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開いているドアは見過ごしなさい  作者: 白い黒猫
天国線の沿線にて……
1/12

それはごくごくありふれた日常風景から始まった

挿絵(By みてみん)


「電車が止まってしまって真実(マミ)が国分で立ち往生してしまっているみたいなの」


 夜の十一時過ぎ、義母の依子(ヨリコ)さんが俺の部屋にやってきてそんな事を言ってきた。

 九泉駅で人身事故があったとかで姉の真実さんが立ち往生しているようで、依子さんと父親が車で迎えに行くらしい。

 オンラインゲームで戦闘中だったのに話しかけられ、画面から目を離したのがまずかった。

 依子さんが去った後。俺はモニター画面を見て自分のキャラクターが死んでいるのを見てため息をつく。

 今俺は高校の友達とチームを組んで今オンラインゲームを楽しんでいる所だった。

 遊んでいるのはナインポートという世界的にも人気なシューティングゲームを友達三人とチーム組んで世界の人と遊んでいる。

 コレは九のエリアに分かれた宇宙ステーションを舞台に戦うもの。

 最初にランダムに配置されるエリアによって使える道具や武器が変わり、さらに施設そのものにもダメージ判定があり流星や戦闘によって壊れていくステーションの中で勝ち残るための戦いを繰り広げる。そして最終的に宇宙ステーションから一隻だけ残っている船で脱出するという内容。つまりは事故があり壊れたステーションから生きて脱出する為に、脱出ボートの席を争い戦うというゲーム。

 流星や戦いによって施設が破壊してしまうとそのゾーンは爆発の危険性が出たり、酸素が減り生存不可能状態となったりで死ぬことになる。

 破壊箇所を修理するかゾーンを遮断して別のエリアへ移動するか選択しながら戦う必要がある。

 そういった様々なやり込み要素があることが人気の秘密。

 酸素問題だけなら宇宙服をゲット出来ていたら回避は出来るが、それはそれで酸素残量と酸素ボンベの在庫を気にしながらの行動となる。

 今しているのは九組のチーム間でバトルロワイヤルするというモード。


 現在残り三チームとなり優勝目前。


 それなのに義母の依子さんが、いきなり部屋に入ってきて俺に話しかけてきたから、気を取られて俺のキャラは死亡してしまった。


 画面の中で鬼嗣(タカシ)が駆けつけてきてくれて復活してくれたので何とか戦線に復帰する事が出来た。


「かたじけない!」


『礼には及ばぬ、お主と俺の仲ではないか』


 ボイスチャットから聞こえる鬼嗣の返しに思わずニヤリとしてしまう。親友である鬼嗣とはこういうなんでもない会話が楽しい。


『ところで(ヒロシ)さ、事故とかいう言葉聞こえたけど大丈夫なの?』


  鬼嗣が聞いてくる。

 ボイスチャットの困った事は、そう事はこういう突発的な室内の会話をみんなに聞かれてしまう事。

  俺は壁に身を隠しながらコチラに向かって来ていた敵を撃退した。


「事故と言ってもウチとは関係ないから大丈夫!」


 コントローラーを動かしポップアップしていたアイテムを受け取る。

 今の時間は夜の十一時少し過ぎたところ。

 窓の外から父親と依子さんが車で出掛ける音がする。


「なんかさ 九泉駅で人身事故があったとかで、真実さんが立ち往生して帰れなくなったらしい。

 それで車で迎えにいっただけなんだ」


 俺はまだ入ってない部屋へとキャラを動かし棚にあった新しい武器と、弾薬をとりそれを仲間に配る。

 真実は俺の姉。父親は晩酌をしてしまったから、依子さんが車を運転することにしたようだ。

 だったら父親もついて行く必要はないと思うが、夜も遅く真実さんが心配だからと一緒に行った。

 面倒な事を極力嫌うくせに、父親は時々そういう良い父親な行動をして自己満足を満たす行動をすることがある。


『完って、家族同士[さん]付けで呼び合うんだな。依子さん完さんって』


 顕慈(ケンジ)が余計なことを言っているのでスルーする。


「このゾーン、ソロソロヤバいから、宇宙服装備しろ!

 エリア4に移動するぞ!」


  俺は皆に促し、アイテム欄から宇宙服を選びキャラに装備させる。


『俺も装備完了!

