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反乱

書き上げてみれば虚数部隊が一度も出て来ない……

「少将、他の皆様は会議室に集まっています」

「ああ、分かった。すぐ行く」

 不阿は、戻っていく足音を聞きながらひそかに笑っていた。

 不阿の計画、それはこの大都の頂点に立ちひいては大和国を治めることだ。そのためには明らかに自分の敵になるような人物は消しておくべきだ。

 すでに不阿は会議室に向かっている。その途中、懐のなかを確認した。本人はただ計画に支障がないかを確認しただけのつもりだ。誰かに見られているなんて夢にも思っていないだろう。

「だから、いつもつめが甘いんだって。ま、監視カメラが傍受されてるなんて誰もわからないと思うけど」

 岸は多数のモニターの一つを睨みながら呟いた。

 もちろん例の隠し部屋である。彼女は前々から、不阿が何か計画していることに薄々ではあるが気がついていた。

 しかし、証拠もなく彼を問いつめ、逆に殺されては本末転倒だ。だから、隠し部屋を作ったり監視カメラを傍受したりしてしっぽをつかもうとしていたのだ。

「しっぽは出してくれたんだけどね。思ってたより過激ね」


 ツカツカツカツカ……

 最後の会議参加者の足音が聞こえてきた。

 それまでは談笑などである程度柔らかだった会議室の空気が固くなる。

 ガチャリと大きな戸が開く。入ってきたのは言うまでもなく不阿だ。

「遅れて申し訳ありません。不阿少将、只今到着いたしました」

「いや、別に構わないよ。早く座ってくれ不阿君」

 戸の正面。上座に座る参謀長が自分の隣の席を指差す。

「いえ、そう言うわけにはいきません。何しろ……」

 突然だった。不阿がいきなり懐にてを入れるとそこから拳銃を取り出したのだ。

 そして、その狙いは正面の参謀長に向けられる。

 撃った。何のためらいもなく。

 しかし、抜き打ちだったためか狙いがそれた。参謀長は腕を撃ち抜かれて倒れる。

「その席はあなたの血が飛ぶんですよ?ちょっと座りたくないですよ」

「不、不阿……貴様……」

 腕を撃ち抜かれた参謀長が銃創を押さえながらもうめく。

 その声に会議室に居合わせた総計十三人の元大和軍の幹部が懐から拳銃を抜いた。

「手を挙げろ、不阿。お前は犯罪者だ」

 十三の銃口が不阿の急所をまんべんなく狙う。

 しかし当の不阿は怯えるどころか薄笑いを浮かべた。

「さすがに素晴らしい動きですね。軍の幹部ともなれば違いますか」

「……一体何をたくらんでいるのだ」

 誰かの質問にも、不阿は薄気味悪い笑みを浮かべるだけだった。

 数秒後、不阿が突然伏せた。幹部たちは逃げると思ったのか一斉に銃口を下へ向け……

 もしこの瞬間、臥竜がここにいたとすれば戸の向こうに莫大な熱源反応を察知していただろう。

 ダガガガガガガガガガガガガガガッ

 もはや人間に対して放たれる兵器の音ではない。不阿の後方の戸が爆散し直後、何百発という銃弾の嵐が生身の人間である幹部たちを襲った。

「」「」

 声をあげる暇などない。

 そこにあるのは人間だったもの(、、、、)だ。

「やれやれ。ご苦労だ。しかしさすがは帝華だな(、、、、)。技術はともかくこんな兵器を量産できるんだからな」

 彼の背後に控えていたのは機械兵だ。それも持っている銃が大和のものではない。細い銃身を何本も束ねた回転式機関銃ガトリングガンだ。単体の兵器であるにも関わらず多くの材料を必要とし、弾を分間二百発も撒き散らすのだ。資源のない大和で作れるものではない。

