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家式学園正徒会活動報告書  作者: ながしー
レポート1 正徒会
17/31

レポート1-17 女三人あれば身代が潰れる

「手加減失敗してさーせんでした」


 先週に引き続き居残りをした俺の前で、みつきさんはぶーたれた顔でおざなりな謝罪をした。


「なんで手順を全部忘れちゃうんですか…」

「まあほら、私も年だなーなんて」

「それにしたって、俺のジェスチャーにOKしたのになんだってあんなことをしたんです?マジであんたの血筋絶えるところでしたよ!?」

「え?いや、ジェスチャーのとおりにはしたじゃん」

「どこがですか!」

「え?だって、瑞葵のジェスチャーって(邑田の件)(杏平が)(あっちにいるから)」


 みつきさんはそう言いながら見事に俺のジェスチャーを再現してみせる。

 その見事な再現っぷりを見ている限り、年取って記憶力が怪しいというのはどうやらその場しのぎの言い訳のようだ。


「(この際俺が邑田を嫁にするので)(こっちに攻撃をよろしく)でしょ?」

「ストーーーーーーーップ!言ってねえから!そんなこと言ってねえから!杏平と俺の位置が入れ替わったら攻撃よろしくだから!」

「まあいいじゃん。可愛い嫁ができたんだし」

「滅多なこと言うのやめてください要さんに殺される」

「えー?要のシスコンなんてかわいいもんだから大丈夫だって。もっとひどいシスコンの人も昔いたけど、妹の彼氏殺すところまではいかなかったし」

「じゃあどこまでなら行ったんですか」

「彼氏が帰ると必ず塩撒いてた。あと、有る事無い事吹き込んでしょっちゅう妹と喧嘩してた」

「うちのご先祖ってそんな人ばっかりなんですか……」

「いや、うちじゃなくて、茉莉のご先祖様だよ」

「より駄目じゃないですか!」


 邑田のとこのご先祖様ってことは、つまり要さんにもその素養があるってことなわけだし。


「まあまあ、命まではとられないからだろうし、きらいじゃないでしょ?巨乳」

「嫌いとは言わないけれども」

「だよねえ、うちの親父も好きだったし、旦那も私が成長してからアタックがすごくってさあ。中学の頃から薄々『あ、こいつ私の事好きだな?』ってわかってはいたんだけど」

「身内のそういう話聞きたくないんですけど!…っていうか、みつきさんっていくつなんですか?」

「だから500歳オーバーだってば。レディの年を聞くもんじゃないよ?」

「そういうことじゃなくて」

「あー、私の人格がいくつの時にここにコピーされたかってこと?それなら25だよ。だからまあ、正確には525歳かな。ちなみにこの姿は18歳の時の私をモデリングしたものなんだ」

「ご結婚は?」

「してたよ。子供も二人いた」

「そっすか…」


 それってどんな気持ちなんだろう。コピーの人格とはいえ、二人の子供と引き離されてこんなところに一人で閉じ込められて。


「おっと、なんか勘違いしているっぽいから言っておくと、子供にはしょっちゅう会ってたから別に寂しくなかったよ」

「は……?」

「我ながらどうかと思うけど、生身の私がしょっちゅう託児にきてたから、顔も合わせてたんだよ。で、思い切り甘やかしたりしてた」

「返して!俺のちょっと感傷的になってみつきさんに同情しちゃった気持ちを返して!?」

「それでも自分を追い越して大人になっていくのを見るのはちょっとさみしかったけどね」

「みつきさん……」

「まあ、でもさ、そんな私を追い越しちゃった子孫が子供の顔を見せに来てくれたりすると嬉しいんだ。だからあんたも茉莉と幸せな家庭を築いて、孫の顔を見せに来てよ」

「みつきさん…………その手には乗りませんよ?」

「チッ、バレたか」


そう言ってすごい表情で舌打ちをするみつきさん。


「まあ、でも今日俺達が勝ったことで、地下二階に行けるんですよね?」

「ん、まあ今のあんたたちなら大丈夫でしょ……今の実力なら二階に行っても馬鹿にされないだろうし」


 ん?どういうことだ?地下二階のモンスターは知能が高くてレベルが低いとバカにしてくるのか?


