友の死
谷の間を軍隊が通っている。
同盟を結んだヴィット国とヴァーラ国のほぼ全軍がいる。
どうやら両国の国王が移動しているため、ここまで厳重な守りのようだ。
「ピース隊長。どうしますか?」
谷の上に四人のクスト国の兵士がいる。
「今は王を暗殺するチャンスだ。逃すわけにはいかない。」
そう言うのは隊長と呼ばれる男。ピース。
クスト国軍の隊長。
「しかし、あの守りをどうやって突破したら。」
「一発だ。クスト国の秘密兵器。この弾が透明で音もでないライフル。一発しかないが、これで決めるしかない。」
そう言うとヴィット国の王に照準を合わせた。
ー 頼む、当たってくれ!
「王様。お車のカーテンを閉めた方がいいのでは?」
忍者の格好をした男が言う。
「あぁ、そうじゃな。ありがとう。さすがワシの見込んだ男だ、ハンよ。」
その時、車の窓ガラスを貫通し王の目の前を何かが通った。
しかし、音もなかったので誰も気づかない。
「王様。少し席を外します。」
ハンがそう言うとどこかに消えた。
「ゴミが。」
ハンの手には鋭く長いかぎ爪がある。
「くそっ。皆すまない。外しちまった。」
その数秒後。とてつもない殺気が、光程の速さで4人の前に現れた。
「ゴミは処分だ。」
ハンだ。さっきまで王の側に居たハンが4人の前に飛んできた。
「俺たちをゴミだと?やってみろよ、返り討ちだ。」
そう言ってピースが背中の剣を抜こうとした時、ハンは誰もが見えない速さでピース以外の3人を殺した。
1人は心臓を一突き、1人は首が飛び、もう1人は粉々だった。
「死ねぇー!」
と剣を振ったピース。
ハンの動きは、まるで時を止めたかの様だった。
「な、何が起こった!?おい、皆なんで。」
動揺するピース。
「俺の名を聞いたことあるか?俺はシザーハンズのハンゾウと呼ばれている。」
「ハンゾウ…まさか。嘘だろ?悪魔をも倒す。レン・フェンダーと唯一互角に戦ったと言われるあのハンゾウなのか!?」
驚くピース。
「ほぉ、俺の名前を知っているのか。遥か遠くのこの国にまで噂が届いているとは嬉しいもんだ。だか、レンの名を口に出したのは余計だったな。嫌な事思い出させやがって。」
気づいた時にはピースの体は宙に浮いた。
そして、抵抗する間もなく切り裂かれた。
「シャン国王!とても辛い報告が入りました。」
ひざまずきクスト国の王に話をかける者。
「ど、どうしたんだ!」
王が少し不安げに聞く。
「ピース隊長が…」
「そうか死んだんだな。」
「はい…」
「私は勘違いしていたようだな。戦争なんてしてはいけないんだ。目の前の土地や金を手に入れるために私は軍隊を作った。ダメなんだそれじゃ。ダメなんだ。」
「いえ、王様は間違ってはいないと思います。我々の国に軍隊はなかった。しかし、作らなければ今更どうなっていたかわかりません。他の国に怯え、脅され金や食料を送り、餓死する国民。そして王様は殺される。軍隊を作っていなければ今よりも酷い状況だったと思います。」
「そうか。ありがとな。お前は優しいな。私に優しくしてくれるのはお前とピースだけだ。」
「いえ、王様なので当然です。」
「報告ありがとう。もう行って良い。」
|----------------------------------------------------
ピース「待てよシャン!俺たちまで戦争に参加するのか?」
シャン「我々には土地や金が必要だ。それを奪うためだ。」
ピース「戦争はそんな甘いものではないぞ!今から軍隊作って何になる?相手の戦力をほぼ削れずに犬死する人間が増えるだけだぞ?」
シャン「我々は勝利するんだ。」
ピース「違う!俺たちは平和を目指すんだ。」
|----------------------------------------------------
ー 平和、かぁ。
「おい、待て。やっぱりまだ行くな。鳩をできるだけ用意してくれ。私は平和を目指し、相手を殺さない。ピース騎士団を立ち上げる。そして、手紙で戦士を募る。」
この当時世界で手紙を送るのに使われていた手段は鷲。
鷲の方が速いからだ。
しかし、シャンは戦士を募る手紙を鳩に運ばせた。
平和の象徴、鳩を。
ピースの願った平和を叶えるため。