物語の過去~ハジマリ
己の頭上を掠めるような気がして、少年は首を竦めた。
少年の周囲から大気が震えるような歓声が沸き上がる。
五機の戦闘機は寸分違わず、同じ間隔を保ちながら空を滑っている。
轟音と共に天に向かって突き上げる姿を、今度は身を乗り出して少年は見つめた。
ひらりと機体が翻る。黒っぽく見えていた戦闘機の、この銀色に輝く瞬間が少年は大好きだ。
「シン。引っ張るな、頭が痛い」
渋い声音で抗議するのは、少年を肩車した男だった。その灰色の髪を興奮した少年が引っ張ったらしい。
「ごめんなさい、おじちゃん」
少年は素直に謝った。でも、興奮した少年は再び男の髪を引っ張る。今度は、男は抗議をしなかった。無理もないと思ったのだろう。少年の父親が、あの戦闘機に乗っているのだ。
再び、歓声。
天頂に達した五機が、急降下を始めた。
オオオオオオ
それは怒号と称すべき、震えだった。
五機の戦闘機は地面すれすれで機首を起こし、観客達の間近を低空飛行してみせる。爆音。
再び上空へ一気に駆け上り、高く上がっていく。
大きく空中で旋回し、隊形を変えていく。滑空しながら徐々に間隔を開けていく五つの機影。そし、五色に色分けされた飛行機雲が、空に孔雀の羽を作った。
と、不意に一機が妙な動きをした。
左から二番目の機体だ。
折れる角度が必要以上に大きい。
そして、誰もが息を呑む惨状が起きた。
吸い寄せられるようにその戦闘機は、一番左の戦闘機に寄り添ったのだ。
接触。
ちかっと光が散った。
ボンとかゴンとか、そんな大きな音がした時と、観客の悲鳴が折り重なる。
二機の戦闘機は、二匹の蝶のように、空をひらりと横に舞い飛んでいく。
白い煙が黒く変わった。
赤とオレンジの炎が吹き上がる。
そして――地鳴りのような音がして、観客達の頬を熱い風が撫でていった。
そして、月日が流れた――