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突入

「さて、これで邪魔者はすべて排除した。後は虚数部隊だが」

 岸を苦しめた機械兵を従え不阿は管制室へ向かった。

 管制室はその名のとおり軍を管制する設備が整っている。機械兵への甲種命令、つまりどんなことを置いても最優先されるべき命令はここのコンピュータを経由しなければ出すことはできない。

 不阿は管制室に無数にあるモニターのうち、一つを虚数部隊討伐に打ち出した機械兵とリンクさせた。

「そろそろ倒しているころだと思うが……」

 機械兵のセンサーであたりを索敵する。

 しかし生体反応は感じられない。それどころか死体すら発見できない。

「……岸の斥候の指示通りに進んだんだが。どうやら一杯喰わされたようだな」

 どういう方法を使ったかは知らないが岸の差し金で見事に逃げられたようだ。


「臥竜君、気づかれたみたい」

「そうか。思ったよりも早かったな。このままだと大都にはいりこめないかもしれないな」

 そうつぶやくと臥竜はさらに走る速度をあげ疾駆した。

「ちょ、待ってよお」

 情けない声をあげながらも孔雀もしっかりついていっている。

 体のほうはまるっきり人間と同じなのだ永遠に肉体が年を取らないため鍛えれば鍛えただけ運動神経が発達する虚数部隊員は運動選手並みの体力を擁している。

 個人差はあれど、鍛えられた心肺機能はやわではない。

「向こうの様子はどうだい?」

 臥竜の問いに対して孔雀はすぐには答えず、背中に背負った荷物に手を当てる。

 《捕獲目標ハ大都ヘ向カッタモノト判断。全軍急行セヨ》

 しゃべったのは孔雀ではない。孔雀の背中にある|機械兵のメインコンピュータ《、、、、、、、、、、、、》だ。正確には岸の斥候の機械兵のメインコンピュータである。

「しかしさすが手駒ちゃんね。こんな連絡手段を思いつくなんて」

「ああ。伊達に最年少入隊の語ってないや」

 臥竜らの前に姿をわざと現した斥候兵。いうまでもなくきし手駒てごまの手先だった。

 臥竜に一刀のもと斬られた斥候のメインコンピュータには岸からのメッセージが入っていたのだ。孔雀の《思考干渉》を使ってメッセージを読み解いた彼らは第二討伐部隊を避けて、クーデターの起こったという大都へ向かっているのだ。

 この機械兵は当然定義としては大都からの追手の味方なのだ。そのため味方同士の連絡を受け取ることができる。つまり向こうの動きは筒抜けなのだ。

「斥候の持っていたデータからすると、今の大都は不阿に奪われているはずだな」

「あのいけ好かないオヤジね。ちょうどいいわ。大義名分ができたのだからこれを機会に斬っちゃいましょ」

 大都の街並みが遠くに見えてきた。本来ならここから大都を見ると巨大な建物に邪魔されて全く見えないのだが今は建物が空襲で焼かれ荒野になっているため大都まで見通せる。

 大都にも背の高い建物は見られず、プレハブやそれにも満たないあばら家がみえる。そしてその中心付近にそびえるのは三階から上が吹き飛んでいるもののまぎれもなく大和軍の総司令部ビルだ。

「不阿がクーデターを起こしたとして、一番に占拠されるのはあそこだな」

「うん。だから、あそこにいる手駒ちゃんも無事じゃないと思う」

「まあ、あいつはとんでもない策士だからな。ただじゃつかまらないと思うが」

 ちなみにこのとき岸は不阿と相対していたのだがこの二人に知る余地もない。

 大都ばかりを見てもいられない。

 後ろからは不阿が放ったであろう機械兵の大群が広範囲の索敵を行いながら追跡してきているのだ。さすがに索敵に引っかかると無事ではすまないだろう。

「臥竜君、大都に入ったら人ごみに紛れましょ。私たちも何もしなければ一般人と変わらないんだし」

「了解。で、追っ手を撒いたら司令部へ走ろう。手駒が心配だ」

「そうね。殺されてなければいいけど」

 二人の足が一段と加速した。


「少将、市街に仕掛けたカメラに異常が発生したようです」

「異常だと?何があった」

「わかりませんが死角から何者かが電子部品に干渉したようです」

 司令部で今やトップに立った不阿はそれでも気を抜かなかった。

 市街に仕掛けたカメラから情報を集め、また岸や他に生き残りに対する尋問なども行い軍時代にもないほどの警戒態勢が敷かれていた。

 しかしその警戒に即座にほころびが出た。市街のカメラが次々に破壊され始めたのだ。それも叩き壊されたなどの外的要因ではない。明らかに内部の中枢機能のみを破壊されているのだ。

