層へ登ることができない。

それを見たジェドーは,一撃必殺で吹き飛ばそうと提案するも,そんな事をすれば周りのゴブリン達を呼び寄せ,戦況が悪化するだけだ。

今にも飛び出そうとする彼を抑えつつ,メルセが妙案とばかりに新しい方法を申し出た。


「まさか,人を乗せて移動もできるなんてね」


足元に光る紋章と共に,一階から二階へと上昇する光景をテュアは見下ろす。

今三人が乗っているものは,メルセが発動した魔法陣だった。

攻防一体であるこのスキルは,足場として利用することも出来る。

吹き抜けのある空間で,リフトの代わりとして上階まで上昇させたのだ。


「これがあれば,乗り物いらずじゃない?」

「どう,かな。集中してないと駄目だから,ずっとは,辛いかもです」

「あれ,そうなんだ」

「何か,ゆっくり移動させるより,思いっきり動かす方が,やり易く感じます」

「全力でぶっ放す方が性に合ってるってか。アンタも相当だな」

「ジェドーさんには言われたくないと思いますよ?」


本来ならば全層が吹き抜けとなっている場所で一気に最上階に昇りたい所ではある。

しかし,上昇中は丸見えなこともあって,魔物達の目に留まりやすい。

待ち伏せされる恐れがあるので,なるべく別の吹き抜け場所へ移動するなどして,階層ごとに上昇位置を変えるしかなかった。

第一に考えるのは,魔物達に気付かれないこと。

ジェドーに続いて二階に降り立ったテュアは,その場で周囲の情報を整理し,ゴブリンのいる位置を割り出す。


「こっちは安全みたい。だよね?」

『遠回りですが問題はありません。ただし,情報は古いので警戒しつつ進みましょう』


先陣はジェドー達に任せ,テュアは自分にしか出来ない情報収集役に徹する。

マドとの連携もあって,後方から敵の辿った道を暴いていく。

その間,ゴブリンとの一悶着が起きることはなかった。

最新ではないものの,得た位置情報から彼らの動きをある程度予測することで,戦闘を可能な限り避けることが出来ていた。

その実力を間近で実感したジェドーは,不思議そうに眉を顰めた。


「なぁ,おい。アレはどういう仕組みなんだ? スキルっていうより,発明よりの動きじゃねぇか」

「私も,良くは分からないので」

「ま,アイツ自体よく分かってなさそうだしな。とは言え,興味深いな。人の言葉を喋るスキルか……後で試してみるかねぇ」

「あの,テュアさんを実験するのは,駄目です」

「しねぇよ。どんだけ俺が怖いんだ」


しかし,全ての魔物を予測し回避できる訳でもない。

三階に続く吹き抜け手前の開けた広場に差し掛かり,ジェドーは足を止める。


「この先にゴブリンが二体いるな」


テュア達も通路の角に身を隠しながら前方を確認する。

そこにはゴブリンが二体おり,互いに対面しながら何かを話し合っていた。

定期的な連絡を行っているように見える。

耳を澄ませると,少しだけだが彼らの声が聞こえてきた。


「ゆうしゃ,どこにいる」

「さがしてる。みつからない」

「でんき,どうなってる」

「じゅんちょう。もうすぐ,おわる」


一応言葉らしきものは理解できるも,メルセは首を傾げた。


「要領得ない,ね。何を言ってるかさっぱりです」

「ゴブリンは口下手だからね。実際には話せば何か分かるんだろうけど,そんなことは出来ないし」

「どうしよう?」

「うーん。あそこを過ぎれば,吹き抜け場所まで目と鼻の先なんだけどなぁ」

「やっちゃおうか?」

「時々物騒なこと言うよね……。でも,それが一番手っ取り早いかも。マド,大丈夫?」

『周囲の位置情報を解析。大きな音の発生は避けてください』

「ということだけど,いけるかな?」

「大丈夫です」

「都合はアンタらに任せる」


物理的な戦力となるメルセ達に了承を取りつつ,テュアはこの先を突破する意思を固める。

二人が奇襲を行う体制を整える傍らで,腰から提げた革袋から小さな光物を取り出した。

それは透明に光る硝子玉だった。


「ゴブリンの気が逸れた時にお願いねっ」


これも,誘導の一つである。

テュアの投げた硝子玉は,放物線を描いてゴブリンのいる広場端へと落ちていく。

直後,硝子玉の割れる音とそれらが光を浴びて辺りに散乱する。

会話をしていたゴブリンもそれに気付き,視線の先を変える。

周囲を警戒するよりも先に,宝石のように光る物体を見たという思いが先行して,その周りに近づいていく。


「そこっ」


テュアが合図した隙を狙って,ジェドーが波動砲の引き金を引く。

無論全力で放つと凄まじい音が響くので,ゴブリンが倒せる寸前まで出力を絞る。

そうして発射された弾丸は,空気が抜けるような小さな音を発し,拳二つ分程度の小ささで直進した。

硝子の破片に集まっていたゴブリンの内一体の後頭部に直撃し,相手を昏倒へと導く。

傍にいたもう一体のゴブリンも異変に気付くが,先にメルセが発動していた魔法陣が迫る。

ハエたたきのように振り下ろされた陣で頭を叩かれ,膝から崩れ落ちる。

三人はゆっくりとその場に近づいたが,魔物達は気を失ったままだった。


「相変わらず妙な小道具を使うな。それが賢者志望ってヤツのやり方か?」

「ふふん。どうですか?」

『大部分は,誘導した私の成果ですが』

「え,ちょ」

「私も,頑張った」

「う……」

「まぁ,正直どーでも良いから先に進むぞ」

「シバかれたいんですか? ジェドーさん?」


波動砲の砲口でゴブリンを突きながら,ジェドーが再び先導する。

周りに他の気配がないことを確認しつつ,吹き抜け場所に向かい,そのまま三階へと移動していく。

それから先は,ある程度同じことの繰り返しだった。

魔物を避け,避け切れない場合は奇襲という形で静かに事を済ませる。

殆ど迷宮に近いグレスタワーをここまで順調に行動できるのは,内部を知り火力のある武器を持つジェドー,上層へ上がる手段と攻守一体のスキルを持つメルセ,制限を受ける中でも大まかな情報収集が可能なテュア達がいるためだ。

