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13/32

急に止まったんですけど -1-




「見慣れない顔だな。アンタ,村の新入りか?」

「メルセ,です」

「この子は,ちょっと前に出来たダンジョンで見つかった子なんです。自分の名前とスキル以外,覚えてなくて」

「ダンジョン? 何の話だ?」

「あ,知らないんでしたっけ? 最近,山菜取りの道にある小山で,大量のスケルトンと一緒にダンジョンができたんです。今はもう攻略されて危険はないんですけど」

「魔物の大量発生……まさか,今の状況と関係しているのか……?」

「え,どういう意味です?」


互いに簡単な自己紹介を行うが,ダンジョンの存在を耳にしたジェドーは険しい表情で顎に手を触れる。

何か良くないことが起きている,とでも言いたげな顔だ。

理由を確かめるよりも先に,一階の奥側から何者かの足音が迫ってきた。

しかし,ここにはジェドー以外の人間は立ち寄らない筈だ。

テュア達はそちらの方へと視線を向け,彼もその音を聞いて二人に背を向ける。


「悪ぃが,ゆっくり話をしている暇はないんだ。奴らが来る……!」

「奴ら?」


足音共に暗闇に包まれた影が光に照らされる。

見据える視線の先から現れたのは人ではなかった。

緑色の肌を持つ身体,棍棒を片手にするその姿は,まさしく魔物の類だった。


「ゴブリン!? 何で,こんな所に!?」

「下がってな! 今の鉄の山は,安全じゃあねぇんだ!」


数は五,六体。

人間と変わらない図体の魔物が,武器を掲げて襲い掛かってくる。

ジェドーは身に付けていた鉄の塊を手にし,ゴブリンに向ける。

それは彼の手に触れた瞬間,巨大な銃のように構造を変え,駆動する音を放ち始める。

丸い銃口の奥が光を纏い,何らかの準備が整う。


「ブチかます!」


直後,ジェドーの声と共に銃口から青白い波動が放たれた。

スキルではない,彼の武器が生み出した弾丸だ。

波動は周囲を巻き込み,前進していたゴブリン数体を吹き飛ばし,残りの者達も衝撃によって押し返していく。

普段見ないジェドーの戦闘にテュア達が圧倒されていると,代わりにマドが説明する。


『波動砲。武器内部で空間を振動させ,弾丸の代わりとして衝撃波を放つ武装です』

「一発でゴブリンを押し返すなんて……。と,とにかく,何が起こってるのか確かめないと……!」


我に返ったテュアは,画面更新により情報を再整理するも,妙に動きが遅いことに気付く。

マドが警告していた妨害電波の影響だろう。

爆弾騒ぎの遅延に似た現象を前に,やはりここで何かが起きているのだと確信する。

そして更新された画面を見た瞬間,テュアはハッとして顔を上げた。


「チッ! 燃料が足りねぇ! 無駄撃ちし過ぎたか!」

「ジェドーさん! 上!」

「ッ……!?」


二階の足場から,一体のゴブリンがジェドー目がけて飛び降りてくる。

敵の接近に気付いたテュアの警告に,彼は銃を向けるが間に合わない。

魔物が押し潰さんと迫った瞬間,間に割って入るように緑色の魔法陣が展開された。

落下していたゴブリンは陣に弾かれ,小さく跳ね返る。


「私に任せて!」


テュアの指示を受けて,メルセがスキルを発動していたのだ。

彼女はそのまま力を行使し,弾かれたゴブリンの周りに複数の魔法陣を形成する。

次いでそれら魔法陣がその場で回転を始め,風切り音を放ち始める。


「飛べッ!」


幼い少女らしくない凛とした声と共に,回転する魔法陣がゴブリンに向かって突撃する。

複数の陣が容赦なく叩き込まれ,ゴブリンは奥の壁に吹き飛ばされていった。

どうやらメルセの魔法陣は,防御だけでなく攻撃にも利用できるようだ。


「すご……」

『テュア,感心している場合ではありませんよ』

「そ,そうだった! 二人とも! 一旦ここから出て……」


建物内にゴブリンが徘徊していると分かった以上,内部に留まるのは危険だ。

一度外に出るように二人を誘導するも,そこでテュアは背後から差し込んでいた光が,徐々に無くなっていることに気付く。

後ろを振り返ると,先程まで解放されていた隔壁が音を立てて下降していた。

ここにいる三人の意志に反して,侵入者を逃がさないよう逃げ道を塞ぐ。

慌ててテュアが画面に触れるも,それよりも先に入り口は完全に閉ざされてしまった。


「閉まっちゃった……?」

