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精霊士養成学園の四義姉妹  作者: 霧島まるは


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62.キロヒ、警戒する

 ツララの四つの足が、突然砕けた。

 叩きつけた氷の塊が四方八方に飛び散るように、前足も後足も等しくはじけ飛ぶ。代わりにより太く大きな青白い足が伸び、足の裏は板状に変型する。

 次に胴体が砕けた。より大きな胴は全身の毛が氷の針のように尖る。

 尻尾が砕けた。長くふさふさだった尾の先端に鋭い針を生み出した。

 頭が砕ける。長い鼻面に大きな牙。ピンとたった両耳に雪の結晶の飾りをつけ、たてがみは荒れ狂う風に舞い上がるような形に散る。たてがみの先端にもそれぞれ鋭い氷の針をきらめかせた。

「アオオオン!」

 幼い動物の鳴き声から、力強い吠え声に変わる。

「ツララ!」

 地面にへばりついて白目をむいていたニヂロが、がばっと起き上がる。ツララはふわりと宙に浮き上がり、鋭くニヂロの目の前に着地した。

「よくやった」

「アオン」

 抱き合って喜ぶことはない。それが彼女とツララの距離感。

 こうしてツララは、一年生で初めての上霊となった。


 ニヂロは上機嫌である。彼女はツララの姿を消す方法を理解し、消した状態を維持していた。

 しかし翌日の授業に向かう際、彼女はわざとツララを消さずに自分に伴って歩かせた。大きくなったツララは、もう彼女の髪の中に隠すことはできない。

 一年全員が、ニヂロとツララに視線を集中する。すぐ隣のキロヒは、サーポクの方を向いて「私は関係ありません」という顔を作っていた。ニヂロの自己主張や自己満足に巻き込まれたくなかった。

 ラエギーが教室に入ってくると、そのざわめきはすっと静かになる。教師はいつもとは違う空気に気づいたのか、講壇からぐるりを視線を動かし、そしてニヂロで止めた。

「ニヂロ……後で私の部屋に来るように」

「うっす」

 鼻高々のニヂロは片手を上げて、それに応えた。

 ニヂロが余計なことを言わなければ、疑われることはないだろう。まだ春休暇も来ていない間の上霊なので、目を引くことは間違いないが、ありえる話の範疇だ。サーポクとザブンに比べたら、その特異性は大したことではない。

 問題は春休暇の後。その時に、何人が上霊しているのか。それ次第で、ラエギーの反応も変わるだろう。


 キロヒは「離」の訓練を少なめにして、秘密の図書室にこもることが増えた。彼女は一人でも入ることができるし、持ち出し禁止の本がそこにはたくさんある。

 謎の精霊が作ったという本だ。

 その内容は、キロヒの理解できないものも多かった。謎の精霊は、人と精霊のつながりが目で見えるようで、それについてこと細かに書いてあるのだが、見えないキロヒにはピンとこない。

 そこで活躍するのが、謎精霊の脳内解説である。さすがは書いた本人、ではなく本霊。キロヒは質疑を繰り返しながら、本の内容を把握していく。

 人と精霊のつながりの構造は、霊膜というものが一番外側にあり、その中に絆肉と絆液がある。絆肉は互いの間で育てられた蓄積霊質。謎精霊の言う「質」に当たる部分だ。この質が上がるとつながりが太く丈夫になる。精霊と離れてもつながっていられ、情報のやりとりも遠隔の頼み事も可能になる。

 絆液は、精霊の直接的な力になる。環境が合わない時に精霊が人間にぴったりとくっついていたがるのは、この絆液を直接得るためだという。

 低級の時は絆肉も細く、絆液もその細さの中を流れるのために少ない。だから人と離れて自由に動き回ることができない。

 亜霊域器の中のように霊密が高いと、密度の高い霊素が絆液の代替品となり外部から吸収し、離れて活動できるということらしい。

 こういった情報を謎精霊の解説も交えて、キロヒは白雲にまとめていく。


「秘密ノ部屋ニ入ッテイルノ?」

 赤と緑の派手な鳥に問いかけられ、キロヒは硬直した。

 今日も今日とて、秘密の図書室にこもろうと思った彼女が、一人で図書室にやってきたところを、優しい笑顔の司書に手招きされてしまった。

 そして笑顔の彼女の代わりに、鳥型精霊が語り掛ける。

「な、何のことですか?」

 挙動不審になるのは、仕方がない。こういう突然の出来事に、キロヒは弱いのだ。目は泳ぐし、言葉も転ぶ。

「ヨク図書室ニ来テイルケレド、アナタハスグニイナクナッテシマウノヨ。昨日モ、アナタヲ探シタケレド、ドコニモイナカッタワ」

 怪しまれるのも無理はない。読書席で読書をするなり、本を借りて退出するなりすればいいのだろうが、キロヒはそのどちらでもなかった。彼女は秘密の図書室に興味があるからこそ、彼女の行動も気になっていたのだろう。

「避難部屋で帰りました。本は持ち出していません」

 キロヒは極力嘘にならないように、言葉を選んで返答した。

「棒読ミハ分カリヤススギルワネ」

 しかし、ことごとく鳥に鋭いツッコミを受ける。キロヒは涙目になった。こういう日に限って、一人で図書室に来てしまった。ふぅと深呼吸して、彼女は司書に向き直る。

「えっと、つかぬことを伺っていいでしょうか……司書さんは、この学園の卒業生でしょうか?」

 突然変わった話に、司書と鳥が同時に首を傾ける。

「エエ、コノ学園ノ栄エアル一期生よ」

 しかし、それは彼女にとって誇りなのだろう。自分の胸に手をあてて答える。鳥が。白髪でもっと年が上かと思っていたが、五十歳だったようだ。

 一期生。キロヒの頭に甦ったのは、四年の狂気な教師。

 あっ、この人、あっち寄りの人かも──キロヒの中で一気に警戒度が跳ね上がった。


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