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彼女が死ぬと世界が滅ぶことを俺だけが知っている

作者: 光闇

1000字ごとに区切った版も投稿しておりますので、長い!と言う方はホームページからそちらでお読みくださると幸いです。

 トンっと体を押され、俺はトラックの前に飛び出す。


 キキ―!ドン!


 体が浮かぶ。痛い。いたい。イタイ。


「キャー!リンネお兄ちゃん!」


 あぁ、何で、こんなことに、なった、んだろう。俺が、何を、したって、言うんだ。


「えっ?兄!?」


「お兄ちゃんに何すんのよ!」


 死にたく、ない


【ふぅーん・・・魂的に、悪人ではない。で、物語も知っている。さらに、名が近い。うん。条件に合致しているね。運良く・・・じゃなくって、不運にも死んでしまったし。タイミングもばっちりだ。】


 なんの、声


【おっと、急がないと死んでしまうな。蘇生より回復の方が消耗は少ないし・・・なぁ、少年。行きたいかい?】


 生き、たいに、決まってる


【あー、いや、うーん。まぁ、同意と言うことでいいかな!じゃ、行ってらっしゃーい!】


 は?なにを


 体がふわっと浮かぶ。少しずつ、痛みが引いていく感覚がある。


【あぁ、周りの人には幻覚見せておくから安心したまえ!ちゃんと葬式まで済ませておくさ!】


 そんな声を最後に、俺の意識は途絶えた。





じ、王子!」


 身体が揺すられる。ふわふわだ。ベッド?うちのベッドはこんなやわらかくないぞ。


 パッと目を開ける。天蓋?と言うのだろうか。こんなものはうちのベッドにはない。それに、俺は誰かに突き飛ばされてトラックに撥ねられたはず。だが、病院には思えないな・・・それに、話しかけられている気がするし。


「う、うーん・・・ここは・・・?」


 そう言いながら上半身を起こす。


「おぉ!リンネハルト王子!目をお覚ましになられましたか!」


 うん?どこかで見たことあるような、白髪の執事?さん。そして、リンネハルト・・・うーん。やっぱりどこかで・・・


「え、えーっと?」


「王子、どうなさいましたか?もしや、階段からお落ちになった際に頭を打って記憶に異常でも!?」


 凄いな。まるで知ってるみたいな・・・


「あー、うん。そんな感じ。えぇと、俺の名は、リンネハルトでいいのかな?」


「えぇ、そうですとも!貴方様はこの国、リーデンハイト王国が第二王子、リンネハルト・ドゥ・リーデンハイト様でございます!」


 リーデンハイト・・・第二王子リンネハルト・ドゥ・リーデンハイト・・・あっ


「ここ、ぺリ・ペイズ~重なる黒~の世界じゃねぇか!」


「大変ですぞ!王子が頭を打った衝撃で記憶を失ったばかりか、わけのわからぬことを叫び始めましたぞぉ!?」


 あ、やべ。そうだよな。いきなりこんなこと叫んだら変人だよな。気絶したふりしとくか。


 フッと体の力を抜き、ベッドに倒れこむ。


「お、王子ー!王子が再び気絶なさってしまいましたぞー!?」


 ドタドタと音を立てながら執事ことリーフォンが部屋を出たことを確認し、俺は体を起き上がらせる。


「はぁ・・・しまったな。もう高校生だって言うのに、驚きで声上げちゃうとか・・・うん?そう言えば、今の俺は何歳なんだろう。リンネハルトが15歳のころにノアールのせいでこの国が滅び・・・そうじゃん。滅びるんじゃん。あぁ、口に出すと誰に聞かれるかわからないな・・・」


 ぺリ・ペイズ~重なる黒~は、よくある乙女ゲーである。


 ただ、レベル上げ用にダンジョンがあり、イベントまでにレベルを一定以上に上げないと国が滅ぶ。


 そんな冒険要素もあるゲームで、そのダンジョンがなかなか難易度が高く、ダンジョン内ではオンラインでプレイできることもあり、ゲーマー仲間に誘われてやったことがある。


 主人公はアン。


 どこにでもいるいたって普通の少女、なのだが外見はプレイヤーが決めれるためこの世界の彼女の姿はわからない。


 流石に乙女ゲーだから性別は女固定なのだが、なかなか自由度が高く、ムキムキの筋骨隆々の漢女や、都市伝説に出て来るとても身長が高い例の女性など、様々なキャラクリエイトが成されこれも話題になっていた。


