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家式学園正徒会活動報告書  作者: ながしー
レポート2 豪放ライラック

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レポート 2ー9 百合姫

お久しぶりです。




 せっかく温泉があるのに内湯で自分の身体を洗ったり、目かくしてされて洗われたりし、さらにはお互いが変なことをしないようにするために入れ替わったもの同士が隣の布団で寝るという、写真にでも収められたら俺とぼたん(ついでに杏平と柿崎)が終わるような状態で二日目を終えた俺たちは、合宿三日目を迎えた。


「うわ、本当にまだ戻ってない!!ウケる!」


 昨日に引き続き街で出くわした緋奈はそう言って俺たちを指さして笑った。


「っていうか、九十九三音が見つかったって連絡してないんだから当たり前だろ」


 ってか、本当にってなんだ、本当にって。

 

「まあそうだよね」

「というか、緋奈ちゃん一目見ただけでよくわかったわね」

「そりゃあ生まれたときからお兄ちゃんの妹やってますから」


 そう言ってなぜか自慢げに胸を張る緋奈。

 ちなみに緋奈のほうがぼたんより胸が大きい。 


「仲いいわね、あんたのとこ」

「ぼたんだって普通に椿先輩と仲いいだろう?」

「どうだかね」


 いや、俺と緋奈よりもぼたんと椿先輩のほうがよっぽど仲がいいように見えるぞ、俺には。

 ・・・あ!あれか!?昨日言っていた女にはいろいろあるとかそういうことか。


「それより緋奈ちゃん、今日は探索行かなくていいの?」

「あ、そうそうそれです。それで先輩とお兄ちゃんを探してたんですよ」

「私と」

「俺を?」

「ですです。あれで三音姉ってレベル50超えてるんで、今の二人じゃ例え見つけて捕まえようとしても勝負にならないと思うんですよね、だから私たちのチームと一緒にレベル上げしません?」

「ああ、そりゃ助かる」

「え?どういうこと?」

「つまりパワーレベリングです!」

「ぱわーれべりんぐ?」


 おっと、ぼたんめ。まったくピンときてないな。 


「つまり、今宮本が椿先輩のレベルをあげてるだろ?」

「うん」

「あれと似たようなことなんだけど、別の誰かの力を借りていつもよりもちょっと強い相手を倒すことで経験値を多く手に入れて一気にレベルを上げるんだ」

「そういうこと。ギリギリまで私たちが弱らせるから、二人はとどめだけ刺してもらえればいいから」

「・・それってズルじゃないの?」

「後発組はそうでもしなきゃ追いつけないだろ、ちょっと手伝ってもらうだけだって」

「そうそう。私も最初のほう・・・25レベルくらいかな、そのくらいまではそうやってこの階層で先輩に養殖してもらったし」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


 『緋奈ちゃん年下なのにすごーい!かっこーいー!』って思った昨日の俺たちの思いを返せ。





 俺とぼたんが緋奈に連れられて街の入口までやってくると、見覚えのある顔がこちらに駆け寄ってきた。

 

「緋奈ちゃんのお兄さん、こんにちは!」


 緋奈の部屋に遊びに来ているのを見たことがあるその子は、前もって緋奈から事情を聞いていたのだろう。身体が入れ替わっているにもかかわらず俺のほうを見ながらそう言った。

 

「その呼び方やめてくれ。ほんとトラウマだから」


 三年のクラス替えで初めて一緒のクラスになった生徒会所属の奴から『相馬さんのお兄さんだよね』って言われたのがはじまりで、それを聞きつけた周りの奴まで調子に乗って『相馬さんのお兄さん』って呼びはじめ、しばらくクラスで『相馬さんのお兄さん』って呼ばれるなんて事件があった。夏休み明けには飽きたのかその呼び方はされなくなったけど本当にトラウマなのだ。

