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19 魅惑の大三角形

 中間考査が目前に迫って来ると、いかにも高校生らしく俺の焦りは絶頂に達していた。


 今のところ文系科目は何とかなりそうな予感がしている。

 英語は微妙な気もするが、これは継続的に続けてどうにかする他はない。

 問題は理数系科目だろうか。大学受験には直接関係ないのだが、推薦を貰うためには学校の成績もそれなりに維持していなければならない。


 焦りは日頃の行動となって、ちょっとした授業の合間でも単語帳や問題集を眺めたりして過ごす事が多くなった。


「おお、珍しく牧村が勉強してるじゃん」


 ふと五限目の授業終わりに声をかけられたと思えば、相手はお調子者の金沢だった。

 ニコニコ顔をしながら俺の睨めっこをしていた問題集に視線を落としてくる。

 ずいぶんと余裕の表情を浮かべている悪友であるけれど、こいつの場合は単純に危機感がまるでないだけに違いない。


「付け焼刃の勉強なんてしても、あんまり効果は無いと思うぜぇ」

「まあそうなんだけどな」

「それより次体育だろ、急いだ方がいいぞ」

「おっと忘れてた」


 パタンと問題集を閉じて机に仕舞い込むと周囲を見回す。

 続々と隣のクラスから男子たちが移動してきて、適当に着替えが始まっていた。

 六時間目は体育の授業だ。

 ふたクラス合同で行われるので、男女それぞれが教室にわかれて着替えをするわけだが、馬鹿なやつが覗きに行こうとして大騒ぎになった様な出来事も記憶の断片にあった。

 懐かしい俺の青春物語である。


「実際問題、授業の大半が何をやっているのかわからん」

「何をやっているのかわからん癖に、自主勉強なんかして意味があるのか」


「多少わかるところは必死で復習するしかないからな」

「俺はもう大学に行かなくてもいいんじゃないかと近頃考え出しているよ。大学に進学するだけが青春じゃないぜ」


 やっと頭が高校生活に順応しつつあったが、まだしばらく勉強漬けの生活に馴れるのは時間がかかりそうだ。

 しかし金沢はすべてを諦めたという悟りきった顔をしていた。


「よく言うぜ、この前までは大学デビューするために女子が多い学校に行きたいとか言ってた癖に」

「ははは、やっぱり大学生になります!」


 ブレザーを椅子の背もたれにかけながら、何が楽しいのか金沢はゲラゲラ笑っている。

 こいつはいいよなぁ。テニス部での成績がガチでいいからなのか、本当に将来はスポーツ推薦で大学を決めるからな。

 しかしこれといって実績があるわけではない俺は、普通に地道な勉強をするしかない。


「おい、ブレザーの裾が床にあたってんぞ」

「あーほんとだ。まあいいんだけどさこのぐらいは」

「駄目だ駄目だ。いくら学生服が三年間の学校生活で酷使しても耐えられる構造になっているからって、大切に扱わなきゃもったいないぞ。これいくらすると思ってるんだ?!」


 貸してみろ、と俺は金沢のブレザーを奪う。

 ブレザーが汚れない様に襟首を掴んで内側を表にした。

 営業系サラリーマンの嗜み、無駄知識が炸裂してしまう。

 

「こうしておけば表面が汚れずに保管できるので、覚えておくと便利だぞ。制服はフォーマルだからな、値段も上下一式購入すれば三万とかするものなんだぜ。少しは大切に扱ってやれ」

「わ、わかった。次からそうするし、何かすまん……」


 わかればよろしい。

 俺の注意を受けた金沢は、眼を白黒させながら返事をした。

 つい粗雑に扱われた制服を見てカッとなり語ってしまったが、このぐらいは許されるはずだ。

 ……許されるよね?


「……じゃあ行くか。集合場所は体育館だっけ」

「へい牧村サン。確かそのはずですっ」

「何だよそれ。新手のいじめ?」

「今日の牧村ちょっと怖いからつい」


 廊下に出てみれば、すでに着替えを終えた女子たちが隣のクラスからゾロゾロ出てくる姿が見えた。

 必然的に俺はかなえちゃんの姿を探した。

 どうやらまだ隣の教室の中にいるらしく、残念ながらまだ彼女の体操服姿を排覧する事が出来なかった。

 しかし体操服はすばらしい。

 健康的な素足をさらけ出した少女たちが俺と金沢の前を、何の警戒心も抱かずにすれ違っていくのである!!!


「やっぱ最近の数学はファンタジーだよねー」

「もはや方程式とか魔法陣レベルっていうかー」

「ホント意味不明。中間マジやばいって」


 少女たちは先程の授業内容の事を語っているのだろうか。

 男子がエロい視線で追いかけているとも知らず、体育館の方に歩いて行った。

 それを俺たちは揃って視線で追いかけ、揃って意味不明な言葉を漏らしてしまう。


「やっぱ太ももはファンタジーだよなー」

「もはや魅惑の大三角デルタは絶対領域っていうかー」

「ホント最高。体操服マジやばいって」


 普段はタータンチェックの学校指定プリーツスカートに隠された不可侵地帯が、白日のもとに晒されているのだ。大変よろしい!

 いやーあれですな。

 体がおっさんから高校生に戻ると、急に感覚が新鮮になった気がする。

 制服屋の仕事で学校さんに出入りする事は度々あったが、体育の授業風景を見学させていただいてもその時は何とも思わなかったものだ。


「今日はバレーだよな金沢」

「おう、バレーって事は揺れるよな。そりゃもうバルンバルン揺れよるわ」


 胸の大きい女子ともなれば、体操服に包まれたいわゆるふたつのデカメロンが揺れるわけだ。

 俺と金沢は互いにニヘラ笑いを浮かべながら女子たちを眺めていたのだが……


「何やってるのふたりとも、体育の授業遅れるよ……?」


 声がした方向に振り替えると、そこにはいわゆるふたつのデカメロンがあった。

 呆れた顔のかなえちゃんが俺たちをジト眼で見ている。

 どうやら彼女は着やせするタイプするらしい、という事実を思い出して俺たちの視線はしばし釘付けだった。

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