さっきのファイル,消えました -2-
集会場内では,様々な人達が発掘した宝石たちの仕分けに入っていた。
元々鉱石の発掘など,この村では殆どなかった作業だ。
専用の建物などなく,急場を凌ぐために造られた即興の仕訳室に,ゆっくりと革袋が担ぎ込まれる。
重い荷から解き放たれた冒険者達は,その場で軽く肩を回した。
「さてと,これでひと段落だな」
「ちょっとー,待って下さいー」
直後,後ろから苦しそうな声が聞こえ,その場にいた皆が驚いて振り返る。
そこには両足を震わせるテュアと,その様子を心配そうに見上げるメルセの姿があった。
見るからに,支えられながら歩いてきたような有様である。
仕訳室にいた村人の男が,いち早く反応する。
「ど,どうしたんだテュア。ヨボヨボな動きで。便所か?」
「お,女の子に向かってそんな失礼なこと……筋肉痛ですぅ」
「あぁ……悪かったよ。まさか,筋肉痛になってるなんて,知らなくてな」
「いいです。次は,もっと配慮して下さいね」
「分かった,任せてくれ。で,そんな足腰で来たからには,大事な用があるんだろう?」
割と気さくに話に応じる村人達。
しかし,一体何から説明すべきか,テュアは出だしを考える。
何から話しても同じような反応をされる気がするため,視線が宙を舞う。
「えーと,何と言えばいいのかなぁ。突然で驚くかもしれないですけど」
「歯切れ悪いなぁ。そういうのは,ハッキリ言うもんだぞ」
「そうですかぁ。じゃあ……」
迷う彼女に対して,男は自信ありそうに胸を張る。
どんな質問でも受けて立つという様子に,そこまで言うのなら信用しても良いだろうとテュアは思い始める。
後押しをされる形になったので,隠し立てをすることなく率直に指摘することにした。
冒険者達が発掘した宝石袋を勢いよく指差す。
「そこに爆弾が入ってるんです」
「え?」
だが,爆弾が紛れ込んでいるという暴露までは考えていなかったようだ。
耳を疑った男達は何度もその言葉を反芻する。
一斉に沈黙に覆われた後,次第に妙な空気が流れ始める。
「あ,この反応駄目そう」
ポツリと呟いたテュアは,間近に迫る未来を垣間見る。
「う,うーむ。まぁ,一応聞いとくが,何で爆弾が入ってるなんて分かるんだ?」
「それはマドが」
「窓?」
「わ,私のスキルがそれを見抜いたんですって! ホントです!」
「あのよく分からない,薄っぺらくて青い窓みたいなヤツのことか?」
先程から一転して,自信のない表情で男は問い掛ける。
一応テュアはスキルを発現してから何とか動かそうと,色々な人達に触れてもらっていたので,村人ならばマドのことを大体知っている。
意味すら分からない謎の力だということも周知の事実だ。
それでも,画面に表示されている情報を見せれば,ある程度は分かってくれるはずだ。
そう思い,彼女は開いていた赤い爆弾の画像を明かす。
「ほら,ここを見れば……!」
「ここ……? 青い色以外に,何も見えないが……?」
「えっ」
だが男達の目に映ったのは,真っ青な光景だけだった。
テュア達は確かに疑似宝石の画像を見せているのに,彼らの表情が晴れることはない。
「もしかして,見えてない?」
『彼らには,私の声以外に操作している画面の内容も見えていないようです』
「そんなー,メルセー」
「わ,私にも見えるのに,どうして……?」
後ろにいたメルセに助けを求めるも,彼女も画像を認識した上で困惑していた。
何故二人だけにマドの内容が理解できるのか。
考えるよりも先に,村人達は視線を合わせて無言のままに深く頷く。
その表情は,いつにない神妙さが滲み出ていた。
「そうか……いや,悪かった。俺達が間違っていたんだ」
「……!」
「そうだよな。お前たちの言う通りだ。もっと早く気付くべきだった」
「それじゃあ!」
「あぁ,本当にごめん」
信じてくれたと思い込んだテュア達に対して,彼らは顔を背け,悔しそうに目を瞑った。
「まさか,そこまで悪化していたなんて……ッ!」
「えぇ!?」
「お前たち! テュアを診療所に運ぶぞ! 大至急だ!」
「あ,ちょ,待っ……!」
「大丈夫だ! 直ぐに良くなるからな! 安心しろ!」
「全然安心できないんですけどぉ!? って,私,筋肉痛……!」
「さぁ,君も一緒に来るんだ!」
「あっ,あの……! テュアさんの言っていることは本当で……!」
彼らからすれば,一切変化のないスキルに幻聴と幻覚を見た彼女達が,爆弾があると騒ぎ出したことになる。
信じるよりも,頭の容体を心配することの方が断然早かった。