 この少女のレベルを上げ、装備を集めないと、ストーリーが進むごとにいくつもの国が滅んでしまう。


 問題は、その最初の、チュートリアル的に滅ぶのが今俺がいるこの、リーデンハイト王国である、と言うことなのだ。


 主人公の名前がアンで固定な所から察せるかもしれないが、最初がアンで、次に出て来るキャラが俺ことドゥ、と言うわけである。


 流石にドゥと言う名のキャラにするのは憚られたのか、ミドルネームなのだが。


 この国を襲うノアール。ストーリーが進むにつれ、彼にも悲しい過去があることが判明するのだが・・・ぶっちゃけどうでもいい。


 わが身が大事なのだ。


 もしまだ魔王になっていないのであれば、今のうちに芽を摘ませてもらうしか・・・うん?なっていない可能性があるのであれば、ならない方向にもできるのでは?


 ・・・ノアールの悲しい過去を確認しよう。


 彼は、烏族という烏に転じることが可能な、鳥人族の一種である。


 かつで存在した偉大な魔女が、『世界を黒い羽が壊す』と言う予言を残したことにより、烏族を含む黒い羽を持つ鳥人族や、他に鳥の特徴は持たない翼人族の中で翼が黒い個体が暴力行為の対象になったり、一部の職にしか就けなかったりなどの排斥されてきた歴史がある。


 その一部として、彼と彼の一家は排斥され、妹が生まれてすぐに父親を鉱山の落盤事故で亡くし、そのすぐ後に母親を流行り病で薬を得られなかったために亡くし。


 その直後に兄妹共に、お前らは疫病神だ、と追われ、スラムに隠れ住むことになった。


 そして、劣悪な環境のせいで唯一の肉親である妹が死に、彼はナニカの囁きに乗り、烏魔王になってしまうのだ。


 そしてほぼすべてのルートにおいて後半に戦闘があり、敗北すると世界が滅ぼされる。


 さて、ノアールの年齢と登場するチュートリアルモブと言ってもいい俺の年齢はどうだったか。


 確かノアールを攻略するルートもあったはずだから、あんまり離れていないのでは?


 と、言うことは、だ。まだ妹が死んでなかったりするんじゃなかろうか?


 妹が死ななければ、烏魔王が生まれず、この世界は滅びないんじゃないだろうか?


 いやまぁ、他の国は他の魔王に滅ぼされる(レベルが足りていたり、選択肢が正しければ滅びかけるだけになる)のだから、油断はできないだろうが、少なくとも目前の危機は回避できると言えるだろう。


 なんなら、作中でも屈指の魔法力を誇っていたノアールを味方に引き込めば、後に魔王になるほどの才能がある魔法使いを得れるということだろう?成功すれば、他の魔王をアンに頼らず討伐できてしまうかもしれない。


 で、あれば、まずすべきことは彼らの捜索・・・ではなく、今の年齢の確認だな。


 俺の15歳の誕生祭の時に襲撃があって、台詞の中に『あの子は死んだのに、なんで君らは喜んでいるの?』と言うものがあった。


 つまり、タイムリミットは俺が15歳になるまで、と言うことだ。


 俺は起き上がり、何か手がかりはないかと周囲の捜索を始める。


「お、これは・・・日記か?」


 ぺラリ、と表紙をめくる。


『きょうは、りーふぉんがたんじょうびぷれぜんとににっきちょうをくれた。きょうからまいにちかく!』


 自動翻訳されてくれたが、拙い文字だからなのか、ひらがなだけに見えるな・・・で、結局何歳なんだ・・・


 もう一度ページをめくる。


『にっきふつかめ。きょうはおにいさまが、もう5さいになるのだから、さほうをまなばないとな、といっていました。なので、あすからせんせいがくるんだって!』


 ほーん。作法ねぇ・・・5歳から大変だねぇ・・・


 ズキン、と頭が痛む。


 ぱぁーっと礼の仕方に始まり、話し方、食事の仕方などが頭をよぎる。


「ってぇ!・・・うっ・・・気持ち悪・・・情報一気に流し込まれるってこんな気分なのですね。」


 ところで、日記を読んだことを切っ掛けに記憶が蘇った?と言うことでしょうか。で、あれば、読み進める必要がありますね。この先、違和感なく生活し、権力を使わなければ15歳になってもいない子供が、スラムにいる兄妹を探し出すなんて不可能なのですから。


