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王家の姫君  作者: ユズル
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第十四話「生き字引」




「実のところ俺は君に興味を抱いているんだが、何故だかわかるか。」



 恥ずかしさのあまりに真っ赤になったエミリアは、エフラインの胸を押し退けると部屋を飛び出していった。

 彼女が出ていってから、礼儀として挨拶を済ましたアリシアは、気まずさを回避する為にもすぐさま退室しようとした。エミリアを探しに行くことを口実として。しかし、エスクードの王はアリシアを逃がしてはくれなかった。



「俺をひとりにしてくれるな。」



 いつの間にか、アリシアは彼に腕を掴まれている。彼は睨め回すようにアリシアを観察すると、彼女の耳元で囁いた。



「――そんなに強張るなよ。妙な気を起こすだろ。」



 今、部屋に残されたエスクードの王とアリシアとの間に変な雰囲気が流れていることは確かで、その雰囲気を破ってくれる第三者はこの部屋にはいない。非常にまずい。



「……お放しくださいませ、陛下。お遊びであられるなら、エミリア様が悲しまれます。」

「気を使う意味がわからない。君にとってこの状況は俺を手玉に取れる良い機会なはずだが?」

「……例えそのような状況であったとしても、自覚がある殿方を落とせるほど、私自身そちらの方の技量は兼ね備えておりませんので……。ご容赦くださいませ。」

「それは残念だな。期待したのだが。」



 彼はククッと笑うとアリシアを掴む手を放した。



「――少々冗談が過ぎたな。アリシア、デグニダル国第二王女を頼んだぞ。

 俺はこれでも忙しい身の上だ。これで失礼させてもらう。――また会おう。」



 飄々と手を振って部屋から出ていく彼――赤墨色の髪と淡黄色の瞳を持ち合わせたエスクード王、エフライン。

 彼はアリシアの中で、いろんな意味で油断も隙もない人物として烙印を押された。

 誰もいなくなった部屋でアリシアは、エスクードに滞在してから最も大きな溜息を吐いた。

 (あれ)は、アリシアが一番苦手とする分類の人種だ。間違いない。と、先が思いやられるアリシアであった。






 「虐使姫が恋をした」そんな噂は宮殿中で瞬く間に広がった。事実その噂は本当であり、虐使姫ことエミリアの私生活はみるみる内に変化を遂げた。

 まず、形振り構わず嫌がらせをしなくなった。相変わらず、アリシアにはこっ酷い仕打ちを行っているのだが、人目を気にするようになり大っぴらにアリシアを扱き使うことはしなくなった。

 次に、エミリアのファッションが様変わりした。赤い派手なドレスを身に纏っていた彼女が、慎ましやかなドレスも着るようになったのだ。その辺境にエスクードの陛下とどんな会話が交わされたのかアリシアが知った話ではないが、彼が関わっていることは確かであった。

 そして、何よりの変化。それは、彼女自身がアリシアに相談を持ちかけるようになったことだ。大抵のことは、エフライン陛下との色恋沙汰であるが、何故かアリシアに意見を求めるようになったのである。



「ご機嫌はよろしくて、アリシア。」

「……今日は陛下とはご一緒ではないのですか?」



 アリシアの部屋にエミリアが訪れる際には、必ずと言っていいほどエフライン陛下が同伴している。しかし、今日は一緒ではないらしい。一先ず胸を下す。



「陛下は多忙な方よ、仕方ないわ! それに、今宵は会ってくれると約束してくださったわ。」



 エミリアが長椅子に座り、うっとりとしている。その表情は完全に恋する乙女だ。

 陛下に現を抜かしているエミリア。彼女は様々な物事に対して自分の都合のいいように楽観視する、本当におめでたい人である。だが、そんな彼女をアリシアは羨んでいた。



「それで……今日は何のご用でしょうか?」

「アリシア、わたくしに殿方の気を引く方法を伝授しなさい。」



 差し詰め彼女の中でアリシアの存在は、恋愛の生き字引だとでも思っているのだろう。が、断じてそれはない。

 初恋はあるにしても、それ以外で恋愛すらしたことのないアリシアがわかることは、文献内での男女のなんたるかだけである。多少、様々な分野に博識があるアリシアを恋事の専門家として頼るのは本来お門違いなのだ。しかし、彼女の中でアリシアの存在が必要とされているとするならば、良いことに越したことがない。



「ええ、よろしいですよ。」



 アリシアの寝台の下に「恋愛事情」に関した本が山住になって置かれていることを知っている者は、恐らくリタぐらいだろう。

 そして、また要らぬ知識をつけてしまったと嘆いていたアリシアの姿を見たのも彼女ぐらいだ。



 すでにエミリアは「アリシア」という存在を受け入れ始めていた。

 それが、計画的なものであるとは露とも知らずに今日もエミリアはアリシアの部屋にやってくるのだった。

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