思い通りにいかないクラスチェンジ
よくある世界のお話し。前置きなくかるーく読めます。
「…そんな、うそだ…俺が、どうしてこんな…」
愕然と膝をつき項垂れる俺の周りで、同僚達がそれぞれに困惑と哀れみを浮かべている。
今日は月に一度行われる、兵士たちのクラスチェンジの儀だった。
かくいう俺も、初めてのクラスチェンジの基準であるレベル40を迎えたので王城内の神殿にやって来たわけだが…。
最初のクラスチェンジを迎えるまではただの人。クラスチェンジとは、その人物の適性やこれまでの功績から決まる。
もちろん俺たちみたいな兵士は、一般人よりも身体能力も高いし日頃の訓練の成果もあって大抵は戦士や騎士、弓兵なんてクラスになるやつが大半だ。
そう、大抵はそういった戦闘職になるものなのだ。
ごく稀に、潜在能力なのか兵士とは無関係なクラスが出たりすることもあるらしいが。
そんなのは本当にレアケースだと、儀の始まりの説明で上官が言っていた。
そんなことはまずありえないと笑い飛ばしていた上官殿が引きつった顔でこちらをみている。
「ま、まあ元気出せよルッコル。ほら、まだ兵士になって日も浅いし、若いから転職も有利だし」
いや、そもそもなんですでに兵士を辞めること前提なんだよこの野郎っ!
周りのやつも頷いてないで否定くらいしろ!!
「俺は兵士がいいんですっ…強くなりたいんだ…!」
「いや、だってお前…」
上官がとてもいいにくそうに口をつぐむ。
「…クラスが『聖職者』は、なぁ…?」
とどめの言葉に、俺は涙をこらえてうずくまった。
そう、念願のクラスチェンジ。
自分がどんなクラスになるのか、武器は何がいいのかあれこれ考えて心躍らせていた俺に告げられたクラスは『聖職者』。
気まずそうな神官の顔と、夢に描いたものが断ち切られたショックに俺は誓った。
きっと鍛錬が足りなかったに違いない。
レベル80で受けれる上級クラスチェンジの時こそ、剣士職に就こう。
クレリックなんて戦えない職はお呼びじゃないんだ。
そう思っていたのに…。
その為に毎日訓練後も自主鍛錬に取り組み、体を鍛え心を鍛え、強くなる為に努力を積み重ねてきたのに…!!
「…何故だ…っ!!」
俺は叫んだ。
付き添いで来てくれた同僚の二ガラムが苦笑いで肩を叩く。
「まあ、なんてーかレアなクラスじゃん?オメデトウ?」
「どこがめでたいんだっ!!」
確かに、成り手の少ない希少ともいえるクラスになったが、単にそれは戦闘職でないからレベルが上がりにくいからに他ならない。
兵士として日夜魔物と戦う俺には戦う力が欲しいのに。
けれども長年の血のにじむような努力と鍛錬のかいもなく、今回神官より告げられたクラスは『司祭』。
神よ!俺が何をしたというのだっ!!
「神殿はいつでも門戸を開いておりますよ」
柔らかな微笑みをたたえて、神官はちゃっかりと俺のことを勧誘までしてくる始末。
まあ、戦うことのない神官たちが上級クラスになるのが大変なのはわかる。
そのせいで俺みたいなのでも、『司祭』持ちは欲しい人材なんだろう。
駄菓子菓子!!俺がなりたいものは司祭などではなくっ!!
戦闘職といわれるクラスになりたいのだ!!!
もう戦闘職なら何でもいい、短剣使いだろうが狂戦士だろうが文句は言わない…!
……いや、狂戦士はさすがに遠慮したいけども。
まあともかく、戦うためのスキルを覚えられるクラスなら何でもいいというのに!
「あなたに神のご加護を」
「はは、神殿まで行かなくてもいいって便利だよな」
日が暮れるまで剣をふり、肉体を鍛え鍛錬を積んできた俺が司祭。
毎日定時にあがり、3人の彼女達を持ち訓練自体不真面目な二ガラムは聖騎士。
けらけらと笑う優男。
生暖かい眼差しを向ける神官。
絶望と世の不条理を嘆く俺。
…神様なんて、大っ嫌いだ。
「なあ、聞いたか?ルッコル隊長が上級クラスチェンジしたってよ!」
「知ってる知ってる。期待通りに『司祭』だったもんだから将軍が大喜びしてたからな」
「はは、そりゃそうだろ!兵団にプリーストがいれば、神殿に借りを作ることもなくなるからな!」
「本当だぜ、奴ら下級のクレリックのくせして態度だけはでかいんだからさ」
「ルッコル隊長さまさまだな」
「まったくだ」
きっとどれだけ剣の腕をみがいても、剣士にはなれない予感。