『外部操作により閉鎖されたようです。恐らく魔物,ゴブリンの手によるものかと』

「ゴブリンがこれを操作したってこと!?」

『現状の情報から考察した,最も可能性のある見解です』


文献上ゴブリンの知性はそれ程優れておらず,複雑な操作して敵を出し抜くという戦闘方法は記録にない。

テュアはそのまま画面を操作し,隔壁のウィンドウを開くも,やはり動きが遅い。

削除機能によって壁ごと取り除くことも出来るが,妨害電波による遅延で時間が掛かる。

容量が大きいこともあって,それまでゴブリン達が待ってくれるとは思えない。


「お前ら,こっちに来い! 連中が立て直す前に,避難するぞ!」


武器を掲げたジェドーが,二人を誘導する。

この建物は彼にとって庭のようなものだ。

ゴブリンから逃げ切れる,何処か安全な場所を知っているのだろう。

吹き飛ばされたゴブリン達が立ち上がる姿勢を見せる中,テュア達は一階層の奥へと一目散に進むのだった。


暫くしてゴブリン達が目標を見失った時,テュア達は一階層にある小さい広場に逃げ延びていた。

小さく入り組んだ通路を進んだ先にあったので,恐らく魔物達には知られていない場所なのだろう。

所々に見える芝生と一面の砂地,奥には屋根のついた木製の長椅子が置かれている。

上層の窓から差し込む光に照らされたこの広場は,鉄の山には似つかわしくない一種の休憩所のようだった。

追手が来ないことを確信したジェドーは,軽く息を吐き,後から付いて来るテュア達に向き直った。


「さっきは悪かった。お前たちがいなかったら,奴らにやられていたかもしれない」

「いえ,それは私達も同じなのでいいんですけど。ジェドーさん……どうしてゴブリンに,喧嘩売っちゃったんですか?」

「アホ言え。向こうから突っかかってきたんだよ」


少し進んで長椅子に座る三人。

彼の持っていた大砲のような武器が重々しく地面に置かれた。


「数は二,三十。何の断りもなく急に上がり込みやがって……。終いには,俺の発明品達にまで手を出しやがった」

「発明品?」

「照らした部分を暗くする照明。叩いた液体を固体にする金槌。周りの小石を消すスイッチ。足の小指を角にぶつけなくする首飾り。くそう……! どいつもこいつも俺の自信作だってのに,壊したりなんてしていたら,タダじゃあおかねぇ……!」

「変わった発明品,ですね?」

「まぁ,こういう人だから……」


ジェドーの作る発明品は,村人たちからしても用途が分からないものばかりだ。

以前はテュアも,押した部分の文字が白抜きになるスタンプを手渡されたが,結局使い道がないままカウンターの棚に置かれている。

人の需要などは考慮せず,突然の直感のようなもので無差別に造るのが通例だった。

ゴブリンを吹き飛ばした武器に触れつつ,彼は上層を見上げた。


「コイツを持って何とか抵抗したんだが,上の階は完全に占拠されちまった。さっきの通り,今じゃあ俺を狙って連中が襲い掛かってくる始末だ」

「どこからあれだけのゴブリンが……というか,どうしてこんな所を狙って?」

「知らん。あれだけ群れているとなりゃあ,目的がありそうなのは確かだがな。そういや,アンタらはどうしてここまで来たんだ? 最近ここに来る奴って言えば,村の悪ガキどもだけだと思ってたが?」


そこでテュアとメルセは,互いに視線を交差させる。

不測の事態とはいえ,手掛かりを持つジェドーと出会うことは出来たのだ。

鉄の山に出向いた目的を語っていく。

突如現れた地下ダンジョン。

そこから発掘された赤い爆弾。

その爆弾を回収しようと出向き,寸前の所で被害を抑えることが出来たこと。

爆弾の形状・威力・そして被害状況を聞いたジェドーは,徐々に顔色を変えていった。


「そういうことか」

「え? どういうことです?」

「その爆弾は,少し前に俺が発明したものだ」


驚くテュア達を置いて,彼は深刻そうな表情で語り始めた。


「名付けて,ジェクト爆弾。大岩を転がる小石のように粉砕するものさ」

「何でそんな危険なもの作ったんですか……」

「金属探しに周辺の岩を砕こうと思ってな。趣向を凝らして宝石っぽさを出しつつ,試作品で造っていたのさ。勿論安全装置もあって,簡単に作動しない作りになっている。だが,ある日突然消えちまった。色々探そうとは試行錯誤したんだが,ゴブリンの連中が来てそれどころじゃなくなってな。結果的に村に回収されていたのは予想外だったぜ」