だが,そろそろ気を失ったゴブリンを見つけた仲間が,騒ぎ出す頃合いでもある。

グレスタワーでも上階に値する場所まで上り詰めていた三人は,少しだけ歩みを速めていた。


一際大きな揺れが全体を震わせる。

元々小さな揺れは断続的に続いていたが,それが更に強さを増したようだ。

メルセが体勢を崩し,後方に倒れそうになる。


「あっ」


丁度その後ろを歩いていたテュアが彼女を支える。

強力なスキルを持つメルセの身体は,年相応に軽く感じられた。


「大丈夫?」

「は,はい。ありがとう,です」


抱き留められたメルセは一瞬目を細める。

そんな彼女に一抹の罪悪感を抱いたテュアは,揺れの正体を探る。

画面操作やマドの指示を受けることなく,直ぐに思い当たった。


「この揺れは,もしかして」

「アレの仕業だ」


二人の様子を窺っていたジェドーが,通路の奥を指差す。

入り組んだ通路を抜けて大きな吹き抜け場所に差し掛かると,複数の階層を突き抜ける程の巨大な炉が見えた。

釜の形をした炉は最上層まで届き,内部で大きな揺れを生み出している。

炉には階層ごとに,そこに繋がる為の通路が円を描く形で造られている。

しかしそれら通路はゴブリンたちが徘徊しているため,これ以上近づくことは出来ない。


「動力炉,こんなに大きいんだ」

「グレスタワー全体をこの炉で動かしているんだ。そりゃあ,デカくもなるさ」

「そういえば,どうすればコレを止められるんです?」

「稼働させている操作盤がある。それを使いさえすれば止められるが,あるのは最上階だ」


動力炉の大きさと振動音に圧倒されながらも,彼女達は更に上階を目指す事になる。

最上階到達まではあと数階だ。

このまま順調に進めば,半時と掛からないだろう。

すると今まで経過を観察していたマドが急に喋り出した。


『オーナー,報告します』

「んん? どうしたの?」

『動力炉の情報を解析した結果,一点判明したことがあります』

「解析って,いつの間にそんなことを……」

『オーナー達がジェドー氏に協力を進言した時から,継続して行っていました』

「何かしているなら,教えてくれてもいいのに」

『余計な誤操作を招くと考え,控えていました』

「んー,この容赦のなさね」


テュアが動かした画面情報を元に,マドが独自に解析を行っていたようだ。

画面が切り替わり,動力炉を模した画像が張られたウィンドウが表示される。


『動力炉から生み出されたエネルギーの半分以上が,地下深くに供給されているようです。これは意図的なもので,魔物が何らかの目的を持って炉を稼働していると推測します』

「地下? 一体何処に……」

『現状では不明。ただ,魔物達が即興で造り上げた供給ラインを通していることは間違いないようです』


魔物達は明確な意志と目的を持ってこの建物を占拠した。

適当に襲い掛かっているのではない,テルス村に集結したスケルトンと同じ傾向だ。

マドの報告を傍らで聞いたジェドーは,未だに動き続ける炉を見上げる。


「あいつら,ただ無意味に炉を動かしているだけだと思ってたが,そうじゃなかったのか。クソッ,一体何が目的だってんだ」

