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家式学園正徒会活動報告書  作者: ながしー
レポート1 正徒会
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レポート1-6 正徒会

「で、結局ここって何するところなの?ボク事務仕事とか全く向いてないんだけど」


 宴もたけなわとなったところで、柿崎が誰にというわけでもなく、そんなことを言った。


「ああ、それは私も聞いておきたいです。そもそも他校、しかも中等部の私がなぜここに?」


 俺や柿崎と同じように、詳しい話を聞いていなかったのだろう、尾形さんもそう言って手を上げた。

 というか、尾形さんはなぜそんな大きな疑問を抱えながらぼたんについてきてしまったのか。


「教室で邑田が言っていた、正義を守るって話に関係あるのか?」

「んー…そうだね。正義を守るというか、街の平和を守るというか。じゃあ説明しようかな」


 邑田はそう言ってホワイトボードの前に立つと、マーカーのキャップを開けて図を描き始める。

しばらくキュッキュといい音を立てて、邑田が描き上げた図は地面の上に学校、その下に何本か線を引いて、地下を階層わけするかのような図だった。


「さて、私達が今こうして暮らしているのはここ。地上部分なわけなんだけど、この街の…というか、この国に現在存在する街の地下には地下迷宮があるんだ」

「あ、そういうの良いです。間に合ってます」


 くっ、やっぱり邑田の頭はお花畑だったか。


「もうっ!真剣に聞いてよ相馬くん!」

「いや、だってさ、そんなお前……先輩からも何か言ってくださいよ。今は、そういう冗談を言っている時じゃなくて生徒会の仕事の説明をする時なんだって」

「え?ありますよ」

「あるわよ」

「あるぞ」

「そうか、あるのか」


 真顔で先輩とぼたんと宮本に言われては認めざるをえないな。


「ちょっ、なんで私の説明は信じられなくてみんながあるって言ったらあることになるのー!?」

「普段のイメージだな」

「そんなダメなイメージが形成されるほど、私は相馬君と長い付き合いしたつもりはないし、ダメな行動もとってないと思うよ!?」

「第一印象で決めてました!」


 本当は別の意味でだけど。


「決めつけないでよぅ」

「茉莉、話が進まないからこいつには構わなくていいわよ」


 そう言ってぼたんは俺の後頭部をペチッとひっぱたいた。


「じゃあ続けるねー。で、その地下1階は、私のお兄ちゃんが社長をやっているイエシキセキュリティの訓練場になっているんだけど、そんなに頻繁に訓練するわけでもないし、結構広いしで、定期的にモンスター退治をしないと、発生したモンスターが街に出てきちゃう可能性が―」

「ちょっと待った!何?モンスター?それは流石に妄想だろ」

「妄想じゃないわよ」

「………邑田はなんでちょっと口調を変えて、顔も心持ちキリッとしてんの?」

「ぼたんちゃんみたいに言ったら、納得してくれるのかなぁと思って」


 邑田はそう言いながら、もとのフニャフニャとした表情に戻る。


「いや、別に俺はぼたんにそこまで信頼をおいているわけではないし、そもそもそんな荒唐無稽な話、ぼたんに言われたって、先輩に言われたって流石に―」

「いますよ」

「いるわね」

「いるぞ」

「そうか、いるんだな」

「ひどいよぅ……」


 確かに俺の言っていることはちょっとアレかなと思うけど、俺にイジられている許嫁を助けにこない杏平も結構な酷さだと思うぞ

 なんかまだケータリングの料理食ってるし。


「ああ、それでシューちゃんはボクを連れてきたんだ」


 柿崎はそういって納得したようにポンと手を叩いた。


「つまりそのモンスターをある程度間引くのがボクたちの仕事ってわけだね♪」

「そういうこと」

「なるほど!そういうことでしたか!わかりやすい説明ありがとうございます、邑田先輩、柿崎先輩!」


 いや、柿崎も尾形さんもなんでそんなあっさり適応してるの?

あとなんで杏平はこの荒唐無稽な話をまったく意に介さないような顔してご飯食べてるの?

俺か?俺がおかしいのか?


