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このスキル,壊れてます -1-




『ブウゥゥゥゥゥン!』

「ヒィッ!?」


始まりは突然に,という一文を時々本で見る。

だがこんな突然はいらない,とテュアは思うのだった。


晴れた青空と,目の前に広がる謎の青い窓。

辺境の小さな村,テルス村に住むテュアは,自分のスキルと悪戦苦闘していた。

金髪碧眼の彼女が15歳で発現したスキルは,「OS-窓-」という謎過ぎるものだった。

今まで見てきた本にも,このようなスキルの記載はなく,正体すら分からない。

力を込めても,先程のような音を出しながら,窓のような画面が出現するだけだ。

そして窓の中心にあるのは,「読み込んでいます」の一文のみ。

数週間が経った今でも,それは全く変わらない。


「わー,本屋ちゃんまたビビってるー!」

「こらー! 本屋ちゃん言うなー!」


木造の小さな図書館外。

外で遊んでいた村の子供たちにからかわれ,テュアは反論する。

本に名を連ねる有名な人々は,有用なスキルを用いて冒険者となったり,発明を行ったりしていく。

スキルとは,言わばその人の将来を動かす重要な能力でもある。

かつての彼女も一体どんなスキルが身につくのか,期待に胸を躍らせながら,その発現を待っていた。

だが,身に付いたのは,力を込めて妙な窓を出すだけ,というあまりにお粗末なものだった。

これでは戦闘どころか,生活の足しにすらならない。


「別に良いんじゃない? 使えないスキルでもさー」

「違うし! 絶対使えるスキルだし!」

「でも,何も起きないんでしょー?」

「ぐ,ぐぬぬ……」


別に使えないスキルだからといって,周りから無暗に嘲笑されることはない。

スキルは人によって千差万別。

中には自分に適さないスキルを持つ人達もいる上,スキルとは独立して生活を維持している人もいる。

子供たちがからかうのは,未だ使い方が分からず驚きまくるテュアが面白い,という理由だけだった。

しかし,彼女にとっては割と深刻な問題だった。

背を向けて走っていく子供たちを見つつ,その窓に向き直る。

物言わぬそれに近づきながら,恐る恐る指で触れてみる。

すると指が窓を透過すると同時に,電気が迸るような音を放った。


『ジジジジジジジ』

「ヒウッ!? ……はぁ」


無論害は一切ない。

この窓は物体であろうと液体であろうと,どんなものもすり抜ける。

だというのに,何度も驚いている自分が恥ずかしくなり,テュアは溜息をついた。


「テュアちゃん。本を借りたいんだけどー」

「あ……はいはーい,本ですねー。今行きまーす」


直後,村の女性が本の借用を求めてきたので,それに応じる。

浮かびあげていた窓を消滅させ,図書館の中へ戻っていく。

テュアの仕事は,村にある図書館の管理が主だった。

賢者とは様々な知恵を持ち,人々を助ける者のことを指す。

賢者志望の彼女は,ある程度の知識が身に付く図書館に目を付け,自らその管理を進言した。

結果としてよく働いているため,村の者達も不満はない。

図書館に戻り,カウンターの前で女性が希望した本を手渡すと,彼女は不安そうにテュアを見つめた。


「あのね,テュアちゃん」

「え?」

「別に無理しなくていいのよ? 折角のスキルだけれど,体調を壊したら大変だわ」

「無理なんて,全然してないですよ。それに,まだ使い方だって分からないですし」

「そうかもしれないけど,普段のことも重要よ? テュアちゃんが図書館の管理をしてくれて,皆感謝しているんだから」

「そうですか?」

「そうよ。元々は本の場所すら何処にあるか分からなかった位なんだから,凄い進歩よ」

「えへへ,そうですかー?」


おだてられたテュアは,少しだけ自慢げに笑みを浮かべる。

しかし,即座に窓を出現させ,女性の前で頭を下げた。


「なら,その見返りに,このスキルの使い方を教えて下さいー!」

「それはちょっと……」

「誰が触れても変化がないし! うんともすんとも言わない! こんなスキル聞いたことないですよ!? なんでぇ!?」

「私も,始めてだわー。どういうことなのかしら?」

「なんでぇ……」

「ほら,あれよ。今まで知られてなかったってことは,きっと……そう,貴重で……希少な……もの……?」

「そんな希少性いらないですー。何かー,何か役に立つスキルー」


カウンターに上半身をうつ伏せにさせ,脱力するテュア。

本の知識を得ても,賢者になるための資格を得るには程遠い。

相応の技術力や,持ち前の知識から新たな発想を生み出す応用力が必要になる。

賢者と呼ばれた者達は,それをスキルで補う例が幾つも存在していた。

だからこそ,スキルで何か飛躍的に,夢に近づけるものがあれば良い。

そう彼女はおぼろげに思っていたのだが,その甘い計画は脆く崩れ去った。


「あぁ,遠のく……賢者への道のりが……」

「そんな大袈裟な」

「でもぉ」

「図書館の本の知識も,賢者への一歩としては重要なことでしょう? スキルばかりに気を取られちゃいけないと思うわ」

「そう,かもしれないですけどー」


女性に説得されつつ,不満そうな表情をするテュア。

期待していただけに,その真逆を行ったスキルを割り切れない様子だった。

すると,その間に村の男性がやって来て声を上げた。

どうやらテュアに用事があってやって来たようである。


「テュア。突然だけれど,また山菜取りをしてきてくれないか?」

「え,私ですか?」

「今他の人達は,手が離せなくてな。それに,テュアが取ってくれる山菜は美味いって評判なんだ。何とか頼むよ」

「むむ,分かりました。皆が困ってるなら,仕方ないです。準備します」


困っている人がいるなら助ける。

賢者が持つ心得を思い出すよりも先に,テュアはカウンターから身体を離し,山菜取りを引き受ける。

図書館の管理をしていれば,草木の見分け方も自然に頭に入る。

そこで得た知識を利用して,時々村の人達の手伝いをすることもある。

山菜取りはその最たる例だ。

村の面々でも首を捻るようなものであっても,正確に見極め,栄養のあるものを調達する。

それらは全て,彼女が賢者を目指して日々努力してきたものの成果である。

本を借りに来た女性と,依頼してきた男性に頭を下げた後,彼女は山菜取りに向けた準備を始めた。

結局,スキルを気にしているのは自分だけなのかもしれない,と彼女は気付き始めていた。

なにしろ,発現して数週間,村人達の接し方は殆ど変わらなかったからだ。


「優しさが,辛いなぁ」


準備を終え,図書館の戸締りを行い,外出中の札を掛ける。

自嘲気味なテュアは,普段訪れる山菜取りのコースを目指すのだった。




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