ホワイトムスク
別に意識したことがなかったけど、これでなかなか彼女の行動はワンパターンになのだ。
*
街のカフェは休日だからか、賑わっている。
ざわざわと音の絶えない空間でただ僕達もその一部になっていた。
コップが水滴を纏うくらいには店内はあたたかい。
ランチプレートをつつきながら、ちらりと彼女に目を向けた。
今日の彼女はよく喋る。
いつもは僕の話を聞いていて話したいことだけを話すのに、今日はずっと話してる。
嬉しそうに注文したクリームパスタはフォークに巻きついては離れ、巻きついては離れを繰り返していた。
ぐいっと彼女の袖をひいて、こちらに引き寄せた。
スンと鼻を鳴らして香ってくるものを確認する。
「やっぱり」
彼女は突然の僕の行動に戸惑っているようだ。
「どうしたの?」
伺うように僕を覗き込む瞳が不安そうに揺れた。
「何かあったんでしょ?話聞くよ」
僕が彼女を見つめて言うと、驚いたように目を見開いた。
すると唇を噛みしめるので止めさせた。
「実はね、」
彼女は溜め込みやすい。
言いたいことがあっても、口に出す前にぐるぐる考えてしまって結局言えなくなってしまうのだ。
そんな彼女がいつ崩れてしまうのか僕は不安で仕方なかった。
僕にとって幸いだったのは、彼女の無意識のSOSに気づけたことだ。
彼女の行動はワンパターンだ。
辛いことがあるとぐるぐる考えすぎて、その話題を避けるように饒舌になる。
少しだけ食欲がなくなる。
決め手はホワイトムスクの香り。
普段は香水なんてつけないくせに、ストレスがかかると決まってホワイトムスクの香りを纏う。
無意識のSOS。
絶対に見逃さないから。
隠しごとが上手くなったりしないで。