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13 もっとお姉ちゃんを頼ってくれてもいいのよ?

 週休二日はありがたい制度だ。

 受験生たちは補習授業が土曜日タップリと詰め込まれていたが、それ以外の人間は部活動でもない限り登校していない。

 もっとも、俺たち二年生も二学期になれば土曜日は受験勉強のために出席する必要があるがね。


 予想していた通りと言うべきだろうか、布団の中で時々参考書を眺めたりして丸一日寝て過ごした結果、おかげ様で寒気も気だるさもすっかりと無くなった。

 惜しむべくは、せっかくかなえちゃんが俺の家まで送ってくれたのに、何もできなかった事である。


「本当は少し家に上がっていく? なんて、誘えればよかったんだが」


 昨日の事は仕方がない。現実にそんな余裕は無かったしな。

 風邪を引いてボンヤリしている俺がまともな応対をできるかも謎だ。

 つい余計な事を口走って、中身のおっさんが顔を出していたかも知れない。


 誰もいないから心細い。なんて言葉で部屋に招き入れようかと一瞬だけ考えたが、やめておいてよかった。

 家にはすでに大学から帰宅した姉がいたし、かなえちゃんならそうお願いすると部屋まで入って来た可能性はあるが……


 大丈夫? おっぱい揉む?

 なんて展開は菊池先輩が貸してくれるエロゲでしか存在しないんだよ!!!


 日曜日の朝。

 リビングに顔を出すと、その代わりに心配そうに声をかけてくれたのはうちの姉だった。


「ともくん大丈夫? ちゃんと寝てた? 熱は下がった?」

「大丈夫だ問題ない。おかげさまで体はもうだいぶ楽になったよ。ていうか、その代わりにテスト勉強とかぜんぜん出来てないんだよな。やべえ中間考査……」

「勉強は何とか取り戻せるかもしれないけれど、体調を崩したらそれもできないからねー」


 たまの休日だからと両親は午前中ゆっくり寝ているつもりらしい。

 代わりに早起きしていた姉ちゃんが、台所に立って朝食の支度に精を出していた。


「お粥?」

「うんっ。お姉ちゃんだってハンバーグ以外の料理もできるってところを、証明してみせるねっ」


 お粥なら俺でも作れます。そこ自慢しない様に!

 なんて突っ込みそうになったけれど、そこはまあ黙っておくことにした。

 鼻歌を歌いながら土鍋をテーブルまで運んでくる姿を見ていると、感謝の気持ちが優先する。

 高校時代の俺はたいして家事も手伝っていなかったことを思い出して、むしろ反省したい気分になってしまった……


 土鍋のサイズを見た限り、お茶碗によそって姉とふたりで食べる感じになるんだろう。

 俺は食器棚から食器や箸を取り出して、冷蔵庫から梅干しも引っ張り出した。


「もうっ。病人なんだから、ともくんは座って待っててくれればいいのにー」


 大袈裟な姉の事は無視して玉子焼きの乗った皿も運ぶ。

 我が家ではお粥の時は梅干しと、玉子焼きがセットになって出てくるのである。

 ちょっといびつな形をした姉ちゃんの玉子焼きだけれど、何となく一生懸命になって作っていただろう事を想えば嬉しい限りだ。


「姉ちゃんありがとう。いただきますっ」

「いえいえ~。お父さんとお母さんは普通のご飯があるから、お粥は全部食べちゃっていいからねー」

「……てか姉ちゃんテスト範囲でわかんないところがるから、後で教えてくれる?」

「いいよ別に、お姉ちゃんに任せなさい♪」


 ウチの姉はこう見えて、大学時代の一時期は家庭教師や塾講師のアルバイトをやっていた。

 のんびり屋のおっとり系で先生している姿が想像できないが、俺より頭がいいのは間違いない。

 大学でも教員の資格を勉強していたはずだが、残念ながら卒業後に先生にはならなかった。

 よくあるIT企業の企画部に就職したからね。


「何がわからないのともくん」

「英語数学物理科学その他もろもろ……」

「ほとんど全部じゃない?!」


 一度は勉強した事だからもう少し何とかなるかと思ったが、現実はそう甘くなかったらしい。

 何度か問題を解いて思い出しさえすれば何とかなるのかも知れないが、今はまだその段階ではない。

 文系大学に進学志望だから理数科目は最低限の勉強ができればそれでいい。

 問題は英語だ、偏差値の高いそれなりにいいところのお嬢さま学校に通っている姉にすがる他はない!