 そう考え、次のページを開く。


『きょうは、くろいことりさんをひろいました。でも、めいどさんにはくろいはねはよくないものだ、といわれましたし、りーふぉんは、だめだっていうのです。だからこっそりかうことにしました』


 それから私は時折知識を直接刻まれ吐き気を催しつつ、ページをめくり続けた。


 そのすべてがノアールに関りそうにない事以外は、問題なく知識を得られている。


『本日、長らく放し飼いにしていた黒い小鳥が話しかけてきた。その小鳥が言うには、この国はやがて亡びるらしい。自身と契約すれば、国を救うことは可能と言っていたが・・・真偽は不明だ。だが、鳥が話しかけて来るという異常事態があり得る以上、その鳥が予知能力を持っていても不思議ではないだろう。予言の件もあるし、黒い羽を持つ存在は何らかの力を持っているのかもしれない。私は、彼、もしくは彼女を信じることにした。』


「うん?そんなストーリーあったかな・・・?そもそも小鳥なんて飼ってなかった気がするんだけど。」


 私はページをめくる。


『どうやら目標の達成には、私が一度死ぬ必要があるらしい。階段から間違って落ちたことにすればいい、と言っていたが、それは周りへの対応であって私自身の恐怖をどうにかする方法ではないのだが・・・そうしなければ救えぬのであれば、私は王族としてそれを成す責務がある。これが最後の記載になるかもしれないので、今の日時でも記しておこう。次目が覚めた時に、どのくらい経過したかわからなくなるかもしれないしな。聖暦1059年6月。13歳の誕生日を過ぎた直後の私から、目を覚ました私へ。』


 ・・・つまり、本物のリンネハルト王子はその小鳥とやらに騙されたと?死んでるじゃないか。私がここに居るんだから。


 待て。国を救う、と言うのは私が成そうとしていることだよな?何故その発想に至った?・・・この世界の未来とも言えるストーリー、物語を知っているから。


 物語・・・どこかでその単語を最近聞いたような・・・


 そう考えると、あちらで死ぬ前に語り掛けてきた存在の言葉が脳裏を過ぎる。


【ふぅーん・・・魂的に、悪人ではない。で、物語も知っている。さらに、名が近い。うん。条件に合致しているね。運良く・・・じゃなくって、不運にも死んでしまったし。タイミングもばっちりだ。】


 ・・・つまり、アレが小鳥?世界を救う方法と言うのは、ゲームについて知っていたから選ばれた?こちらでリンネハルト王子を死なせ、空いた体に私を入れ、救わせる。それが小鳥とやらが語り掛けた国を救う方法?


 そんなの、本物のリンネハルト王子が報われないじゃないか・・・国を救う、その方法が自分の死だなんて・・・


 よし、決めた。


「俺の目的は、国を救うことと、本物を蘇生することだ。体はここにあるんだし、ダンジョンの蘇生薬とかを使えれば、もしかすると解決するかもしれないしな!」


 それから私はどうにか慌てて医者を連れてきたリーフォンを、目覚めた直後だから混乱していた、と誤魔化すことに成功した。


「それにしても、騎士団長に会いたいとはどんな風の吹き回しですかな!魔法が出来れば剣なんて使わなくてもいいと言っていたではありませんか!リンネハルト王子の魔法の腕はすでに国内で十指に入る実力ですぞ!?」


「ふふ、久しぶりに図書館に行ったら、絵本の勇者様が魔法と剣を使って戦っていてね。いずれダンジョンに行きたいと思っている私は、剣を使えた方がいいだろう?魔法はMPを消耗しきったら使えないからね。それに、ある程度の基礎体力は合って困ることは無いしね。」


 まぁ、実際は元々剣道部だったからなんだけど、それは言えないよね。


「そうでしたか!確かに、確かにダンジョンにおいて体力があることに越したことはありませんからな!ですが、ダンジョンに行こうと企んでいたなど、初耳ですぞ!?」


「あれ?そうだったかな?第二王子である私はあくまでスペアだからね。国に貢献するには、何かいいものを取ってきた方がいいと思っていたのだけれど。」


 まぁ、これは半ば事実だ。力を得て王位を狙ってる、なんて思われたくないしね。


「おぉ!なるほど!うちの国の王子方は皆、他の国の王子達とは異なり兄弟仲がよろしいですからな!それはそれは・・・国王閣下もお喜びになるでしょう!何かに憑りつかれたように魔法一辺倒であったリンネハルト王子のことを心配しておいででしたからな!」


