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27 衣替えの季節

 六月の空模様は気まぐれそのものだ。

 昨日までは青空を見せていたのに、今朝は灰色の雲に空は一面覆われている。

 天気予報によれば昼までこんな状態が続いたのち、午後から少し晴れ間が広がるとの事だった。

 夕方になればまた雨が降り出すと言うから、今日は一日傘を手放せないというわけだ。


「姉ちゃん、そろそろ家を出ないと遅刻するぞ?」

「あ~んともくん待って、もうちょっとで支度が終わるから!」


 玄関先から家の中を覗き込むと、出かける準備をしていた姉のあわれる姿が飛び込んで来た。

 湿気のせいか、髪の毛が思う様にまとまらなくて四苦八苦しているらしい。

 俺も毎朝寝癖に悩まされているが、こういうところは姉弟である。


「……俺、先に行ってもいいか?」

「すぐ、すぐおわらせるから。ともくんは天井の染みでも数えて待ってて!」

「その比喩、わかってて言ってるのか姉ちゃん……」

「いま話しかけないで、集中してるから!」


 洗面所からプシューというスプレー音が聞こえて「よしっ」と気合のひと言が漏れてきた。

 すぐに姉ちゃんが荷物をかかえて玄関へ飛んでくる。

 いったい何が詰まっているのだろうか、鞄を持ち上げると中身がズッシリとしていた。

 遠くの学校に通っているから、資料や勉強道具を持ち運ぶのも大変だ。


「朝から大変だな、姉ちゃんも」

「そうよー。女の子は身だしなみも気にしなくちゃいけないから大変なの。ともくんだって、彼女さんの事をちゃんと褒めてあげないとだめだよ? 今日の服もかわいいねって」

「お、俺たちは制服だから……」

「荷物ありがとねー、もういいよ」


 手を差し出した姉ちゃんに、駅まで持つよと断りを入れて傘をさす。

 学校に電車通学する日は、余裕を持って少し早めに自宅を出るつもりだったのだが、ふたを開けてみると普段とあまり変わらない時間になってしまった。

 水溜りに気を付けながら歩く姉ちゃんが不満を口にした。


「この季節は苦手よねえ。セットは決まらないし荷物は濡れるし、洗濯物も乾かないし!」

「電車の中とか湿気ムンムンだもんな」

「汗も大変よねえ。そう言えば、ともくんたちは衣替えの季節なんだ?」


 並んで歩く姉ちゃんが、しげしげと俺の姿を観察して質問をした。

 六月一日から学校は夏服に移行するけれど、その前後数週間が衣替えの季節に当てられている。

 その期間中は合服を自由に着られるタイミングでもあるので、オシャレな女の子にとっては気合わせのバリエーションで楽しめる季節とも言えた。


 ちなみにかなえちゃんは少し前に、ブレザーから緩いニットに衣装チェンジをしていた。

 彼女が愛用しているオフホワイトやキャメルのカーディガンは、いわゆるモテカジ系と呼ばれている定番ラインナップだ。

 中にはピンク系のニットを身に着ける女の子もいたけれど、あれはかなり着る人間を選ぶので個人的にはオススメしない。


「うふふ。彼女さんの夏服姿も楽しみだねっ」

「べ、別に楽しみになんかしてないし」


 あくまでも制服屋さんの経験から、あれこれと想像を膨らませていただけだし。

 夏服姿はきっとブラウスを押し上げる胸の膨らみが大変な事になってるだろうとか、そんな事はちっとも想像してないし!

 そもそもかなえちゃんは、何を着ていてもかわいいんだよ!!


「はいはい、ごちそーさまっ」


 ひとしきりからかわれた俺である。

 地元駅に到着すると先に姉ちゃんを改札から送り出して、急ぎいつもの待ち合わせ場所に向かった。

 今日は事前にメールで「電車通学しようね」と約束していた。

 だからロータリーのすぐ側じゃなくて、雨をしのげる高架下の奥まった場所にかなえちゃんの姿を発見する。

 今日は水色のニットを着ていたらしく、少し離れた場所からでもすぐに眼にとまった。


「おはよう牧村くん」

「お待たせかなえちゃん、その色のカーディガン似合ってるよ」

「あ、ありがとう。でもこれ安いお店で買ったやつだから、すぐ袖が伸びちゃうけどねぇ」


 俺の姿を見つけた彼女は、すぐにも明るい表情をして小さく手を振ってくれた。

 さっそく姉ちゃんのアドバイスに従って、スカイブルーのニットセーターを褒めてみたのだが、かなえちゃんは気恥ずかしそうにしている。


「でもほら、ニット系は専門セレクトショップで購入すると高くつくからさ。組み合わせで十分かわいく着こなせるからそれでいいんだよ」


 丈夫さで言えば自由服向けの制服ショップで売られているニットの方がいいに決まっているが、あれは高い。

 ファストファッション系のカジュアルショップなら、ほとんど三分の一の値段で種類も豊富に売られているから、一年着潰すつもりなら彼女の選択は消費者として間違っていない。

 そんな事に感心しながらウンウンうなずいていると、かなえちゃんは不思議そうに俺を覗き込んでいた。


「……牧村くんて、もしかして制服オタクだよね?」

「ちょ、違います!」

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