村人に易々と担ぎ上げられたテュア達は,足が地を離れ,あらぬ方向へと運ばれていく。
力なく手を伸ばすも,集会所からはどんどん遠ざかっていく。
やはりもう少し考えて行動すべきだった。
落胆するテュアの代わりに,村の診療所が口を開けて近づいてきた。
実際の所,彼女達は至って正常なので,医師に診てもらっても悪いところなど一つもない。
女性医師は首を傾げながらも,安静にするよう二人を病室に連れて行った。
精神的な摩耗に対する処置は,都市部でもそうそうあるものではない。
専用の薬を処方することで負担を軽減出来る程度だ。
結果として,様子見ということで二人は病室での生活を余儀なくされた。
図書館の仕事は,村人で手分けして割り当てるので心配ないという。
「可哀想に,スケルトンに襲われた恐怖で混乱しているんだ。良くなるといいんだけど」
噂を聞きつけた冒険者達が,会話をしながら診療所を通り過ぎていく。
彼らの声は,白いベッドが数個設置されている病室にまで微かに届いていた。
肌色のカーテンによって,光を多少遮られたこの室内は,淡い色を全体に落としている。
傍らには花が添えられ,眠気を妨げられる心配はない静かな場所だ。
ベッドの上で布団を被っていたテュアは,医師と通行人がいなくなったと同時に,半目で顔を覗かせた。
『手厚い看護ですね』
「嬉しくない」
『これは,別の方法を考えた方が良さそうです』
「というか,わざわざ近づかなくてもさ。遠隔操作? だっけ? 遠くからでも,爆弾を消したり出来るんじゃないの?」
『可能ですが,安全性は保証出来ません。あの爆弾には高度なジャミング機能が備わっています』
「それって,ストルスの時と同じやつ?」
『周波パターンから類似性が確認できます。ただし,先日のジャミングは微弱でしたが,今回のそれは更に強力になっています。そのため遠隔操作を試みた場合,処理遅延が発生し,爆弾に対して思わぬ誤作動を招く恐れがあります』
「直接手で触れれば,少しは違うの?」
『互いに接触している状態であれば,妨害電波を大きく軽減することが出来ます』
思わぬ誤作動とは,爆発のことを指すのだろう。
遠隔操作で事態を悪化させてしまうなど,目も当てられない結末だ。
爆弾をどうにかするには,直接手で触れるために村人たちの監視を掻い潜り,集会所に向かう以外にない。
同じく寝かされていたメルセが,被っていた布団を除けて上半身を起こした。
「こうなったら,夜中に忍び込んで爆弾を回収するしかないです」
「メルセ……言いたいことは分かるんだけど,流石にそれはちょっとマズいんじゃ……」
「でも,他に方法がないです。好意的なのは分かるけど,村の人達がマドさんのことを信じるのは,難しいと思うの」
「た,確かにそうだけど」
つられて上半身を起こしたテュアは,腕を組んで考える。
メルセの言うことは尤もだが,それにはかなりのリスクを伴う。
集会所に忍び込む場面を見られでもすれば,今度は勝手なことをしないように両手足を縛られてしまうかもしれない。
村の人々に育てられた恩義から,迷惑はかけたくないというのが本音だ。
しかし,いつ爆発するかも分からない危険物を放置する訳にもいかない。
声を出しながら悩んだ末に,彼女は組んでいた腕を解いた。
「むーん,仕方ない。こうなったら,やってやるわ。マド,力を貸してね」
『承知しました。行動日時はどうしますか?』
「勿論,今日の深夜よ。皆が寝ていれば,気付かれにくい筈」
「私も,一緒に行きます」
「メルセ,いいの? 危険かもしれないんだよ?」
「ここまで聞いたんだから,無関係にはなれません」
メルセの決意は固い。
まだ子供だというのに,爆弾騒ぎに望んで関わろうとする覚悟は,大の大人とそう変わらないように見える。
無論それは無謀な進言ではない。
彼女はストルス戦におけるリモート操作を切欠に,自身のスキルを思い出していた。
名称までは分からないものの,魔剣の一撃を防いだあの魔法陣は,何処かで役に立つはずだ。
事情を既に知っていたテュアは,彼女の意思を汲み頷く。
すると,先程の女性医師が不安そうに病室にやって来た。
「二人とも,大丈夫? また,誰かと喋ってなかった?」
「い,いえいえ,ぜーんぜん問題なしです! ね,メルセ!? ちょっと二人で話してただけだよね!?」
「は,はい! 変な声は何も聞こえないです!」
「そ,そう……。なら,安心だけど……」
顔を合わせて誤魔化しに入る。
とにかく今は怪しまれないよう,大人しく寝ておくべきだ。
再び布団を被った二人は,夜中に控える作戦に備えるのだった。




