高校の友人に姉を引き合わせるべきではない
テレビの朝の情報番組でも言っている。
「不要不急な外出は避けましょう」
こんな暑いというか熱い季節。
外に出掛けるのは馬鹿のすることじゃないかとさえ思っている。
夏休みになったが、フェスだ!キャンプだ!海だ!と友達と出かけまくっている大学生の真実さん。
本当に逞しいと思う。
部屋でゲームをずっとしているというと俺がオタクのようにみえるかもしれないが、アウトドア志向では無いだけ。引きこもっている訳でもない。
真実さんは夜の零時過ぎに戻ってきた。父親たちはそのまま寝室に下がったようだが、真実さんは汗をシャワーで流してから俺の部屋にやってきた。
今日行ってきたテーマパークのお土産を渡しにきて、そのまま居座っている。
そして今は俺の横でコントローラーを持ってチームに入り一緒にプレイ中。顕慈が睡魔に負け、寝てしまったから代わりに入った形になる。
もらったTシャツは、キャラクターが前面に出てファンシーなものではなく、男の俺が着ても恥ずかしくないようなクール目な趣味の良いTシャツ。
あんな場所の洋服なんて結構高いと思うのに。
「可愛い弟を着飾るのは姉の特権♪」
そう言って真実さんは明るく笑う。
別に真実さんの生き様や趣味を否定するつもりはないから、俺の事を放っておいて欲しい。それなのに、真実さんはこうして俺に絡んでくる。
今なんてノーブラでタンクトップ姿。血が繋がっているとはいえ、思春期の弟の部屋にそんな姿で来られても困るだけ。
「そういうの彼氏で楽しんだらいいじゃないですか」
「私は彼氏に貢ぐ趣味はないし、そんな甲斐性のない、もしくは主体性のない彼氏は嫌!」
『お姉さん、カッコいい! そして完は甲斐性も主体性もない男ってわけか』
余計なチャチャを入れる憂児。味方チームだけど後から撃ってやろうかと思う。
憂児はテンションが妙に上がっている。
妹も姉も彼女も居ないから女性慣れもしておらず舞い上がっているのかもしれない。
「いやいや、完君はしっかり自分を持っているから私も信頼してそういうやって絡めてるの! 弟を甘えん坊のダメ男になんかしたら、将来のお嫁さんが困るでしょ!」
『なんて良い姉さん~!素敵だ~! 』
真実さんを気持ち悪い程褒めて、称える憂児。
「そうでもないよ〜! 完君からしてみたら、やたらベタベタ構ってくるウザい嫌な姉だと思う」
そう言って小さくため息をつき俺をチラッと見る。
外出時には化粧して大人っぽく見えるが、こうしてスッピンだと目が大きいこともあり幼なげに見える。目・眉・唇と顔のパーツがはっきりしているだけに、少し動くだけで表情がコロコロと変わり、感情が分かりやすい。
『そんな事はないですよ! 完は真美さんを大切に思ってますよ。
旅行してても、真美さんへのお土産を一生懸命選んでいますし』
鬼嗣のフォローの言葉を俺は否定はしなかったが、肯定もしなかった。
しかし真実さんは鬼嗣の言葉にニコニコとした笑顔になる。
「完くんはクールだから甘えてくれないのよ。貴方たちみたいにお姉さんとも呼んでくれないし」
『あ〜分かる。完は少しスカしているとこあるから』
憂児は姉がきたことですっかりご機嫌だ。いつも以上に多弁だけに、ウザくて余計なことをいう割合も通常より多めになっている。
「スカしているんじゃないよ! 少しシャイで気つかいなだけ!」
「おぉ〜完、お姉さんに愛されてるな〜! むさ苦しい兄しかいない俺からしてみたらお前羨ましいぞ! このリア充!
