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家式学園正徒会活動報告書  作者: ながしー
レポート1 正徒会
13/31

レポート1-13 人形焼とメロンパンと…

宮本と柿崎に相談をした夜からなぜか突然やってこなくなったメイドさんを思い、寂しさで枕を濡らすこと数日。

一応、空き時間でのレベル上げはしていたものの、それぞれ忙しく、すれ違いになってしまっていた正徒会メンバーは週末になってようやく予定を合わせることができた。


「なんだか久しぶりですね、相馬くん」

「そうっすね」


 現在、ニコニコ笑いながら俺に対してフレンドリーに話しかけてきてくれているのは椿先輩のみ。

あの日以来、邑田とはなんとなく気まずくなってしまい、その余波で尾形さんともぼたんともなんとなく距離が開いてしまったし、杏平は微妙に俺とも邑田とも距離を取っている。

 さらにあれ以来、宮本は普通なのだが、宮本に近づこうとすると柿崎が威嚇してくるようになったのでそっちのふたりとも距離が開いてしまった。

 まあ、全部俺のせいだけど。


「あの…」


 振り返ると、椿先輩が口元に手を当てて耳をかせというジェスチャーをしてきた。俺が耳を寄せると、椿先輩は


「…もしかして、いじめですか?」


 と聞いてきた。

 あんまり面白くない冗談だなあと思いながら耳を離して先輩を見ると先輩の表情はすごく真剣で、冗談を言っている風でも茶化している風でもなかった。

 ……つまり、どうやら俺はいじめられてこそいないものの、しばらく一緒に活動していなかった人間からみると完全に浮いている状態らしい。


「そういうんじゃないですよ。ちょっとした行き違いです」


 そう。そういうのではない。これは特に解決策を持たないまま人と人の関係を引っ掻き回した俺の自業自得であって、他の誰かのせいではないのだ。


「よかった…また私のせいで相馬くんがいじめられたのかと…」


 そう言ってほっとする椿先輩。

 もしかしたら、むかし、例えば丁香花さんが先輩のメイドになる前には先輩には友だちがいて、過去にそういうことがあったから、今の先輩には友だちがいないのかもしれない。

 


「ところで椿先輩」

「はい?」

「丁香花さんって、最近夜はどうしてます?」

「……どういった意味あいの質問でしょう?」

「いえなんでもないですふかいいみはないんですごめんなさい」


 え?何?なんで先輩いきなりキレてんの?首を傾げて笑顔のまま目を開けてこっちを睨んでくるのとか、すごく怖いんですけど!?


