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家式学園正徒会活動報告書  作者: ながしー
レポート1 正徒会
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レポート1-2 先輩

 HRが終わってもしつこく「一緒に正義の味方になろうよ!」なんて言ってくる邑田を杏平におしつけて追い出し、誰もいなくなった放課後の教室。

 外から聞こえるサークルや部活動の勧誘の声を聞きながら、俺は一人で机に伏せっていた。

 いや、別に杏平に恨みはないし、邑田に至っては声をかけられただけで舞い上がって『こいつもしかして俺に気があるんじゃね?』とか、自分ではとうに卒業したつもりになっていた思春期ならではの恥ずかしい勘違いをしてしまったというだけの話で、二人に『俺の気持ちを弄んだな!』とかそんな青臭いことをいうつもりはない。

 言うつもりはないが、やっぱりどこか腑に落ちないし、二人にからかわれたんじゃないかっていう疑念は消えない…というか、ぶっちゃけ自意識過剰にも邑田茉莉が自分に好意を持っているんじゃないかと思っていたことが恥ずかしすぎて立ち直れないのだ。


「あー…死にてえ」


 もう何度目になるかわからない言葉をつぶやいた俺は、自分の前方に人の気配を感じて顔を上げた。

すると、そこにはなんと杏平ではなく俺に恋心を抱く邑田茉莉が戻ってきて………


「いなかった」

「え?なにがです?」

「いえ、なんでもないです」


邑田の代わりに俺の机から少し前のところに立っていたのは、リボンの色からすると恐らく二年生の先輩と思われる先輩だった。

目の前にいる先輩は色んな意味で邑田とは正反対。

ぱっちりとしてくりくりしている目を持つ邑田に対して、先輩は細められているのか、もともとそうなのかわからないほどの糸目。

 だが、その糸目は意地悪そうとか、そういう嫌な感じではなく、柔和な表情とあいまって、常にニコニコ笑っているような、そんな良い印象をうける。

 そして、170センチ弱で背が高めの邑田に対してこの先輩の身長は目算で150前後。ヘタすればもっと小さいかもしれないというくらい小柄で、肩幅も小さくてとても華奢だ。

なにより違うのは胸のサイズで、まあ、言っちゃ悪いが、脱いだらもっと凄そうな邑田に対して、この先輩は、脱いでもほとんど何もないんだろうなという感じだ。

 いや、好きだけどね、あるのもないのも。

胸の大きい小さい関係なしに可愛い女子はみんな好きだけどね。


「そう…具合は大丈夫ですか?」

「え?」

「いえ、廊下を通りかかったら唸り声が聞こえて、教室を覗いたらあなたが机で苦しそうにしていたから様子を見に来たのですけど」

「あ…えーっと、それは…」

「それは?」

「入学初日にして、いきなり失恋しまして。それで落ち込んでいただけです」

「ああ……なるほど…それは辛いですね」


 隠してもしょうがない…というか、平気ですといっただけでは保健室に連れて行かれそうな気がした俺が正直に言うと、先輩は俺のすぐ側までくると「よしよし、いい子いい子」と口でいいながら俺の頭をなでてくれた。

 自分よりもかなり背の低い先輩にそうされるのは少し気恥ずかしいような、最近そんなことを女子にされていなかったせいで緊張するやら、微妙に懐かしいやら。


「ありがとうございます。ちょっと癒やされました」

「そうですか?それはよかったです」


 先輩はそう言って俺の頭から手を離して、離した自分の手を感慨深そうに見つめた。


「もう何年もこんなことをしていないから、うまくできるか不安だったのですけれど」

「いや、俺もそんなに頻繁に人の頭を撫でたりはしませんけど、そんなにスキルが必要なことじゃないとおもいますよ」

「頻繁にしない、ということは、たまにはどなたかにしているのですか?」

「ええまあ…」


 うちにはやたらと俺になついてくる、一つ年下の犬系妹がいるので、頻繁というほどではないが、わりと日常だったりはする。


「妹がいるんで、からかい半分、ねぎらい半分に撫でたりします」

「妹…そうですか。仲がよろしいんですね」

「ええまあ……仲はいいほうだとおもいますよ」


 去年の俺だったらここで『妹なんて』とか照れ隠しで言ってしまっていただろう。しかしそんなのは、ガキ丸出しだ。今年の俺は違う!


