アリサの話
【注】
・本編及びAfter最終話の重大なネタバレがあります。
・この内容は蛇足であると思ったため、こちらにそっとおいておきます。
・残酷な描写があります。
・After以後、トゥルーエンドに至る選択肢を選んだ場合の世界線です。
・娘アリシアがアリスと想いを遂げる世界線もあります。
私はアリサ、如月アリサ。
漆黒の魔弾、第七魔法の使い手、尖天山の大魔女。
いろいろな名前で呼ばれるようになったけれどーー私としてはかあさんとママと父さんの娘で、姉の妹であるというのが一番大切にしたいアイデンティティだ。
物心がついたころから、どこか家は普通じゃないって思っていた。
なにせ家には母親が3人居た。
そのうち一人の優奈姉さんは物心つくくらいのときに母親から姉さんになった(おばさんと言うと死ぬほど怒る)けど、アリスママと翡翠母さんはずっと母親のままだったから子供の頃は混乱したものだ。
というか、ずっと私は翡翠母さんから産まれてきたと思っていた。アリスママとアリシアは銀髪で小柄なのに私は黒髪で長身だったから。
現実は蒼汰父さんとアリスママとの子供だったんだけど……子供心で我が家の事情を理解するのは難易度高すぎだと思うな、うん。
父さんと母さんは兄妹でママのことが大好きで、ママは二人に挟まれて困った顔をしていることが多かった気がする。
それと、もうひとつ普通じゃないことがあった。
私たち姉妹は魔法が使えた。ママが魔法使いで、その血筋で使えるようになったとのことだ。
魔法を使うことで、私たちは他の人ではできないようなことができた。
身体強化して一人で岩を持ち上げたり、魔法で傷を癒したり、一日中水の中にいられたり、夏の暑い日に氷を呼び出して涼をとったり。
万能ではないけれど、充分チートと言っていい程の力。自分たちにその力があるということが誇らしかった。
他人の前では決して使ってはいけないと、きつく言われてきたけれど、せっかくある力なのだから、誰かのために役に立ちたいと思っていた。
今にして思うと、その考えは甘かったとしか言いようがない。
私はやらかしてしまった。
不注意で魔法の存在が世間に露見してしまったのだ。そして、家族が安心して過ごせる場所はこの世界のどこにも無くなってしまった。
それからのことは思い出したくもない。
――がさらわれた。
――と協力して世界中を探し回った。
見返りに私たちは――に――を提供する。
ときには強引な手段も必要になる。
というか、穏やかな方法で収まることの方が少なかった。
何人――たか、もう覚えていない。
中でもチルドレンという戦闘機械たちを処分したときは最悪の気分だった。
私は――を許さない。
一番許せないのは自分自身だけど。
――に再会できた。
念願叶っての再会、だけど遅かった。
五体無事に見えて、中身がぼろぼろだった。
それから、――との協力関係を絶って――さんを頼り、かつて――が成功させた奇跡を再現することに成功する。
そして、私たちは居場所を手に入れた。
……そう、思っていた。
ただ静かに暮らしたいだけだったのに、私の元にはさまざまな厄介ごとが持ち込まれた。
その頃の私の力は単独で国を陥せるくらいのものだった。
全属性の祝福を持ち、研鑽と――で培った科学的な魔法研究の成果だった。
もっとも、それを誇る気にはなれない。
私は無力だ。
結局、誰も救うことができなかった。
私は――の肉体を竜結晶に封印する。肉体は仮死状態のまま維持することができた。
けれど、その体にはもう魂が失われている。
失われた魂を取り戻す魔法は、どれだけ研究しても見つからなかった。
その後もいろいろごたごたがあって、俗世に関わることが嫌になった私は、前人未踏の辺境にある尖天山に居を移した。
それから、ざっと数百年が過ぎた。
私はただ魔法を研究して過ごした。
風火水地光闇の六属性いずれにも属さない、第七魔法である、時空魔法。
その魔法の研究の副産物で得られた永遠に近しい時間の中で。
私は時空魔法の究極に到る。
――時間遡行。
時間の滝を過去に遡る魔法。
ただ、過去を改竄しても私自身の過去や現在は変わらない。枝分かれする世界を一枝増やすだけのことだ。
それでも、私は自分の愚かさで失ってしまったものを取り戻したいと願った。
時間遡行で戻れるのは一度きり。
失敗すれば全てがご破算になる。
過去に遡る場合、その時間に私が居る場合は存在が統合される。存在が強い方が残ることになるようなので、多分今の私になるだろう。
つまり、過去の自分自身に助言するようなことはできない。
そして、過去の自分が喪失するというのも、両親の気持ちを考えるとあまりしたくはない。
だから、戻るのなら私が産まれる前の世界。
本来であれば、生まれる前のことがわかるはずもない。
だから、私は遥か遠い昔に妹から聞いた話の内容を必死に思い出したのだった。
妹みたいに何でも記憶してられたら楽だったのだけれど、そうなると積み重なった過去の重みに押し潰されていたかもしれないので、適当に忘れられる自分で良かったのだと思う。
そして私は戻るのに適したタイミングを見つけた。日時も聞いて覚えていたから、目標の時間座標も問題ない。
この改変が成功すれば、拗れた妹の感情の問題も解決するだろう。彼女が悩んでいたのを知っているから、きっと喜ぶだろう。
もっとも、彼女が全ての事情を知ったら怒りそうだけど……そうなることは、あり得ないから問題ない。
だから、笑顔で会いに行こう。
私の大切な人達の元へ。
ああ、そうだ。
二人の遺伝子にある魔法因子を改竄して、魔法の素質が遺伝しないようにするのを忘れないようにしないと。
そうすれば、私のような悲劇はもう起こらなくなるだろうから。
そして、全部が終わったらどうしよう。
そうしたら、只の人として生きるのも良いかもしれない。どうせ、ろくな魔力も残らない。残りカスになる我が身だ。
自分のことだけを考えて余生を生きるのも一興かもしれない。
こんな楽しい気分になったのは何百年ぶりだろう。
発動させる魔力の準備ができるまで後約80年くらいか。
ああ…その日が来るのが待ち遠しい。
【蛇足の蛇足】
・最終話以後、アリサはその世界線に留まり、平穏無事にラブラブする二人を見守って過ごしました。