 あぁ、本物は魔法の研究で国の滅亡を回避しようとしていたんだったな。だからか。この体は前の身体より5歳近く幼いことを差し引いても、貧弱だからな。


 そんなことを考えていると、騎士団の稽古場にたどり着く。


「えぇい!遅刻など、ありえん!そのような精神で王族の剣としての役割が務まると思うな!」


 茶髪の筋骨隆々の男が、緑髪の青年を怒鳴りつけている。


「は、はい!もうしわけありません!」


「エメラ!お前は素振り300回!他の者達は近い実力の者と模擬戦をせよ!」


 そう言うとその茶発の男は、くるりとこちらを向き、胸に手を当て、体を軽く折り曲げ、私に話しかけて来る。


「リンネハルト王子、このような汗臭いところに、何か御用ですかな?以前におっしゃられていた研究に必要な材料をとってきてくれ、と言う話も、国王閣下から、割り振られた予算だけで購入させよ、手伝いは禁ずる、との命が下っておりますので、お受けできませぬが・・・」


 その言葉に、私が答える前にリーフォンがズイと前に出る。


「アンダリュサイト!リンネハルト王子は心変わりなさったのです!剣を学びたいとか!」


 その言葉に、アンダリュサイトはその黄色い瞳を見開く。


「なんと!そう言うことでしたか!では、まず今の実力を知りたいので、軽く打ち込んできてくださいますかな?」


 そう言い、アンダリュサイトは模擬刀を持ってくる。


「はい!よろしくお願いします!」


 さて、受け取ったはいい物の、どうしようか。


 うーん・・・弱かったらダンジョンに行くのが遠のくだろうし、研究の成果を使わせてもらおうかな。本物は書物を運ぶのに使っていたようだけど、ね。


 なるべく早くダンジョンに潜って可能な限りレベリングを、そして自分で使えるお金を、そうだな・・・彼らを保護した後生活させる程度は稼ぎたいし。


 そう考え、私は模擬刀を立てて顔の右手側に寄せ、左足を前に出して構える。体力があまりないこの身体では、中段や上段より疲れにくく、また、格上に挑む以上下段よりも機敏に動けるこの八双の構えが最善だろう。


 別につばぜり合いをするわけではなく、こちらから切りかかるだけだしね。


 剣を一切知らないはずの私が、構えをとったことに驚いているのか、アンダリュサイトは片眉をあげる。


 やっぱ違和感を感じるか。


 だが、そんなことを気にしてる時間的余裕はないし、仕方ない。


 最悪、彼には話して手伝ってもらうって言うのもありだしね。


 王族の剣である近衛騎士団団長である彼なら、国の危機であれば手伝ってくれるかもしれないし。


 だが、それもこれも実力を見せなければ話にならない。


 スゥッと息を吸い、体内の魔力を活性化させる。そして、それを巡らし、体を強化する。


 まずは足、次に腕を強化し、次に腹部に魔力を循環させる。


 日常的に使っていたからか、体が覚えている。


 刻まれた記憶にもあったから、問題なく使用できた。


 次に、背中に魔力防壁を展開する。ここからは俺の知識だ。


「行きます!」


 そう言ってすり足で近づく際に、風魔法を使い、アンダリュサイトの想定以上の速度で移動する。


 そして、目の前でピタリととまり、左肩口から右わき腹へと斜めに振り下ろす袈裟懸けを繰り出す!


「ぬぅ!?」


 アンダリュサイトは驚愕の声を上げつつ、その剛腕からは想像できない程の速さで手に持っていた模造刀で俺の袈裟懸けを受け止めた。


 ジン、と腕が痺れるが、回復魔法を発動し、模造刀の峰にも魔力防壁を展開し、表面積を広げ、そこに風魔法を放つ!


「ぬ!?」


 一度受け止めた攻撃が再び勢いを持つ、という通常あり得ない現象に驚きの声を上げるが、それでも力が足りなかったのか、弾かれ、吹き飛ぶ。


 このままでは頭から真っ逆さまに落ちる、そう判断した私は空中に結界を展開し、それを蹴ってくるりと回転、どうにか背中から落ちるように態勢を整え、衝撃に備えてぎゅっと目をつぶる。


 とすん、と軽い衝撃が来、少し後に同じくらいの軽い衝撃が体を襲う。


 思っていた物とは異なる現象に困惑した私は目を開く。


 目の前には、リーフォンの白い髭があった。


 えぇ?どういう状況?