「でも,あの爆弾は地下洞窟で発掘されたんですよ?」

「そこだ。俺は地下洞窟何てものは初耳でな。行ったことすらない。となると,考えられることは一つだ」

「魔物がジェドーさんの爆弾を盗んだ上に,村で危険なことをしようとしていたってこと?」

「それだけじゃねぇ。よりによって,俺の発明品を悪用する真似をしやがった。アレを作った俺の落ち度でもあるが,まさかこんなことに使われるなんてな……」


ジェドーは握り拳を震わせる。

自分が造り上げた発明を勝手に盗まれた挙句,無差別兵器として扱われたことが何より許せないようだ。


「もしかして,あの時私が消した部品が,起動の引き金になってるってことない?」

『オーナーの凡ミスは関係ありません。あの爆弾は,時間経過と共に起動する仕組みになっていました』

「そ,そっか。少し,焦ったよ」

「テュアさん,やっぱりこれって……」

「何かあるのは間違いなさそうね」


今鉄の山で起きている騒動は,地下ダンジョンの秘密と繋がっている。

ゴブリンが暴れているのも,スケルトンが強襲した時と同じように,何らかの大きな目的があるに違いない。

そして,メルセに関連する情報も隠されているかもしれないとテュア達は確信する。

直後,周囲が小さく振動する。

上層で巨大な何かが動いているようだ。

テュア達が警戒するも,その正体をジェドーは知っているようだった。


「今この建物自体が,ゴブリン達の好き勝手で動いている。どうにかして奴らを蹴散らして,動力炉を奪わねぇと」

「動力炉。確か色々な金属を動かす心臓みたいなもの,でしたっけ」

「あぁ。この振動は,今もそれが動いている証拠だ。それにしても,奴ら際限なく動かしてやがるな。このままじゃあ,炉が暴走して大変なことになる」

「もし,そうなったら……」

「下手をしたら大爆発が起きる。あの爆弾とは比にならないだろうよ」

「大爆発!?」

「下手をしたら,の話だ。だが奴らは加減を知らん。絶対にないとは言い切れない」


今も起きている小さな振動を全身で感じながら,テュアは屋根を外れて上層部を見上げる。

ここからでは動力炉は見えないが,それだけ大きい規模で駆動していることが分かる。

爆発などしてしまえば,この建物自体が吹き飛ぶ事態もあり得る。

とんでもない所に来てしまったと実感するテュア達に対して,ジェドーは広場を外れた小道を指差した。


「二人はここから非常口に行け。あそこは人力で動く仕組みになっているから,脱出できるはずだ」

「え,ジェドーさんはどうするんですか?」

「俺は動力炉を止めに行く」

「いやいや,あのゴブリンの群れ相手に一人は無茶ですって!」

「時間がないんだ。炉がいつまで持つか分からん。これは,俺の責任だ」


ジェドーが意志を変えることはない。

波動砲は確かに強力だが,一人で魔物の群れを相手にするには危険が大きすぎる。

炉が暴走するまでどれだけの時間が残されているのかは分からない。

ただ,彼が村に助けを求めないことを考えると,行って帰るだけの時間もない可能性が高い。

隣にいたメルセもそれを理解し,先を見据えた。


「テュアさん」

「うん。私達も手伝います」

「おいおい。ただの山菜取りとは訳が違うんだぞ?」

「今から単身突っ込みますーみたいなことを聞いて,はいそうですかー,なんて言えません。それに,私達もゴブリンと戦える力はあります。マド,行ける?」

『ゴブリンの群れを考慮すると,彼単独での突破確率は約20%。私達が助力することで85%以上まで向上します』

「マドは電波の影響を受けないの?」

『私は外部との通信を行わない,独立で動く支援ユニットです。妨害電波の影響はありません。また,当スキルも影響を受けている状況ですが,機能停止の予兆はありません。ご心配なく』


