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ここはなにかが欠けている

彼女に出来ること

作者: 浮月重月
掲載日:2026/08/09

王立中央学院。

この学院は王国所属の貴族と準貴族子女であれば入学し、

九歳から十四歳までの六年間を過ごす事が義務付けられている。

それは庶子ですら、入学義務からそうそう逃れられない。


時には成績が振るわずに進級出来ない者も出てくるのだが、

大抵七年、八年かかってでも卒業を目指す者が大半である。

何せここを卒業できなければ絶対家督を継げないのだ。

仮にやむを得ない場合で退学しても、である。

王国憲章で定められているがために。


もっとも留年するような者が家督を継ぐ事は極々稀である。

一人っ子で親族にも目ぼしい者がいないか、ぐらいであろう。


ちなみに王国には「病弱な貴族子女」は、ほぼいない。

よって「病弱」を理由に通学出来ない者はまずあり得ない。

神殿を頼る事で大多数の病や傷は快癒してしまうからである。

かなりの金額が「浄財」として要求されるのではあるが。


ほぼいない、という事は、いるにはいる、という事。

例えば先天的に視力を持たない、四肢が欠けている、

こうした者は高度な神聖魔術でも補えない。



カーニャは、生まれた時から両足ともひざから下がなかった。

両親も祖父母も彼女の不幸を嘆いたが、その分溺愛していた。

若い頃の母親によく似た愛らしさも拍車をかけた。


家は副伯爵で経済的に余裕もあり、生活には困らなかったが、

車椅子で自由に動けない彼女はよく感情を不安定にさせていた。

使用人に当たり散らし、両親も祖父母も強くは叱らない。

不安定さは年齢と共に悪化する一方だった。


動き回れないカーニャは、外で遊ぶ事に興味が起きなかった。

その代わりに家にある本を片っ端から貪るように読んでいた。

おかげで領主邸の基礎学校では、成績も抜きんでていたが、

これ以上の進学は難しく、生涯領地にいるつもりだった。



カーニャが八つになる頃。

王立中央学院に通う五つ上の兄が、一人の女性を連れてくる。

彼女は色素の薄い紫がかった長髪を後ろにまとめている。

身綺麗にはしているが、取り立てて目立つところのない容姿。

年齢は多分兄よりも数歳は上だろう。成人に見える。

大好きな兄を奪う婚約者、という訳でもなさそうだが。


「はじめまして、カーニャ嬢。兄君の知り合いのロートです」


カーニャは両親や祖父母同様、溺愛してくれていた兄の連れに、

どう反応すべきか戸惑っていたが、やがて口を開く。


「カーニャです。兄がお世話になっております。

 本日はどのような御用ですか?

 疲れているので早く休みたいのですけど」


一応は身に着けている丁寧さで、しかし苛立ちは隠さず、

別に貴女とは関わりたくないと言外に伝えたが、

ロートはそれを気にした様子もなくこう告げる。


「王立中央学院に通ってみませんか?」


カーニャは困惑する。車椅子の自分が学院生活を送る?

奇異の目で見られるだろうし、今更他人と関わりたくもない。

世話人だって学院生活では何人か必要になるだろう。

この女は何を言っているのだ。


「あの…わたしの事、ちゃんと見えてますか?

 車椅子なんですよ!貴女みたいに自由に動けないんです!

 不自由な自分を見世物になんかしたくないんです!」


声を荒げるカーニャだが、ロートはこう返した。


「車椅子は要らなくなる、貴女は普通に歩いて通学できる、

 と言ったらどうでしょうか?」


ロートはカーニャの兄に目配せすると、兄は後ろを向いた。

同時にロートは自分のスカートを捲くり、カーニャに見せる。


ロートも両足がない。

いや、太ももまではあるが、自分と同じようにひざ下がない。

太ももから靴までの間には何もない空間が広がっているが、

太ももの端に何かが巻かれており、宙に浮いていた。


両足先の模型のようなものがそれぞれ靴を履いており、

付け根にも太ももの端と同様のものが巻かれている。


カーニャはロートが入って来た時の事を思い返す。

彼女は、普通に歩いて入室してきた。周囲の人と同じく。


「少し前に開発された、魔道具の義足です。

 わたしの知人がこれを一から作ってくれました。

 ももから足までの間に透明の力場が出来ていて、

 一般の人と同じように歩くことが出来るんです。


 二ヵ月前までは、わたしも車椅子の生活でした。

 練習は必要でしたが、今では走る事も出来ますよ。

 希望すれば貴女の義足も作ってくれるそうです」


カーニャは無言のまま、見えない義足から目が離せなかった。



一年後、カーニャは王立中央学院へ通い出す。見えない足で。

彼女の感情が不安定だったとは、もう想像すら出来ない。

将来は学院の教員を目指すそうだ。ロートのように。

義手、義眼も開発済み。ある生徒達がロートのぼやきを聞いて開発した。


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