【台本】ナンのおかわりは命懸け
客:私は今までの人生で命を懸けたことがあったであろうか。
平凡な家庭に生まれ育ち、これといって刺激的な人生ではなかったように思える。
まさか、思い付きで入ったインド料理屋で命懸けでナンを食べることになろうとは思いもしなかった・・・。
客:もう限界だ・・・急な仕事が入りまともに昼食を取れていない・・・。
何とか仕事は片付いたが、空腹で気絶しそうだ。
客:クンクン・・・この匂いは!カレーだ、カレー屋が近くにあるぞ。
ありがたい、砂漠のオアシスだ・・・オアシスといえば水、水といえば飲み物、飲み物といえばカレーだからな。
客:店名は・・・「ナンディージェ」か。ヒンドゥー語かな?とにかく店に入ってみよう。
アーシャ:いらっしゃいアル!何名サマネ?
客:あ、アル?ここインド料理屋だよな・・・いや、中華料理屋でもそんな言葉使わないだろ。
アーシャ:お客さん、一人で何ぶつぶつ言ってるアルか?一名サマでヨロシイね。こっちのテーブル空いてるネ。座るヨロシ。
客:あ、ありがとうございます。
アーシャ:これメニューネ。うち、ライスは置いてなくてナンしかないけどそれでヨロシイか?
客:あ、全然大丈夫ですよ。ナン、好きですから!
アーシャ:それはヨカタね。何枚食べれるか見ものアル。
客:あはは、好きといってもそんなにたくさんは食べれませんよ。あ、じゃあこのバターチキンカレーセットをひとつください。
アーシャ:かしこまりました、バターチキンカレーセットひとつ入ったアル~!
客:(本当にカレー屋で良いんだよな・・・?)
客:(こうして見渡してみると、店員の言葉遣いは変だったが結構本格的な店のような雰囲気がある。)
客:(これは期待が出来そうだ。)
アーシャ:お待ちどうアル~!バターチキンカレーセットネ!
客:ありがとうございます~うわ、美味しそうだな・・・ん?
アーシャ:どうしたネ?虫でも入ってたアルか?
客:いや、そうではないんですが・・・ナンが2枚ありますけど2枚も頼んでないですよ。
アーシャ:あぁ、お客さん。うちの店、最初は2枚出してるね。食べきれなければ残しても良いアルよ。
客:へぇ、2枚なら食べきれるので大丈夫です。
アーシャ:ソレは良かったネ。ごゆっくりするとヨイネ。
客:ありがとうございます。では、さっそく・・・うん、美味しい。
スパイスは効いてるんだけど、それをバターのまろやかさがうまくまとめていて・・・。
客:・・・ん?なんか視線を感じるような。
アミール:じー・・・。
ガネシュ:じー・・・。
客:うわぁ!キッチンのスタッフに凝視されている・・・!
アーシャ:お客さん、あまり気にしないでイイね。あれは・・・
アミール:お客さん、ナンおかわりするときはエンリョいらないね。ナンをおかわりするときは「ナンAおかわり」と大声で叫ぶと良いよ!
客:ナンA・・・?は、はぁ・・・なんでまた・・・
ガネシュ:テキトーなこと言うのヨクナイよ!お客さん、おかわりするときはナンBにした方がマンゾクデキルよ。
客:え、今度はB?何なんですか・・・?
アーシャ:ナンが冷めちゃうから、食べたほうイイよ。おかわりするとき教えるアル。
客:わ、分かりました・・・。
客:(AとかBとかなんなんだ?この店は。おかわりするのが怖くなってきたな)
客:(・・・食べ終えてしまった、いっそのことこのまま店を出たいが・・・)
アミール:お客さん、ナン食べ終わった!ナン、イルよね?
客:は、はい!(凝視してただけあって早いなおい)
アミール:はい、ナンAハイリマシタ~!
ガネシュ:マッタ!お客さん、Aをおかわりするとは言ってないね。
アミール:聞くまでもないヨ。Bなんてタノマナイヨ~。
ガネシュ:何を言ってる!Aが頼まれないのがコワいからお客さんから無理やりおかわりを聞き出したんだろ。
アーシャ:はいはい、2人とも落ち着くアル。お客さん、悪いんだけどどっちか選んでくれないアルか?
客:選んでくださいって言われましてもどっちがどっちか分かりませんし、味もそんなに違わな・・・
アミール&ガネシュ:なんだって?
客:い、いや・・・よく考えたらAの方が甘くてもっちりしていて、Bの方がカリッとしていて香ばしかったような・・・
アミール:お客さん、分かってるネ!そう、Aの方があまくてもっちりしていてBよりも美味しいネ!