「まあ、それは去年までの正徒会も同じことをやっていたんだけどね」


 ぼたんはそう言って立ち上がると、邑田からマーカーを受け取ってホワイトボードの前に立った。


「茉莉の説明だとチャチャ入れたくなっちゃう人がいるみたいだから、ここからは私が説明するわよ」


 そう言ってぼたんは地下一階を丸で囲み、そこから下に向けて一本矢印を引いた。


「私達が任されるのはこの1階フロアってことになっているわ。ただ、今年の正徒会には野望があるの。一階を片付けた後、時間をみて奥に進んで…私達の最終目的地はここ」


 そういってぼたんはバンっと、最下層の部分を叩いた。


「私達のお父様も倒せなかったという、大ボスを倒すこと」

「………すまん。さすがに突っ込まざるをえないんだが、今の話から想像するに、イエシキセキュリティの訓練にはそのモンスターを使ってるんだよな?」

「そうね」

「じゃあ、プロの治安部隊がそこそこ本気の訓練で戦う程度には強いわけだ」

「そういうことよ」

「俺達みたいな素人集団じゃあっさりやられて終わりじゃないのか?」

「そんなことは無いわよ。私たちには魔法があるもの」

「またトンデモ設定来たなおい!」

「設定言うな!魔法はあるの!」

「ありますね」

「あるな。別に俺はいらないけど」


 ……あるのか。


「まあ、魔法ってやつが世の中にあるとしよう。だが俺はもちろん魔法なんていうものは持っていないし、他の皆もそんなものを持っているようには思えない。というか持ってないだろ、柿崎も尾形さんも」

「持ってないねえ」

「持っていません!」


 ほらな?という視線をぼたんに向けると、ぼたんは「フンっ」とひとつ鼻を鳴らしてから口を開いた。


「今は私も持っていないわ。ただ、迷宮の中に魔法を授けてくれる場所があって、そこで魔法を貰えば地下一階のモンスターくらいなら、別に訓練受けてなくたって楽勝ってわけよ」

「うーん……まあ、今の話が全部本当だとしてだ、その迷宮を踏破するメリットってなんなんだ?」

「大ボスが守っている秘宝はなんでも好きな願い事を叶えることができるそうよ」


 おおう、更に眉唾になってしまったぞ。


「……それが本当ならすごいことだな。例えば俺を大金持ちにしてくれとか、そういう願い事もできるわけだ」

「そんなのはあんたがお姉さまなり私と結婚すれば叶うじゃない。というか、詳細がわからないから、もしそれに到達して、願い事が一つしか叶えられないということであれば、私とお姉さま、それにしゅうと茉莉でそれ相応の埋め合わせはさせてもらうから、私たちに権利を譲ってほしい」

「いや、サラッと結婚とかそういうこと言うなよ。っていうか、先輩もそこに反応して顔を赤らめて目をそらさないでください」

「はーい質問。それ相応の埋め合わせって、例えばどんなこと?」

「主にお金ね。成功報酬は相応の金額を積ませてもらうわ。あとは進学とか、就職とか、そういう、私達の家でなんとかできることはさせてもらうって感じ」


 柿崎の質問に対するぼたんの回答は、ものすごくドライだった。


「…まあ、お前達はお金余っているのかもしれないけど…じゃあ、お前達は何を願うんだ?」

「お金じゃ解決できないことよ」


 そう言いながら、ぼたんは少しさみしそうな、くやしそうな、そんな表情を浮かべた。





結局、その日は各自、特に俺達外部組はこの話を受けるのかどうかをしっかり考えてくるということで、解散となった。

生徒会室を出て、校門前で杏平&邑田カップルと別れた俺が学校の前の道を歩いていると、後ろからクラクションを鳴らされた。

その音に俺が振り返って立ち止まると、ものすごく高そうなピンクの車が俺の横に後ろのドアをピッタリとくっつけて止まり、ゆっくりと開いたウインドウから椿先輩が顔を出した。


「相馬君」

「椿先輩」

「乗って行きませんか?お家までお送りしますよ」


 椿先輩がそういうと、俺の返事を待たずに運転手の人が降りてきて、俺の目の前のドアを開けた。


(これは断れないな)


 俺はそう思い、観念して椿先輩の厚意に甘える事にした。

 乗り込んでみると、椿先輩の乗っている車には、革張りのソファーがそのままシートになったような座席と、ドリンクやグラスが並んだ小さなカウンターみたいなものがあって、車というよりはちょっとしたリビングルームというか、ラウンジというか。そんな感じの乗り物だった。

 なんかお世話係っぽいメイドさんも乗っているし、うちの車と比べると完全に別世界の乗り物だ。


「……なんというか、本当にお金持ちなんですね、先輩って」

「そうですね」

「え!?」

「どうしたんですか?」

「いや、先輩の性格的に『そんなことありませんよ』とか言うのかなって思っていたので、ちょっと驚きました」

「そういう謙遜は逆に相手を傷つけたり、敵愾心を煽ったりすると聞いたものですから」

「ああ、まあそうかもしれないですね」


 確かにちょっとした小金持ちなら、そういう風に謙遜されてもなんとなく許せるけど、ここまで圧倒的な差を見せつけられて、さらに『大したことないよ』なんて言われたら、じゃあその大したことのないレベルにすら至ってない自分は何なんだと、傷ついたり、逆恨みしたりする輩もでてくるだろう。

