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家式学園正徒会活動報告書  作者: ながしー
レポート2 豪放ライラック

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レポート2-1 妹殺し

尾形りら。


一個年下のこの後輩は、よく気が利くし、美人でスタイルもいい。

 普段は先輩である俺達に対して一歩引いてくれているが、言わなくてはいけないことがあるとなれば、自分でその一歩を踏み出すどころか二歩、三歩と踏み込んできてしっかりと意見してくれるので、こちらも変な気を使わなくて良いところが非常に助かる。

 例えば先月の『茉莉ちゃんを相馬くんがひっかけた(柿崎談)事件』の時などは、普通の女子なら物怖じしてもおかしくない男の先輩である俺にたいしてかなり強気に露骨に嫌悪感をだしてきたりもした。


「どうかしました?」

「いや」


 先月のことを思い出して、俺が隣を歩いている尾形さんの顔を見ると、彼女は少し首をかしげてそう言った。

 なぜ俺が学校帰りに尾形さんと二人きりで歩いているのか、それの理由は1時間ほど前に遡る。


「あ…悪い相馬、明日からの合宿に持ってく服買い忘れてた。今日これから買いに行くから今日は生徒会室に行けない。悪いけど皆に言っておいてくれ」


 帰りのSHRが終わった後、隣の席の杏平は右手で俺を拝むようにしながらそう言った。


「いや、別に私服なんてなんでもいいだろ。それこそ学校ジャージでもいいじゃん」

「アホかお前は。他校の女子と知り合うチャンスなのにそんなダサいことできるか!」


 邑田から開放されたあの日依頼、杏平は女子に対する興味を全く隠すことがなくなった。隠すことがなくなったどころか、お前は発情期の犬か!ってくらい、女子女子彼女彼女言っている気がする。


「そんなに彼女欲しいならなんで邑田と付き合わなかったんだよ…」

「それは今のお前が一番よくわかっているはずだ」


 うん、そうだね。よくわかっているよ。確かに彼女は俺じゃなくてシチュエーションを愛している感じなので、どんなに好き好き言われてもちょっとその気になれない。

 それが数年来続いたということであれば、杏平のような気持ちになるのもわからないでもない。

 ………まあ、俺なんてまだ半月くらいなので、これはこれでいいかなー、付き合っちゃおうかなーとか思うこともあるけど。


「じゃあ杏平は今日欠席なー」

「おう、すまんな」

「あ、ごめん瑞葵くん。私も今日はお休みで」

「ん?邑田もなんかあるのか?」

「ほら、どうせなら初めての時は可愛い下着を着ていたいじゃない?」

「………」


 聞いてない 聞いてない、聞いてないからな!俺は何にも聞いてないからな!

 というか、八人部屋なのに皆の前で何する気なんだ、こいつは。


「待て邑田。俺達はまだ知り合って一ヶ月くらいしか経ってないじゃないか。しかも別に正式に付き合っているわけでもない。それをそんなお前…」

「香華さんが、一度あったら恋人候補で毎日あったら恋人だって言ってたから!」

「ポジティブな恋愛観だなおい!」


 というか、色々焦りすぎじゃないですかね、香華さん。


「だから私と瑞葵くんはもう恋人だよ!」

「その理論だと、杏平とは俺とどころじゃない深い関係ってことになるだろ」

「大丈夫。それ聞いたの先週だから杏平くんは関係ないよ!」

「だからなんなのその無駄なポジティブ思考!おい、杏平…って、いねえ!」

「杏平くんならさっき帰ったよ?」


 あんちくしょう。こんな状態の心友を放置して帰るとか鬼か!

 と、とにかくこの場を切り抜けなければ。ただでさえ最近相馬くんは邑田さんを弄んでいるとかいう根も葉もない…でもないけど、噂がまことしやかにクラスの女子の間で流れているんだ。こんなところでこれ以上噂の種になりそうなやり取りをするのは得策じゃない。


