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家式学園正徒会活動報告書  作者: ながしー
レポート1 正徒会
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レポート1-4 ぼたん

 生徒会室の中に入ると、普段は生徒会役員が仕事をするのだろう重そうな机は端に寄せられ、教室の中央には豪華なケータリングが乗った長机が置かれていた。

 時刻はお昼を少し回ったところ。朝食以来何も食べていない俺としては、かなり食欲を刺激される。 

それと机の一とケータリングの存在以外に、普段の生徒会室とは違うだろうポイントが2つ。他校の制服を着ている女子生徒の存在だ。

 一人は椿先輩と違い、いかにも先輩といった雰囲気のグレーがかった髪色をした、スタイルのいい女子生徒、もう一人は椿先輩と同じくらいの背格好(しかし先輩より胸はやや大きい)の女子生徒だ。

 たしか彼女たちが着ている制服は、駅向こうの聖ポリアンナ女学院のものだったと思う。

超お嬢様学校で、あの制服を着ている女の子の周りには常に5人のボディーガードがいるという話を聞いたことがある。


「遅くなってごめんなさい。じゃあ、早速はじめましょうか」


 椿先輩がそう言うと、他の皆は各々ドリンクを取って、椿先輩の方を見る。

 ちなみに、俺の分は杏平が持ってきてくれた。


「今年一年、大変な年になると思うけれど、みんなで頑張っていきましょう。それじゃあ、乾杯」


 先輩の掛け声でみんなはグラスをコツンとぶつけあって乾杯しだし、俺もそれに倣って杏平や邑田、それに何故か寄ってきた宮本しゅうと乾杯した。


「茉莉に聞いたぞ。お前、椿姉ちゃんの恋人なんだってな?」

「いや、恋人というか……ボディガード的な?」


 先輩超無防備だし、少しそんな気分だったのは間違いないのでそう返事をすると、宮本しゅうは上機嫌で俺の肩を抱いて顔を覗き込む。


「恋人でボディガードか、なるほどなあ。それなら俺がお前のことを強いと思ったのは間違いないわけだ」

「いやいや、そういう気分ってだけでさ…というか、近い近い、宮本近いって」


 もうこれ恋人の距離だから。男同士の距離じゃないから。


「ま、気分がどうとかでもいいや。椿姉ちゃんはお前に任せるからしっかり頼むぞ」

「お、おう」


 そう言ってポンと俺の肩を叩くと、宮本しゅうは少し離れたところで、さっき背中にくっつけていた女子生徒と話し始めた。

 イマイチ状況がわからないが、椿先輩は、宮本しゅうのことを親戚だって言っていたし、友達のいなかった先輩にいきなり彼氏ができたということで、あいつなりに思うところがあるのだろう。

 ……というか、その誤解を解くのを忘れていたことを思い出した俺は椿先輩を引っ張って部屋の隅に連れて行って耳打ちした。


「先輩。俺のことちゃんと紹介しないと、いろいろまずいですって」

「あ、そ、そうね!気まずいよね!」


 俺の言わんとすることがわかってくれたらしい先輩は俺の手を引っ張って部屋の中央に移動した。


「みんな、ちょっと聞いて。新しいメンバーやお互いよく知らないメンバーもいると思うし、一応自己紹介をしておきましょう」


 椿先輩がそう言って皆の顔を見回すと、2、3人ずつでバラバラに話をしていたメンバーが中央に集まってきた。


「まず、こちらは相馬瑞葵みずきさん、しゅうにも認められるほどの剣道の実力者で私の恋人」

「相馬瑞葵みずきです、今紹介されたとおり、椿先輩の恋人……って、ちょっと先輩!?」

「あ!」


 『あ!』じゃないです先輩。そういう天然ボケは勘弁して下さい。

いや別に先輩のことが嫌いとかじゃないですけどね。

 ああ…でもこの状況じゃ、恋人じゃないならお前はなんなんだっていう話になっちゃうし…そうすると、なんか情けない俺の話をしなきゃいけなかったりとか、先輩が成り行きでなんとなく俺をひっかけただけで、結局恋人どころか友達もいなかったりすることがバレてしまうのか。


「えっと、彼はその…」


 先輩も同じことを考えていたようで、オロオロしている。

そんな先輩を見て、俺が『もうしばらくこのままいくか』なんてことを考えていると、小柄な方の聖ポリの制服を着ている女子が口を開いた。


「くっだらない。お姉様に恋人なんてできるわけないじゃない。どうせ、金か不幸な身の上話でもして同情を引いて引っ掛けた一般人でしょう?というか、一般人引っ掛けたって戦力にならないと思うんですけど!?」