 そういう意味ではここまで圧倒的な人は謙遜なんてしないほうがいいのかもしれない。

先輩の態度も別に自慢気でもなんでもないのでこちらも傷ついたり怒ったりするポイントすらないしな。


「それよりも、今日は色々とご迷惑をかけてしまって申し訳ありませんでした」


 そう言って、椿先輩は俺に向かった頭を下げた。

 こころなしか、メイドさんの視線と、シャッターの向こうにある運転席から流れてくる空気が変わった気がする。

 どんな感じかと言えば、『こいつ何お嬢様に頭下げさせてんだよ』とかそんな感じだ。


「や、やめてくださいよ、そういうの。全然迷惑なんてかけられてないんですから」

「いえ、私ったら相馬君の提案に舞い上がってしまって。それであんな…うう…今考えると恥ずかしいです…ぼたんにもバレバレでしたし…」

「まあ、ぼたんにバレたのは俺のせいっていうのもありますし」


 ぼたんの件は先輩がどうこうというよりは、俺のアドリブがきかなさすぎてバレたっていうのが大きいと思う。


「でもほら、邑田にはバレてないですし、多分宮本にもバレてないですよ」

「だといいいんですけど…茉莉はともかくしゅうはあれで結構鋭いから」

「でも、『椿姉ちゃんをよろしくな』って言われましたよ。最初と、あと帰りも」

「前後の文脈次第でなんとでも取れそうなのが怖いところですが」

「帰りに言われたのは『恋人兼ボディーガードなら、ちゃんと参加してしっかり守れよ』って、うわっ」


 突然、車が急ブレーキをかけ、俺はバランスを崩して床に転がった。


「田中?どうかしましたか?」

『失礼いたしました。ネコが飛び出して参りまして』


 椿先輩が手元のボタンを押して前に向かって声をかけると、スピーカーからダンディな声で返答があった。

 

「そうですか。ネコは無事に?」

『はい。道路を横切って行きました。お怪我などはございませんか?』


 田中さんの質問を受けて、椿先輩が俺に目で尋ねてきたので、俺は「大丈夫です」と言いながらうなずいた。


「こちらは大丈夫です。安全運転でお願いしますね」

『はっ、失礼いたしました。相馬様も失礼いたしました』

「いえいえ。大丈夫ですよ」


 急ブレーキのタイミングといい、メイドさんが殺気立ったのといい、どうせ椿先輩がマイク入れる前から聞いていたんだろう。

…というか、メイドさん今、カウンターからナイフ取って、袖の内側に握りこんだよな?

何?

そのナイフどうする気なの?

 

「それで、宮本にそう言われちゃったっていうのもあるんで、しばらくはこのまま行こうかなって思ってるんですけど、いいですか?」

「このままというのは…」

「椿先輩の恋人役のまま、迷宮の攻略にっていう話です」

「え!?一緒に行ってくれるんですか?もし危ないのが嫌だというのでしたら、表の、生徒会の方だけでも全然構わないんですよ!?」

「行きますよ。乗りかかった船だし、報酬もしっかりもらえるみたいだし。そのへんで時給のバイトをするよりも効率良さそうじゃないですか」

「それは…まあ、そうですが…でも、最悪命を落とすこともあるかもしれないのに」

「それは迷宮いくなら椿先輩もぼたんも、宮本も邑田もおんなじでしょう。もちろん、杏平とか柿崎とか尾形さんもですけど」

「それはそうですが、他の三人が来ないでリタイアする可能性もありますし、相馬君もムリはしなくても…」

「他の三人って言うってことは、俺達がリタイヤしてもどうせ四人で行くつもりなんでしょう?だったら、俺もついていきますよ。女の子三人に、宮本一人じゃ大変だろうし、俺なんかでも壁役くらいにはなれると思いますから」

「でも…」

「今更関係ないみたいなこと言わないでくださいよ?四人ともまだなんか隠しているなっていうのは感じていますけど、せっかく知りあった相手なんだし、手伝えることがあるなら手伝います」

「…どうして手伝ってくれるんですか?」

「うーん…友達だからですかね。ぼたんにも『いい友達になれそうだ』って言われたし。あとはほら、さっきも言ったようにその辺のバイトより時給よさそうなんで」

「友達…そうですか」


 そう言って椿先輩は嬉しそうに笑う。


「ありがとう、本当にうれしいです」


 思わず見惚れてしまうような笑顔を俺に向ける先輩と、その後ろで思わず目をそらしたくなってしまうような表情でこちらを睨むメイドさん。

 いやいや、そんな睨まなくても、こんなところで勢いで抱きしめたりキスしたりしないですよ?




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