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家式学園正徒会活動報告書  作者: ながしー
レポート1 正徒会
12/31

レポート1-12 柿崎 楪

 ダンジョンから戻った俺達男子組は、邑田達と別れた後、学校の近くのファーストフード店に移動し、各々適当に注文して一番奥のボックス席に陣取った。

 ちなみに、『割引があるなんて本当かよ』と思いながら提示したステータスカードで7割も引かれてビビった。もう下手にお金稼がなくてもこれがあれば、親からもらう小遣いだけで相当楽に暮らせる気がする

 

「で?何があったの?」

「邑田に杏平とどうなのって聞いたら尾形さんに怒られた」

「端折りすぎだよ。もう少し詳しく話してよね。相談するって言っておいて誤魔化すつもりならボクも柊ちゃんも帰るよ」


 柿崎はともかく、宮本に帰られるのは困る。


「まあ、ほら、邑田と杏平って婚約してるじゃん?」

「ああ。してるな」


 俺の言葉に宮本が深く頷く。


「でもなんか余所余所しいっていうかギクシャクしてるなって思ってて、んで、なんとなく気になって椿先輩のメイドさんに聞いたんだよ」

「ごめん、相馬くん。話がつながらない、なんで邑田さんと若松くんのことを椿先輩のメイドさんに相談するの?」

「事情通っぽかったし、先輩のメイドさんってことは邑田とも面識あるだろうなって思ったからさ」

「にしても、あの人はねえだろ…」


 あ、やっぱり宮本は面識ありか。


「ちなみに宮本って、あの人の名前知ってたりする?何故か頑なに教えてくれないんだけど」

「ん?ああ、丁香花 香華(はしどいきょうか。茉莉の兄貴と同世代の元正徒会役員だよ」


 宮本はあっさりと彼女の名前を教えてくれた後、自分のハンバーガーを口に運ぶ。

 丁香花…ちょっとめずらしい苗字だけど、昔妹の友達にも同じ苗字の子がいたし、隠すほど変な名前じゃないと思うんだけどなあ…なんで教えてくれなかったんだろうか。


「それで?そのメイドさんはなんだって?」

「あいつらの婚約には何かありそうだっていうことを匂わすだけ匂わせて夜の街に消えていった」

「あの人と夜に外で会うくらい仲がいいのか?」

「いや、あの人が俺の部屋に夜な夜な現れるんだよ」

「……お前、結構進んでんのな」


 邑田の胸を触ったとか言っていたし、こういう話は結構平気なんじゃないかと思っていたのに、意外にも宮本はそう言って少し顔を赤らめる。


「って、違うからな!?そういうんじゃないから!あの人は俺が椿先輩と……」


 ああ…まずい。事の経緯をバカ正直に話すと、椿先輩との嘘の関係がバレてしまう。


「椿先輩と一線を越えそうになっちゃって、それで相馬くんの性欲の暴走を心配したメイドさんが夜な夜な相馬くんの欲求をご奉仕プレイで解消にくると。つまり相馬くんはそのメイドさんとは身体の関係だけで、別に気持ちはないと、そういうことを言いたいんだね、わかった」

「俺も柿崎が何もわかってくれていないのがよくわかった。というかお前もう即刻帰れ」


 何かをこするような手振りまでつけてえらいことを口走る柿崎に一瞬驚いたが、考えてみれば見た目はともかくこいつも俺と同い年の男。このくらいのシモネタは言うだろう。

 逆にまったく態勢がないのか、真っ赤になっているのが宮本だ。

 椿先輩や、邑田と親戚ということはやっぱり宮本の家も裕福なんだろうし、そういう環境だとシモネタに触れないで箱入り育つっていうことだろうか。

 いや、でもぼたんとか普通にシモネタ言ってきそうだよな。尾形さんの性癖にも触れていたし。

 


「な、なあ、楪、こういうところで、そういうのやめようぜ。なんかこう、恥ずかしい」

「もー、本当に柊ちゃんは可愛いなあ」


 そう言って、柿崎は宮本の頭を自分の胸に抱え込んで撫でくり回す。

 うーん、この何とも言えない感じ。

 パッと見た感じは可愛らしい彼女が、照れる彼氏をかわいがっているようにしか見えないんだが、二人は男同士だ。

 いや、別にいいんだ。人口激減して以降、同性婚がないではないし、それで子供を作ることもできるし、そういうカップルも家庭も結構多い。

ただ、昔ながらのストレートな性癖を持つ俺としては、なまじ柿崎が女に見えるだけに、なんかモヤモヤするのだ…ムラムラじゃないぞ、念のため。


「ん?なに?羨ましい?」

「俺の性癖はストレートなの。だから別に羨ましくなんかねえよ」

「そうだろうね、君はそれでいいと思うよ。というか、そうあってほしいね。君には柊ちゃんの可愛さに気づいたりしないでほしい」


 そう言って柿崎は、まるで彼女でも見るかのように優しげな目で自分の胸に抱いている宮本を見る。


「いや、宮本のかわいさに俺が気づくとか、変なこと言うのやめてくれよ、恐ろしい」

「ま、そのほうがボクにとっては都合がいいからいいんだけどね。で、なんだっけ?邑田さんと若松くんがうまく行ってなさそうって話だっけ?」

「そう、それ」

「なあ、楪。いい加減開放してほしいんだけど」

「だーめ。もうちょっとボクに柊ちゃん分を補給させてもらうよ」

「うう……人前だとちょっと恥ずかしいんだけど…」


 ……まあ、確かに性別逆だったら、可愛い…というか絵になるかもな。

 いや、逆も何もないんだけど、男同士なのはわかっているんだけど、例えば宮本が柿崎の姿で恥ずかしがる柿崎の姿をした宮本を、宮本の姿をした柿崎がとかなら、まあ…って、自分で言ってて意味がわからなくなってきた。つまり逆なら絵になるって話だ。

 いやまてよ…そのままで宮本が女の格好しても意外と…って、違う!俺はそういう趣味じゃない!


