40 女は度胸!
祝50万PVの水着回です!
今、俺たちはショッピングモールの水着売り場に来ていた。
「おおおっ。見ろよ牧村、最近の水着は大胆だなっ。芹沢たちもこんなの着るのか?!」
眼の前にはレディースフロアを前にして大喜びしている金沢がいる。
視界の端には困惑したかなえちゃんと、無駄にはしゃぐ芹沢あかねの姿が見えた。
反対方向に首を振れば、残念イケメンの志摩と童顔ボーイの長谷川が男性用ブーメランパンツを指さして驚いていたが、それはどうでもいい。
「どうしてこうなった……」
木曜日の放課後の事だった。
休み時間の話から、放課後にみんなで水着を買いに行こうという流れになったのである。
「断る言葉が上手く思いつかずに、結局みんなで来てしまった……」
「てか、何故か俺も一緒にプールに行く事になってるんだぜ?」
普通に考えればそれぞれ部活もあるだろう。
そう思ってみんなを説得しようと思ったのだが、それは失敗した。
朝から続く土砂降りという有様で、グラウンドを利用している運動部の大半は休みになっていたのだ。
それなら普段は体育館を使っているバレー部の連中はどうかと言えば、こちらも今日はバスケ部とバトミントン部が利用する番なのだそうだ。
幸か不幸か俺たち放送部も、明日は菊池先輩たちの生放送なので収録の予定は無し。
軽音部所属の芹沢さんだけは、みんなが行くならと部活をサボって付いてきた。
どうやら彼女は作曲が進んでいないとかでく、バンドメンバーから逃げ回っているらしい……
もう一度言おう。
どうしてこうなったと!
「あの様子だと、志摩と長谷川は俺たちが付き合いはじめた事、感づいていると思うか?」
「うーん、どうだろうな。志摩に限ってはそれはないと思う。あの通り空気の読めるタイプじゃないからな。そうじゃないと今回みたいに強引に俺たちを巻き込んでは来ないだろうぜ」
「ふむ……」
呆然と水着売り場を眺めている俺の横で金沢が言った。
最近ギャルゲにハマっているこの悪友は、部活が休みになるのであれば早く帰ってスティアちゃんとのラブラブ生活をしたかったらしい。
だがそんな事は許されない。俺たち友達だろ?!
「けど、長谷川はどうだろうな。彼はむかしから周りをよく観察しているタイプだったから。お前はともかく、かなえちゃんの変化には気づいている可能性があるぞ」
「俺はともかく? 俺の方がわかりやすい顔をしてたんじゃないのか」
「いや長谷川とお前って、教室でも基本的に接点ないじゃん」
「まあ確かに会話なんてほとんどしないな……」
「でも、長谷川は華原さんと席も近いしよく話をしている姿も見るだろ。その華原さんがいつも牧村の事を見ているのは、さすがに気づいているんじゃないか?」
残念イケメンの志摩はブーメランパンツに飽きたらしい。
カラフルな水着を吟味していたかなえちゃんや芹沢さんの方へ、そのまま近づいていく。
見ていると「華原にはこの水着が似合うと思うぜ!」などと、いかにも下品なデザインのそれを空気も読まずにかなえちゃんにオススメしはじめるじゃないか。
微妙な顔をして困惑しているかなえちゃんの気持ちなど、まったく気が付いた様子はない。
一方の長谷川は遅れて志摩の後を追うと、さりげなく清楚なワンピースタイプの水着を指さして「華原さんにはこっちの方がいいんじゃないかな」などと言っている。
ムカつく事に、ちゃんとかなえちゃんの性格や考えている事を理解している態度だ。
なるほど。無遠慮で迷惑な志摩はやっかいだが、
「本当に強敵なのは長谷川の方かも知れん……」
「だろ? 成績優秀で配慮もできるし、告白されたら普通の女の子だったらひとたまりもないぜ」
「……お前どっちの味方なんだよっ」
俺たち友達だろ?!
講義をしたところ、金沢が苦笑いをしやがった。
そうこうしていると、かなえちゃんがチラチラとこちらにアイコンタクトを送って来るではないか。
彼女が助けを求めている!
「おい行くぞ」
「……ちょ、待て俺をレディースフロアで独りにしないでくれ!!」
背後で金沢が騒いでいたが、そんな事はお構いなしに意を決して飛び出すのだが。
けれどもどうやら俺は出遅れてしまった様だ。
恐ろしい顔をした芹沢さんが、かなえちゃんたちに群がる俺たち男子どもを蹴散らしはじめたのである。
「……あんたたち、しばらく接見禁止ね」
「どうしてだよ芹沢!?」
「見てわからない? 男子がウロウロしてると気が散るのよ。落ち着いて水着選びができないの!」
「おっ俺たちはただ、華原に似合う水着を選んでただけであって……」
「それが迷惑だっつってるの!」
強引な性格の志摩はめげずに食い下がろうとしたが。
空気を読める長谷川でなくとも、鬼の形相をした芹沢さんを見れば状況を察知するというものだ。
「デリカシーってものがないのかしら。男子はメンズに行ってなさい、シッシ!」
ごもっともです……
合流したばかりの俺と金沢も、芹沢さんに恐れをなしてメンズコーナーへとすごすご退散する事にした。
けれどもヒョイと肩を掴まれて、俺だけその場に呼び止められた。
「じゃあはいコレ」
「?」
「察しが悪いわねあんたはっ。かなえとあたしの荷物を預かってちょうだい」
ニッコリ笑った芹沢さんである。
強引に本人とかなえちゃんのスクールバッグを押し付けると、トドメとばかりにギターケースまで預けてきたじゃないか。
「さぁて邪魔者はいなくなったし」
「う、うん……」
「さっそく水着選びしましょうか」
意味深に俺とかなえちゃんを見比べた芹沢さんは、悪い笑みを浮かべてそう言った。
俺はそのまま荷物持ちとして、このまま留まってもいいんだろうか?