「アンダリュサイト!手加減をしなさい!王族を吹き飛ばすなんぞ、そのような教育をした記憶はありませんよ!」


 あ、私、俗にいうお姫様抱っこみたいな感じに抱えられてるのか。


 リーフォンが空中でキャッチしたってコト?


「す、すみません!思っていたより強く、思わず力が・・・」


「王族の剣と偉そうに説教していたにもかかわらずこの始末!どう責任を取るのです!」


「え、えぇと・・・」


 責任って・・・


「リーフォン、おろしてくれ。それと、アンダリュサイト」


「はっ!」


 リーフォンはそう言うと、脚から先にふわりと優しく降ろす。


 過保護すぎでは?


 っと、そんなことより、胸に手を当てて私に頭を下げているアンダリュサイトに言葉をかける方が先か。


「そんなに硬くならないでくれ。私が稽古をしたいと言ったのが発端なのだ。罰そうなんて思っていないし、責任なんて問わないさ。」


「はっ!ありがとうございます!」


「ところで、それでもアンダリュサイトが気にするというのであれば、頼みたいことがあるのだが・・・」


 アンダリュサイトはちらりと私の後ろ・・・リーフォンを見る。


「何なりとお申し付けください!」


 うーん・・・今のリーフォンの表情が気になるけど、都合はいい。


「スラムにいるであろう、烏族の子供の保護をしたいんだ。」


 アンダリュサイトは顔を顰める。


「烏族、ですか・・・」


 渋るアンダリュサイトに、リーフォンが目を吊り上げる。


「何か問題があるのですか!?」


 アンダリュサイトは申し訳なさそうな顔をする。


「い、いえ、その・・・」


 このままじゃ良くないな。


「あぁ、予言のことであれば気にしなくていい。関りがあるのだとしても、むしろ、それを阻止することになるはずだ。」


 アンダリュサイトは不思議そうな表情になる。


「それは、どういうことで?こう言っては何ですが、黒い羽は・・・」


「忌み嫌い、排斥することに意味などない!私の飼っている小鳥は、黒い羽だからと放置されそうになったが、今では立派に・・・立派に恩返しをしてくれる!重用すれば、恩を感じることはあっても敵対することはないでしょう!」


 その言葉は、稽古場中に響き渡る。


 こそこそと、また魔法の王子が変なことを言っている、などと言っている者もいたが、ある程度の者は、一理ある、と理解を示してくれた。


 今はそれで十分だ。


 それより、アンダリュサイトの反応は・・・?


「う、うぅ・・・俺、俺、感動しました!王子がそのような立派なことを考えていらっしゃったとは!王子の深慮を理解できなかった自身が恥ずかしいですぞ!」


 おーいおいおい、と泣きながら叫ぶアンダリュサイト。


 この調子なら、うまくいくかな?


「リンネハルト王子?」


 あっ・・・リーフォンの対応をしなきゃ・・・いつになく冷たい声だ、怒っているのだろうか?


「リ、リーフォン!私は王族として。」


「それは構いません。」


 ピシャリと言い放つ。


 うん?では何が駄目だったんだ・・・明らかに怒っているよな・・・


「王子、私は幼少の頃の黒い小鳥に関して、自身で世話をしきれないのだから、中途半端にかかわるのはおやめください、そう言いましたよね?」


 あ、あー・・・そう言われてたのか。日記では黒いからダメ、的なことが書かれていたが、それはリーフォンではなくメイド達が言っていたんだろうな・・・5歳だし書き方を間違っても仕方ない。


 それより、今はどうやって切り抜けるか・・・


 あっ、そうだ。


「あぁ。そうだったな。無事怪我が治癒し、自由に飛び回れるまでになったのだから、問題ないだろう?言われた通り世話を仕切ったし中途半端に関わったわけではないぞ?」


 ふぅ・・・とリーフォンはため息を吐く。


「王子、そう思うのであれば私の目を見て話してくださいませ。自分でも間違ったことを言っていると思っているからそのような反応なのでしょう?今更叱りはしませんが、烏族の子供を拾う、と言うのは小鳥を拾うのとは話が異なります。人の人生を左右するのです。その認識がおありですか!」


 リーフォンがいつになく真剣な目で叫ぶ。


 キッとリーフォンの目を見つめる。


「あぁ!中途半端な考えで拾おうとしているわけではない!私は私なりにきちんと責任を持って、きちんと世話をする!」


 フッとリーフォンの目が柔らかくなる。


「ふふ、そうですか。血は争えませんな。」


 うん?どういうことだ?


