村とイジメと人助け
アインツ村。人口はおそらく数えられるほど。小さな宿と、品は決していい方では無いが防具屋や武器屋がある。
俺は防具屋の方に来ていた。お婆さんが店番をしていて、奥で旦那さんらしき人が防具を作っていた。
「実はモンスターに襲われて左目が見えなくなってしまって。眼帯とか置いてませんか?」
「まぁ、それは気の毒に。ちょっと待っていて何か探してくるから」
「ありがとうございます………ふぅ」
お婆さんが店の奥に消えて行くのを確認してからため息をつく。いつになってもどこに行っても人と話すのは苦手だ。俺がイジメられたのもそのせいなんだよな。
「こんなんで良ければあるんだけど…これで良いかしら」
お婆さんが手に持っていたのは一枚の革を頭と目に合わせて切っただけって感じの黒い革の眼帯だった。人前に出るときだけだから何でも良いか。
「いえいえ、ありがとうございます。お金…は…」
そこで俺はとても大事なことを忘れていた事に気付いた。俺には…金が…なかった。
「ごめんなさい!俺、お金持ってなかったです!」
「あら、そんな事。お金なら良いわよ。もう捨てようと思ってたものだったし。もらってちょうだい」
「ありがとうございます!」
「いいえ」
こんなにできた人間がいるなんて!感動のあまり涙が出そうになった。何はともあれこれで【龍の瞳】に関しては解決か。
なら、ここにいる意味も無いか。そう思ったときだった。村を出ようと入って来た所とは別の門、山を登るための道に行こうとしたとき近くの家の裏から子供達の声が聞こえた。
「か…返してよ!」
「うるさい!俺は村長の息子なんだぞ!だからこの木刀は俺のだ!」
「それは…僕がお母さんからもらった木刀なんだよ、返してよ!」
「うるさい!貧乏人には必要ないだろ!」
3人の少年が1人の少年から木刀を奪い、あろう事がその木刀で少年を殴りつけた。俺の中にある感情。それは怒りだ。純粋な怒りが少年を助けろと言っていた。
「…お前ら何してんだ」
「こいつが木刀…なん…か…持ってた…か…」
俺は眼帯を外し右腕を【龍化】させ、出来るだけ低い声で3人の少年に声をかける。
「で?何してんだ?」
「ひっっ」
「に、逃げろー!」
3人の少年は木刀を投げ捨て走り去って言った。俺は【龍化】を解き、眼帯をつけ、少年の木刀を拾う。
「少年、この木刀は大切な物なんだろ」
「う、うん」
「なら誰にも渡しちゃダメだ。奪おうとする奴らはぶっ飛ばしてやれ。そして、この木刀でお母さんを守るんだ」
「うん!」
さっきまでイジメられていた少年はそこにはいない。俺の目の前にいるのは、大切な物を守ろうとする騎士の卵が木刀を握りしめていた。