「……一般人のいたずらではないな。とすると……」

「少将。機械兵の一団が戻ってきていますが」

「なんだと?虚数部隊が死んだという報告は受けていないはずだ」

 虚数部隊の討伐が終了しないのに機械兵の一団が戻ってくる理由。それはただ一つだ。

「まさか」

 不阿のつぶやきと同時に階下から破壊音が聞こえた。

「し、侵入者!階下の正面出入り口です」

「正面突破か……向こうから来てくれるならありがたい。孔雀は非戦闘向きだ、施設内の機械兵をすべて導入してやつを殺せ!!」

「いえ……侵入者は二人です……」

「何?」

 そこで報告を続けていた男が青ざめた顔で振り向いた。

「侵入者は元虚数部隊構成員、孔雀と臥竜です」

「臥竜……だと?」


「どれ、孔雀、こいつらに手加減の必要は?」

「ないわ。好きにやって」

「了解」

 その声が孔雀に届くころには臥竜は目の前の機械兵の懐へ飛び込んでいた。

 今回は能力を使ってコンピュータを無力化するなどというまどろっこしいことはしない。前回は久しぶりの能力使用で調整を誤り、暴発するのを恐れていたから全力は出せなかった。しかし今回は違う。哀れな機械兵と総司令ビルの門を相手に臥竜はすでに全力を使用していた。つまり彼の能力使用にもはや制限(リミッター)は存在しない。

 ズンッと重厚な音がして機械兵の腹の部分が貫かれる。《熱量変換》の精密操作と耐熱性に特化した臥竜の刀あってこその技。衝撃で曲がらない程度、しかし鋼をも貫くことのできる高温に熱せられた赤い刀身が機械兵から抜き取られた。

「さて。次はどいつだ?」

 戦時中を思わせる緊張感。そして狩るものの威圧感がよみがえる。

 機械兵のほとんどは戦争が停戦になってから作られた、いわば戦後生まれ(しんしき)だ。それゆえに本物の戦場を知らない。しかしデータとしては持っている。戦前生まれ(きゅうしき)から受け継いだデータがあるからだ。そしてその中には当然味方の戦い方も入っていた。

 後衛の機械兵が一斉に小銃から弾を抜いた。そして一目散に建物の奥へ急行する。

「待てよ……!!」

 追いかけようとする臥竜の前に前衛の機械兵が立ちふさがる。

「邪魔だ」

 臥竜に刀が一閃される。正面の機械兵が真っ二つになった。かろうじてその斬撃を避けた機械兵も刀がかすった瞬間、高熱を叩き込まれコンピュータを強制停止させられる。

 倒れる機械兵には目もくれず、臥竜は建物の奥へと走る機械兵を追う。彼らが何をしようとしているのかを臥竜は知っていたからだ。

「《熱量変換》」

 臥竜の足ものと空気が一気に膨張しそれに押されるように臥竜が前のめりに加速する。

 しかし機械兵たちは臥竜でも追いつけないほど早かった。理由は簡単で、装備の中で一番重い予備の弾丸を捨てているからである。

 大和軍の兵器の弾丸は基本鉛である。鉛の弾丸は安価で製造しやすいのだが熱に弱い。能力によって機械兵を溶かすようにして貫くことのできる臥竜相手には威力を発揮しないのである。