 っていうか、名字わかってるんだから相馬君でいいだろうに、なんでわざわざ緋奈基準で長くして呼ぶんだよ。おかしいだろうが。


「でも私がお兄さんを名前で呼ぶのって変じゃないです?」

「先輩でいいだろ先輩で」


 この子の名前は・・・・・・なんだったっけ。なんどかうちに遊びに来たこともあったし、個性的な名前だった気がするんだけど思い出せないというか覚えてない。


「ああ、でもやっぱり名前の方が親しみ持てるしそうしよっかな。ねえねえ緋奈ちゃん、お兄さんの名前なんだっけ?」


 俺に聞いても教えてもらえなさそうと思ったのか、緋奈の友達は緋奈に話を振る。


「え?・・・えっと・・・み・・・つき・・・だっけ?」


 緋奈ちゃん違う。それうちのご先祖様。


「瑞葵だ瑞葵」

「瑞葵せーんぱい」


俺が名乗ると、緋奈の友達は早速楽しそうに俺を下の名前で呼びつつ腕にしがみついて・・・おおっ!邑田ほどではないものの、年下なのになかなかのボリュームではないですか!


「おにーちゃん、顔だらしない」

「私の顔でそういう表情するのやめてよ」

「あいすみません」


 ぼたんは自分の顔がだらしなくにやけるているのがいやだって言うのはわかるけどなんで緋奈まで怒ってんの?俺、緋奈を怒らせるようなことしたっけ!?


「あと、勘違いしないように言っておくけど、百合姫は女子が好きなだけだからね。お兄ちゃん、ぼたんさんの身体から出たら百合姫に相手になんかされないからね!」

「それは別にいいんだけど、緋奈は何怒ってんの?」

「別に怒ってない!」

「あんたほんと馬鹿ね」


 突然の罵倒が俺を襲う。

 

「何がだよ」

「緋奈ちゃんはお兄ちゃんがそっちの百合姫ちゃん?に一時的にでも取られる気がしていやなのよ」

「ちょ、ぼたんさん!?」

「そうなのか緋奈」

「・・・・・・ちがうし」


なるほど、そうなのか。


「ええいかわいいやつめ!」

「そうそう、緋奈ちゃんってこういうところ本当にかわいいんですよね!」

「確かに私はかわいいけど、そういうかわいがられからは望んでないの!」


 ・・・・・まあ、自分に自信があることはいいことだよな。うん。

  

「それで緋奈、他のメンバーはどこにいるんだ?」

「え?今日は私と百合姫だけだよ」

「おまえのチームの唯一の男っていうのはどうしたんだ?」

「彼女と一緒に先を探索してる」

「仲いいよねー、あの二人」


 昨日の夜帰ってきた宮本(IN椿先輩)は街のすぐそばでレベル上げをしていたにもかかわらず、結構傷だらけだったんだけど。

 先を探索してるっていうことは、街のそばでもないってことなんだろうし。


「いつも以上に変な顔してどしたの、お兄ちゃん」

「いや、二人で先に進めるなんてどんだけ高レベルなんだろうなと思って」

「高レベルっていうか、テレポーターと防御魔法持ちだから、進むだけ進んで危なくなったら戻ってくるっていう強行偵察ができるんだよね」

「そうそう。で、緋奈ちゃんが火力のある攻撃魔法で、私が回復魔法」

「緋奈のチーム、バランスいいな・・・」


 うちなんて、俺、宮本、杏平が火力、柿崎がテレポート、邑田が防御&火力、ぼたんとりらがサポート。あとは謎の能力の椿先輩だけだ。

 そう、うちのチームには癒やしが足りないのだ。


「・・・ねえ、百合姫ちゃん」

「なんですか?」

「うちのチームに来ない?来てくれるなら、お金はそれなりに出すつもりよ」


 ぼたんもうちのチームには癒やしが足りないと思ったようでそんなことを言い出すが、緋奈が慌ててぼたんと百合姫ちゃんの間に割って入る。


「ちょっちょっちょ、ぼたんさん!うちのチームから人を引き抜こうとするのやめてくださいよ!」

「なんだったら緋奈ちゃんも一緒でもいいのよ、もちろん今探索に出ている子達も」

「そんなことしたら、うちのチームの担当してくれているあかりさんに叱られちゃいますって」

「相馬」

「え?俺?何?」

「あんたのご先祖様、緋奈ちゃんのチームを担当しているあかりさんの親友よね?」

「ああ・・・そういえば昨日そう言ってたな」

「あ、じゃあお兄ちゃんの担当ってみつきさんなんだ」

「お前、顔広いなあ」

「会ったことはないんだけどね。あかりさんから噂だけはよく聞いてるってだけで」

 

