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精霊士養成学園の四義姉妹  作者: 霧島まるは


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124/142

124.キロヒ、卒業生と再会する

「幻級キーに、海の魔物狩りさせられるって、一体何がどうすればそうなるんだよ、はははははっ」

「遠慮せずに食べていいからな」

 キロヒとシテカ(狩人)は、協会そばの食事処に呼び出されていた。

 浜辺の魔物狩りの後に連絡板を見ると、イミルルセからもキムニル(目隠れ)からも連絡が入っていた。

 キムニルに至っては、使い方も教えていないというのに。協会の職員に使い方を知っている人がいて習ったらしい。

 慌てて軽く事情を説明すると、ここで待ち合わせとなった。シテカも一緒に。

 ユミは学園生でもなく協会員ではないため、協会の亜霊域器に宿泊ができない。キーがねじ込めばいけないことはないのだろうが、結局ゴゴの中の丸太小屋で休むことになって別れた。

 学園に入ってから、外食とは無縁だった。貨幣とは無縁な生活だからだ。学園内でお金を使うことはない。食事も着替えも最低限の消耗品も支給だ。実家に帰った時に、必要な嗜好品などは指輪に入れて持ち帰るくらいは許されている。サーポクのビニニのように。

 食事処と聞いた時、支払いができないので彼ら用の連絡板の受け渡しと、軽く情報交換だけができればいいと伝えた。しかし、その連絡板の礼におごると言われたので、ありがたく受けることにした。

 店の壁ははめ込み式になっており、今日のようないい天気の日は全て取り払われている。昼間の眩しい太陽のように輝く、だいだい色の灯りの下で、海の仕事をする男たちが、大きな酒椀を掲げながら大声で今日の戦果を声高々に語り合っている。

 キロヒなら、絶対に選ばない店である。すぐにエムーチェ(海男)が二人を見つけてくれた。道にまではみ出して置かれた、一番端のテーブルに連れて行かれる。キムニルは既に座っていた。

 二人とも、印象が随分変わった。エムーチェは学生時代は髪が長かったが、ばっさり切って頭の下半分はジョリッジョリである。

 逆にキムニルは後ろ髪が少し伸びており、きっちり縛られていた。

「お久しぶりです」

「ああ、久しぶり」

 うまいものを持って来ると、エムーチェが男たちの間を身軽に駆け抜けて行くのを見た後、キロヒは改めてキムニルに挨拶をした。シテカは目礼だけだ。

 何から話をすればいいか考えている間にも、エムーチェが大皿と人数分の小皿を持って戻ってくる。

「魚介鍋な」

 ドン、と置かれた大皿から、大きな魚の頭が飛び出していて、キロヒは一瞬びくりとした。昼間にさんざん見た、魚型の魔物を思い出したからだ。しかしこちらは黒ではなく、真っ赤。

 金色のスープの中には、他にも貝や謎の何かが浮かんだり沈んだりしている。

 次の大皿は、薄く焼いたパンのようなものの上に、緑や赤の野菜と中央が空洞の白い輪切りの何かがが載せられている。

 エムーチェはナイフを持って、器用にそのパンを四等分に切り分ける。毎日食べている、慣れた人間のやり方だ。

 深い小皿と浅い小皿。エムーチェは、鼻歌混じりにナイフをパンの底に滑り込ませ、浮き上がらせて浅い小皿に載せていく。キムニルは黙々と深い小皿に魚介鍋を取り分けた。

 魚の目玉がぽろりと入った深皿の行方が、どこにいくのかじっと見守っていると、キムニルはそれを静かにエムーチェの前に置く。キロヒの前にはそうでないものが回された。

「さあ、食べろ食べろ」

「ご馳走になります」

「ありがたくもらう」

 食事という生死に大きく関わることだけに、シテカはきちんと言葉で礼を言う。キロヒも、少しは彼のことが分かってきた。

 食事をしながら、まずは港に来た理由を説明する。そして今日昼間に浜で起きたことを。

「幻級キーに、海の魔物狩りさせられるって、一体何がどうすればそうなるんだよ、はははははっ」

 そこでエムーチェに、腹式呼吸で笑われることとなった。周囲もがやがやと騒がしいおかげ、彼の笑い声もまたその中のひとつとして紛れてゆく。

「遠慮せずに食べていいからな」

 キロヒがここまで彼らに説明することが多く、ほとんど料理に手をつけていないことに気づいたキムニルに勧められ、魚介鍋に匙を沈める。

 魚介の旨味と塩味がちょうどよかった。昼間に汗をかいたことを、このスープが彼女に思い出させる。まさに身体が求める味と言っていいだろう。

 いろいろ乗った薄焼きパンについては、どうやって食べるべきか悩みながら先輩たちを見ていると、手でつかんで具の方に軽く折るようにして口で嚙み切っている。豪快だ。

 両手で注意して持ち上げながら、パンの両側を折る。それが入る大きさに口を開けようとしたが、普段あまり大口を開けないせいで、キロヒは加減がよく分からない。

 しかしパンの直径より小さかったようで、口に入りそうにない。頑張ってもう少し大きく開けて押し込む。頑張って噛み切りながらも、残りのパンから具をこぼさないように角度調整をする。

 食べるだけで技術を要求される料理をほお張りながら、口の中に広がる野菜の甘みと酸味、食感を楽しむ。海のものらしい風味の白い輪切りの食材は分からない。

「ウキだよ、ウキ。足が十本あって……白くて細長い、あれ何だっけ、魚じゃないよな? 虫?」

「エムーチェ。ウキは虫じゃない。魚介で間違いない。キロヒ、本当に虫じゃないから、心配しなくていい」

 白い輪切りの説明を求めた時、エムーチェがとんでもないことを言い出したので、キロヒは青ざめた。足が十本もある白い虫を食べてしまったのか、と。

 しかしあまりにひどい言い様だったので、キムニルが否定してくれた。キロヒの恐ろしいものを見る目に気づいて強めに訂正してくれたのは、本当に感謝しかなかった。

 その感謝の陰から、驚きも飛び出してくる。

 いまキムニルは、何と言ったのか。

 キロヒ、と。

 聞き間違いではないかと思い、頭の中でさっきの言葉を繰り返したが、やはり名前を呼ばれている。

 ずっと「一年」だったというのに。

 お礼の手紙で知ったが、学園を卒業して社会に出たキムニルは、この南の港に配属されるまで、何度も精霊士をやめたいと思うほどの苦労にさいなまれていた。

 人間関係に苦しんだからこそ、呼び方も含めて学生時代の尖っていた部分が、少し丸みを帯びたのかもしれない。

 助言も含めてキロヒはありがたく思いながら、パンの上に乗った虫ではない白い輪切りを、もう一口噛み切ったのだった。

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