ガネシュ:甘いだけでAは美味しくないヨ!Bの香ばしさがナンの真髄ネ!
客:もしかして、最初に2枚来たのって・・・。
アーシャ:そうネ。Aがアミール、Bがガネシュが作ったナンね。
客:なんでナンを別々の人が作ってるんですか!それにやたらとお互いを敵視しているように見えますし。
アーシャ:これはとある日のデキゴトにさかのぼるネ・・・。
客:なんでそんな壮大な入りなの・・・。
回想始
アーシャ:は~今日も働いたネ。ん?またナンを残されているヨ。
ガネシュ:ホントだ。おかわりしてくれるの嬉しいけど残されると悲しいネ。
アミール:そうだナ。ムリョウにしてるから残しやすいのかもネ~。
ガネシュ:そうかもしれないネ~。それとも美味しくないのかな。
アーシャ:でも、2人のナンは美味しいあるよ。ただ少し2人の焼くナンの味は違う気がするネ。
アミール:もしかしたら残されているのはどちらかの方かもしれないヨ。
アーシャ:そんなことあるかな・・・でもだとしてもどっちのナンが・・・
アミール&ガネシュ:そりゃそっちでしょ(お互い指を差す)
アミール:何を言ってるか、お前のナンは味が薄いヨ。
ガネシュ:味が薄いんじゃなくて香ばしいんだよ、ソッチこそ甘ったるいだけダヨ。
アミール:ナニ?ヨシ、分かった!どちらがおかわりされるか勝負だ!最初のオーダはお客さん決められないから2枚出すのドウか?
ガネシュ:ノゾムところだ!
回想終
アーシャ:・・・というカナシイ話があったアル。
客:(く、くだらねぇ~・・・!)
アーシャ:さ、どちらかえらぶアル。
客:そうだなぁ・・う~ん。
アーシャ:お客さんが時間的に今日最後のお客さんだから悩んでも良いネ。
ちなみに勝負の期間が今日で最後ヨ。
AとBのナンはどちらも同じ数を注文されているヨ。
アミール&ガネシュ:!?
客:(くだらないことだけど責任重大じゃないかよ!)
客:ではA・・・
アミール:やったね、これでか・・・
客:とBを1枚ずつ
B:このままだと引き分けになるね
客:時間的にはそうなるかもしれませんが、順番に食べてもし私が営業時間内に食べきれなかった方をカウントしない・・・でどうでしょうか。
客:私が食べきれたら引き分け、残してしまったら残してしまったナンを作った人が負けということで。
アミール:シカタないネ。
ガネシュ:それでイイよ。
アーシャ:順番、じゃんけんで決めるネ。
買った方が先に食べてもらえるから実質勝ちと引き分けを取れる。
つまりじゃんけんで勝てばナン対決負けないネ。
アミール&ガネシュ:じゃんけんぽん!
アミール:カッタ!お客さん、ゆっくり味わって食べるよイイよ。
ガネシュ:ナンはアツアツな方がおいしいから早く食べる事おすすめするよ!
客:(どちらもそれらしいこといってるなぁ、おい)
客:(それから私は命懸けでナンを食べた。無論、ガネシュの目線が痛すぎて残したら何をされるか分からないからである)
アーシャ:閉店1分前アル。
客:あと1口・・・食べきった!
アーシャ:おめでとうアル。アミール、ガネシュ・・・これで引き分けヨ。握手して仲直りするヨロシ。
アミール:悪かったヨ~。
ガネシュ:ごめんなさいね~。
アーシャ:お客さん、変なことに巻き込んで悪かったアルね。お詫びにラッシーをあげるね。
客:そんな、お詫びだなんて・・・でもせっかくだし貰おうかな。
アーシャ:はい、お待たせアル~。
客:ありがとうございま・・・あれラッシーが2個・・・?
アミール:2人が迷惑かけたら2個よ~。
ガネシュ:ゆっくり飲んでね。
~1個飲み終わる~
客:やっぱり飲みきれないから残します、ごめんなさい。
アーシャ:仕方ないヨ~。また来るヨロシ。
アミール:お客さん、どっちのラッシー飲んだ?
ガネシュ:ワタシの方だよネ?
客:あ、ええとまさか・・・
アミール:残したの、ガネシュの方ネ。美味しそうに見えなかったヨ。
ガネシュ:アミールの方ね。いつも味が濃いヨ~。
客:いい加減にしてくれ~!!
~終了~