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開いているドアは見過ごしなさい  作者: 白い黒猫
天国線の沿線にて……
5/12

見たとしても見過ごせ

 噂だけが先行し詳細が明かされず、うちの高校の生徒がモヤモヤしている状況の中で、皆をザワつかせることが起こる。


『最近天国線で起きている不可解な謎の真相に迫るべく、このチャンネルをスタートさせました〜』


『俺たちで、天国線に纏わる怪奇現象を解き明かしていきたいと思います!』


 鬼嗣(タカシ)と動画を観ていた俺はタブレットの前で頭を抱える。顔出しはしていないが、声を聞けば分かる。顕慈(ケンジ)憂児(ユウジ)だ。


 現在2回目で登録者は200でも結構見ている人は多そうな感じ。YouTuberとしては微妙だけどスタートとして考えるといいのか悪いのか興味がないから分からない。

 一回目はここ最近の天国線の人身事故に関するデータを見せ、いかに天国線がおかしいかというのを論じていて、2回目は駅の構造に着いて論じていた。

 作りとしては悪くなく、派手さはないものの、高校生が作ったにしては上手く纏めてはいる内容。

 その夜のナインポートは戦いに行くことはなくラウンジでの話し合いとなった。


『いや、俺はお前らも誘おうと言ったんだけど、顕慈は二人はそういうの怒るからと』


 憂児は見当違いな言い訳をしてくる。誘われなかった事を怒っているのではない。


『黙ってやったのは悪いと思うけど、俺たちの学校の奴が被害に遭っているから無関係ではないだけに検証すべきことだと思うんだ』


 顕慈の方は俺たちが反対するのがまだ分かっていた上で、もっともらしい建前を述べることをしてきている。


 憂児の方が思いついてやったのかと思っていたが、意外なことに顕慈から働きかけたようだ。


 一人では踏みだせないから憂児を巻き込んだ。


俺と鬼嗣は反対してくるのが読めていたから、誘うのを避けたというところだろう。


『お前らも見ただろ? 結構コメントもついて評判もいいんだ! 今からでも一緒にやらないか?』


 憂児の浮かれた言葉に俺はため息をつく。始めてみたYouTubeが思ったよりも反応もあったことで舞い上がっている様子の二人をどうしたものかと俺は悩む。


『俺たちを巻き込むな。お前らがしていることって、いろんな意味で危険を孕んでいるということに気づけ!』


 鬼嗣は二人に諭すように言葉を紡ぐ。

 鬼嗣が本当に懸念しているようなことは、気を許しているとは言い難い二人には言い辛い。

 今だと変に好奇心いっぱいになり面倒なことになるのがみえている。


『危険なことなんてないよ!』


 憂児は明るく返してくる。


『まず、鉄道会社にしてみたら、悪い評判を広められているととられたら訴えられる可能性がある』


 鬼嗣は一番常識的なことから、さとしていくことにしたようだ。


『でも本当のことじゃん』


 拗ねたような顕慈の声。


『あと、あそこでの被害者の関係者が面白おかしく扱われていると知ったら良い気はしないよな』


 俺はそう言いながら、手が震えるのを感じる。


『コメントとか見ただろ? 喜んでくれている人も多いんだ!』


『鬼嗣と(ヒロシ)は気にしすぎなんだよ! なんか言われたらその時はその時考えて動画下げるかどうか考えたらいいじゃん』


 俺は大きく深呼吸をする。


「二人とも、これだけは分かってほしい。ハッキリ言うと当事者家族からしてみたら、こういうのはキツい。

 実は俺が中学校の時、母親が自殺した。

 その時世間は好奇心だけで無遠慮に面白おかしくウチの家族について言いたい放題言ってきた。

 俺はそれに対して何も言い返したり訴えたりはしなかたけど、そういった輩に怒りを覚えたし、傷つけられた。

 悪気のない行動だとしても、傷つく人が出てくる場合もあるというのを意識しておいてほしい。

 あと……自殺って元々連鎖しやすい現象なんだ」

  俺はそこで一旦言葉を切る。気持ちを整理するために。顕慈と憂児は黙ったまま。


「騒ぐ人がいることで、次の自殺者を誘発することもある。そう言ったことも考えてからどうするか決めてほしい」


 憂児と顕慈は俺の言葉に黙り込む。

 浮かれている二人にはややヘビーな内容だったかもしれない。でも俺なりの彼らへの真剣な忠告。


(ヒロシ)大丈夫か?】


 鬼嗣からLINEで裏で連絡がくる


【オカルト的な理由で止めたら、余計に燃料投下するだけだから。これでいいんだ】


 この二人は使命感なんかでやっているとは思えない。この年代の男子がもちがちの自己顕示欲からだ。