「えっと、どういうことです?死ぬとかじゃないんですか?」

「皆には今度改めて話すけど、ここから地下二階降りる分には特に命の危険はないのよ。というか、ここから降りてすぐのところは街中だから、むしろ上野-浅草間より安全だと言えるわ」

「え…じゃあ俺達に嘘をついてたんですか?なんで?」

「正徒会ってさ、実は街々にいるのね。街々っていうか学区ごと。あんたたちの学校のあたりはほとんど商業区域であんまり学校がなくて、それであんたのところとぼたんのところの学校で1パーティなんだけど、場所によってはもうちょっと人数がいたり、りらみたいに中等部から参加している子なんかも結構いるの。だから、今年から始めたレベルの低いあんたたちが下に行くと『こいつら年上なのに弱ぇー、プークスクス』みたいな感じになったりするわけよ。それはあんたたち的に面白くないだろうし、少しレベルを上げさせてから下に行かせようと思って、ああいう脅しをしたわけ。ぶっちゃけちゃうと、この階に出ている敵は全部私の魔法だから、退治してもしなくても別に構わないもの…というか、うちだけじゃなくて、どこもチュートリアルよ、一階は。ちなみに去年は柊のせいで、そのチュートリアルすらクリアできずに終わっちゃったけど」

「つまり、別にレベル1の状態で下にいっても何ら問題なかったと?」

「行くだけならね。まあ、二階以降は誰の魔法でもないから、レベル1で街の外に出ると死ぬけど」


 悪びれもせずにみつきさんはそう言って笑う。

 ちなみに今日時点での俺のレベルは12。最高が宮本の25で、一番レベルが低い先輩が8………あれ?なんであの人あんなにレベル低いんだろう。

「まあ、春の連休前に私を突破できたことで、連休中は下で合宿もできるし、大幅にレベルアップするチャンスだから、本当に地下三階以下まで行く気なら頑張りなさい」

「……え、連休も正徒会の活動ってあるんですか?」

「良いじゃないのよ。かわいい彼女と一つ屋根の下で過ごせるんだから」

「だから彼女じゃないですって。……あの、みつきさん、まさかとは思いますけど、要さんと連絡とっていたりしませんよね?」

 みつきさんから要さんに余計なことを告げ口されてしまうと、色々面倒なことになること間違い無しだ。


「残念ながらしてないわよ。あいつ全く顔見せないから今の連絡先も知らないし」

「あ、ちなみにみつきさんはメールとかできます?」

「ん?できるよ。霊子メールでしょ?」

「じゃあ俺のアドレス教えておくんで、寂しいときとかは連絡してきてもいいですよ。返事するかどうかはわかりませんけど」

「……フフ…うちの子孫が優しい子で安心したよ」

「だから返すかどうかはわからないって言ってるじゃないですか」

「はいはい。じゃあ私は返事がもらえるように、孫の助けになるようなメールの一つでも送りますかね」


 そう言ってみつきさんは楽しそうな表情で俺のアドレスを書き留めた。



 アドレスの交換を終えた俺が雷門まで戻ってくると、雷門にもたれかかって所在なさげにしていたぼたんが俺に気づいて駆け寄ってきた。


「おかえり」

「え?ああ、ただいま」

「何を話してたの?」

「作戦失敗についての反省会だよ。あと地下二階の秘密を教えてもらってきた」

「秘密?」


 俺がみつきさんから聞いた地下二階の話をすると、ぼたんは「なるほどね」と言って笑った。


「つまり今月のレベル上げはみつきさんの親心だったってわけだ」

「そういうことらしいな。まあ、親心か、他の一階守護者の手前、見栄を張りたがったのかはわからないけど」

「ほんっと、あんたって素直じゃないわね。それはそれとして、どうだったの?」

「…何がだ?」

「あんた気絶しているみつきさんを指差して『こいつに文句言ってやる』とか言ってたけどみつきさんの身体を心配して残ったんでしょ?茉莉が跳ね返した魔法が直撃したから」

「………なんか、ぼたんは悪い男に騙されそうだよな。あんまり性善説を信じ込んでると――」

「まあ、あんたのその態度をみるに、みつきさんはなんともないんだろうけどさ」

「う…ま、まあピンピンしてるから大丈夫だよ」

「あとね、私はどっちかと言えば性悪説を支持してるのよ。その私があんたは善人だって言ってるんだから、もうちょっと素直に喜びなさいよ」

「わーいうれしいなー」

「本当に腹立つわねあんたは!」


 まあ、狙ってやってるからな。


「はぁ…で、何をはぐらかそうとしてるわけ?」


 ………こいつなんでこんなに勘がいいんだ。


「別に何も。地下二階への入り口は聞いてきたから、明日からはみつきさんのところまで行かなくてもいいんだってよ。ほら、そこに風神と雷神がいるだろ、パーティのうち二人が風神雷神のモノマネをするとゲートが開くっていう寸法らしい」

