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ポケットの中の天球儀  作者: カイトの冒険の中の人
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最終章

 「交通、事故……?」

 真琴は確かめるようにゆっくりと、その女性に問い掛けていた。

 真琴と向かい合う女性……博士の母親、瑠璃は小さく頷くと、その時の事を話し始めた。

 『言い伝え』から一夜明けた朝、真琴は真実を知るために深沢の家を訪れていた。

 突然に息子を尋ねてきた少女に、瑠璃は戸惑いを見せたが、真琴の真剣な眼差に何かを察すると、家の中に招き入れた。

 真琴の予感した通り、深沢は真琴が引っ越した2年前の夏の日、自転車に乗っている所をトラックと衝突して他界していた。

 記憶をたどりながら話す瑠璃の心情を察し、真琴は心が締め付けられそうになるが、瑠璃はそんな真琴に優しく微笑むと『気にしないでほしい』と言った。二度の夏を越した事で一つの区切りがつき、息子の死を現実として受け止められるようなったのだと、気丈に笑って見せる。

 そんな瑠璃を見て、昨夜の事を話すべきかどうか真琴は悩んだが、結局自分の胸の中だけにとどめておく事に決めた。

 帰り際、わざわざ息子を訪ねてくれた事に瑠璃が礼を言うと、真琴はここに来たもう一つの目的を思い出す。

 「あの……」

 真琴はジーンズのポケットの中に手を入れると、深沢のタイメックスを取り出そうとした。

 深沢が残した腕時計……これはやはり母親に返すべきでは…と思っていたから。

 真琴が瑠璃にその話を切り出そうとしたその時、不意に懐かしい声が聞こえた。

 「え……?」

 真琴は虚をつかれたように動きを止める。

 耳を澄ましてもう一度その声を聞こうとするが、もう声は聞こえなかった。

 急に虚ろになった真琴を心配し、瑠璃が真琴の顔を覗き込む。

 真琴は我にかえると、慌てて頭を振って笑顔を作る。

 「あ、いえ……何でもありません」

 真琴はポケットから手を出すと、瑠璃に小さく頭を下げた。

 「それじゃあ、また」

 「ありがとう。あの子もきっと喜んでるわ」

 瑠璃の優しい笑顔に見送られ、真琴は深沢の家を後にした。

 真琴はポケットから深沢のタイメックスを取り出す。

 太陽の光に晒されたタイメックスの文字盤は、二十一時を指したまま止まっている。

 もう二度とこの世界で時を刻む事はないだろう…時計の持ち主はもうこの世界にいないのだから。

 ――でも……

 真琴は、この時計の持ち主が今どこにいるかを知っていた。

 それは誰も知らない、もう一つの世界―

 真琴は腕時計を手に真っ青な空を見上げると、先程の声の主に問い掛けた。

 「これ、もらってもいいんだよね?」

 真琴の声が届いたのか、それに答えるように小さな奇跡が起きた。

 「えっ、嘘……」

 真琴は驚きの声を上げる。

 文字盤の秒針が、まるで魔法にかかったように動き出したのだ。

 息を吹き返した時計は、新しい時間を刻み始める。

 「これって……」

 真琴は、再び時計に生命を与えた深沢の意図を考える。

 自分に新たな時間をスタートさせろと言ってるのかしら?

 いや、そうではない……それも間違いじゃないけど、きっとあいつは……

 真琴は深沢の意地らしい仕掛に気づくと、思わず笑みを零した。

 少しおどおどした深沢の顔を想像しながら真琴は、大丈夫……というように空を見上げた。

 「ずっと、ずっと忘れないよ。あの夜に起こった事。あの星達の事……」

 昨夜の出来事の一つ一つを思い浮かべながら、真琴は、一方的に告白をしてもう一つの世界に行ってしまった身勝手な初恋の相手に約束する。

 「深沢君の事も……絶対に」

 知らずのうちに涙が零れそうになっていた。

 それに気づいた真琴は寂しげに瞳を落とすが、すぐに涙を振り払うと、最高の笑顔で深沢を見上げ言った。

 「じゃあね!」

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