 たしかにみつきさんから緋奈の話を聞いたことはなかったし、もし緋奈のことを知ってたら俺に話さないってことはないだろう。

 あの人うちの家族の話するの好きだし。


「で、ぼたんは俺からみつきさん経由で、あかりさんに百合姫ちゃんをこっちに移籍していいかどうか聞けって言いたいのか?」

「全員よ。四人全員」

「いやあ、私はこの年になってお兄ちゃんと十二畳の部屋で一緒に寝るのはちょっと・・・」


 え!?緋奈ちゃん?お兄ちゃんのこと嫌いなの?嫌いならはっきり言ってくれ。落ち込むから。


「それにですね、ぼたんさん。多分聞くまでもなくあかりさんは絶対だめっていうと思います。それに百合姫も、私も、和也も、詩織も嫌です」

「なんで!?お金ならいくらでもーー」


あ、やばい。緋奈の表情がマジギレのときのそれだ。

 

「やめとけ、ぼたん」

「なんでよ!実力がある人材にはそれ相応の報酬をもって報いるべきでしょ!?」

「それはそうなんだけどな・・・」

 

 まさかこんなところでぼたんの弱点である『友達が少ない』『世間知らず』『お金持ち』の三連コンボが発揮されることになるとは。 

 ぼたんとは逆に、緋奈は友達が多いんだが、その友達は、もちろん金で買ったものじゃないし、友達同士で主従関係が生まれかねない貸し借りは絶対にしないというのが緋奈のポリシーだ。

 そんな緋奈に『お前らを金で買う』なんてことを言えばーー


「あーあ、私、将来お義姉さんになってもらうならぼたんさんがいいかなって思ってたんですけど、私の見る目がなかったみたいですね」

「な、なんで将来とかお義姉さんとかそうなるのよ!」

「はぁ?なんでそうなるかなんて、自分が一番よくわかってるんじゃないですかぁ?」


 緋奈ちゃん怖い。顔、怖いから。


「ちょっと相馬、なんでこの子いきなりキレてんの!?」

「ちょっとお兄ちゃん、この人なんなの?お兄ちゃんはなんでこんな人のことが好きなの?」

「は、はあ?変な妄想するんじゃないわよ」

「うっわあ、今時ツンデレとかマジではやらないんですけどぉ、ぷー くすくす」

「だれがツンデレじゃ!ちょっと相馬!この子黙らせなさいよ!」

「お兄ちゃん!いまからでもあのおっぱいの人に乗り換えて!」


 あーもう、面倒くさい。

 緋奈の言っている俺がぼたんを好きとかいうのは完全に妄想だが、ぼたんがツンデレなのは事実な訳で。

 とはいえ、半分あたっているからと緋奈の味方をすれば今後の活動がやりにくくなる。

 じゃあぼたんの味方をすればいいかというと、それで兄妹仲が、ひいては相馬家がもめるのは避けたい。じゃあどうするか。


「あのな、ぼたん、緋奈」

「なによ!」

「お兄ちゃん、はっきりして。お兄ちゃんはこの人の味方なの?違うよね、緋奈の味方だよね」

 

くっ・・・我が妹ながらあざとい。つい今しがたまですごい顔で口げんかしてたのに、一瞬でいつものかわいい妹モードに切り替えてきた。

 それに対してこういうことをしなれていないぼたんの切り替えの遅さといったら・・・・・・まあ、かわいいぼたんっていうのはあんまり想像できないので、通常運行っちゃ通常運行なんだけど。


「二人とも目を閉じろ、そして聞け」

「目?」

「何よもう・・・」


 ブツブツ言いながらも素直に目を閉じてくれる二人が大好きだぜ。

 そう、大好きだ。だから俺は二人に仲良くしてほしい。

 そのために今から心を鬼にするぞ。


「俺と一緒に逃げよう、百合姫ちゃん」

「え?あ、あーーーれーーーー」

 

 俺は百合姫ちゃんの手をつかみ、ついこの間習得した足の裏から火を噴いて空を飛ぶ魔法でその場を後にした。


 ・・・・・・いや、逃げたんじゃないぞ。本当だぞ。 

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