「本格的に相談にのる前に一つ確認なんだけどさ、相馬くん」

「なんだよ」

「君はなにがしたいの?椿先輩の恋人なら分家のことなんて放っておけばいいんじゃないの?邑田さんや柊ちゃんがどういう相手とどうなろうと、君には関係ないし。むしろ気にしなきゃいけないのはぼたんちゃんのほうじゃないの?」

「なんでぼたんなんだ?」

「将来的に、椿先輩と相続争いするのは彼女でしょ。だったらあの子に変に有能な恋人ができたりしないように警戒するとかのほうがいいでしょ」

「いや、そもそも俺、椿先輩の家がお金持ちだって知らなかったし、別に金なんて家があって飯が食えて、それなりに遊ぶくらいあればいいって思っているから、もし俺が、万が一椿先輩と結婚とかしたとしても、跡目争いみたいなのにはあんまり興味ないな。そもそもぼたんが跡継ぎになったとしても、あいつの性格からして、椿先輩を身一つで放り出すとは思えないし、椿先輩の人生はどっちにころんだって安泰だよ」


 ついでに先輩後輩のよしみで田中さんの後の運転手にでもしてもらえれば、俺としても人生安泰で楽ちんだ。


「よく見てんなあ、さすが椿姉ちゃんの選んだ男」

「ま、まあ そ、それほどでもあるけどな」


 やめて!?そんな本気で感心しないで!?あくまで椿先輩の恋人代行でしかない俺としてはすごく良心が痛むから!


「…なるほどね」

「な、何がなるほどなんだよ柿崎」

「別に。相馬くんが椿先輩だけじゃなくて、ぼたんちゃんも邑田さんも自分のものにすれば一件落着とか考えてそうな顔してて、ゲスいなって思っただけ」

「思ってねえよ!とんでもねえ名誉毀損やめろよな!つーか、メイドさんに聞かれたらマジで殺されるわ!」


あの人は事情がわかっているにもかかわらず、『お嬢様を弄んだ』とかなんとか言って本当に処刑しに来そうだから、そういうのはマジでやめていただきたい。


「でもさあ、実際の所、君は椿先輩以外の心配してていいの?邑田さんと若松くんはクラスメイトだって言っても、クラスメイトでしかないわけじゃん?なのに邑田さんのことばっかり気にしていると、そのメイドさんだけじゃなくて椿先輩も怒るんじゃない?」

「いや、それは」


 ない。と言いかけてギリギリのところで俺は口をつぐんだ。

 あくまで俺と先輩の関係は仮初めのものではあるけれど、それを宮本や柿崎に知られるわけにはいかないのだ。


「…先輩もわかってくれると思うんだ。仲間内でギスギスしていると、ダンジョンの攻略もうまくいかなくなりそうだしさ、そういう調整っていうか、調停みたいなのって必要だろ」

「だから、君が一人でそれをやると余計に…はあ、まあいいや。好きにしなよ」


 そう言って柿崎は残っていたドリンクを一気に飲み干し、席を立った。


「ほら、柊ちゃんも帰るよ」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ柿崎。相談に乗ってくれるって言っただろ?」

「確かにそう言ったけど君からは若松くんと同じ匂いを感じるんだよね。だから相談に乗る気が失せた」

「は?なんだよ、杏平と同じ匂いって」

「なんかね、釣った魚に餌をやらないというか、いちばん身近な人に我慢をさせるというか、はっきり言えば相手に対する愛情を感じないんだよね」


 …まあ、なんとなく自分で言いだした手前惰性で続いているような部分がないとはいえないし、俺が椿先輩に抱いているのは、たしかに恋愛感情とかではないとは思うが、流石に言いすぎじゃないだろうか。


「って、ちょっと待て。杏平が邑田に愛情を持っていない?」

「だろうね。で、逆に邑田さんのも愛情とは違うと思う。だからね、放っておけばいいと思うよ、別にお互い好きあってない者同士なんだから、大人になれば自然消滅するだろうし、かといって険悪なわけじゃないからダンジョン攻略するにしても支障はないと思うし」

「そこまでわかってて、なんで相談にのるとかそんな回りくどいことを言ったんだよ」

「君と邑田さんの喧嘩の原因がもう少しまともにしょうもない喧嘩の話なら仲裁しようと思っていたんだけどね。原因が、自分のところも満足にいい関係ができていないのに、人の恋愛に首を突っ込もうとするバカ男なんていう、まともじゃないしょうもなさだからやる気がなくなったの。ほら、柊ちゃん、帰るよ」

「お、おう。ちょっとまって」


 宮本はそう言うと、柿崎に『ほら、早く』と何度も急かされながら急いでハンバーガーを腹に収めて、柿崎と一緒に店を出ていった。





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