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回想

年末が忙しくて遅れました。すいません。

「孔雀……」

「何よ。それより、あんた自分がどんなことになってたか覚えてるの?」

 無事、釜茹で地獄から脱出した臥竜は元整備士だという男の持ってきた服に着替えそれまで着ていた軍服、というよりも五年間で変わり果てた布きれから解放される。

「覚えている、というよりは夢みたいな感じだな。だから、あいまいで。よかったら教えてくれないか?」

 臥竜のお気楽な言いように孔雀は「はあっ」とため息をついた。

「あんたねえ。後三日発見が遅かったら死んでたのよ。それも自分の能力による自爆で。わざわざ群を抜け出してまで探しに来た私に少しは感謝してほしいものだわ」


 あのあと、孔雀と元整備士は孔雀が引き出したコンピュータのデータの中から、海水温の低い地帯へ急いだ。ここ数年の不漁の原因、それは海水温が不自然に下がったことにあったのだ。

 そして海水温低下の中心にあったのは、半ば海水につかった洞窟だった。それも半分崩れている。

 その中は明らかに寒かった。涼しいどころな話ではない。晩夏の暑さがいまだに残る外とは違い、冷房が効いている、いや効きすぎているというレベルだ。

 そして、その中にあった瓦礫の山。そこに臥竜は埋もれていた。冷凍睡眠の状態で(、、、、、、、)

「やっぱり。彼ならやりかねないと思ってたけど。彼、自分の能力を使って自分の体温を下げて冷凍睡眠状態になってるんです」

「れ、冷凍睡眠?!科学的に可能なのか」

「よほど精密な機械を使わないと不可能ですね。でも彼の場合は機械ではなく人間が制御するのだから精密な作業をするには向いています」

 そういうと孔雀はがれきの山を指さした。

「しかし、それでも脳に損傷がないというのは難しいところです。早く助け出さないと……」

「わかりました。私がこっちを持ち上げますから体を抜いてください」


「……まあこんな感じ。で、ここに戻ってきて今度は私の能力で君の脳波を診察して、体の方ほんと後三日で死ぬとこだったけど脳波には異常がなかったから。後は知っての通り」

「あの釜茹でか……ていうかなんで茹でたの?普通に布団に寝かして君が手足をもむとかしてくれても……」

「今度は火炙りにするわよ」

「……」

 恐ろしいことを言われた。

 いかに物の温度を操る《熱量変換》の能力を持った臥竜でも直火焼きは勘弁してほしい。

「君を茹でたのは脳波に異常がなかったから。つまり能力が使えると判断したのよ。だから外的刺激与えると同時にその冷凍睡眠で死にかけて体のほうも回復させたってわけ」

「死にかけてたってどんな感じに?」

「凍傷寸前のうえ、栄養失調。いくら、冷凍睡眠で新陳代謝押さえても五年は長過ぎるのよ」

「それでもゆでる理由にはならないと思うけど……」

「おきたんだからいいでしょ。怪我とかしたわけでもないし」

「万が一、僕が《熱量変換》を使えなかったら、確実にトドメ刺されてたよ」

「ま、なんであれ臥竜君が見つかったならここに長くいる必要はないわ。次に行きたいところもあるし」

「分かった、明日にでも出発しよう」

 といって、立ち上がろうとした臥竜だが、足元がふらついていた。

 体も脳も異常なしとはいえ五年ぶりに体を動かした臥竜は明らかに体力が足りていない。こんな状態で旅など不可能だ。

「……もうしばらくここにいましょう。その間に君からこの五年間のことを話しておきたいし」


 その日の夜だ。

 床についた臥竜はある夢を見た。もう五年も、十年も前のことなのだがはっきりと昨日のことのように思い出せた。

 初めて虚数部隊の仲間にあったときのこと。

 当時は六人とも手術を受けたばかりで自分の能力にただただ驚いていた。

 そんな彼らを見守る、というより観察している七人目(・・・)がいた。彼女こそが虚数部隊の産みの親で、孔雀なんかよりよっぽど優れた技術を持っていた女性だ。

 本来なら最強の部隊の筆頭として語り継がれるはずの人物。しかし、彼女はそのあとすぐ行方をくらましたのだ。無論その後の部隊の調整は孔雀と整備士の手で問題なく行われ、まもなく第虚数番機動部隊として動き出した。

