レポート2−12 九十九三音
無理に仲良くしなくていいということになってからの緋奈とぼたんはそれはそれは喧嘩するほど仲がいいみたいな先輩後輩と言った感じで、元々の姿だったら、傍から見た俺は可愛い同級生と可愛い妹に仲良く取り合いをされている羨ましい奴に見えただろう。
ただそれはあくまで上辺だけ。
言葉の端々でやりあっている2人の間に挟まれた俺の胃はキリキリと痛み、2人の間に百合姫ちゃんの身体に入っている俺が挟まれているという見た目は、兄妹で百合姫ちゃんを取り合っているように見えるわけで、完全に妹の友達にコナかけるヤバい兄貴と、それを嫌がる妹という見た目なわけだ。
もうね、事情を知らない人に見られたらと思うとほんとね、胃がね…無事に百合姫ちゃんにこの身体を返せるのかな、俺。
「あ、瑞葵くん…じゃなかった、ぼたんちゃん」
「げっ、茉莉!」
そして、またこの状態だとかなり面倒くさいやつが現れた。
「えっと、あれってりらの身体に他の人が入っているんだよね?」
邑田の姿を見た緋奈がこそっと俺に耳打ちしてきた。
「りらの中に入ってるのは邑田茉莉…ええと、どう説明したもんか」
「前にりらが撮って送ってきた写真に写ってた人?」
ああ、そうだ。緋奈には写真で説明するのが一番わかり易いな。
「俺の後ろに立ってたやつ」
「あ!浮気相手さんか!」
「相馬……」
緋奈が緋奈の中での通称を口にしたせいでまたもぼたんに睨まれる俺。
「いい加減俺が言ってるわけじゃないってわかるよな!?」
「あれ?瑞葵くんまた身体変わったの?」
「そんでお前はなんで一発で理解してんだよ」
「いや、ほら妹さんとぼたんちゃんと一緒にいるなら瑞葵くんかなって」
「……俺、緋奈のことお前に言ったっけ?」
「いるっていうのは前に聞いたよ。あ、私、邑田茉莉。よろしくね緋奈ちゃん」
「あ、はい。よろしくおねがいします」
「えっと、邑田はりらからなんか聞いてたのか?写真とか見せてもらったり?」
「え?りらちゃんって瑞葵くんの妹さんのこと知ってるの?」
「……」
「どしたの?」
「いや……」
じゃあなんで緋奈のこと一発でわかったんだよ!!超怖ええよ!
「あ、もしかしてなんで私が緋奈ちゃんの顔知ってるのかって気になってる?」
「そうそれ」
「前に相馬くんのお家を知りたくてこっそりついていったことがあったんだけど、その時チラッと見かけたんだよ」
そっかそっか、俺の家が知りたかったんじゃしょうがな・・・くねぇぇぇぇっ!!
「え!?それいつの話だ?」
「えっとね、ほら写真撮った日あったじゃん?あれって妹ちゃんに送るって言ってたけど実は彼女がいたりするのかなって思って」
「彼女がいたら諦めてくれたのか!?」
「いや、それなら宣戦布告かなって」
やだもう邑田さんってば日本語で話してるはずなのに全然日本語が通じてないんたけど!