「それは、どういう?」


「こういうことですぞ。」


 そう言ってリーフォンは執事服を脱ぎ去る。


 そして、背中から黒い翼が生えて来る。


「翼人族、漆黒のリーフォン。それが私です。30年前、王子のお母さまに拾われたのですよ。」


 リーフォンが黒い翼?そんな話、どこでも聞いた記憶が無いし、日記にもなかったんだけど・・・


 騎士たちが、おぉ、流石戦場の漆黒・・・だとか、黒い死神、本物は思ってたよりかっこいい・・・だとか言っている。


 え?周知の事実?だから、変なこと言ってるなー、って言葉は聞こえたけど、メイド達みたいな忌み嫌う陰口はなかったのか。


 なんかいきなり恥ずかしくなってきたな・・・本物の実績ある黒い翼の目の前で、私は差別しない!なんてことを叫んでたのか・・・


「ほほ、リンネハルト王子には見せたことがありませんでしたな。王子が生まれる前までは、魔物がダンジョンから溢れた時などに、それはもうばっさばっさとなぎ倒したものですぞ?」


「あぁ、事実だ。先代近衛騎士団長、リーフォンってのは有名な話だが・・・耳に入らねぇってのも変な話な気が・・・」


 そうですよね。なんで1㎜も知らなかったんでしょう。


「まぁ、私がすべて遮断しておりましたからね。王子が黒い翼をどう思うのかに、私が関与したくはありませんでしたので。」


 あっ・・・そういうことか。


 ゲームでのリンネハルト王子は、死んだ後に、母親が寝込んでいた塔の部屋で黒い羽を見つけたことにより、母親の死に関わっていると思って黒い羽を恨んでいた。


 それもあってこの世界では黒い羽が嫌われてるって言うことがはっきりと分かったんだけど・・・


 だが、それはリーフォンの羽だった、ってことか。


 大方、死ぬ前にあなたの翼を再び見たい・・・とか言ったんだろう。


 では、死因はなんだった?


 ・・・思い出した。ノワールの母や、妹であるシエルの死因でもある、流行り病に感染したんだ。


 確か、14歳の誕生祭はその喪に伏せる、と言うことで行わず、リーデンハイトの滅亡~2年ぶりの誕生祭での悲劇~なんて言われてたくらいだ。


 つまり、保護だけでなく、病の対策も行わなければならない、と言うこと。


 確か、流行り病が広まったことを切っ掛けに、病魔を払うという方向性の回復魔法も研究していたはず。


 そこに、地球の人間である俺の知識、ウイルスや菌と言う概念が加われば、不可能なはずの病に効く回復魔法を完成させることができるかもしれない!


 効果を強めるであろう杖に必要な材料は、聖衣を軽く巻く程度、、聖銀を一欠片、聖水を少々、聖樹の枝あたりか?聖水は霊峰ウィンブルグからとれる霊水を使って作れるし、聖銀は銀を教会で祝福すれば作れる。そして、確か一番近くのダンジョンのセイントマミーのドロップが聖衣だった。


 対応策を考える必要があるのは、聖樹か。


 いや、まずは・・・


「アンダリュサイト!」


「はっ!」


 お、行けそうか。


「先ほど命じた捜索に、聖衣が必要である!」


「はっ!」


 これならいける!


「近衛騎士団を率いて最も近いダンジョンに突入し、10層ボスのセイントマミーを複数回討伐し、聖衣を5つ用意せよ!」


「はっ!・・・うん?これ、材料を取ってこいと言う命令では・・・?」


 よし、勢いで行けたな。返事したもんな。


「リーフォン!」


「はい。何でございましょうか。」


「聖樹に関して心当たりは?」


「はて、聖樹ですかな?」


「あぁ。枝がいくつか必要なんだ。」


「ふぅむ・・・」


 リーフォンは考え込む。


 流石に難しかったか・・・?