 しかし、ここは軍の中枢だった基地だ。当然武器の種類も数も半端ではない。

 タタタタタタタタタタタタッ

 リズミカルな音とともに走る臥竜に弾丸が殺到した。走る機械兵の向こう側。武器庫と思しき扉の前からである。

「!!」

 空気の膨張の助けを借り、加速していた臥竜にかわせる数ではない。とっさに刀をはじき上げ、弾丸を溶かそうとするが

 ガンッ

 刀が弾き飛ばされる。明らかに弾丸を溶かした手ごたえではない。

 臥竜はとっさに体を縦回転させ威力を受け流す。そして弾丸の放たれた点を見つめ、忌々しそうに唇をかんだ。

「この弾丸、特殊合金ね。相当熱に強いわよ」

 臥竜に後ろから柱に身を隠した孔雀の声が飛ぶ。

「……まだ持ってやがったか」

 実はこの弾丸、戦時中からあった。敵の戦車にも臥竜と同じように高熱シールドを張るものが出てきたからだ。もっとも大量の燃料を使う戦車だったため、ほんの一時期しか戦線に出てこなかったが。

 再び正面から銃弾が放たれた。ところどころにある柱以外、一直線の廊下だ。かわしようなどない。しかし臥竜はまっすぐに正面を向いたまま体をわずかに傾ける。それだけの動作ですべての弾丸を紙一重でかわして見せたのだ。

「弾丸を変えた程度で倒せるとでも思ったか。あいにく虚数部隊とはそんなに甘くはない」

 その言葉と同時に臥竜が駆けた。というよりもほぼ正面に向かって跳んだ(、、、)

「覚悟はできているだろうな」

 立て続けに三体の機械兵が斬られる。後衛の小銃が火を噴く――寸前、臥竜の体が大きく沈む。熱源反応により、顔を向けずに小銃の狙いを計算。ふり向きざまに銃身を切り落とした。

「……終わったぞ、孔雀」

 もうすでに、狩るものと狩られるものの立場は完全に逆転していた。


「……臥竜だと。やつも死んでいたのではないのか」

 最上階の管制室で戦闘とも呼べない一方的な破壊をモニター越しに見た不阿は歯噛みしていた。それもそのはずだ。臥竜といえば虚数部隊において本体の戦闘能力が極めて高い部類に入るのだ。機体も本体も能力も非戦闘向きな孔雀とはわけが違う。

「どうされますか。このままではここまで突破してくるのも時間の問題かと……」

「わかっている!だから今どうしようかと……」

 岸と対峙していた時の冷静さはかけらもない。不阿は頭を抱えて考え込んでしまった。

(相手があの虚数部隊ともなれば戦力の出し惜しみは完全な愚行だ。ここはひとつ……)

 不阿はひとつの決断を下した。

「帝華から輸入した機械兵を戦線に投入しろ。特別製を出せ」

「しかしあれは」

「構わん。俺ものちの切り札に取っておくつもりだったが臥竜が相手では仕方あるまい」

「わかりました。投入します」


「……やけに静かだな。機械兵が引いた?」

 階段を目指して走る二人は急に姿を見せなくなった敵に不信感を抱いていた。

「不阿のやつ、何考えてるのかしら。まさか管制室にいないからこっちの防備を手薄にしてるんじゃ」

「馬鹿な。管制室にいなければ何もできないじゃないか」

 とにかく管制室のマザーコンピュータに触れることができれば孔雀の能力をもってして総司令部を制圧できる。不阿がいようがいまいが最優先は管制室だ。

 と、不意に臥竜は強烈な違和感を覚えた。自分たちが走っている廊下に並ぶ扉。そのうちの一つの前を通り過ぎようとした瞬間だった。

 まさに爆発としか言いようのない熱源反応が扉の向こうで膨張する。

「……うそだろ」

 臥竜は一瞬の判断で隣を走る孔雀に足をかけて床に転がす。そして自らも刀を抜きさらに高熱化。正中線を守るように刀を立て、一瞬遅れて床に倒れこむ。

 扉が爆散した。もはや人間に向けるべく威力ではない。

回転式機関銃(ガトリングガン)……」

 床に転がされた孔雀が起き上がることも忘れつぶやいた。

「くそ。どうなってやがんだ」

 弾丸の嵐をかろうじてかいくぐった臥竜が孔雀の前に立つ。

(こいつ……)

 臥竜は大量破壊兵器をもってして分厚い扉を犠牲に奇襲を仕掛けてきた機械兵を凝視する。

(こいつ……何かが違う)

 岸のように分析したわけではない。

 ただ臥竜の勘が、こいつは危険だと告げていた。

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