「彼女さんに教えてもらったりはしないの?」

「かなえちゃん? ああうん、この前宿題を見せてもらったりしたけど。別に……」

「そっかあ。じゃあ勉強会はこれからだね。でもあんまり、かなえさんに頼りきったらだめだよ、勉強は自分で頑張る!」

「うんわかってる……」


 金曜日にかなえちゃんに家まで送ってもらった時、姉ちゃんには彼女の顔を見られていた。

 俺はボンヤリしていたのでその時の挨拶をあんまり詳しく覚えていないが、玄関口で何やらふたりで話していたはずだ。

 別に俺と彼女は付き合っている間柄でもないのだけれど、その時から姉ちゃんの脳内では彼女認定されてしまっていた。

 否定するのも面倒なのでいちいち突っ込むのをやめたけれども、ちょっと恥ずかしいのでやめてほしい。


「かなえさん、とってもいい子そうだったから。大切にしなよ」

「わかってるって」


 気恥ずかしさからかちょっと不貞腐れて返事をしながら、れんげでお粥を口に運ぶ。

 でも俺は、改めてその言葉で考えた。


 俺がかなえちゃんの事を強く意識したキッカケは、十余年前の風邪を引いたあの日。

 たいしてその当時は親密な関係でも無かったけれども、にも関わらずあの時は俺を自宅まで送ってくれたのだ。

 部活が同じで二年生の時のクラスメイト。当時のかなえちゃんとはそれだけの関係だった。

 あの時の俺はそれが嬉しくて気が付けば残りの高校生活の間、彼女の事を強く意識しはじめたのである。


 二度目の高校生活を送っていて、すでに同窓会で勢いから告白をした俺の中には特別な感情がすでに存在していたけれど、当時の彼女の方はどう俺の事を見ていたんだろうか。

 俺の一方的な俺の思い上がりかも知れないが、今のかなえちゃんとの雰囲気はそこそこいい関係だと思う。

 時々思わせぶりな、何と言うか「一緒にいてもいいよ」的な空気を感じているつもりだ。

 ただこれは俺の勘違いと言う可能性も大いにある。


「姉ちゃん質問」

「はふっ? 塩気が足りなかったのなら醤油いる?」

「そうじゃなくて……」

「じゃあ恋愛の相談かな~? 勉強も恋愛ももっとお姉ちゃんを頼ってくれてもいいのよ? うふふっ」


 ポンと胸を叩くと、姉の豊かな両の胸が激しく揺れた。

 かなえちゃんの胸と、果たしてどちらが大きいのだろうか。


「……もし家に送ってもらったお礼に何かプレゼントとかしたら、ちょっと重たいかな」

「んーっ。あんまり高く無い物なら、気持ちよく受け取れるんじゃないかな」


 宿題のお礼もそうだが、未だに彼女が何欲しいと言ってこないので何もお返しは出来ていない。

 ひとつ自分でキッカケを作ってプレゼントというのはどうだろうか。

 社会人の感覚で妙に高価なプレゼントでお礼をするのはどうかと思うが、安い物であれば悪くないかもしれないと思ったのだ。

 少しでも意識してもらうキッカケに。


「あ、そうだ。マフラーとかどう?!」

「姉ちゃん、季節的にそれはおかしいだろっ」

「そ、そうんだねうん……」


 まあでも、女子高生が気軽に身に付けられるものという意味で、季節が秋冬ならマフラーは妥当な値段設定だ。

 数千円で買えるプレゼントでも購入してお礼をしよう。

 やっぱ元制服屋らしく、リボンのプレゼントをするというのはどうだろうか……

 いや形に残るものは重過ぎる可能性がある、ここはケーキやお菓子みたいなのが妥当か。


 すっかり体は元気になった様で、残りのお粥と玉子焼きを俺は平らげた。


「ご馳走様でした」

「はいはい、後片付けはお姉ちゃんがやっとくから。ともくんは、かなえさんに元気になったって連絡したげなよ?」

「う、うんそうする」

 

 そうして何か気の利いたお礼の文面と、プレゼントをどうするか考えながら自分の部屋に戻ってみると。

 ベッドの上に放り出していた携帯電話に彼女からのメール着信が届いていた。

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