「ふーん、ちょっとやってみる?」

「おう、いいぜ。俺雷神な」

「わかったじゃあ私が風神ね。せーの!」


 掛け声をかけた後、ぼたんはしっかりとポーズを決めてみせるが、俺はスルーした。


「って、やりなさいよ!」


 そう言って風神も真っ青な恐ろしい表情でぼたんが殴りかかってくるが、もちろんこの一月でレベルアップしている俺はその攻撃を受けたりしない。

 ぼたんの両手首をしっかりと掴んで攻撃を封じる。



「いや、だって恥ずかしいじゃん」

「その恥ずかしいことをあんたは私にやらせたのよ!」


 この一月レベルアップしているのはぼたんも同じらしく、ぼたんは両手に力を込めて押し切ろうとする。


「はーなーしーなーさーいーよー」

「いーやーだー離したら絶対攻撃する気だ」

「一発殴るだけだから」

「叩くじゃなくて殴るとか恐ろしい事言うやつの攻撃なんて受けられるか!」

「どっちにしたってやられるんだからおとなしく一発殴られなさいよ。っていうかべつにこっちは腕を封じられていたって攻撃できるんだからね」

「ふ…やってみろよ」


 どうせ頭突きなんだろうが、俺は昔クラスでやった頭突き王決定戦の王者だ。そんな俺に頭突きなんかすればぼたんのほうが返り討ちになる。


「いいのね?」

「おう、どんとこ……いっ…」


 俺が言い終わる前に下半身。いや、正確には股の下に衝撃が走り、その後、ヘソのすぐ下に激痛。追って、腹痛とも吐き気ともつかない不快感が俺を襲う。


「おま…え…なんて…こと…を…」


 別に物理的に上に上がっているわけではないが俺はその場でぴょんぴょんと無様に飛び跳ねる。


「なによ。あんたがいいって言ったんでしょうが」

「い、言ったけどお前…これ…うう…お婿にいけない…」

「だったら私がもらってあげるから安心しなさいよ」

「……え?」

「あ、違う違う、そういう意味じゃなくて。もしものときは責任取る…じゃなくて、あ…ほら、金ならあるし。いざとなったら女の子になっちゃえばさ」

「…お前、そっち系なの?」


 まあ、宮本と柿崎の件もあるし、別に俺は良いと思うけど。


「まさか、尾形さんと…」

「違う!私はストレートだし、その話はおしまい!で?みつきさんに何言われて、何を隠しているの!?」

「隠してないって」

「要兄に今日のあらましを報告しようか?」

「すみませんでした来月の連休は僕ら皆で合宿しなさいって言われました。っていうか、その場で地下二階に連絡して宿も取ったからって言われました」

「あら、いいじゃないの。地下二階ってどんなエリアなんだろう。美味しい料理とか出てくるのかしら」


 ぼたんは能天気にそんなことを言うが、こいつは問題を正しく認識していないからこんな能天気でいられるんだ。


「あのな、ぼたん」

「ん?」

「5月の連休はどこの正徒会も合宿シーズンらしくて、地下二階にある宿屋の部屋に空きが少ない」

「うん」

「つまり、こんなギリギリで予約しようとしてもかなり難しい」

「うんうん」

「とはいえ、みつきさんの顔で取れたには取れたんだが、俺達は8人部屋だ」

「うんう……うんっ!?」

「男女8人が狭い部屋で押し合いへし合い何泊もすることになる」

「…………」

「つまり寝起きを俺や杏平、柿崎や宮本に見られるというわけだ」

「……………ハッ!?」


 だからなんなんだ、その大してありもしない胸をかばうようなジェスチャーは。

 

「だから、この話は聞かなかったことにして、おとなしく毎日毎日足繁く地下二階に通おうぜ」

「そうね、これは私達の胸に秘めておいたほうがいいわね」

「そうだろう?」

「そうはいかないよ!」

「話はバッチリ聞かせてもらいました!」

「だ、誰だ!」

「いや、茉莉とお姉さまでしょうが」


もちろんわかってるけどな。

ちなみに、振り返ったら案の定メロンパン先輩とケーキ邑田が立っていた。


「仲間との絆を深められる合宿の権利を捨てるなんてとんでもない!」

「そうだよ!せっかく相馬くんと既成…長く一緒にいられるチャンスなのに!」


 邑田、お前今なんて言おうとしたんだ……。




 


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