「そこまでお兄ちゃんのことを・・・?茉莉さん、浮気相手とか言ってごめんなさい。緋奈、お兄ちゃんにはぼたんさんより茉莉さんがふさわしいと思う!」
緋奈もなんでそうなるんだよ。どう考えたってぼたん以上にヤベえ奴だろ!! いや、ぼたんとも邑田とも今の所どうこうなろうって気は全然ないんだけれど。
まあ、色々勘違いした緋奈がぼたんを焦らせるために言ってるってことはなんとなくわかる。わかるけど、ぼたんは俺のことなんてなんとも思ってないはずなので、そんなので動揺するようなことはないはずだ。
「緋奈、あんた茉莉のヤバさを測り間違ってない?茉莉ってあれよ、その・・・料理は、できるし・・・というか家事は全部できるし・・・勉強も結構上の方だし・・・ええと・・・」
「あと私強いから瑞葵くんのこと守ってあげられるよ!」
「か弱いお兄ちゃんにぴったり!茉莉さん優勝!!」
緋奈はそう言って邑田の右手を掴んで高々と挙げる
って、誰がか弱いねん。
「ちょっ・・・あれ?私ってもしかして茉莉に勝てるところがあんまりないじゃ・・・?」
ぼたんは改めて自分と邑田を比較して勝てる部分が思いつかなかったらしく頭を抱えてしゃがみこんだ。
そしてそんな茫然自失となっているぼたんの前にしゃがみ込み、緋奈がさらに追い打ちをかける。
「緋奈はぁ、あんまり前時代的なこと言いたくないんですけどぉ、やっぱり女子力っていうんですかぁ?そういうのって大事だと思うんですよねぇ」
「こらこらこら、煽るな煽るな。というか、ぼたんにはぼたんのいいところがあるんだし、女子力とかそういう誰かが決めたものさしでものを言うもんじゃないぞ」
「瑞葵くん優しい!好き!」
「はいはい、ありがとさん」
「あしらい方が適当だよ!」
「いや、今はそういう話してないからさ。いいか緋奈、みんな違ってみんな良いんだ。女子力なんてなくてもいいじゃないか。というかお前もそんなにないじゃないか」
自慢の妹だが、じつのところ兄の贔屓目を抜きにしてしまえば、料理それなりとはいえ、洗濯タグは理解してない、掃除は端っこに埃残ってる、部屋には食べかけの袋菓子が結構血散らばっているという緋奈は決して女子力とやらが高いほうではないと思う。
「い、今は緋奈の話してないから」
「それはフェアじゃないだろ」
「ははーん、さてはお兄ちゃん、なんだかんだ言ってぼたんさんのこと好きなんでしょ」
「好きか嫌いかでいったらそりゃ好きだぞ」
なんだかんだ俺とコンビを組んだ時にフォローが一番上手いのはぼたんだと思うし。
「居てもらわなきゃ困るな」
「そ、相馬・・・?」
「く・・・巨乳好きのお兄ちゃんがぼたんさんで満足できるの?」
「いや、そういう話こそ今してないからな」
「そういう話だったらどうなの?」
「・・・・・・」
「ちょっと!なんとか言いなさいよ!なんでそこで黙るのよ!!」
「茉莉さんのほうがいいんじゃないの!?」
邑田のほうがいいんじゃないかって聞かれたらそうかもしれない。
ただ、俺はぼたんの身体と百合姫ちゃんの身体を体験して思ったんだ。
女の人を胸で判断するのはよくないことだと。
写真を撮る時に頭の上に載った邑田の胸。ぼたんの監視をくぐり抜け、こっそり触ってみたぼたんの胸。そして2人のとはまた違った百合姫ちゃんの胸。みんな違ってみんな良いのだ。優劣などない。
「邑田がいいというより好きな人の胸がいい、が正解だろ。子供の頃はそりゃあ大きいおっぱいだったらなんでもいいって思ってたけど、今の俺は違う。誰のでも良いっていうわけじゃない」
「相馬!」
「瑞葵くん!」
「あのー、感動の場面?のところ悪いんだけど、ちょっといいかな?」
そう声をかけられて俺達が振り返ると、そこには俺の記憶の中にあるのと同じ顔の九十九三音が立っていた。
「百合姫の身体に瑞葵くんが入ってるって言ったらめちゃめちゃ怒られちゃってさ。とりあえず百合姫の身体だけ返してもらいたいんだけど」
「あー、たしかに百合姫なら怒るよね」
「えっと、誰この人」
「今回の黒幕、鳥越かえること九十九三音よ」
「そう、私が九十九三音。そっちの2人ははじめまして。瑞葵くんは久しぶり」
「つってもあんまり覚えてないんスけどね」
「小さい頃は結構遊んであげたんだけどねぇ・・・まあいいや。とりあえず瑞葵くんを連れてって百合姫と交換してそこから仕切り直しってことでどうかな」
「そんな話にのるわけないでしょ」
「あはは、だよねえ。じゃあ力づくで行かせてもらうよ」
九十九三音はそう言って後ろに一歩飛んで距離を取ると――変身をした。
「魔法少女と名乗るにはちょっと恥ずかしい年だから、魔女とでも呼んでもらおうかな」
漆黒の革ジャン革パンツにとんがり帽子という、魔女と言えば魔女っぽく見える衣装に身を包んだ九十九三音はそう言ってニィッと口の端を吊り上げて笑った。
「さ、それじゃあ百合姫の身体を返してもらうよ」
「いやいや」
「その前に」
「俺達の身体を返せ!!」