 YouTubeなんて大抵の場合失敗するもの。

 でも彼らにとって思ったよりも悪くない注目を浴びていると実感できているだけにやめるという選択肢を選びたくないと言うのが透けて見えた。


『え、でもお前、お母さんいるじゃん』


 顕慈はこういうところでも余計な事をいう。

 友達ではあるが、多くをコイツらに説明する気はない。


「会話の雰囲気でも分かるだろ? 父親の再婚相手だよ」


『完()、結構色々苦労していたんだな』


 憂児なりには気を遣ったのだろうが何ともゆるいコメントを返してきた。

 二人にあまり響いているようにも感じない。その空気にもどかしさを感じる。


 自殺という言葉で蘇ってくるあの日の光景。


 俺の方を絶望したように見つめている母親の背後……。

 換気の為開けていた窓の前で、こちらを誘うように風に揺れるレースのカーテン……。


「この言葉だけでも気に留めておいて」


 俺の言葉に二人は『何? 何?』と無邪気に聞いてくる。そのトーンがやたら明るいのも引っかかる。


「開いているドアは見過ごせ」


 『え?』『何? それ。ナインポートの話?』


 二人からそんな呆気に取られたような声が返ってくる。

  大元の言葉はドアではなく窓。そしてコレはナインポートで俺がいつも言っているのとは意味がかなり違う。


「何かの映画に出てきた言葉らしい。真田が辛かった時期の俺に言ってくれた言葉」


 真田は、俺の母親は開いていた窓にウッカリ魅入られてしまっただけだから、俺は何も悪くないと慰めてくれた。

 だから人は空いている窓を見過ごして生きるべきだと……。


『ホームのドアが開いていたという話のこと?』


 鬼嗣とホームで真田の話をしていた時……俺の目にも四番乗り場だけホームドアが開いているのが見えた。

 鬼嗣に引っ張られて離れた時に確認したらホームドアは普通に閉まっていた。あの駅のドアも人を誘っている。そんな気がした。

 ソレを言うと、俺も一緒に検証しようと面倒な事になりそうだ。


「ま、うっかり開いていたとしても、ふざけてそっち行くなという事!

開いていても、絶対ドアに近付くな!」


 動画配信を止めろという話をしていた筈なのに、なんか二人は俺達に許可されたみたいなノリで『りょうか~い♪︎』の脳天気な返事をしてきてこの話題は終わりになってしまった。

 二人は企画会議があるとかでオフとなり、鬼嗣と二人になる。


「あいつら、大丈夫かな?」


 俺の言葉にうーんという声が返ってくる。


『まあアイツらが調べたところで、ネットの薄い情報を集めただけ。すぐにネタは尽きるだろう』


「となると、オカルトスポット突撃とかしそうでそれはそれでヤバさを感じるな……」


 俺は霊感と言うものがないために鬼嗣の感覚を共感できないけど、鬼嗣の反応で何か見えざる不思議なモノがこの世界にあるのさ察している。


『基本ああいったところは、触らないのが一番なんだけどね。

 あいつらは厨二病的に、世間で騒がれている状況に乗っかって遊んで楽しんでいるだけ。

 根底的な部分では信じていないから大丈夫かな……』


「鬼嗣、あそこに何があるの?

 お前は何を見えたの?」


 沈黙が降りる。鬼嗣がよく何かを見つけたのか視線を向けていることがある。しかし何なのかあまり話してくれない。

 視線で「あっなんかいたんだな」とは思うけど、こないだのホームのように強く行動を起こしたのは初めてだった。

 俺も気になって聞いたが何故か今回は頑なに教えてくれない。


「何で教えてくれないの?

 何か分かっている方が何かあったとしても対処できるのでは?

 そういう意味でもアイツらにも話したほうが良かったのかな?」


 鬼嗣のため息が聞こえる。


『……知らない方がいい話だから。

 下手に認知してしまうと余計に誘ってくるから。

 さっきお前が言ったように見過ごすのが一番』


 言わんとしていることは分かるけれど、少し納得いかない。

 鬼嗣が感じているものを俺も知りたいという気持ちもある。

 しかし鬼嗣はそちらの世界に俺を拘らせるのを拒む。


『そういえば、お前がこないだ気に入っていたあの本の表紙のイラストレータの展示会のチケットもらったんだ。一緒に行かないか?』


「え! ほんと? 行く行く」


 俺は憂児と顕慈の事は、鬼嗣の言う通りすぐにネタ切れしてどうしようもなくなるか、もしくは動画作成作業が面倒くさくなって飽きてしまい、夏休み終わる頃にはもう終わっているだろうと考え、放置することにした。

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