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開いているドアは見過ごしなさい  作者: 白い黒猫
天国線の沿線にて……
3/12

それは思ったよりも近い世界の話だった

 四人で映画化されたナインポートを観た後、ファミレスでドリンクバーを飲みながら映画の感想を言い合い楽しんでいた。

 ファミレスは金のない高校生にとって涼しくて長い時間時間を潰せる最高なスポット。


「出かける前さ、母親が電話で話していたのを聞いたんだけど……」


  話が途切れた段階で憂児(ユウジ)が嬉しそうに小声で話し出す。憂児の母親は俺達の通う高校のカウンセラーをしているのを思い出す。

 母親の仕事上で知り得た情報を子供が人にバラして良いのだろうか? と少し思う。

 こいつはそんな仕事の母親を持ちながら、倫理観的にやや問題のある行動をしがち。


「飛び込んだのって……ウチの学校のヤツらしい」


「え?」


 三人が同時に出し驚いた反応に、憂児は更に笑みを深める。

 チラリと鬼嗣(タカシ)が俺を気にする。

 飛び込み自殺、その言葉に身体の体温を一気に下がった気がする。俺は動揺を隠し冷静を装う。


「誰が……あんな事を」


 顕慈(ケンジ)は長袖で覆われた左手を掻きながら声をあげる。顕慈は過去に火災に巻き込まれた事があるらしく、体のあちらこちらに火傷が残っている。それが時々酷く痒くなるとかでよくこう言う動作をしている。

  憂児はニヤニヤしながら『ここだけの話だぞ』とよくある、前置きをする。


「特Aクラスの真田とか言うヤツなんだって!」


 鬼嗣と俺は顔を見合わせてしまう。

 真田は今はクラスも違うから交流はあまり出来なくなったが、同じ中学校だった人物。

 秀才な優等生な彼とは生活や行動パターンが異なるためつるむことはなかったけれと、図書係などを一緒にしてよく会話はした。本の趣味とか合っていたから。

 優等生だけど目立つタイプではなく穏やかでイイヤツ。

 静かだけどいつもニコニコしている明るいイメージがあり、とても自殺なんかするような雰囲気はない。

 夏休み前も学校の廊下ですれ違った時に俺に笑顔で挨拶をしてくれていた。


「真田、大丈夫なのかな……」


 ショックを受けそう声を出してしまった俺。


「死んではないみたい。意識はないらしいけど」


 ホームから飛び込み、電車に轢かれたという事は、無事であるとは考えにくい。

 なんでヘラヘラとした顔を憂児はしているのだろうか? 俺と鬼嗣の真剣な様子に、憂児は流石に笑うのはやめた。


「あ、二人は仲良かったの?」


「……中学は同じだったからね」


 鬼嗣は簡単に説明する。


「あとさ、憂児お前なんでそんなに嬉しそうなわけ?」


 俺は耐えきれず憂児を責める言葉を発してしまう。


「俺たちと同じ歳の奴の、悲惨な悲劇を。

 いや全く知らない相手で笑えないだろ」


 鬼嗣と俺の言葉に憂児は少し気まずそうな顔になった。


「いや、俺だって楽しんでいる訳ではないよ! ただ普通でもない事が起こって興奮してしまったというの? でも好奇心からというか? と色々気になってしまったんだ」


 慌てたように言い訳をする憂児だが、説得力もない。

 その後は、もう四人で会話を楽しむなんて気持ちにもならず解散となった。

 気まずくなったのか憂児と顕慈は買い物があると言って逃げ、鬼嗣と二人で天国線に黙ったまま乗った。


 二人で黙ったまま並んで椅子に座る。


[九泉駅 人身事故]


 ネットで検索して見たが、ニュースではどんな人が飛び込んだとか、飛び込んだ人の容態とかの情報はない。

 ただあの日誰かがホームドアの柵を乗り越えて飛び込んだらしいという話だけ。

 Xでも目撃情報もなく、ただ電車が止まって帰れなくなった人の嘆きのコメントばかりだった。 

 鉄道人身事故データベースというサイトがあったが、詳細ボタンを押しても調査中となって何もわからない。

 真田とは顔を合わせたら会話を楽しむが、ライン交換するほど仲良くはない。

 だから直接確認する事はできない。できたとしても怖くて聞けない。犀原駅から降りたところに家があるらしい事は分かっているがそれだけ。


 鬼嗣が俺のスマホの画面を隠すように手のひらを載せる。


「何かわかったら、俺がお前に教えるから。お前は必要以上に気にするな」


 俺は鬼嗣の言葉に素直に頷き、画面をオフにした。気になり調べたいという気持ちはあったけど俺を気遣う鬼嗣を心配させたくなかったから。

 家に帰り、ベッドに横になる。目を瞑ると蘇ってくる風景。


 あの時もこのようにバカ熱い夏だった。

 蝉が異常にうるさかった。肌が汗などでベタついている。

 マンションの前はイベントがあったかのような人だかりになっていた。

 救急車や警察などの緊急車両の音が響く。救急車に反射した太陽に光が眩しく、目に突き刺さった。

 人が集まる原因となっている場所より目に痛い光。光景を見た時の最初に感じたモノ。

 植栽部分に、放りながられた人形のように手足がバラバラの方向に投げ出した女性が仰向けに倒れている。


 管理人が俺の方を見あげてくる。俺に気がつき何かを叫んだ。俺は立ってられなくなりそのまま崩れるように床に座り込んだ。


 俺は目をゆっくり開ける。当たり前だが自分の部屋の天井が見える。

 大きく深呼吸する。胸がたまらなく痛い。必死で深呼吸して必死に自分を落ち着かせる。


 部屋に視線を巡らせると机の上に小説が乗っている。


 真田が夏休み前に面白いと話していたSF小説。


 この本が面白かったから、夏休みを使ってこの作家の作品を全部読破するつもりだと話していた。

 その時の様子からも、真田が飛び込みをしたなんて信じられない。アレは自殺を考えている人の表情ではなかった。

 自殺をしようとする人の目は暗くそして……。俺は頭を横に振った。

 調べるなと鬼嗣に言われたけれど、気になり調べてしまう。

 俺は中学の時の友達に普通に世間話を装い連絡をとってみた。

 真田が飛び込んだなんて話は流れていなかった。

 憂児のガセネタではないのか? そう思いかけていた時に、高校の公式ラインに連絡が来た。


「一人で悩まないでください。

 何か困ったことがあったら、悩んでいることがあったら、まず相談して下さい」


 そんな言葉と高校のカウンセラー室や校外のカウンセリング施設の案内のリンク。それを見てゾッとする。

 俺の知っている真田かどうかは分からないが、高校の誰かが飛び込んだということだろう。


 ゴボワッ


 俺の中で激しく込み上げてくるものを感じる。俺は口をおさえて部屋を出る。そのままトイレに駆け込み便器に胃のなかのものを吐き出した。

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