「かなえ的にはあんたの意見も聞きたいだろうしね。あたしに感謝しなさいよ」
「よろしくね、牧村くんっ」
「お、おう」
そんな風に小声で言われたら、俺も悪い気はしない。
しかしいいのだろうか……
水玉模様のワンピースやセパレーツタイプ、ちょっと大胆なビキニだったり。
芹沢さんが手に取る水着は、下手をすると志摩がオススメしていたものよりもキワドいデザインかもしれないのだが。
「これなんか、かなえに似合うと思うんだけど」
「そっそう? ちょっとわたしには派手過ぎないかな……」
「あ、これはかわいいね。かなえちゃんに似合いそうだ」
何気なく俺の眼にとまったのは、ツーピースタイプの水着だ。
ホルターネックのトップスとボトムスがショートパンツ風にボーイレッグになったものだ。
かわいらしさとボーイッシュさが同居した、かなえちゃんにピッタリの水着ではないか?!
「あーっホントだー。かわいいっ」
「ふうん。値段も五〇〇〇円台なら、悪くないんじゃないかしら」
芹沢さん曰く、お高いものであれば万を超えるのが当たり前らしい。
むしろこのデザインでそのお値段ならばリーズナブル、かなりのお買い得品という事らしかった。
確かにデザインはかなえちゃんも気に入ったみたいだけれど……
「でも、問題はトップスのサイズだよねっ」
「そうなのよ。かなえの場合はサイズが合うかどうかよねぇ」
「うん……」
「?」
手に取った水着を胸元に押し当てる様にしてかなえちゃんが思案すると、芹沢さんも一緒になってウンウン言っている。
胸の大きな女性はブラ選びも大変だとモノの本で読んだことがある気がする。
してみると、水着でも同じ様な問題があるのだろう。
「まっ試着してみればわかる事だわ。ハイこれ、それにコレとコレ」
「えええっ、これ全部着てみるの?」
「せっかく来たんだから、全部試してみないと駄目でしょ? 安くない買い物なんだから!」
片っ端から気になった水着を手に取って、着せ替え人形よろしくかなえちゃんに持たせる芹沢さんだった。
もはやこの状況を一番楽しんでいるのは彼女と言っても過言ではない。
「そ、それじゃわたし、試着してくるねっ」
「うん。いってらっしゃい」
「男子どもが戻って来ると厄介だから、早めにね」
試着室のカーテンが閉められると背中を向けて。
俺と芹沢さんは並んで立ち話をはじめた。
「芹沢さんは水着選ばなくていいのか?」
「あたしはお正月にハワイ行った時買ったから、それにするわ。あんたは?」
「俺も去年、海水浴で使ったやつがあったはず……」
試着室の中から衣擦れの音が漏れ聞こえてくる。
かなえちゃんがイソイソと水着を装着しているところなのだろう。
聞き耳を立てるのも悪いので、話題をそらした。
「で、作曲の方は上手くいってないのか?」
「はっ本気でそんな事を言ってるの? 曲の方は順調よ、インスピレーション湧きまくりだっつーの」
「じゃあ何でついてきたんだよ……」
「かなえの事が心配だからに決まってるでしょ?!」
左様ですか……
本当なら、部活でボーリングに誘われた時みたいに俺が言えればよかったのだが……
考えてみれば相手はたかが高校生、社会人時代の面倒だった上司や取引先の呑みの誘いを考えれば、断ることなど、どうって事はないはずだ。
「あんたも迂闊よ? みんなに聞こえるところでプールに行くとか話したりして。志摩のヤツ。最近あんたがかなえと接近してるの見て、かなり焦ってるのよ」
「妙に割り込んでくるところがあるもんな」
「気を付けなさいよね。でもいい機会だからさ、志摩達にこの際あんたらがラブラブなところを見せつけてやればいいのよ」
小声で諭す様にに芹沢さんが耳打ちした。
確かに、俺がふたりの関係を周りに話さなかったのが悪かった。
しかしラブラブなところを見せつけるというのは、どうなんだろうか……?
「あのう。ふたりでお取込み中に悪いんだけどっ」
ふと声がして振り返れば。
カテーンの隙間から顔だけ出して、恥ずかしそうにかなえちゃんがこちらを見ている。
どうやら試着室から出るのを躊躇しているらしい。
「試着できた?」
「……うん。けどちょっとした問題があって」
「あら、サイズが合わなかったのかしら」
「ううん。サイズはたぶんピッタリだと思う。でもやっぱり恥ずかしくなって~」
チラリと俺を見て、かなえちゃんが嫌々をして見せた。
恥ずかしがっているかなえちゃんの、そんなところもかわいいね!
などと思っていると、
「どうせプールに行ったら見られるんだから一緒でしょ!」
「そうだけどさ、もう少し大人しめの方が良かったんじゃないかなってっ」
「ああもうっ、まどろっこしいわね!」
痺れを切らした芹沢あかねが、勢い良くとカーテンを開いたのである。
「女は度胸!!!」
「ちょっ、あかね……?!」
するとどうでしょう。
試着室の中からは、大人の階段を昇りつつある年頃少女に特有のそれが露になった。
ムッチリとした、けれども張りのある肌はまるで絹の様だ。
助けを求めているのか、あるいは同意を求めているのか。
てきめんに頬を朱色に染め上げたかなえちゃんは、上目遣いにこう問いかけてきたのである。
「……そのう。に、似合ってるかな?」
すごくいいね!
本作にはじめてレビューをいただく事ができました!
この場を借りてお礼申し上げますっ。




