レポート1-14 人形焼とメロンパンと… 2
ぼたんが先輩を変に煽ったせいで、結局俺と先輩の間ですら微妙な空気になった。
当然そんな状態でみつきさんに挑んだところで勝てるはずもない。
みつきさんを抑えに飛び込んだ俺の頭上に柿崎が現れ、俺は見事なかかと落としを食らいダウン。次に襲いかかった邑田と宮本はみつきさんにいなされて頭をぶつけてダウン。尾形さんと杏平は、ぼたんの影人間で押さえつけられたみつきさんにむけて魔法で作り出したナイフやら氷の塊を放つが、みつきさんが「はぁっ!」っと、一声叫んだだけでナイフも氷も地面に落ちてしまった。
……まあ、柿崎だけはわざとだろうと思ってるけど。
「なんでレベル上がったのに前より弱くなってんのあんたたちは」
みつきさんがそう言ってため息をつく。
「特に君だよ、相馬瑞葵くん」
「え?俺?」
「そう、みんなチグハグだけど、特に君を中心にしておかしくなっている」
すげえ!そんなことまでわかるのか、500年も生きてるとやっぱり違うなあ。
「フッ、どうやら当たりのようね…………ラッキー」
「え?」
最後の方はよく聞こえなかったけど、なんか心持ちホッとしてないかこの人。
「な、なんでもないなんでもない。じゃあ君だけ残ろう。他のメンツは解散ねー」
そう言ってみつきさんがパンパンと手をたたくと、どこからともなく前回俺たちを送っていってくれた影人間の人力車が現れ、車夫がみんなを人力車に放り込み始める。
「ちょ、ちょっと待って下さいみつきさん、私には彼を守る責任が…」
先輩はそう言って人力車から降りようとするが、すぐに車夫に押し込まれてしまう。
「そういうのは、戦いに参加できるようになってから言いなさい」
「う……」
そう言えば、先輩は前回も今回もみつきさんとのバトルに参加してなかったっけ。
…というか、俺、先輩の持っている魔法がなんなのか知らないな。
「はい、じゃあまた来週~」
みつきさんがそう言ってパンと手をたたくと、みんなを乗せた人力車が一斉に走りだした。
って、あれ?なんでぼたんの影人間が一体だけ残ってんだろ。まあ良いけど。
「さて、瑞葵くん、いえ。あえて瑞葵と呼ぼうか。一体何があったのか、お姉さんに話してみ?」
500年存在している魔法少女が果たしてお姉さんと言っていいかどうかはわからないが、このことはもともと大人である丁香花さんに相談するつもりだったし、別に良いか。
「実はですね――」
ある程度端折ったものの、俺がこの数日間で俺がやらかしたことや不幸な行き違い、ぼたんの無駄な先輩煽りなどについて話し終えると、みつきさんは神妙な顔で俺をじっと見つめながら口を開いた。
「瑞葵の姓って、間違いなく相馬だよね?というか、間違えるはず無いんだけど、邑田じゃないよね?」
「え?なんでそこで邑田がでてくるんですか?……あ!もしかして、邑田のお兄さんと俺が似ているとかっていう話のことですか?」
「ああ、そうか。要に似てるのか…まあそれもなんだけど、クソ親父というよりはお兄ちゃんに似てるんだよなあ…どっかで混じったのかなあ…」
なんかブツブツ言ってるけど、俺はクソ親父って年じゃないと思う。
「あの、みつきさん?一体なんの話しをしているんですか?俺はクソ親父ってほど年じゃないし、邑田のお兄ちゃんとかでもないですよ」
「あー…そうじゃなくてね。君は私の子孫なわけだ。だから話を聞くにしても聞きやすいだろうと思って残したんだけど」
「ああ、なるほ…………ええええええっ!?」
「私のフルネームは相馬みつき。クソ親父っていうのは、私の父親の相馬陽太のこと」
ちょっとまて、500年前のこの人が俺の先祖っていうことは、大体25位で子供を産んだとして…500÷25で…
「つまり、みつきさんは、俺のひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいひいばあちゃんってこと!?」
「どういう計算したかはなんとなくわかったけど、まあ大体そんな感じよ。ちなみにクソ親父は変に女の子を引きつける力があって、色々面倒事があったんだけど、瑞葵の場合は、むしろ茉莉のご先祖様に近いなって」
「え?どういうことです?」
「…自覚しているのに見て見ぬふりしてるところがそっくりってこと。ああ、これは要にも当てはまるね」
「意味がわかりません」
「………まあ、良いけどさ。ぼたんはどう思う?」
みつきさんが未だにその場に残っていたぼたんの影人間にそう問いかけると、影人間はびくっと痙攣してから、ぼたんの姿に変化した。
「まあ、私もそう思わないでもないですけど」
「だよねえ」
なんで二人してやれやれって顔で首を振っているんだろう。
「というか、なんで私だってわかったんですか?」
「いや、むしろなんでペラペラの自分と厚みのある影人間でバレないと思ったの?」
「ツメが甘いな、ぼたん」
「あんたに言われたくはないわよ!同時進行するなら、バレないようにしっかりやれってのよ!」
「同時進行?マジで意味がわからん」
「ぼたん、こいつ天然かクズかのどっちかだからまともに相手すると疲れるよ」
「ああ、たしかに……」
酷い言われようだった。
