四章・3
浮上する、感覚。イメージ。
(……あれ)
唐突に、覚醒する意識。
目を開くと、薄ぼんやりとクリーム色の天井が映った。
(ここ、は……)
全身を違和感が支配している。
身体を動かそうとしても、どこにも力が入らない。
少しだけパニックに陥りかけて、自分の意識が断絶した瞬間を思い出した。
(そうだ、俺は……)
(あのとき、曲がってきた車に跳ねられて……)
(まるで人形みたいに、あっけなく跳ね飛ばされて)
妙に心は冷え切っていて。
それでも、視界いっぱいに広がった夕焼けがきれいだ、なんて柄にもなく思ったりして――。
(そうだ、足……!)
思い出して、慌てて起き上がろうとする。
けれどそれは不可能で、かろうじて首が動かせた程度でしかない。
――そこで、目が合った。
「あ……」
目を見開いたのは、一人の少女だった。
「和人……くん……」
見覚えがある、なんてものじゃなかった。
毎日、見ていた。見られていた。
いつもそこだけ、時間が止まった気がした――。
すっ、とドアの開く気配と、誰かが室内に入ってくる気配。
「……ちょっとあなた、何してるの! 工藤さんはご家族以外の面会を禁止しているはずですよ!」
看護婦の焦った声も、二人の耳には届かない。
少女の名前は神崎由乃恵。
おそらくは、自分――工藤和人が、夕焼けをきれいだと思った理由の少女、だった。