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ジャポの国物語  作者: 作・Sebastian SALAMI Rodriguez 訳・丹羽埜 緑
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その1 語り部爺の話

この国の現状と未来を自分なりに分析・批判してみました。

 よう来たの。

 儂のところに客が来るなんて、珍しいことじゃ。昔話が聞きたいじゃと?

 奇特なやつじゃな。

 よかろう、年寄りの戯れ言に付き合わせてやろうて。


 ジャポという国があってな、その話じゃ。


 ジャポは、なかなかによい国じゃったが、長く鎖国をしておった。

 外国からの圧力で開国してからは、さんざん食い物にされておったが、追いつき追い越せと富国強兵政策を強力に進め、国力はどんどん上がって行った。

 力を得ると使いたくなるものよ。

 世界的な経済恐慌で引き起こされた国内の混乱を海外進出に置き換えて、周辺の国々を侵略して行った。

 結局、ひたむきに団結して努力する国民性以外に、工業資源などの乏しいジャポは、大国の圧倒的物量の前に敗北を期した。


 ジャポを占領した大国の施策もあるが、ジャポの民は戦争に敗れて以降、物欲主義に走ってのう。

 大量消費こそが幸せだとばかりに、必要の無いものを作っては売り、買っては棄てて、無駄遣いを重ねたんじゃ。

 そのうち形の無いものに値段をつけて売り買いするようになってのう。

 土地や株ってもんにのう。

 土地に価値があるのは当たり前じゃが、価値以上の値段がついて、馬鹿みたいに土地を買い漁ったりしたんじゃと。

 なに? 株とはなんじゃと?

 そうじゃよのう。若いあんたたちは知らんかのう。

 うーん、たとえばのう。あんたが、なにかしら人様を幸せにできるものを作り出すことができるとしようかのう。

 なに、仮の話じゃ。

 で、そいつを作るには、材料を買ったり道具を買ったり金がいるのう。

 でも、あんたが金を持っとらんかったらどうする?

 諦めるかい?

 でも、あんたはみんなを幸せにできるものを作り出すことができるんじゃぞ。

 人を幸せにできるのに、諦めるとはなんじゃ。

 え、諦めない?

 では、どうするんじゃ?

 はあ、自分の所有物を売って金を作るのか。

 まあ、そうじゃな。

 でもな、株っていうのはな、ものを売らんでもいいのじゃ。

 あんたが持っている、みんなを幸せにできるものを作り出すことができることに対する期待を売ればいいのじゃ。

 それを売り出せばこれだけ儲かります。だから、この私に金を出してください。そうすれば、ものが売れた分からいくらを差し上げますよ。ずっとそれが売れている限りは、と。

 なかなか、いいもんに思えるか、株っていうもんが。

 まあ、どんなもんも、本来の役目のために使われているうちは、問題はない。

 株はいつの間にか、株自体を売り買いするのが、目的のもんになっちまってのう、人を幸せにするものの価値なんぞはどうでも良くなってしまった。

 さっき言った土地や株がの、なにを作り出すでも無いのに取り引きすることで、銭金が動いてのう、まるで泡のように膨らんで、ジャポの民は「やっぱり自分たちは日の出ずる国の富める民だ」と、その時代を謳歌したのだと。

 お、泡の時代が終わったことは知っておるのか?

 バブルが弾ける。

 そうじゃよ。よく知っておったのう。

 まさに泡が弾けたように、土地の価値は下がり、株価は下落した。

 まあ、もともとの持っていた正しい姿に戻っただけなんじゃが。

 ところが、あまりに強烈だった泡の記憶は、政治家や官僚、大企業の経営者だけでなく、下級官僚や中小企業の経営者、多くの労働者まで蔓延しておった。

 だから、皆が泡の時代の再来を期待してしまったことが、ジャポの不幸じゃと言える。それは結局新しい時代を創ることではなく、懐古主義なのじゃよ。

 しかし、誰もが古きものを懐かしむ懐古主義ではなく、新しい時代を創っていると思っているから、タチが悪い。

 先祖帰りを否定するように、何でもかんでも否定して、壊してしまったんじゃ。

 ぶっ壊す、なんてスローガンを掲げた政治家が、異様な人気を集めたりしての。

 先人達が、長い歴史の中で築き上げてきた、人が人として暮らして行く仕組みもたくさん壊してしまったんじゃ。

 今の儂達の、息苦しさも、元を正せばこの辺りに原因があるのじゃろう。

 勿論、外圧があったことは間違いないが、ジャポの民が選んだ道であったことも間違いないんじゃ。

 人と人の繋がりをしがらみや古い慣習として否定し、個を重視する個人主義重視を標榜しながらも、その判断は横並びで隣人が気になってしょうがない。

 ところが隣人との繋がりがないので、疑心暗鬼の中で、全体の中での己の位置を確認し続ける。

 個人主義が是とする、個がそれぞれの特性を競いあい、互いに高め合うのではなく、足を引っ張っりあって全体の中での己の地位を高めることに、一生懸命になって行ったのじゃ。


 ジャポは、四季があって、食いもんも旨く、長寿の国じゃった。ジャポの飯は、世界の遺産にも認められたものじゃ。

 医薬の進歩も著しく、民の寿命は伸びていったが、個人主義の蔓延は年寄りを孤独にし、また、若いもんも孤独にして、子どもが生まれんようになっていったんじゃ。

 そうすると働き手が足りんようになるじゃろ。

 だから、子どもを生んだばかりの女もすぐに働きに出るようにしむけたんじゃ。

 となると、子どもの世話をするもんが必要になるが、この時に家族のつながりに解決策を求めず、子どもの預かり所を作って、働きに出ることを奨励した。

 そうすると、預かり所で働くもんが必要になるじゃろう、働き手が足りんのに。

 何、長生きしている年寄りを使えばいいと。

 もちろん、そういったこともしないではなかったが、そこが問題じゃった。

 年寄りだって、己の経験と能力が満足いく評価をされれば働きにも出ようが、ただ、若いもんと同じことを求められても、体が動かん。

 その頃、爆発的に進化したコンピュータを使った情報速度の高速化と、儂ら人間の生物としての能力の限界との問題じゃと、儂は思っておる。


 ああ、もうこんな時間か。

 随分、話が長くなった。

 なに、まだ、話が聞きたいと。

 今日は、終わりじゃ。

 また、今度にしようかのう。

様々な事例について、未来人の視点から書いていきたいと思います。

時系列的には前後しつつ、進みたいと思います。

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