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18 特製かなえちゃん弁当!

「お昼ご飯が遅くなっちゃってごめんね牧村くん。お詫びってわけじゃないんだけど、ハンバーグは特に力作だから楽しみにしてていいよっ♪」


 職員室に呼び出されていたかなえちゃんが部室に到着すると、さっそく彼女がお弁当をお披露目した。

 まるでピクニックに出かける様な豪華絢爛なおかずに、俺と御武道さんは顔を見合わせながら息をのんだ。


「俵おにぎり、ピーマンとしめじの炒め物、こっちはかぼちゃの煮つけとマカロニサラダ。アスパラのベーコン巻きもあるよ。最後に玉子焼きは今朝の残り物だけど、入れてきたんだ」


 すげえ、気合いが入りまくりだ。

 そして力作だというハンバーグは、食べやすい様にミニサイズで五つも入っていた。

 これだけ豪華絢爛なお弁当を用意するのに、いったいどれだけの手間暇がかかっているのだろうか……


「御武道さんもよかったら食べてね」

「ん。ありがとうございます、ではわたしのお弁当もよろしければ」

「わーっ、御武道さんはオムライスなんだね。わたしも大好きなんだよ」

「それはよかったです。わたしはアスパラベーコン好きです」


 放送卓に俺を挟んで女子高生。

 ふたりは昼休み放送の流れる部室で、楽しそうにさえずりはじめる。


「こ、これ全部用意するの、大変だったんじゃないの?」

「当然です。わざわざ先輩にお弁当を作るために、きっと早起きをしたに違いありません。同時に何を作ろうか頭を悩ませて、そうしてこんな素敵なお弁当ができたのです。先輩はもっと感謝の言葉を口にすべきです」

「あ、ありがとうございます。ありがとうございます……」


 無愛想な表情に少しばかり蔑みをブレンドした様な顔の御武道さんが、朗々と俺に語って聞かせた。

 たまらず俺はかなえちゃんに向き直って、感謝の言葉を伝えたのだが。


「そ、そんな大袈裟なものでもないよっ。ハンバーグは昨日のうちに作っておいたのを朝焼いただけだしねー。それに、まだまだお料理は初心者だけど、作るのは嫌いじゃないんだ……」

「テスト期間中なのに、本当に嬉しいよ」

「いいよ。わたしも作ってて楽しかったし、喜んでくれるのなら何よりだから。さあ食べて食べてっ」


 ニッコリ笑ってさあ召し上がれ。そんな風に言ったところで。

 かなえちゃんは「あっ」と小さな声を漏らしながら手で口を隠した。


「ご、ごめん牧村くん。自分のぶんしかお箸持ってくるの忘れた……」

「あれ、そうなの? どうしようか」

「それなら確か、菊池先輩が割り箸の予備をどこかにしまっていたと思いますよ」

「本当か! どこにあるんだ?」

「ロッカーの辺にありませんか、コンビニの割り箸」


 御武道さんに言われて俺は立ち上がった。

 部室の端に置かれているロッカーは部員の私物が放り込まれているが、特に誰が誰用と決められているわけではないので鍵は施錠されていない。

 菊池先輩が声優雑誌を突っ込んでいるロッカーを開けると、扉の裏には確かにコンビニ袋がぶら下がっていて、中には割り箸がいくつも保管されていた。


「あったあった。情報サンキューな、御武道さん」

「ん。よかったですね。あ、でも残念だったと言うべきでしょうか」

「……?」

「お箸がひとつしかなければ、華原先輩に食べさせてもらえたかもしれなかったのに」

「そんなわけにはいかないだろ。何を言ってるんだっ」

「うふふ。冗談です、ミギー先輩」


 俺の右手に話しかけるな!

 ロッカーから戻って来た俺に御武道さんはクスクス笑いながら小声で耳打ちしてきた。

 後輩女子とこんなに会話をしたのははじめてかもしれない。

 この子は無口だと勝手に思い込んでいたけれど、顔を合わせてみると意外に口達者な事がわかった。


「じゃあ改めて、いただきます」

「どうぞ召し上がれ。何かゴメンね肝心なところが抜けてて……」

「それじゃあまず力作のハンバーグから。おお、美味しい!」


 俺の語彙力は破滅的かも知れない。

 どう表現していいのかわからないけれど、合い挽きと思われるミニハンバーグは冷えていても美味しかった。

 もう少しいい言葉があればいいのだが、しっかり肉の旨味が凝縮されていていい感じで食欲をそそる事だけは間違いない。

 ピーマンとしめじの炒め物も摘まんでみたが、これも悪くない。


「かなえちゃん、やっぱり料理上手だよ。初心者とか謙遜してたけど、ぜんぜんうちの姉ちゃんより美味いよこれ」

「牧村くんはお姉さんがいるんだったよね」

「そうなのですか」

「うん。ウチは両親とも共働きだから時々姉が夕飯の支度をしたりするんだけど、作れるのがハンバーグしかないからな」

「お姉さんの得意料理と比較してもらえるのは光栄だなあっ」


 でもお世辞抜きで、姉よりは格段に料理の腕は間違いない。

 何しろ姉ちゃんはハンバーグしか作れないからな!

 あと、俺は密かにかぼちゃが大の苦手なのだが、食べないわけにはいかないので恐る恐る口にしてみる。


「甘いね……」

「よかった。上手く炊けたみたいだね」

「本当です、美味しいですね。あとアスパラベーコンもいい感じです」

「他のも食べてくれていいからねっ。あ、御武道さんのオムライスも美味しいね」

「本当ですか。ではわたしもハンバーグをひとつ……」


 おい御武道さん。

 かぼちゃはいくら食べても構わないから、他のおかずをあんまり食べるのはやめてくれ!

 俺が隣の後輩女子を睨みつけると、フフンと勝ち誇った顔をしながらハンバーグにも手を伸ばそうとした。

 やめろ、それはかなえちゃんが俺のために昨夜から仕込んでいたハンバーグだぞ!

 などと小競り合いをしていたら、かなえちゃんに窘められた。


「もう大人げない! 牧村くん今度また作って来るから、ね?」

「お、おう。ありがとうございます!」


 結局ハンバーグをひとつ御武道さんに奪われたが、何か流れでまたかなえちゃんがお弁当を作って来てくれる事になった。

 やったぜ!


「みぎーへんはい、よかったれふめっ」

「……御武道さん、女の子が口に食べ物を入れて喋らないほうがいいよ」


 あと右手に話しかけるなって言ってるでしょ?!

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