「…まあ、でも問題は理解できたわ。瑞葵、あんた椿と茉莉どっちがいいの?」
「えッ!?」
「どっち?そこをはっきりしてあんたの立ち位置を固定すれば問題はなくなるのよ。どっちを選ぶ?なんだったら、少し位のお膳立てはしてあげないこともないわよ。私も新しい孫の顔が見たいし」
「いや、そんなこと言われても……」
確かにみつきさんの言うとおりそれをはっきりさせれば少なくとも柿崎の『自分のところに介入される恐れ』という誤解は解けるし、例えば邑田を選んで杏平と対決するにせよ、椿先輩を大事にして邑田についてはもう関わらないという立場を表明するにせよ、尾形さんの誤解も解けるだろうし、そこによって杏平とどうするかというのも自ずと固まってくるので今のような、距離があって話せない状況よりは良くも悪くも事態は動くはずだ。
だが、先輩も邑田も知り合ったばかりで、しかもふたりともお金持ちのお嬢様なのだ。そんな相手を「俺が選ぶ」なんていうのは身の程知らずもいいところだろう。
「っていうか、孫の顔とかそういう話やめてくれません!?俺まだ15ですよ!?」
「んー…人口減った時代はもっと早く結婚したり出産したりしている子もいたけどね」
「今はいい感じに人口が推移しているからもっと晩婚なんです!」
「なるほど、今は晩婚なんだね。どうりで要と香華がいつまでたっても子供の顔を見せに来ないわけだ」
「…え?」
「…は?」
「ん?何を驚いた顔してるの?」
「いや、要さんって、邑田のお兄さんで、香華さんは丁香花香華さんですよね?」
「そうよ」
「香華さんは独身で、要さんは結婚してるって聞いてますけど…?」
俺がそう言ってぼたんのほうに視線を送ると、ぼたんもコクコクと頷く。
「……まあ、色々あるよね。若いうちは」
「なんかすっごい気になるんですけど!」
具体的には、なんか丁香花さんの弱みを握れそうなのでその話超気になるって意味だけど。
「まあ、ほら。あんたが今椿と付き合ってても、10年後にはぼたんと結婚してるかもしれないし、相手は茉莉かもしれないし、柊かもしれないってこと」
最後のはねえよ。なんでみんな俺と宮本をくっつけようとするんだよ。
「まあ、ぼたんと邑田はともかく、宮本はないですよ」
「あれで結構可愛い所あると思うんだけどねえ」
「いや、俺はそっち系の趣味ないです。というかそういう話はぼたんだって迷惑だろうからやめてくださいって」
「そ、そうですよ!」
「はいはい。そうですね、邪推でしたごめんなさいねー」
みつきさんはそう言ってわざとらしく肩をすくめてみせる。
「で?どうするの?」
「選びません!というか、選ぶ立場にないですから!先輩とは友達だし、邑田とはクラスメイトです。邑田については踏み込みすぎたっていうのは認めますけど、だからって邑田を選んでやろうなんて偉そうなことは言えないです」
「あれ?あんた初日に茉莉に惚れたとか言ってなかった?」
「い…いったけど、あれはその…」
おっぱいであたまがいっぱいだっただけで。
「うわあ…」
「え?どうしたんですか、みつきさん」
「いや、心を読んだんだけどね、あの日は茉莉ちゃんのおっぱいで頭がいっぱいだったんだってさ」
「うわぁ…」
こいつ、超能力者か!?…って、魔法少女だった。
「違うんです、ごめんなさい!邑田の胸があまりに大きかったんで、うわっすげえなってなったんです!それだけなんです。告白する前にフラれたっていうのも、あんまり本気で言ってたわけじゃないんです!ちょっと落ち込んだりもしたけど俺は元気だったんです!」
「じゃあ、つまり別に茉莉のことは好きじゃないの?」
「いや、知り合いとしては好きだけど、恋人どうこうっていうのは正直よくわからない。椿先輩も愛すべき先輩だけど、恋人とか、そういう意味で愛する対象なのかっていうのはよくわかんない」
「子供だなあ…」
「ガキね」
「しょうがないだろ!?俺は今まで女の子と付き合ったことなんかない、どう…」
危ない。また勢いでとんでもないことを言うところだった。
「うん…まだ童貞でも良いんじゃないかな。私はむしろ安心したよ?」
「ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!」
みつきさんやめて!?人の心を読んでおいて、エロ本を見つけたときの母さんみたいな変に優しい顔するのやめて!?
「あ、あんたまさか、私やりらのこともそういう目で見ているんじゃないでしょうね!?」
そう言ってぼたんは胸をかばうが、先輩よりはあるにしても、そこにはかばうほどの胸はない。
「いや、まあ、尾形さんは最初やばかった」
「りら「は」ってどういうことよーーーー!」
ぼたんはそう言って俺の両頬を思い切りつねりながら横に引っ張る。
「痛い痛い!違うんですぼたんさん、違うんです、初対面でお姉ちゃん思いな所を思い切り見せられて、同じく妹を愛してやまない俺としてはぼたんさんは親友枠なんです、こころの友と書いて心友なんです!だからそういう対象じゃないんですぅ、ある種の聖域なんですぅ!」
「…そ、そういうことならしょうがないわね」
そう言って俺の頬を開放してくれたぼたんの表情は、なんとなく嬉しそうに見えた。