プロローグ
見誤った。
まさかここまで天気が荒れるとは。
家を出るまでは焼き付けるような陽射しであったが、今は雪のせいで視界の確保すら難しい。やはり山の天気は恐ろしいものだ。
どれくらいの時間が経っただろうか。
暫く人にも出会わず、寒さを凌そうな場所もない山道。助けを呼ぶのも難しい。
孤独と恐怖に包まれながら死を覚悟したその時、視界の先に古びた山小屋を見つけた。
積もる雪に足を取られ、引きずるように歩きながら小屋にたどり着く。
ドンドンドン
「誰かいませんか」
あまりの寒さに、風の音でかき消されそうな弱々しい声で扉の向こうに呼びかけるが、返事はない。
ドンドンドン
もう一度扉を叩いてみるが、返事はない。もう声を出す気力もない。
どうやら向こうに人はいないようだ。
ギィィィ
背に腹は変えられない。いるかいないかもわからない誰かの返事も待たずに扉を開ける。
扉の立て付けもだいぶ悪かったが、かろうじて中に入ることができた。
見た目通り古びて埃を被った古屋の中は、入り口の対面に構えた暖炉、その前にある古めかしい椅子。右の壁には埃は被った大きな棚が立てられていた。どうやら人はいないようだ。
とにかく暖を取らなくては。
そう思って見渡すと幸いなことに暖炉の前に薪をみつけた。一日くらいはやり過ごせそうだ。
急いでそれを暖炉に入れると、持ち合わせた道具で火を起こす。
十分ほどすると体も温まってきた。
今夜はここで過ごすことになりそうだ。
そうして落ち着いて翌日のことなども考えていると、棚が再び視界に入った。
椅子から立ち上がり棚に向かって歩き出す。
近づいて見てみるといくつかのモノが棚に残っていることに気がついた。
とはいえ、使えそうなものはない。
割れた皿やお椀、本、鏡、腕輪や首飾り。
どれも相当な年代物のように見える。
本を一つ手に取ってみる。
赤い表紙に書かれた文字は見たこともなく、読めるような代物ではなかった。
もう一つ、渋い緑のその本は本ではなくどうやら日記であったらしく、こちらは所々消えかけた文字もあったが、かろうじて読むことができた。
外は命の危険すら感じる雪の世界。
小屋から出てすることもない私にとってそれは暇つぶしに丁度よかった。
再び椅子に座ると、ゆっくりとその日記を読み始めた。
これは、世界の歴史である。