 もちろん臥竜もそのなかの一人だった。しかし、彼に目覚めた能力は人間相手ならともかくいまや帝崋でも主流となった機械兵が相手ではあまり戦力にならない《熱量変換》だった。

 だからこそ彼は研鑽を積み、自分自身の技を手に入れた。

「お前は、剣術にしても能力にしても、大した情熱を注いでるな。全く……努力家だな」

 そういったのは、部隊で機体を操る者、つまり「本体」の戦術指南役兼斬込隊長、獅鷹だ。

 本人は気だるげな目をして、それこそ剣なんざ全く似合わない男なのだが、腰の後ろには常に十字に交差させた五十センチほどの棒――二刀一対の小太刀がくくりつけられている。ちなみに刀を抜いた彼とまともに戦える者は誰もいない。

「……仕方ないだろ。剣術にしても能力にしても僕には才能はない。どんなに望んでも獅鷹みたいな剣技や龍馬や天馬みたいな強大な能力は手に入らない。なら、足を引っ張らないためにも精一杯努力するしかない」

 黙って聞いていた獅鷹だったが、不意に臥竜の肩に手をおいた。

「お前はまだ未成年だったか。ンじゃあ人生の先輩からのアドバイスだ。お前に才能が無いわけがない。お前には大きな才能がある。そう自虐的になるな」

 臥竜はただの慰めだと思った。おそらく誰が聞いていてもそう思ったはずだ。しかし、獅鷹はそうではなかった。

(自分自身に劣等感を持ってて、それでいて努力できる。それはある意味才能だ。将来きっとお前の糧となる)


 獅鷹はこの一年ほどあと、帝崋領となっていた大和に程近い大陸に続く半島の大和軍基地で飛燕、天馬、そして臥竜とともに正体不明の「特殊攻撃」に襲われた。

 攻撃を受けたとき、臥竜は索敵のため機体に乗って基地の上空にいたため攻撃を免れた。しかし、基地で待機していた他の三人はそのまま行方不明となっている。

 あの攻撃、仲間を失ったあの攻撃の正体はなんなのだろうか。

 しかし、臥竜に考えている時間はなかった。虚数部隊をふくむ基地にいた者の行方がわからなくなってすぐ、帝崋が攻撃を仕掛けてきたのだ。当然前線は崩壊、戦線は瞬く間に押し下げられた。

 このままでは本土すら守りきれるか怪しい。

 少なくともあの艦隊だけでも足止めできれば……


 目が覚めた。

 五年ぶりにあの部隊でいた頃を思い出せた。

 もう戦争は終わった。五年も前に。

 今当時の戦いの名残を残しているものは、同じ隊にいた孔雀と、身体中の骨が折れ一か八かの冷凍睡眠を試みたとき握りしめた己の刀だけだ。

 覚醒したときにはなくしたと思っていたのだが、孔雀があとから渡してくれた。獅鷹のものほどではないがかなりの業物であったはずの長刀。しかし今は、鞘はひび割れ、刀身もくすんで刃もこぼれている。それでいて激戦のなかで臥竜とともに戦っていたときの威厳のようなものはいまだに健在だった。

「五年か……」

 獅鷹、飛燕、天馬は行方不明。孔雀から聞いた話だと龍馬も行方不明だという。

 死んでいるのではなく、あくまでも行方不明(・・・・)なのだか生きている見込みは少ない。

 虚数部隊員は、少なくとも肉体的には年をとらない。脳のなかで分泌されるホルモンバランスの情報をいじって、だいたい十八才くらいに合わせてあるらしい。つまり、もう成長期は過ぎているが新陳代謝はまだまだ多い時期だ。これにより老化を押さえているのだ。