お姉さんって呼んであげればいいじゃん」
憂児が揶揄うように言ってくる。
「ウチはウチ。他所は他所。俺たちはこれでいいの!」
憂児の悪ノリと真美さんの無邪気さが嫌な方向にいきそうだ。
『そういえば真実さん今日は大変でしたね』
俺の家の事情を知る鬼嗣が、そう言って会話をぶった斬ってくれた。
「そうなのよ! 道路も混んでしまって帰れたのがこの時間よ! ほんと大変だったんだから、駅も不機嫌な人ばかりだしタクシーも長蛇の列で。シェアサイクルも全部取られてて」
チラリと俺の方を見て真美さんも俺の様子を見て察してくれたようで、鬼嗣の会話に乗ってくれた。
真実さんの困った所は、無邪気ではあるけど傍若無人ではないこと。
愛情深くて俺にまっすぐな愛情を向けて、滅茶苦茶良い人。
もっと嫌な人であれば良かったのにといつも思う。そうしたら嫌えて憎めたのに……。
『お姉さん、お姉さん! 九泉駅はどうだったの? 飛び込み現場を見れた?』
憂児の言葉に真実さんの顔が強張り、俺に気を遣うような視線を向ける。
「……私は国分駅で電車が止まってるのを知って呆然としていただけだから」
『そっか~残念』
憂児の明るい声に、俺は呆れて強く息を吐く。
『しかし、あのホームドア乗り越えて飛び込むなんて相当な気持ちあったんだろうな〜すげ〜よな〜。やっぱ死んだのかな? 飛び込んだ奴』
こういったことを嬉しそうに話す憂児とは、感性がどうにも合わない。
別に気があってつるむようになったというより、一年の時席が近かっただけ。同じ中学校で元々仲良かった鬼嗣と俺が話していたところに馴れ馴れしく近づいてきたのが馴れ初めだったと思い出す。
憂児の言葉に顔を顰めている真実さんと目が合う。真実さんが手を伸ばし俺をの肩に手を回し子供をあやすように背中を叩いてくる。
俺は唇だけで、『大丈夫だから』と言って距離を取ろうとしたが、真実さんはコントローラーから手を離し両手で俺を引き寄せ抱き締めてくる。その所為で真実さんの、キャラクターは棒立になり、死んでしまった。
「真実さん! 撃たれてる! 危ないから集中して!」
鬼嗣が真美さんを撃った敵を撃ってそのまま警戒を続けてくれる。
俺は慌てて真実さんのキャラクターに駆け寄り、生き返らせた。
「わ~ヒロくんありがと~! 命の恩人 この恩忘れないから!」
真実さんは慌ててコントローラーを持ち安全なところに移動する。俺は真美さんを撃った敵を撃退する。
「だったら。コントローラから迂闊に手を離さないで下さい!
今からこの先の部屋にアイテム取りに行くから援護お願いします!」
「ラジャー!
ゴメン今ので完くん、少し怪我したね。治療しとくね」
俺に回復アイテムを使いながら真美さんのキャラクターがついてくる。
「完隊長! この後私は何をすれば?」
「その部屋の入口で見張っていて! 敵が見えたら鬼嗣に伝えて」
真美さんはゆっくりとキャラクターを動かしているのを間接視野で確認する。
「了解!」
真実さんは明るくそう返してくる。
「憂児! 開いているドアには気をつけろ! 入るなよ!」
憂児が先に勝手に進もうとするのを真美さんの画面で気が付き注意する。
何度言っても、同じ愚行に走る憂児とは違って真実さんは今日初めて遊んだのに関わらず憂児より役に立っている。
二人でスムーズな動きで部屋の探索を済ませ敵の警戒をしている鬼嗣達と合流する。
暇だったのか憂児のキャラクターがふざけたダンスを踊っている。
「真実さんは俺が護るから、攻撃より衛生兵としての役割をお願いします」
初心者の真実さんは戦闘には不慣れ。撃っても簡単に当たらない。
「ラジャー♪ ライフパックはすぐ出せるようにしてあるから!
それにしても完くん言う言葉も男前♪ 弟じゃなきゃ惚れてるよ~❤️」
真美さんはニコニコと変な事を言ってきて、俺は苦笑するしかない。
『わ~! なんかソッチで二人で楽しそうな世界を作ってる羨ましい~』
憂児のウザイ声がスピーカーから部屋の中に響いた。