「ゴブリンって,これの操作,できるんですね?」

「そういえばそうだね。確かそんな複雑なことが出来るって記録はなかった筈だけど。頭の良い魔物だったのかな?」

「とにかく炉を止める。そうすれば奴らの考えも頓挫するし,やることに変わりはねぇだろ」


三人は奥の通路へと引き返していく。

上階に到達して以降,更にゴブリン達の警備が厳しくなっている。

最早通路を隠れながら歩いても見つかりそうな程だ。

吹き抜け場所まで辿り着くのは困難だとテュアが伝えると,ジェドーが機転を利かせる。

彼の指示によって,垂直に伸びる通気口が示された。

本来は建物内にある機械の熱を冷ます為に存在する冷却用のダクトである。

流石のゴブリン達もそこまでは警戒していないようだ。

メルセの魔法陣を使い,人一人が入れる程度の管の中を順に潜り抜ける。


「煙突の中を通るなんて,前髪乱れちゃう……」

「煙突じゃなくて通気口な。ここしか行ける場所がねぇんだから,我慢しろ」

「ていうか,寒っ。冬みたいな風。メルセ,風邪引かない?」

「な,何とか」


凍えながらも一人ずつ通気口内で移動を重ね,遂に最上階に到達する。

最上階は他の階と違い,複雑な通路や余計な部屋が一切ない。

発明品を保管する場所と,動力炉を制御する操作盤への通路があるだけだ。

周囲に魔物の気配はない。

外に繋がる一面の硝子窓からは,鉄の山の一部を見下ろせる。

網目状の通路を渡り,三人は目的の場所へと向かう。

そして暫らくして,数十m程度の円形状に開けた場所が近づいてきた。

そこには動力炉に向かい合う形で,様々な押しボタンが備え付けられた機械が設置されている。

画面操作で詳細を見たテュアは,あれこそが炉を操作する操作盤だと理解した。


「やっと,ここまで……」


ホッと息を吐いた束の間,マドが警告音を響かせた。

擬態したスケルトンが村に侵入した時と同じく,突然の高音がテュアの喉を鳴らす。


「はぐぅ!?」

「テュアさん,凄い声」

「だ,だってマドがぁ……。もう,私だって恥ずかしいんだけど……!?」

『皆さん,衝撃に備えて下さい』

「えっ」


動力炉のものとは違う揺れが,三人に襲い掛かる。

倒れないようにどうにか体勢を整えると,操作盤のある広間に異変が起きる。

まるで広間へよじ登るように,下層から大きな手が現れる。

それは人の手も,魔物の手でもない。

転落防止のためにあった広間の手すりごとすり潰したその手は,大きな鋼鉄で構成されていた。


「金属の手!?」


もう片方の手が現れ広間の端を掴んだ瞬間,本体が持ち上がり機械の身体が現れた。

全身が青白く光るそれは,貨物を持ち運びするための四足歩行型ロボットだった。

大きな駆動音と共に広間を上り詰め,三人達を見下ろす。

操縦席には,一際大きなゴブリンが息を荒げて座っていた。


「あれって……」

「俺の愛用,ヘルジャーカーじゃねぇか!」


操作盤まであと少しという所で,ジェドーの愛用機兼ゴブリンが立ちはだかった。




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