 しかし、年をとらないのはあくまでも肉体的に、だ。精神的にはきっちり年をとっている。もっとも、五年間眠っていた臥竜は年をとっているとは言えないのかもしれないが。

「あら、起きた?ご飯できてるわよ」

 突然、家の外から女の声がした。孔雀だ。

 なぜ外からかというと、いま臥竜がいる部屋しかこの建物に存在しないからである。

 四畳ほどの板とむしろで作られた空間に、昨日、急遽屏風が持ち込まれただけの質素すぎる部屋は明らかに台所には向かないだろう。

 小屋の前には七輪がおかれ、臥竜には名前も分からない魚が焼かれていた。

「へえ、孔雀って料理とか出来るんだな」

 臥竜は素直に誉めたはずだったのだが、孔雀は形のいい眉をひそめる。

「……それってどういう意味よ。私が料理するのがそんなに意外?」

「いや、そういうつもりでいったんじゃないんだけどな……」

 意外な地雷を踏んだ臥竜はあわてて目をそらすと七輪の上の魚に手を伸ばした。

 なかなかいい具合に焼けて、結構熱いのだが臥竜には関係ない。

「《熱量変換》!」

 魚が常温に戻される。

「君の能力ってさ、戦闘っていうより、日常生活とか大道芸の方がむいてるよね」

「認めたくはないんだけど、その通りだったりする」

「明日からは火起こしは臥竜君の仕事にしよっと。あと、朝御飯の準備と片付けも冬になったらやってもらおうかな。水が冷たいんだよね」

「……人の能力をなんだと思ってるんだ」

 そんな話もありながらもその日の朝食は二人の胃のなかに消えていった。

「さて、そしたら君がぐっすり眠り込んでた間に何があったか話しときましょ」

「いや、見た目ほど楽じゃないよ、冷凍睡眠は」

「私の苦労のおかげで冷凍永眠にならなかったんだからいいでしょ。えっとどこから話そうか?」

「五年前、僕が堕ちたあとどうなった?」

 臥竜が先ほどまでの笑顔をひそめ、真顔できいた。彼が死にかけてまで守りたかったものは果たして守り抜けたのか。それが彼の一番聞きたいことだった。

「大丈夫。君の足止めは結構効いててね。あのあと龍馬君が全部撃沈した」


 戦時の大陸。その最も大和に近い位置で蜻蛉にも似た空戦型の機影があった。臥竜だ。

「特殊攻撃」が発動させられたあと、臥竜は単機で前線基地から撤退した。正体不明の攻撃を恐れてのことだ。しかし、これにより攻めてきた帝崋を止められる兵器が前線から消えたことになる。

 勢い付いた帝崋は臥竜単機で止められるものではなかった。

「茜」と呼ばれていた臥竜の脳にリンクさせていた機体はぼろぼろになった。

 帝崋は僅か数日で陸、空、海を制圧し大和へと空母を中心とした艦隊をおくりこんできた。

 防衛線を張ることができれば迎撃できる程度だったがその時間はない。

 対応に焦る軍本部の孔雀の元に飛び込んで来たのが、いまだに大陸で交戦していた臥竜からの通信だった。

「孔雀、防衛線はあとどのくらいで張れそうだ?」

 明らかに疲弊しきっている。彼はいま彼の機体「茜」のなかにいるのだから本体は体力を消耗するはずはない。それでも精神的に疲れているようだ。よほど厳しい戦況なのだろう。

「分からないわ。南西諸島の方の戦況が一段落着いたら龍馬君を送り込めるけど、それも早くて二、三日後になるわ

 今は南西諸島の前線にいる虚数部隊・広範囲殲滅役の龍馬とその機体は文字通り広範囲にわたって強力な攻撃を行う能力を持っている。しかし逆にいえば、広範囲にわたって殲滅ができない状況、例えば本土での民衆を守りながらの戦いなどはできなくもないが戦力が著しく落ちるのだ。

 つまり、龍馬の能力を存分に使うためにも海上で迎え撃つ必要があるのだが……

「無理ね。君の能力は応用性は高いけど龍馬君みたいな強大な破壊力はないでしょ」

 いくら最強兵器といえど単機で艦隊を足止めできるのは龍馬くらいなのだ。

「……足止めだけでいいのか?本当に龍馬が来るんだな?」

「え、ええ。……何をするつもりなの?」

 突然神妙な口調で話し出した臥竜に、孔雀は眉をひそめる。

「……!まさか」

 孔雀がそう叫んだときには臥竜の機体は大陸から一転し、大和へと飛んでいた。

 向かう先はもちろん帝崋艦隊だ。

 孔雀は一瞬止めようとしたが、すぐに言葉を切り替えた。

「分かった。好きにして。ただし、必ず生きて帰りなさい」

「……了解」

 自分でもできるかどうか分からない約束だが、とりあえずそう答えた。

 臥竜は孔雀との通信を切ると、 脳波で直接、機体《茜》のAIに質問を叩き込む。

「茜。機体の損失はどのくらいだ」

 《外装甲損耗72%、ずいぶん無茶してますね》

 耳ではなく脳に聴かせられるAIの声は聞いた感じだと女性だ。この機体において動かす臥竜が社長だとすれば彼女(?) は状況の報告や能力を使用する際の演算補助などを請け負う秘書官といえるだろう。