「よし、わかった邑田」


 俺は勇気を振り絞って邑田に一歩近づき、邑田にだけ聞こえるくらいの小さな声で口を開く。


「楽しみにしているからしっかり下着を選んできてくれ」

「…うん!私、瑞葵くんのためにしっかり勝負下着を選んでくるね!」


 なんで大きな声で言っちゃうんですか邑田さん…。




「お疲れ様です!今日もよろしくお願いしま…って、どうしたんですか先輩」


 俺が生徒会室の椅子に座って両手で顔を覆ってシクシク泣いていると、一人でやってきた尾形さんがそう言って俺に駆け寄ってきてくれた。


「聞いてくれるか尾形さん」

「あ…なんだ、嘘泣きだったんですか」


 そう言って尾形さんはシラーっとした目で俺を見ながら差し出しかけていたハンカチを制服のブレザーにしまった。


「聞いてくれるか尾形さん!」

「やり直さなくても聞きますけど、どうせまた邑田先輩か椿先輩のことなんじゃないんですか?」

「そうなんだよ!邑田が―――」


 俺が教室での顛末を話し終えると、尾形さんは大きなため息を一つついて「やっぱり」とつぶやいたあと、ポットの方へと歩いていき、二人分の珈琲を入れて戻ってきた。


「なんというか、ですね」

「はい」

「私って、こう見えても中等部なんですよ。邑田先輩と相馬先輩の生々しいイチャイチャ話をなんて、中等部のいたいけな後輩に聞かせる話じゃないとおもいませんか?」

「じゃあ椿先輩のほうの話を」

「いや、そっちももうお腹いっぱいなので結構です」


 はっはっは、先輩ははっきりものを言う子は嫌いじゃないぞ。


「というか、なんだかんだと言っていますけど、相馬先輩がどちらかを選んでしまえば少なくとも、片方の問題は解決しますよね。なんで付き合わないんですか?」

「邑田はシチュエーションが好きなだけで、別に俺のことを好きなわけじゃない」

「そこで頑張って自分のことを好きにさせるって選択肢はないんですか?あ…ないか、ないな。ないからグダグダ悩んでるんだもんな」


 遠慮ないなあ、尾形さん。


「はあ…じゃあ椿先輩のほうはどうなんです?あの人は相馬先輩という餌を与えておけばおとなしくなると思いますよ?」

「表現が怖ええよ!………椿先輩はほら、刷り込みってやつだと思うし。そもそも俺と椿先輩じゃ身分が違うわけで」

「はいはい。言うと思った」


 そう言ってうんざりといった表情で手をひらひらさせた後、尾形さんは自分で淹れてきた珈琲に口をつけた。


「じゃあもういっそ柊先輩とくっついちゃえばいいじゃないですか」

「だからなんで俺と宮本をくっつけようとするの!」

「えー…お似合いだと思いますけど」

「ないない、宮本とはないから!」


 確かに顔の作りはいいし、柿崎がいつもくっついてるせいか、ふわっといい匂いがすることもあるけどそれくらいで宮本と付き合おうとは思わない。

 怖いし。というか男だし。


「聞いてもらったらちょっとスッキリしたからその話はやめようか」

「ほんとに自分勝手ですよね、相馬先輩って」

「あんまりキツイこと言われると先輩だって泣くからな!?」

「いつも泣いてるじゃないですか」

「だからキツイこと言わないでもらえませんかね!?」

「はいはい、じゃあ椿先輩達が来るまでなんの話します?」

「ん?そういえば今日はぼたんは?」

「あしたからしばらく合宿でこっちに戻ってこられないから、少し溜まっている仕事を片付けておきたいって言ってましたよ」


ああ。そう言えばあいつも家式の関連企業で役職についているんだっけ。


「そうか。それじゃ今日は俺と尾形さんの二人だな。宮本達は俺がメソメソしているのを見て溜息ついて帰ったし、椿先輩もぼたんと同じで仕事だって言ってたから。あ、そうそう、椿先輩から買い物頼まれてるから、それ行かないと」

「………」


 だからなんでぼたんみたいに胸を隠すジェスチャーするの?先輩別に何にもしないよ?




 と、まあこんなことがあって、あんまり俺と居たくないだろう尾形さんと別れて一人で買い出しに行こうと思っていたのだが、なぜか尾形さんはついてくると言い出し、買った荷物を持つのも分担してくれた。

 もし緋奈と一緒に買い物いったりすると全部持たされるので、こういうのはちょっと新鮮だ。


「変な顔してどうしたんですか?」

「元々こういう顔なんだよ」

「あ、そう言えばそうですね」


 先輩泣くよ!?


「で、どうしたんですか?私の顔じっと見て」

「いんや。こうしてへんなフェミニズムに染まらず自発的に荷物を持ってくれる年下の女の子っていいなって思ってさ」

「先輩はそういう子のほうが好きなんだと思っていたんですけど違うんですか?」

「頼られて全部持たされるのは別に嫌いじゃないけど、それが当然って思われるのはちょっと嫌かな。お礼くらいは言われたい」

「妹さんはそういう子なんですか?」

「お礼とかは言ってこないけど、それなりにご褒美がもらえるので緋奈はOK」

「ご褒美?」

「緋奈の買い物に付き合った日の夜は肩をもんでくれたりとかな」

「え、嫌です無理です、椿先輩に睨まれたり邑田先輩にちょっと校舎裏にこいみたいに言われるの無理なんで肩もみとかは勘弁してください」

「いや、君自分で持ってるじゃん。むしろ俺が感謝を込めてもんであげたいくらいだよ」

「………あ。はは…そういうの、間に合ってるんで」


 だから先輩泣きそうだってば。


 そんな馬鹿話をしているうちにいつの間にかウチのそばまでやってきていた。


「俺の家、すぐそこだし寄ってお茶でも飲んでく?どうせ両親遅いし、よかったらってくらいのもんだけどさ。どうせ迎えの車が来るまで待たなきゃいけないだろ?」

「え?迎えなんて来ませんよ」

「え?なんか馬鹿みたいに長い自家用車で通学しているんじゃないの?」

「ぼたん先輩が一緒に乗せてくれることはありますけど、ぼたん先輩が忙しい時は徒歩通学ですよ。聖ポリも皆がみんなすごいお嬢様っていうわけでもないですし」

「徒歩なんだ…じゃあ送っていこうか?もうすぐ日も暮れるし、暗くなりかけの時間帯に女の子の独り歩きってのも物騒だろ?」

「いえ、私の家は4区画先なんで、送ってもらったりしなくても大丈夫ですよ」


 徒歩で言えば5分くらい。そしてそのあたりには少し前に建った高級マンションがあるので、おそらく彼女の住まいはそこなのだろう。


「意外と近所なんだな。じゃあ、もし何か困ったことがあったら言えよな、ご近所のよしみでなんとかできることはするから」

「今なんでもするって言いました?」

「できることだけな」


 なんか調子に乗って無茶なこと言われそうだったので、俺は念を押す用にそう言って尾形さんの頭をポンポンとなでた。


「ふむ…これが噂の」

「噂の?」

「ぼたん先輩が気持ちよかったと言っていた相馬先輩の頭ポンポン」

「え、あいつこれ好きなの?」

「妹属性を持つものを隷属させる魔法かなんかなんじゃないですかそれ。かくいう私もちょっとポーッとなりましたよ」


 いや、尾形さんすごい真顔だし、全然そんな風に見えないんだけど。










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