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王家の姫君  作者: ユズル
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第五話「興味の対象」




「随分と惚れ込んだようだな」




 王のその言葉に、ライネリオは一瞬固まるも次には何事もなかったかのように飄々とした。


 なぜなら、そう言われてしまえば否定できないからだ。会ったその時から、彼女にはどことなく親しみを感じていたし、今まで会ってきた過去の女性を振り返ってみれば彼女はどの分類にも当てはまらない気質をしていた。気にならないのかと聞かれれば、気にはなる。だが、それが恋愛感なのかと言われればそうではない。つまり違うのである。




 彼女は、隙がないのだ。面白いほどに。




 彼女に興味が湧いたのは、おそらく同類の匂いがしたからだろう。本能的に意識せずにはいられないのである。とにもかくにも、興味深い人物には変わりない。



 あの瑠璃色の澄んだ双眸に秘めている強い眼差しが忘れられないのだ。



「――それで、その女は私の替え玉を見事に見破っていたと」

「はい、見破っていたとまでは断言できかねますが。どことなく彼女の発言には何か引っかかるものがありましたので……。もしかしたら、勝手に私がそう解釈しただけなのかもしれませんが」

「お前の気を留めた女には違いあるまい。どこの国の出身だ?」



 すると、ライネリオは腕に抱えていた書類を何枚が差し出す。どうやらすでに調べてきたらしい。



 エスクード王、エフラインはそれを受け取ると、目にも留まらぬ早さでその書類に目を通していく。

 速読術は膨大な書類を片付けていく上では極めだ。それぐらいできなければ、王の仕事はいつまで経っても終わらないのである。また、それはいい加減に速く読めばいいというわけではなく、いかに短時間で冷静で的確な判断が下せるかは、王自身の力量に関わってくる。



「……なるほどな。どおりで私の目に留まらぬわけだ」



 読み終えた後で、エフラインはそう納得した。



「むしろ、この女が妃候補に抜擢されたこと自体が奇跡だろう。文面だけを見れば、だが」

「まあ、ここに集められた姫君たちと比べられては、彼女は本当に平凡ですからね」

「しかし、よくこの宮殿に入れたものだな。縁談に上がった時点で、すでに落とされていそうなものだが……」

「どうこじつけこの妃候補の名簿に入ったのかは不明ですね。……ですが、他の妃候補の中にも数名そのような者がおりましたし、この場合、かえって珍しくもないかと」



 エスクードからすればピクスは小国に過ぎず、あってもなくてもどうでもいいような、眼中に置かない国である。近頃はさまざまな国の使者が頻繁にピクスに出向いているようだが、今のエスクードにあの国は必要ない。他国を敵に回す義理もないもない。




――だが、




「お前が関心を寄せるほどの女だ。会ってみるのも一興か」



 その言葉に、ライネリオは珍しく驚いた顔をした。めったに見せることのない彼のその表情に満足したエフラインは、考えを決める。どうやらしばらくは暇を潰せそうだ。



 エフラインの口端が持ち上がる。それをライネリオは見逃さなかった。



「ライネリオ、明朝にでもデグニダル国第二王女が選ばれたと通達しろ。ああ、これで王宮が静かになるかと思うとせいせいする」

「はい、そのように手配致しておきます」



 それから、とエフラインは続けた。唇に指を立てている仕草は、やはり何か企んでいるようにしか見えない。






「私はエスクードの王としてデグニダル国第二王女を引き留めるが、ピクスの王女はお前が(・・・)引き留めておけ」






 この王に興味を持たれた彼女を哀れに思いながらも、また内心では彼女を滞らせることに成功できた達成感に浸っていたライネリオであるが、その感情を表に出すことをせずに、静かに黙礼するとその部屋を後にしたのであった。

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