「演算能力はどうだ?どのぐらいの威力が出せる?」

 《演算能力については損耗はほとんど見られません。おそらく普段通りで大丈夫です》

「そうか。……君は僕が考えていることが分かってるよな」

 《ええ。脳とリンクしてますから》

「成功率はどのくらいだ?」

 《ほぼ100%です。ただし》

 茜はここで言葉を切った。

 《ただし、それだけ強力な能力の使用は前例がないですし、演算能力のほぼ全てを回すことになりますから、生きていられる保証はないです。むしろ生きてはいられないと思います》

「そうか。なら、今のうちに別れを言っておこうか。今までありがとう、茜」

 《本当に今さらって感じです。これまで当機にかけた迷惑の分くらいはお礼を言われる権利があります》

 死地に向かうとは思えないほど、茜は冗談めかして言った。

 陸が途切れ、海が見えてきた。その向こうには大和の島もみえる。そしてその手前にあるのは……

 《敵性反応感知。数や編成からして帝崋艦隊に間違いありません》

「了解。《熱量変換》機動!」

 臥竜が指示を出すと同時に、今まで銀色だった機体が赤く染まった。機体のコードネームの由来でもある《茜》の戦闘体制である。

 高熱の機体からかげろうが立ち上る。

 そして無言のまま高速飛行を止めぬまま艦隊の真ん中を海面スレスレで飛び抜ける。

 気付いた時にはもう遅い。艦隊の中心付近にいた空母が真っ二つになって沈んでいく。

 臥竜と《茜》の戦闘スタイルは一撃離脱型だ。蜻蛉の羽を模した機体上部の(ブレード)は高熱化され、分厚い装甲も切り裂く。

 しかし、この戦いかたには当然弱点も存在する。

 間合いが極端に狭いのだ。

 高速飛行で多少は補えるものの弱点に違いはない。

 空母を狙って、二、三隻沈めたところで帝崋艦隊が応戦し始めた。威力より速射を重視した砲撃が《茜》の装甲を削る。

 《損耗率80%。そろそろ飛べなくなりますが》

 会敵してから三十分ほどたったとき、ついに茜が危険信号を発した。

 単機での戦闘でいえば間違いなく勲章もののはたらきだが敵艦隊はもうすでに大和のそばまで迫っていた。

「そろそろ潮時か。やるぞ(、、、)、茜」

 《了解です。(ブレード)解除(パージ)。装甲、解除(パージ)

 敵は何事かと思っているだろう。墜落寸前まで追い込んだ敵軍の最強兵器が、武器を捨て鎧を捨てているのだ。

 《飛行機能、停止(シャットダウン)

 ついに、《茜》が海に落ちていく。しかし、それでもAIの声は止まらない。

 《解除(パージ)した部分の演算能力を本体に回します。機体制御機能、停止(シャットダウン)。能力演算補助、限界突破(リミッターかいじょ!》

 直後、本体であるはずの臥竜 の身体が海中に投げ出された。しかしまだ《茜》とのリンクは切れていない。

「《熱量変換》最大展開!」

 臥竜のあらんかぎりの叫びと共に海が凍った。それも見渡す限りに分厚い氷が張ったのだ。

 と、同時に機体から投げ出された臥竜の脳と《茜》リンクが切れた。そして両方とも氷に閉じ込められたのだ。

 意識が飛びかけた。それもそうだ。普通の人間ならできない容量の演算を機械の助けを受けたとはいえ無理やり施行したのだ。

(このままでは、誰も助けにこられないだろう。ここが僕の墓だ)

 終わった。全て終了した。そう思ったとき、作戦を思い付いたときに本土にいた孔雀がかけてくれた言葉を思いだした。

『生きて帰りなさい』

(そうだ、まだ死ねない。せめて生き残る可能性のある方法を……)

 最後の力を振り絞る。やることは難しくはない。単純に自分の下の氷を溶かし、海に出るのだ。後は自力で大和まで泳ごう。臥竜はそう思い、能力を今一度施行した。


「って感じ。あのあと、大和までは帰れたんだけど流れ着いた洞窟内で空襲にあってさ。瓦礫に埋もれちゃったから、仕方なく冷凍睡眠にはいってたの」

酷評でも、一言でもいいので感想をください!

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