「夜に、香華となにか?」

「なにもありませんなんでもないですごめんなさいいろいろあっておとなのひとにそうだんしたかっただけです」

「そうですか…香華ならここ数日は休暇を取って休みです。確か、昔の仲間に会いに行くと言っていましたが、全国に散らばっているのでしばらく戻らないと思います」

「あ、そうなんですか」


 それならここ2、3日夜の訪問が無いのも納得だ。


「昔の仲間ってことは邑田のお兄さんとかですか?」

「要さんはこの街から出ることは殆ど無いから、他のメンバーですね…って、どうして相馬くんが香華と要さんの関係を知っているんですか!?」


 だからその顔やめてください先輩。


「み、宮本に聞きました」

「あ、なんだ。私はてっきり香華の悪い癖が出て、相馬くんに手を出した後、寝物語にでも聞かされたのかと」


 俺の答えに安心したように、椿先輩はほっと胸をなでおろした。

 とはいえ、その予想、実は当たらずとも遠からずです。先輩。まあ、手を出す→物理的な意味 寝物語→冥土の土産 って感じの意味合いだけど。

 っていうか、先輩って意外とそういう話いけるクチなんですね。




 ダンジョンに潜り、もうすっかりおなじみになった過去の街の風景を眺めながら浅草に向かって歩いていると、トントン。と肩を叩かれた。

 振り返るとそこには、等身大の大きさのペラペラの紙人形のようなものが立っていて、顔に『仲見世に着いたらちょっと来て』と小さく書いてあった。

 なんやかんや理由をつけて集まりに来なかったが、どうやらぼたんの奴はこの数日間ただサボっていたというわけではなさそうだ。


 ぼたんの提案で、俺達はみつきさんとの再戦の前に、仲見世で少し休憩することにした。

それが決まると、この間と同じように、チャンスとばかりに邑田はケーキを、先輩はメロンパンを取りに商店街に消え、それを見届けた後、俺はぼたんに引っ張られて路地裏へ。


「どうしたんだ?何か用事か?」

「どうしたはこっちのセリフよ。りらの説明は要領得ないし、茉莉はなんか変だし。婚約者の方もよそよそしいし…というか、あんた浮きまくってるじゃないの」

「んー…まあ、俺の自業自得だ」

「そんなことはわかってんのよ。何があったかを話せって言ってるの」

「いや、だって話したらお前絶対怒るじゃん」

「怒られているうちが花よ。好きの反対は嫌いじゃなくて、無関心なんだから」

「う……まあ、なんというかだな…」


 俺がかいつまんでここ数日の経緯を話すと、ぼたんはため息混じりに口を開いた。


「なにそれ。茉莉と婚約者はわかるけど、りらも楪も関係ないじゃないの」

「そう言ってもらえてうれしいけど、関係ないってこともないかなと」

「関係ないわよ。特に、楪は人の恋愛に首突っ込むなって言っておいて、自分は首突っ込んであんたを敵視しているわけでしょ」

「誤解があったら申し訳ないんだが、柿崎は別に邑田のことがあったから俺を適ししているわけじゃないと思うぞ。俺が次は宮本と自分のことに介入してくるんじゃないかと思って警戒しているんだと思う」

「そういうのは介入してからやりゃあいいのよ。そんなこと言いだしたら、私たちみたいな可愛い女子は男子が外を歩いているだけで性犯罪者扱いしなきゃいけないじゃないの。というか、あんたの話を聞いて、りらの説明がはっきりしなかった理由がわかったわ。あの子も薄々自分が関係ないってことに気がついて、そのせいで私にはっきり説明できなかったんだと思う」

「そういうものなのか?」

「そういうものなのよ」


 そう言ってぼたんはいつの間にか魔法の紙人形を使って持ってきていた人形焼を一つ口に放り込むと、もぐもぐと咀嚼して飲み込み、紙人形から牛乳瓶を受け取って牛乳を一口飲んだ。

 あの人形焼、実はこの間から気になってはいたのだが、正直かなり美味そうだ。しかも人形焼を食べた後、パサパサになってしまいがちな口の中を牛乳で潤すアフターケアつきとか、ぼたんのやつわかっているじゃないか。


「ん?なに?ほしいの?」

「まあ、そろそろお昼だし小腹が減っていると言えば減っている」

「しょうがないわねぇ、一つだけよ」


 ぼたんはそう言って人形焼をひとつつまむと俺の口元に差し出す。


「はい、あーん」

「あーん…」


 俺はなんとなく自然な流れで口を開け、ぼたんも特に何も言わずに俺の口に、人形焼を放り込む。


「ん、意外とうまいな」

「意外とってなによ。あたしが好きなものがまずいわけ無いでしょ」

「いやいや、もしかしたらぼたんはとんでもない味音痴だったりするかもしれないじゃないか」

「あんたって本当に失礼なやつよね。まあ、だからこそお姉さまが気に入っているのかもしれないけど」

「何?俺、椿先輩に気に入られてんの?田中さんの後釜で先輩の運転手とかできるかな?」

「あんた……まあいいけどね」


 そう言って溜息をつくとぼたんはいつもより少し優しい笑顔で笑う。

 こうして改めて見ると、ぼたんって実はすごく可愛いような…


「何よ」

「いや笑顔が可愛いなって」

「え!?は!?な、なななななな!?」


 しまったーーーーーーー!ぼたんが顔を真っ赤にして怒っているぅぅぅぅぅぅっ!