「さてと、あと生きてるのはあんただけなんだが」

 不阿はゆっくりとした足取りで円形の机を回り込む。そこには腕を撃ち抜かれた参謀長が倒れている。

「お前……帝華と……」

「ああ、そうさ。結構前から武器とか密輸してたんだけどな」

「帝華と……手を組んで何をやるつもりだ」

「そうさなあ、とりあえず帝華が大和を占領する手引きをする」

「!!」

 帝華と繋がっていた男が言った言葉に参謀長が息を飲んだ。

「占領だと!?バカな、帝華はもう……」

「戦争やめたってのは表向きの話さ。実際は水面下で牙を磨いでる」

「そうか。お前が虚数部隊の孔雀の確保に熱心だったのもこれでうなずける……」

「奴は本当はこの場で殺すつもりだったんだがな。どう転ぼうとこの計画のプラスにはならない」

 彼がリミッターをはずした機械兵を送りつけたのはそういうことだったのだ。

「……そろそろ警備に当たっている機械兵たちが駆けつける頃だぞ?」

 参謀長は話を引き延ばし、隙を狙う。しかし依然として彼の頭に向けられた銃口は揺るがない。

「機械兵は気にすることはない。皆、機械兵を私のところへ集めているからな。万が一それにもれがあってもこいつの敵じゃない」

 そう言って不阿は自らの後ろにたつ機械兵を指差す。大和が使用しているものより二回りほど大きい。その上、装備しているのが回転式機関銃ガトリングガンときてる。普通の機械兵では勝ち目はない。

「というわけでそろそろ死んでもらおうか」

 不阿の指に力が入り――引き金が引かれた。

「!?」

 死を覚悟していた参謀長の左腕が(、、、)撃ち抜かれた。

 と、同時に不阿の後方の機械兵が倒れた。

「全く。あんたは懲りないわね」

 不阿はわざと左腕を狙ったわけではない。発砲の瞬間、文字どおり横槍を入れられ銃口の向きを強制的に変えられたのだ。入った横槍は振り向かずとも分かった。

「岸……貴様か」

 ほんの数分前に戸から木屑に変更されたものの上に若い女性の姿があった。その手に握られた拳銃からは煙が立ち上っている。

「先にいっておくけど、あなたのご自慢の機械兵はもう動けないわ。ついさっき特殊な超音波で電脳を破壊しといたから」

 拳銃を構えたまま岸はゆっくりと不阿に歩み寄る。

「やれやれ。その調子なら電脳を持った兵器は使えそうもないな」

「当然ね。悪いけど私は早く参謀長を医務室に運びたいの。手をあげてその手の拳銃を床におきなさい」

 不阿は表情を崩さない。なにか逆転の策でもあるのか、ただの見栄なのか全く読めない。

「残念だが、君は大きな勘違いをしている」

 唐突に不阿は笑う。手はあげているものの拳銃は手放していない。

「なに、まさか電脳を使わない機械兵がいるとでも?」

 銃口を不阿の頭にポイントしたまま岸が問う。

「そういうことじゃないさ。ただ君は見落としをしているんだよ」

 直後だった。岸は背後に殺気を感じた。

「!?」

 砲弾のような拳が岸を背後から襲った。

 明らかに人間の動きではない。機械によって強化された機械兵の動きだ。

(よけられない……!)

 とっさにそう判断した岸は体を回転させ、背中に放たれた拳を肩で受ける。軍への最年少入隊者の肩書は伊達ではない。

 しかし、頭が切れて状況判断が早くとも緒戦は人間、それも女性だ。

 現れた拳が振り切られた。

 と同時に岸の体が軽々と飛ばされる。

「かはっ‼」

 肺の中に空気がすべて押し出されて息が詰まった。どうやら壁に、しかも広い会議室の反対側の壁にたたきつけられたようだ。

 そこで岸は初めて襲撃者の姿を捉えた。

 見た目はただの機械兵だ。しかし先ほどの拳といい、それを放った後の姿勢制御といい脳はかなりのハイスペックのようだ。普通機械兵は近距離戦には向かない。なぜなら近距離戦になればなるほど自らの姿勢制御や人間に近い思考・判断が必要になるからだ。殴り合いの途中でバランスを崩さないようにする、また時には回避のために自らバランスを崩すなど高等技術が必要となってくる。