 しかしさ、九泉駅ってホームドアあるのに人身って……なんで?』


 顕慈は本当にもどうでもよい事ばかり聞いてくる。


「知らん! みんな移動したか? ロックするぞ!

 何度も言ってるけど、次のゾーンで空いてる扉には気をつけろ!」


 このゲームは部屋は一度誰かが入るとドアは開きっぱなしになる。

 新しく入るエリアでドアが空いていると言うと敵が潜んでいたり、入ってきた人に対しての罠が仕掛けられていることもある。だから注意が必要なのだ。

 俺も探索が終わった部屋には何らか罠をしかける。そこで勝手に敵が倒れてくれると助かるから。


『ヒャッホウ!ぶっ殺してやるぜ〜』


 憂児(ユウジ)のキャラが新エリアを走っていく。


 無警戒に飛び出した憂児を狙う敵が二体現れている。こいつはゲームでは好戦的でどうもこういうすぐにツッコむことが多い。


待ち受けていた敵二体を顕慈と鬼嗣が倒してくれたので何とかなった。それを確認して、俺は扉をロックしてから、さっきまでいたエリアを切り離す。


『憂児、もう少し慎重に動け!』


『おっ コイツら殺れば。俺たち勝ちじゃね?』


 鬼嗣の注意を聞いちゃいない。憂児のテンション高い大きい声がマイク越しに響き俺は顔を顰める。


「おい! 突っ走るな。罠があるかもしれないだろ!」


 俺の言葉も聞かずに憂児のキャラは、次の広場に走っていく。その直後爆発が起こる。トラップを憂児が踏んだようだ。


「あっ」四人の声がハモる。


 その衝撃で動きが止まった俺たちに敵のレーザービームの雨が降り注ぎ全滅した。


「憂児、だから言っただろ!」


 憂児は不用意な行動が多く、こういうピンチをよく起こす。


『ワリイワリイ』


 俺たちは本気で怒っているのに、当の本人はあまり反省していないようで軽い言葉を返す。こういうところが余計にムカつく。


『お前っていつもそうじゃん! いい加減にしろよ』


 普段はあまり怒らない顕慈が珍しく声を荒らげている。


「ホント、俺達の危機って、ほぼお前の無鉄砲な行動だよな!」


 俺もムカついていたから顕慈と共に憂児を責める。


『あ~だから謝ってるじゃん』


「謝っているだけで、反省してないだろ!

 そして同じ事繰り返す!」


『九泉駅の事故、なんか大変な事になってるみたいだな。

 真実さんも大変だったね。この時間だから帰宅困難者も大勢出ているみたい』

 険悪になった空気を感じたのか鬼嗣が話題を変えてくる。


『九泉駅って二日前も事故か何かおこしてなかった? 天国線最近まじで止まるの多くない?』


 憂児は呑気な言葉でそれを受ける。俺たちの叱りから逃げる為に積極的に話に乗ってきたという所だろう。

 そう言うのが透けて見えすぎるのが憂児のムカつく所。


『お~ヤッパリ。

  今月だけで六件も電車止まってる』


 天国線とは天川と国分を繋ぐ線の為にこのように呼ばれている。

 確かに最近多めには感じる。とはいえ電車が止まった理由というのも病人対応とかもあるので、このバカ暑い季節の所為ともいえなくはない。

 Xを見てみてもこの事故で多くの人の足に影響して大騒ぎになっていた。

 今回電車が止まったのが九泉駅というのと、この時間というのが悪く作用したようだ。

 九泉駅は天国線の中でも重要な拠点となっている駅。そして九泉駅で天川行きと深潭行きに別れている。

 天川方面はまだ別経路からも路線が繋がり先にはいけそうだが、ホームタウンの広がる深潭方面は他の路線との 連絡がなくそこで止まると悲惨な事になる。現に真実さんがその一人となってしまっている。

『わ! ホームドア乗り越えて飛び出しって、どんだけ死にたかったんだよ!』

 憂児の楽しそうな声が聞こえる。なんでそんな内容をはしゃいだトーンで話してくるのか?

 俺の中でザラリとした嫌な感情が湧き起こってくる。

「ま、どうでもいいじゃん! そんなこと。それよりもう一回やろ!」

 俺はそう声をかけて、またゲームの世界に四人で突入する事にした。

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