問いに答えるマドも,彼単独での突破は困難と判断する。

テュアのスキルも妨害電波で十全な動作は出来ないが,先程のように周囲の敵を探査するくらいなら出来る。

加えてメルセの魔法陣も思った以上に戦闘向けのものだ。

少なくとも,足手まといになることはない。

無言のまま二人で確かめ合っていると,ジェドーがテュアの展開する青い画面を注視していた。


「まさかとは思ってたが,もしかしてそれ,アンタのスキルか? スキルが喋るなんて聞いたことねぇぞ」

「た,確かに喋るなんて驚くと思いますけど……って,このスキルのことが分かるんですか!?」

「あ? 何かマズいことでも言ったか?」


テュア達の驚きようにジェドーは不思議そうな顔をする。

村の人々と違い,テュアが彼にこのスキルを見せるのは始めてである。

そして,マドを認識する新たな人物と出会うのも,これまた始めてであった。


『初めまして,ジェドー・シラバラ。私は,テュア・リンカートのスキル支援を担当するユニット・マドです。よろしくお願いします』

「お,おう。よろしく……ってコイツ,人格があるのか? 人の思考がスキルに縛られているっていうのか? いや,それ以前にこの構造は……」

「ええと……なんでジェドーさんには,マドのことが分かるの?」

『不明。情報不足です』

「でも,これで余計な混乱をさせずに済んだ,よね」

「そうだけど,マドのことが分かる人が,このおじさんかぁ……。何だかなぁ……」


この際理由を探っても仕方がない。

話が早くて助かるものの,複雑な心境にテュアは小さく唸るだけだった。

対するジェドーは,発明家らしく彼女のスキルに探究心を沸かせ,独り言を呟く。

しかし,差し迫った状況もあってそれを打ち切り,彼女達に向き直った。


「で,本当に来る気か?」

「私達なら,力になれますよ?」

「ったく,どうなっても知らねぇぞ……。まぁ,二人に助けられたのは事実だ。それなりにデキるスキルだってことも理解した。危険を承知で来るっていうなら,止めはしねぇ。ただ,俺より前に出るなよ。アンタらに何かあったら,俺が困るんだ」

「あれ? もしかして,気を遣ってくれてるんですぅ?」

「ガキが一丁前に色気づいてんじゃねぇよ」

「ガキ!? 私もう15歳ですけど!?」

「俺からしたらガキだっつーの。ませた口きいても,意味なんかねーぞ?」

「ぶぅ」

「全く,病弱だった頃とは大違いだな……。とりあえず,コイツは渡しとく」

「これ,さっきジェドーさんが落ちてきた時に使っていた緩衝材ですよね?」

「フワフワ,してる」

「地面に叩きつければデカくなって,落下の怪我を防ぐ。何かあったら,村の連中に申し訳が立たねぇからな。くれてやる。言っとくが,本当にヤバくなったら,屋上からでも叩き出すぞ。いつでもそれが使えるよう,準備しとけ」


テュアの不満そうな声をあしらいながらも,ジェドーは予備の拡散式クッションを手渡す。

やはり単独で突破できる自信はないようで,二人を巻き込むことへの,多少なりの負い目は感じている。

我関せずの変人,という噂だけの人物ではない。

話し合いはここまでだと言わんばかりに,彼は長椅子から立ち上がる。

するとその直後,不意に思い出したように考えを巡らせ,隣にいたメルセに問い掛けた。


「そういや,メルセって言ったか? 確か記憶喪失だったんだよな?」

「はい。そう,ですけど」

「それじゃあ,一つ朗報があるぜ」

「私で実験……するんですか……?」

「おいおい。誰が,そんなことするんだよ。俺を何だと思ってるんだ?」

「自分を実験体にする,怖い人」

「ねー」

「そこ,同調すんな」


収縮させた波動砲を持ち上げたジェドーは,心外だと言わんばかりにため息をつく。


「記憶を取り戻す被り物ってのを,最近発明してな。物忘れの激しい今のアンタにはピッタリだと思うぜ」

「記憶を,思い出せるんですか?」

「おうよ。ゴブリンの馬鹿どもに壊されてなければの話だがな。この一件が無事に終わったら,特別に貸してやる」

「やっと,私のことが……」

「ジェドーさん,それ大丈夫なんです?」

「任せろ。自分で確かめたから問題はない。一ヶ月前に食べた晩飯を事細かに思い出したぜ」

『噂に違わず,自身を実験体にするとは。その思考回路に興味があります』

「マドまで実験脳になると,私が困るんだけど?」


記憶を取り戻す発明品。

それが本当だとしたら,メルセの過去を知る大きな手助けになる。

何にせよ,このダンジョンめいた建物を攻略しなければ話は進まない。

駆動し続ける動力炉を止めるためにも,三人は上層を目指すことにした。




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