 なんなんだ俺のこの癖は!ノリと勢いで適当なことを言ったり、ポロッと出しちゃいけない本音が出ちゃったり!何!?なんかに呪われてんの俺。


「ご、ごめん。そうじゃなくて、あの、その…に、人形焼が可愛いなって」

「あ…ああ、なんだ、人形焼か、そっか。……そっか…なんだ…」


 そう言って普段の顔色に戻ったぼたんはなぜか俺から目をそらす。顔色はもどっているものの、まだちょっと頬を膨らませているので怒っているっぽい。


「そうなんだよ人形焼の顔が可愛いからついポロッとさ。べつにお前をからかったわけじゃないんだぞ」

「……からかってんじゃん…」

「え?」

「なんでもない!そんなに気に入ったならもう一個あげるわよ」


 そう言ってぼたんは袋から人形焼をもう一つ取って俺の口元へ。俺も再び口を開け、ぱくりと食べる……と、なぜかザリっとした食感の後で、口の中に広がるメロンパンの味。


「お腹が空いたんですか、相馬くん。それならそうと言ってくれればよかったのに」

「ふぇんふぁい?」

「相馬くんのお腹をふ満たすのは私の役目なんですから、お腹がすいたらいつでも言ってくれれば良いんですよ」


 そういって、先輩はグイグイとメロンパンを俺の顔に押し付けてくる。


「危ないところでしたが、恋人として、相馬くんのファースト『あーん』は守りきりました」


 なにそのファーストキスみたいなの。っていうか、さっきのぼたん以前に、そんなの小さい頃に妹相手にすでに喪失してるんですけど。


「ふぇん……先輩。ぼたんは俺達の関係を知っているんですし、三人のときはそんな役に入り込まなくても大丈夫ですよ?」

「ぷっくっく…」

「くっ」


 俺のセリフに何故か吹き出すぼたんと、ちょっと悔しそうな先輩。


「あ!ふふ…いいこと考えた」

「どうしたぼたん」

「ん?なんでもない。とりあえずメロンパン食べちゃえば?」

「おう」


 あまりなんでもなくなさそうなぼたんの表情が気になるが、俺はとりあえず押し付けられたメロンパンを片付けることにした。

 ちなみに、俺がメロンパンを食べ進める間も、先輩はじっと俺のことを見つづけている。

 まあね、いくらぼたんにはバレていると言っても、他の連中がこっちに来る可能性もないわけではないしね。役に入りきるのは大事だよね。


「相馬くん、おいしいですか?」

「おいしいですね。うちの近所じゃこのレベルのパンはちょっと食べられない味ですよ」

「そうでしょそうでしょ。そのパン…というか、このダンジョンの中の食べ物は、みつきさんと同じ500年前の魔法少女の方のレシピをそのまま使っているそうなんですよ」

「へえ、じゃあ500年前から変わらない伝統の味なんですね」

「そうなんですよ」


 そう言って何故か得意げに胸を張る椿先輩。

 その姿は『別に椿先輩が作ったんじゃないでしょ』なんて野暮なことを言う気が失せるくらいかわいらしい。


「ふう、ごちそうさまでした。みつきさんと戦う前にパワーの補給ができてよかったです」

「もう大丈夫ですか?まだありますけど」

「大丈夫です。あんまり満腹になると、動きが悪くなりますしね」

「なるほど、それもそうですね」


 というか、甘いものが続いたのでできればしょっぱいもの、もしくは何か飲み物でいったん口をリセットしたいなあ


「はい、牛乳」


 そうそう、牛乳なんて良いよな。メロンパンで口の中がパサパサになったし、なにより牛乳ってパン類と相性最高だしな。

 そんなことを考えながら、俺はぼたんから牛乳瓶を受け取り、口をつけて一気にあおる。


「お姉さま」

「ん?」

「相馬のファースト間接キス、私がゲットしちゃった」

「キィーーーーーーーーッ!」


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