Graduation War ~ 俺たちは卒業したいんだ!
「本当に素晴らしいクラスが生まれた!」
校長は自分の机であるクラスの実績を見ながら感慨深く頷いている。
この学校は昔から「底辺学校」と呼ばれる不良の巣窟だった。しかし、そのクラスだけは違った。勉強も運動もできて行事にも積極的。大会でも実績を出していて、地域の評判もよく「奇跡のクラス」とまで呼ばれた。
実績を見ていた校長が突然顔を上げて深くため息をつく。
「だが、彼らも卒業か……」
校長の顔が段々青白くなっていく。
卒業してしまえば、また学校は荒れるかもしれない。この輝きが消えてしまうのが惜しい。どうすればこの素晴らしい日々が続くのだろう?
そう思った瞬間、彼にある考えが浮かぶ。
『生徒が居なくなってしまうなら、卒業させなければいい』
その考えに辿り着いた瞬間、校長は不気味な笑みを浮かべていた。
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卒業式が近くなり、3年A組の生徒たちは卒業後の話で盛り上がっていた。
優秀な生徒が集まったこの組は、すでに有名大学や企業への進路を決めている者ばかりで、卒業後の世界に皆が胸を膨らませていた。
しかし、生徒たちは異変に気付く。
「なあ、もう休憩終わってる時間じゃないか?」
「確かに。もうずっとチャイム鳴ってな……え、ちょっと見て!?」
その声で生徒たちは時計を見る。なんと時計の針が狂っていた。長針と短針は別方向に回り、秒針はランダムに回転方向を変えている。
さらに外を見れば空の雲が風で流されていない。まるでそこに固定されているようだった。
何が起きたのかと生徒たちが慌て始めた時、校内放送が流れた。
『3年A組諸君、おめでとう! 君たちは「卒業しないこと」に決まった。ずっと、ここで青春を謳歌しようではないか!!』
「「「えぇぇぇぇぇぇ!?」」」
校長の狂った宣言にクラス一同驚愕するしかなかった。
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それから教員たちは校長の計画に賛同し、次々と生徒の卒業を阻止すべく動き出した。
体育教師は校庭から逃げようとする生徒を加速装置で追いかけて拘束し、数学教師は連絡を遮断するために校内全てのデジタル機器を数式で暗号化した。
国語教師と社会教師は青春を謳歌する素晴らしさと、外の世界が如何に醜いかを説くプロパガンダ放送を展開し、美術教師に至っては粘土でモンスターを創造し脱走する生徒を監視した。
そしてあろうことか3年A組以外の生徒を彼らの「青春の妨げ」として学校から放逐した。校内には3年A組だけが残された。
始めは動揺していた3年A組だったが、やがて卒業のために反乱を起こす決意を固める。
「やってられるか! こんな場所から俺たちは絶対に卒業するぞ!!」
『絶対卒業』をスローガンに3年A組は教師たちと全面戦争に突入した。
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戦いは激戦だった。
まず加速装置で機動戦を行う体育教師の脳筋体質を利用して挑発し、加速させたまま壁に激突させて撃破した。
数学教師の暗号を解読するために電脳空間でデジタル化した教師と異能電脳バトルを繰り広げ、最終的に教師の媒体のコンセントを抜いて無力化した。
放送室を占領すべく7度の攻勢を行い、籠城する国語と社会教師を2週間閉じ込めて兵糧攻めで陥落させた。生徒たちは購買部で補給線を確保していた。
そして、今は美術教師の創造した醜悪な美的センスの粘土モンスター軍団が守る最終防衛戦が展開されている。生徒たちの目標はひとつ――校長室にある『卒業証書』だ。
「タツキ! 俺がここを守るから先に行け!!」
両手に竹刀を持つリーダー格のタツキと呼ばれる生徒は声を掛けた生徒を見た。その生徒は既に腕を負傷していて戦えるようには見えない。
「だがトウジ、お前の傷では……」
「気にするな。卒業の為なら腕の一本どうということは無い!」
そう言ってトウジはもう片方の腕でモンスターにラリアットを喰らわせる。周りでも生徒たちがモンスターと死闘を繰り広げていた。
「リーダー、行ってください!」
「私たちに――卒業式の栄光をもたらしてください!!」
周りに鼓舞されてタツキはひとり前進する。そして校長室の前には全ての元凶が居た。
「まさかこれほどまでに抵抗するとは……だが、卒業証書は渡さない!」
暗黒魔力を身につけた校長は浮遊して魔弾を放ってくる。タツキはそれを竹刀で叩き割って対決の姿勢を見せた。
永遠の青春と青春の先の未来――それぞれの目指すものの為に、お互いの全てを掛けた最終決戦が始まった。
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4日間に及ぶ死闘を制したのはタツキだった。途中まで無限の魔力を持つ校長が有利だったが、防衛線を突破した他の生徒たちが精神をリンクさせてタツキの守護霊を降臨させ窮地を救った。
更に今まで出てこなかった教頭が、実は生徒たちを陰で支援していたことが発覚。彼が校長の魔力源が校庭にある歴代校長の像であると教えた事で、生徒たちはその像を破壊し、魔力供給を断たれた事で校長は遂に敗北した。
「バカな……私の青春が……」
床に倒れる校長はまだ自分の望みを諦められなかった。しかし、卒業証書は既にタツキたちの手にある。
「校長……学校が未来を奪っちゃあダメだよ……彼らの未来を返してやろうじゃないか」
教頭は優しく校長に語りかける。校長も涙を流しながら、小さく頷いた。
ここに卒業を賭けた戦乱は終わりを迎えた。
卒業できる様になって生徒たちは皆喜び合った。彼らの未来は開かれたのだ。
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それから卒業式は無事に開催された。あの戦乱の痕跡も既に無く、かつての敵対者だった教師たちも彼らと和解し、今は見送る立場となっている。
「……なんだかんだ言って、楽しかったな」
卒業証書を手にタツキはあの戦乱を振り返る。今にして思えば、あれも青春の一部に思えてしまった。
彼らはこれから各々の未来へ進んでいく。卒業とは別れでは無い。次のスタートラインなのだ。
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一方、こことは別の高校で――。
「キサマらに卒業する資格は無い! 卒業したくば私を倒すことだ!!」
あの戦乱で別の学校に左遷された校長だったが、今度は「完璧な卒業」を目指して生徒たちを完璧な卒業生に変革するべくまた戦乱を引き起こしていた。
卒業を賭けた戦争が、再び始まろうとしている――。