 もちろん近距離型がいないわけではない。その場合は前衛と後衛の間にネットワークを張り、後衛が前衛の演算補助を行う仕組みになっているのだ。

(でも今回のは……)

 演算補助もなし。しかも岸の行ったメインコンピュータの破壊工作すら効いていない。すでに機械兵の範疇を超えている。

「さっきまでの威勢はどこへ行ったんだろうね」

 不阿がゆっくりと銃を構える。

「私を……殺すの?」

 岸も銃は持っている。殴られても離さなかったの大したものではあるのだが、肩を砕かれたため銃口を前に向けることすらできない。

「殺す、か。いや、やめておくよ。他の重臣と違って君には利用価値がありそうだ。虚数部隊を一番よく知ってるんだからね」

「……彼女と……孔雀と事を構えるつもり?」

「いや、それには及ばないよ。彼女は今頃百を超える機械兵たちに殲滅されているだろうし」

 口元に嫌な笑みを浮かべて、嬉々と語る不阿。岸の表情は変わらない。

「君を利用したいのは孔雀以外の虚数部隊だ。”行方不明”ではなく”死亡”にしてしまいたいんでね」

「なるほどね。もし私がここで抵抗すれば?」

「残念だがここで死んでもらうさ」

 不阿は親指で後方を指さす。

 そこには先ほど戸のところで岸を殴った機械兵が回転式機関銃ガトリングガンを構えて立っていた。

「……機械兵とは思えないわね。装備品に定義されている規格以外の武器を扱うなんて」

「君に自分の命以外考えることはないよ。死にたくないのならついてきてもらおうか」

 不阿は出口に向かって歩き出す。機械兵が促すように出口をしゃくった。

 今は生きられるなら生きておくべきだ。そう判断した岸は拳を受けた右肩を抑えながらも立ち上がり、不阿の跡に続いた。機械兵も回転式機関銃ガトリングガンを構えたままついてくる----と思ったのだが機械兵は自己の判断で強力な兵器を捨てた。そして自らの装備品である拳銃に持ち替えると岸の後ろについた。確かにそちらのほうが人間単体に向けるには向いているだろう。が

(ますます機械兵じゃないみたい。自立機能が飛び抜けすぎている。ここまでコンピュータが判断できるならもうすでにAI(人工知能)のレベルだわ。大和でも一部の兵器にしか組み込まれていないはずの)

 AI(人工知能)は虚数部隊のような最重要兵器にのみ搭載される人間にも劣らないいわばコンピュータの人格だ。そして容量などから考えても機械兵に仕込める代物ではない。

(一体どういうことなの……)


「とりあえずここに入れ。用ができれば場所を移す」

「汚いわね。女の子に気を遣えない男はモテないわよ」

 岸が入れられたのは施設内の監獄だった。岸の皮肉にも答えず、不阿は機械兵を連れて監獄から離れようとした。

「待ちなさい。最後に一つだけ聞きたいことがあるの」

 不阿の足は止まらない。しかし岸は構わず続けた。

その機械兵は何なの(、、、、、、、、、)?」

 不阿が歩みを止めた。しかし振り向こうとはしない。

「そうだな。帝華の特別製(、、、)、とだけ言っておこうか」

「……私はそいつの材料が気になるんだけど」

「そいつは知らないな。ま、いずれ教えてあげられるかもね」

 不阿は今度こそ離れていった。

 そして牢獄の中で岸はつぶやく。

「あんたの計画は完遂されたわけじゃない」

 帝歴1430年九月二十日。不阿のクーデタとともに再び時代は激動する。

次の話でとりあえず一章が終わると思います。

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