表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポケットの中の天球儀  作者: カイトの冒険の中の人
2/7

第二章

 黄昏の光が、海を黄金色に染めていた。

 真琴は神社を左手に見ながら、緩やかな勾配を下る。

 向かっている先は、祖母が言っていた鳥居がある浜辺……歩いて行くと一時間弱と言ったところだろうか。

 「離された心一つにならん……か」

 眼下に広がる海の輝きを眺めながら、真琴は祖母が口にした言葉をなぞった。

 昼間に祖母から聞いた言い伝えの話―

 戦で死別した恋人同士……悲劇の結末を迎えた二人が年に一度だけ会う事が許され、しかもそれが偶然にも今夜だと言うのは、いささか出来すぎた話ではないだろうか。

 「それに……」

 もし、言い伝えが本当だったとしても、一体何が起こるのだろう……光の船とは?

 湧き上る疑問に答えを見つけようとするものの、謎は深まるばかりだった。

 「まあ、でも……」

 祖母の言う鳥居に行ってみれば、全ては明らかになるだろう。

 それに、家の中にずっといて教科書とにらめっこしてるよりは、よっぽど気分転換になる。

 真琴がそう結論を出したその時…突然、背後で叫び声が起こった。

 「危ない!」

 「え?」

 咄嗟に振り向いた真琴の視界いっぱいに、突進してくる自転車が飛び込んできた。

 驚きに目を大きく見開く真琴。瞬時に危険は察したものの、体が硬直して言う事を聞かない。

 真琴は覚悟を決めると、後の事は神様に委ね目を閉じた。

 神様はそんな真琴に慈悲を与えたのか、間一髪―

 自転車は真琴の体数ミリ先をかすめていくと、そのままのスピードを保ち電柱に進路を取った。

 断末魔を思わせるブレーキの悲鳴の直後に、何とも言えない鈍い衝突音、哀れな叫び声が響き渡り……静寂が訪れた。

 どうやら祈りは通じたらしい……

 危機が去った事を肌で感じながら、真琴はゆっくりと目を開けた。

 真琴の数メートル先の電柱には地面に横たわる自転車が見える。衝突の勢いなのか、今だにホイールのスポークが回り続けていた。

 その脇には真琴と同じくらいであろう年の少年が、地面にうずくまっていた。痛みを堪えているのだろうか……少年は低いうめきを上げながら、腰のあたり手でさすっている。

 その近くの地面には少年がかけていたであろう黒ぶち眼鏡が転がっていた。

 かなりの惨事ではあったが少年に深刻な怪我は無いようで、既に自力で立ち上がろうとしていた。

 真琴は安堵に息をつくと、恐る恐る少年に近づく。

 「あ、あの……大丈夫ですが?」

 あまり大丈夫そうではなかったが、他にかけるべき言葉が見当たらなかった。

 少年は呪いの言葉ともつかない声を上げていたが、真琴の声が耳に入ると慌てて体を起こした。

 「き、気にしないで、僕自転車がどうも人より下手くそで。それより怪我は……?」

 少年はそう言うと、急いで地面に落ちている黒ぶち眼鏡を拾う。

 視界がぼんやりしているのか、何度か首を振り眼鏡をかけると、真琴の顔に焦点を合わせた。

 「あ!」

 真琴と少年の目が合った時、二人はほぼ同時に声を上げた。

 間違いなく知っている顔であった。

 真琴は記憶の中を大急ぎで検索すると、一人の人物を特定する。

 「博……士?」

 ゆっくりと確かめるように、かつてのクラスメイトに問い掛けていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