魔族の姫君
魔王城、王の間。今、その場所で勇者と魔王の戦いの火蓋が切られそうになっていた。
そんな時、勇者が口を開く。
「…魔王、俺と結婚してくれ」
「「「「………え?」」」」
魔王の少女と勇者の仲間たちの声が広い講堂に響いたのだった。
◇ ◇ ◇
私は現魔王である父と魔族一の魔法の使い手である母の元に生まれた一人娘のアリサ・ソフィラテス。いわゆる、魔族の姫…という立場を私なんかが幸運にもいただいてしまっている。本来の私自身は引っ込み思案で人見知り。一人で外を出歩くなんて以ての外。そんな性格の幼少期を過ごしていた私だけれど、今はそんな素をおくびにも出さないように隠している。
それもこれも、魔族を統べる存在であるはずの父様が、私の御祖父様が亡くなられた後処理に追われ、体調を崩してしまったからだ。そのため、ここしばらくは将来の実習という名目で一時的に国のトップを担わせていただいている。
「母様、父様の体調は…?」
そうすれ違いざまに廊下で母に尋ねると、母は憂いた表情のまま首を振った。父が倒れてから早一週間。それは意識はあるものの、病弱故に無理は禁物だと言われた父が未だ統治者として復活できないという意味をも内包していた。
「…そう、ですか…。ありがとうございます、母様」
ふわりと微笑んで見せれば、母様は心配そうに私の顔を覗き込んだ。それから、私の肩を優しく抱くと、心配そうな声色のまま言う。
「貴女も無理はしては駄目よ。まだ、子供という齢なのに…」
「いいんです。私が選んだことですから」
全く無理はしていないのだと。この代理とはいえ、一時的に国のトップに立てることはありがたいことなのだと。自分にも言い聞かせるように呟きながら、母様と別れた。これから母様は回復師の元で魔力を回復するのだという。それならば、引き留めてしまったのは申し訳なかったな、などと思ってしまった。
――また、どこかで会えたら謝ろう。
そう決意して、王の間へと向かったのだが……。
私はまさか勇者が攻めてくるなんて聞いていない!!
しばらく公務をしていると、宰相からの言伝でそう伝えられた。御祖父様よりずっと前の時代から人の子の国――ラファール国とは対立関係を築いていた。遠い昔は同盟を組んでいたらしいのだが、私の先祖に愚か者がいた。其奴は裏切った挙句、当時の国王を亡き者にしたそうだ。
先生に聞いた時は額面上でしか受け取れなかったけれど、今の私は危機感をひしひしと感じている。それは、私一人の決断でこの国を危険に晒してしまうからだとか、そういうのかもしれない。つまり、下手をしたら…父様と母様を悲しませてしまう。国民を危険に晒してしまう、ということ。ならば…
……私が、やらなければ。
そう、父様が玉座の裏に隠していた杖を、手に取ったのだった。
◇ ◇ ◇
…それから、対面した勇者に求婚された私はとても混乱していた。さっき、この国を守ろうと決意を固めたのは何だったのだろうか、とすら思う。こうやって考え込むのも馬鹿らしくなってきた。
「ユイト、貴方何言ってるの!?魔王に求婚するとか…」
「いいじゃん、サクラ。俺もさ、本当は王国からの命令を遂行する予定だったんだよ?でも、あんなに可愛かったらしょうがないじゃん」
「確かに、魔王は聞いていた話とは違って可憐な少女に見えますけど……」
「だろ!?アランお前、わかってんじゃん」
顔を上げてみると、勇者たちは私を差し置いて口論をしていた。彼ら曰く、ラファール国からの王命で私…もとい、父様を倒しに来たということらしい。ただ、タイミングが悪く、私と鉢合わせをしてしまっただけで勇者の気が変わってしまうとは……。敵ながら可哀想である。
「……わらわを差し置いてそなたらは何を言っておるのだ?」
思わずそう口にすると、勇者は何を思ったのか。こちらを見上げてくる。彼の周りの仲間たちは勇者の説得をすでに諦めてしまったようで、本来は敵であるはずの私が助けを求めても、無駄だということがハッキリと分かった。できれば、諦めないで欲しかったなぁ、なんて思いつつも。
「俺はラファール国に召喚された勇者……神宮結糸…。じゃなくて、ユイト・ジングウ。どうぞ、お見知りおきを」
「だから!そなたは馬鹿なのか!?」
食い気味に貶した気もしなくもないが、私としてはそれどころではない。早くお帰りください。それか戦うか……。どちらにしても、私に勝機は見えないけれど。
「そんなとこも可愛いじゃん」などと戯言を口にする目の前の勇者――――ユイトには何も言いたいことが伝わっていないようで。
……もうやだ、疲れた。自分の部屋に帰って寝そべりたい…。そんな願望は捨て去るしかないようだ、と悟らざるを得なかった。
「……そなたは分かっておるのか?わらわが魔法を撃てばこの城ごと消し飛ぶ威力を出すことができる。それをわかっての戯言か?」
売り言葉に買い言葉。さながら私も熱気に当てられてしまったようだ。私も早く諦めれば良かったのだろうか?いや、御先祖様方が守ってきたこの国を私の一存で滅ぼす事などできない。だから、私はやらなければいけない。とっくにそうだと分かっていたはずだったのに。
そんな決意を胸にしたとき。背後から聞き慣れた、とても優しい声が聞こえた。
「――アリサ。もう大丈夫ですよ。私がどうにかしますから」
「かっ……母様っ!?」
どうしてか、私は。きっと母様ならどうにかしてくれる。そんな漠然とした自信を抱えていたのだった。
適切な文量が分からない、私の十八番は一人称芸。
これからアリサたちをよろしくお願いします!