「何かに釣られたとかそういうんじゃないぞ。俺は俺なりに先輩の力になりたいと思ったから入ったんだ」


 まあ、金で釣られたわけではないが、ちょっと同情したのは間違いないのであまり強く反論はしない。

 というか、人を釣れるほど金を持っているのか先輩は。



「どうだかね。一応自己紹介をしておくと、私はそこでヘラヘラしている椿の妹、ぼたんよ。まあ、短い付き合いになるだろうけど、よろしく」

「よろしく…でもな、ええと…ぼたん」

「な、名前を呼び捨て!?なに?もう義兄気取りなわけ?」


 『そんな睨むなよ、君たち姉妹のファミリーネームを知らないんだからしょうがないじゃないか』とは流石に言えない。なにせ椿先輩と俺は恋人設定なわけだしファミリーネームを知らないなんていうのは不自然だからな。

でもまあ、彼女が先輩の妹だとすれば恐らく俺と同じ年か年下のはずなので、呼び捨てでも問題無いだろう。


「そういうわけじゃないけどさ。お姉さんに対してヘラヘラしてるとか、同情を引いてとかそういうことを言うべきじゃないと思うぞ」

「はぁ!?あんた一体誰に意見してんの?マジで短い付き合いになるわよ!?」

「悪いけど、そうはならない。俺は椿先輩とラブラブだから、俺とお前は嫌でも長い付き合いになる」


 ……あ、やっちゃった。

 昔からこうなんだ、俺は。

調子に乗って、その場の勢いでいい加減なことをいって後で大変なことになる。

そんなこと自分の悪い癖はわかっているつもりなんだけど、どうして毎回こうなってしまうんだろう。

 俺が勢いで言ったことはどうやら相当衝撃的だったらしく、ぼたんは目を見開いて俺を睨んでいる。


「そう…そういうことね、そうすることで…ああそう、お姉さまらしいことで」


 あざ笑うかのようにそう言った後、ぼたんはフンっと、鼻を鳴らして部屋の脇に置いてあったイスにどっかりと腰を下ろした。


「じゃあ次は俺だな。俺は宮本しゅう。趣味は竹刀を振り回すこと。相馬とは去年市の大会の準決勝で当たってるから一応面識ありってことでいいよな?」

「ああ」

「ええと、そっちの奴らは確か会ったこと……」


 俺の返事を聞いた後、宮本しゅうはそう言いながら杏平と、ぼたんの先輩のほうを見る。


「ああ。俺は一度顔を合わせているし、茉莉ちゃんから色々噂は聞いてる」

「私はありませんが、お噂はかねがね」

「そっか、じゃああんまり詳しくやらなくても大丈夫そうだな。それじゃあ次は茉莉頼む」

「まあ、私はみんなと面識があるし、さっきクラスでも相馬くんに自己紹介したからいまさらだけどね。邑田茉莉。好きな食べ物は甘いもの全般です。よろしくね、相馬君」

「ん。よろしく」

「じゃあ次、杏平くん」

「若松杏平だ。趣味は電子工作、あとは前陸上部だったこともあるから走るのが得意って感じか。まあ、よろしく」

「ああ!何処かで見たと思ったら茉莉の婚約者か」

「一応そういう話になってるな」


 杏平の自己紹介を聞いた宮本しゅうは、そう言って杏平の頭のてっぺんから足の先まで舐めるように見た。


「ふうん…でも、茉莉の婚約者にしてはあんまり強そうじゃないよな」

「武道や格闘技の経験もないし、部活も陸上辞めた後は文化系だったからな。茉莉ちゃんやお前に比べりゃ弱いだろうよ」


 杏平は宮本の言葉にそう言って肩をすくめてみせる。

 って、え?何?邑田ってそんなに強いの?宮本と並べて強いって言えるほど強いの?


「じゃあ次はボクで。ボクは、柿崎 ゆずりは。見ての通りとっても可愛い女の子だよっ」


柿崎はガーリーな見た目に比べると若干ハスキーな声をしている気がする。とは言っても俺や杏平に比べるとかなり高いが。


「まあ、趣味は見ての通りの女装。愛をこめてゆずりんって呼んでくれて良いよ」

「女子じゃなくて女装かよ!女の子じゃないだろそれ!」

「中学の時はしゅうちゃんの追っかけしてました♪」

「人を付け回して、暗がりで闇討ちかけるのが追っかけって言うならな」


 俺の言うことを華麗にスルーして息のあった掛け合いをするゆずりんと宮本。

 ……って、闇討ち?闇討ちってどういうことなんだそれ。


「じゃあ、最後は私ですね」


 こういう空気に慣れているのか、それとも空気が読めないだけか、ゆずりんの物騒な発言をスルーして、最後の一人、おそらくぼたんの先輩と思われる人物が咳払いをして、口を開く。