「妹さんのこと、大事にしてあげてくださいね。喧嘩してこじれてしまうと色々と大変ですから」


 そういった先輩の表情はこころもち悲しそうに見えた。


「はい」

「じゃあ元気そうですし、私はこれで」


 そう言って、踵を返した先輩は思い出したように「ああそうそう」と言いながら立ち止まり、振り返った。


「これから帰るのなら、悪質な部活勧誘には気をつけてください。美人局とまではいいませんけど、女子マネージャーを使って少しその…エッチな雰囲気を醸しだして勧誘をしようとする部が毎年あるので。あ、もちろん事件性のあるレベルで本当にそういうことがあるのではなくて、仮入部期間だけ異性を使っておだてて囲い込んで、お客様扱いして舞い上がらせたあとに、本入部後に本性を現す。なんてことがあるみたいで、毎年何件か問題になるらしいのですよ」


 美人局って言葉を聞いて、なんとなく俺の頭には邑田と杏平の顔が思い浮かんだ。

 いや、あの二人は別にそういうんじゃないんだろうけどさ。

 一応、自称正義の味方なんだし……いや、杏平は違うのか?どっちだっけ?途中からあんまり聞いてなかったけど。


「ありがとうございます。気をつけます」

「はい。ではまた」

「あ、先輩」

「なんです?」

「…その、先輩はそういう勧誘とかしないんですか?」


 この先輩にちょっとだけ興味が沸いた俺は、なんとなくそう尋ねた。


「あなたを、私がっていうことですか?」


 少し不思議そうな顔で先輩が首を傾げた。

 って、あれ?俺、何言ってるんだろう。これじゃ『俺を勧誘しろよ!即戦力だぜ!』って言っている変な奴みたいじゃないか。


「えっとその…あなたのお名前を教えてもらってもいいですか?」

「相馬です、相馬瑞葵といいます」

「相馬くん。つまり、あなたは私と一緒に働きたいということですか?」

「働く?部活とかじゃなくて?」

「え?」


 お互いに首を傾げた後で短い沈黙があった。


「ええと、すみません。先輩は何部なんですか?もしかしてボランティア部とかそういう…?」

「私の所属は部活動ではなくて、生徒会ということになってはいますけれど」

「ああ!そうか!生徒会長だ!」


 なんか見覚えあるような気がすると思っていたら、この人、入学式で挨拶してた人だ!


「そうですけど…それでその…相馬君は生徒会に入ってくれるということでよろしいんですか?」

「ええと……」


 まあ、特に入りたい部活もないし、さっき先輩が言っていたようなハニートラップに引っかかって上級生にこき使われたり面白半分にしごかれたりするのも嫌だし、無所属でふらふらしてるとまた邑田が一緒に正義を守りたがりそうだし……まあ、それもありか。


「……はい。よろしくお願いします」

「ほ、本当ですか!?本当に入ってくれるんですか!?」

「生徒会なんて大変そうなところで、俺みたいなとくに取り柄のない奴に何ができるかわかりませんけれど。それでよければ是非」


俺がそういうと先輩は駆け寄ってきて俺の手をとってブンブンとその手を振った。


「ありがとう!本当にありがとう!」


ここまで敬語を崩さず、比較的淡々としていた先輩は、年下の俺がこんなことを言うのもおかしいかもしれないが、歳相応の女の子のように嬉しそうに笑いながらぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「実は私、この間生徒会長になったんだけど、一緒に生徒会やってくれる友達なんていなくて。一応今日から相馬くんと同じ年のいとこ達が入ってくれる予定だったんだけど、私がひとりきりでいるのを見られたら『ああ、こいつ一人も人集められないんだー』って、そう思われたりしそうで、恥ずかしいなって…うう…思っててぇ…」


 感極まったのか、そう言って泣きながらも先輩は笑顔だった。


「だから……相馬君が入ってくれてすごく嬉しい!ありがとう!」

「いえいえ。まあ、お役に立てるかどうかはわかりませんけどね」

「大丈夫!きっと相馬くんにピッタリの仕事があるよ!」

「あるといいですけどね」

「あるある!大丈夫だよ!」


 そう言って胸の前でぐっと両拳を握ってみせる先輩は、重ねて失礼な言い方だが、先程までの淡々としたイメージの生徒会長ではなく、可愛らしい普通の女子生徒に見えた。

 多分、こっちが彼女の本当の姿なのだろう。


「ねえねえ、今日の予定は大丈夫?一緒に来てもらえる?あ、もし都合が悪いなら無理にはと言わないけど、その…」


 はっきり口に出しては言わないが『できれば来てほしいな』と、先輩の表情が語っていた。

 多分その幼なじみとやらは今日から来るのだろう。そして先輩はその幼なじみにドヤ顔で俺を紹介したいと、そういうことなんだと思う。


「大丈夫ですよ、一緒に生徒会室に行きましょう」

「ホント!?やった!じゃあすぐ行こう、早く行こう!今行こう…って、私ちょっとウザい?ウザいよね、ごめんね」

「いえいえ、そういうのも嫌いじゃないですから大丈夫ですよ」


 女の子の表情がクルクル変わるのは、見ていて楽しいし。


「じゃあ行きましょうか」


 授業が始まってもいない今日は特に身支度らしい身支度をすることもない

ので俺はそのまま立ち上がってかばんを持ち、先輩と一緒に教室を出た。


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