「お初にお目にかかります。私は尾形りら。駅向こうの聖ポリアンナ女学院で生徒会長をしています」

「中等部のね」


 ぼたんがそう言って肩をすくめてみせる。


「まあ、つまり、お姉さまと私の後釜ね」


 はあ、そうか。椿先輩はもともと、聖ポリアンナ女学院で生徒会長をしていらして――


「って、後輩!?この子年下なの!?」

「いちいちリアクションのうるさいやつね。あんたが現役でどこかの中等部でない限りは、りらは年下、後輩ってことになるわよ」


 ぼたんはそう言うが、正直彼女はどう見ても年上にしか見えない。

 邑田ほどではないが、程よく発達した胸元、スラリと伸びた手足、大人びて凛とした瞳。正直な話、ぼたんと尾形さんを並べてどっちが年上かと聞かれれば100人中90人以上は尾形さんを選ぶだろう。

それはもちろん、比較対象が椿先輩でも――


「どうかしたんですか?」

「いえ、なんでもないです」


 ――邑田>尾形さん>ぼたん>>椿先輩。っと。


「ちなみに我が校の制服は、中等部は紐タイ、高等部は普通のリボンなのです。これを覚えておくと、誤って中等部の生徒をナンパしてしまい、ロリコン扱いされるという痛ましい事件を防ぐことができます」


 おい、後輩。なんで俺だけ見て言うんだよ。


「ですってよ、相馬。まあ、こんな話を聞いたら、あんたはむしろ中等部を積極的に狙っていきそうだけど」

「ひどい名誉毀損をするのをやめてくれないかな!?」

「え?だって相馬ってそういう趣味なんでしょう?」


 そう言いながらぼたんは、俺の彼女ということになっている椿先輩を見た。主に胸元を。

 おいやめろ。椿先輩が泣いちゃうだろ。


「え…そうなんですか…?」

 

 椿先輩はぼたんの話を真に受けて若干距離を取りながら言うのをやめてください。先輩を守りたいと思った俺の心が折れてしまいそうです。


「だって、お姉さまの恋人なんでしょう?だったら、ねえ?」

「……?」


 ぼたんは相当な悪意を込めて言ったのだろうが、どうやら椿先輩には伝わらなかったようだ。よかった。椿先輩が天然で本当によかった。

 とはいえ、いつ気づいて泣き出してしまうかという状況に変わりはない。これ以上下手なこと言う前に、ぼたんには釘を差したほうが良いだろう。


「ちょっとこい」

「え?なに?」

「いいから」


 俺はぼたんの腕を掴むと、そのまま廊下に引っ張っていって、生徒会室のドアから少し離れたところで手を離した。


「いくら姉妹でもあれはないだろう」

「あれって?」

「言わなくてもわかるだろ?ただの悪ふざけなのか、仲が悪いのかは知らないけど椿先輩を泣かすようなことを言うのやめろよな」

「胸のこと?別に言うほどお姉様はキにしてないわよ…っていうかさ、そんな点数稼ぎをこんなところでしても意味なくない?」

「点数稼ぎ?」

「私に泣かされたお姉さまを慰めてあげたほうがあんたの点数は上がるでしょって話」

「意味がわからん」

「だから!財産狙いでお姉さまと付き合うなら、お姉様の好感度を上げなきゃ意味ないんじゃないのって言ってんのよ、このド平民!」

「財産?」

「すっとぼけるんじゃないわよ!あんたの魂胆なんてお見通しなんだから!」

「いやいや、ちょっとまて。なんだよ財産って。だって、先輩まだ学生だろ?もし実家が多少お金を持っていて遺産とかそういうのが入る予定だとしても、ずーっと先の話だろうし」

「はぁ!?多少お金持ち?何言ってんのよあんた、うちは多少じゃない、すっごいお金持ちなんだからね」


 自分で「うちはすごいお金持ち」とか言っちゃうのはどうなんだろう。

 一応俺達もいい年なんだし、あんまり実家のことを鼻にかけるというのもなあ…

 

「いやまあ、そりゃあ姉妹揃って聖ポリに入れられるくらいなんだから、お金はあるんだろうけどさ。それと先輩は関係ないだろ」

「あくまでとぼけるつもりか」

「え?」

「ちょっと来なさい」

「え?」

「いいから!」


 そう言ってぼたんは俺のネクタイを掴んでずんずんと歩き始めた。

 途中、何人かの先生がぎょっとしたような顔でこっちを見て慌てて道を開けたり、目を伏せたりしていたので、どういう理由かは知らないが、多分ぼたんの表情は相当険しいか、怒りに燃えているか、そんな感じの表情だったに違いない。

 というか、目を伏せたりしてないで助けて下さいよ先生。自分の学校の生徒が他校の生徒に、大分乱暴なやりかたで強制連行されているんですよ?

 

 そんなことを思いながら、ぼたんに引っ張って行かれること数分。生徒会室からは全くの死角、それどころか絶対に声も届かないようなところに連れてこられてから俺は手近にあった空き教室に放り込まれた。


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