「確か、近くのエルフがいる森に、聖樹があったはずですな。ですが、エルフは人をあまり好みません。」


「うーむ・・・そうか。では、他の入手方法を・・・」


「あ、あの!」


「うん?」


 先ほどアンダリュサイトに叱られていた、緑髪の青年。


「確か名は、エメラと言ったか?」


「は、はい!名前を憶えていただき、光栄です!その、我が曾祖母はエルフでして、もしかすると話を通せるかもしれません!」


「ほぉ、そうだったのですね。それならば・・・」


 なんだって!?つまり、彼は8分の1、エルフの血を引いてるってことか。なんで魔法術士団じゃなく近衛にいるんだろうか。


「私はあまりうまく魔法が使えなく、曾祖母と何度も特訓をしました。仲は良いので、その・・・」


「うむ、でかした!では、いこうではないか!」


「え、えぇ!?今ですか!?」




 それからリンネハルト王子は、半年ほどで無事素材を集め、病魔を駆逐する魔法を発明することに成功した。


〈魔法を用いて流行り病を王都から根絶する!これは、スラムの者達も同様である!

 必要な杖は5本しかない故、少しずつではあるが、症状が重い者は優先される

 広まることを妨げる行為である為、身分に関係なく症状の重い者は優先される

 逆に、病を隠匿した者を発見した場合、王城に連絡をすること

 通報が正しかった場合、小銀貨5枚が支払われる

 連行され第二王子の前で隠匿理由を説明することになるため、必ず治療を受けよ〉


 と言う旨が書き記された立て看板が教会や大商会、橋などに建てられ、街やスラム街で叫ばれた。


「ふふふ。杖を使う者達には事情を説明し、烏族の者が訪れれば追跡魔法がかかっている木板を渡し、私に報告するように言ってある。そして、隠匿されることもあるまい。これで解決だ!」


 ドンドン!と言うドアをノックする音が聞こえる。


 こんな乱暴なノック音は、リーフォンではないな?


 私は、多めに用意した杖の素材で作った魔法が大量にかかっている、自身の煌めく刀を寄せる。


「入れ。」


「はっ!失礼します!」


 そう言って部屋に入って来たのは、うん?治療術士に付けていた騎士の一人じゃないか。


 なんでここに?


「はい、病を隠匿していた者が発覚しました。」


「ぶふっ」


 思わず紅茶を噴き出してしまったぞ?まだ3日目だぞ?それで隠匿ってどういうことだ?


「ごほっ・・・ごほっ・・・説明せよ。」


「はっ!烏族の子供が二人、小さい妹の方が症状が重いにもかかわらず、治療を拒否していました。その為、早急に魔法を強制的にかけ、馬車で連行いたしました。」


 ・・・あー・・・他人を信用していないから、治療拒否したのか。これは私の失態だな・・・


 私は手元のベルを鳴らす。


 すると、すぐにメイドが現れる。


「はっ。何用でしょうか、王子。」


 そして手元の空になったカップと、紅茶まみれになった机を見てすぐに一礼する。


「なるほど、紅茶のお替りですね。それと、対処のメイドも呼びますので、少々お待ちを。」


「ち、違う!いや、違わんが、リーフォンを呼んでくれ!」


 するとメイドは一度顔を上げ、一礼する。


「かしこまりました。」


「はぁ・・・やれやれ。」


「珍しいですね。リンネハルト王子がそこまで取り乱すだなんて。」


 そう報告をしに来た騎士こと、エメラが言ってくる。


 彼とは共にエルフの里まで行き、ひと悶着ありつつも聖樹の枝を6本手に入れることに成功した時以来、それなりに交友関係を保っている。


「・・・まぁ、な。半年以上かけた大仕事がたった3日目にして失敗しそうになったんだ。取り乱しもするさ。」


「それもそうですね。聖水の生成や聖銀を得るのにも相当手間取りましたし、失敗したら目も当てられませんね。王子の懐的にも。」


「うっ・・・それを言うな。聖銀を教会から買うために相当金がかかったんだ・・・成功して父上に功績として認められ、報奨金を得られなければこの先の活動なんてできないからな・・・」


 エメラは視線をすぅっと手元の刀に向ける。


「それ、杖と同じような素材ですよね?」


「うん?まぁそうだな。」


「1本分余分に用意しようとしなければ資金にある程度余裕もあったのでは・・・?」


「し、仕方ないだろ!私も個人的な物が欲しくなったのだ!それに、聖衣は使っていないだろう?」


「えぇ、使っていませんが・・・聖水は3倍以上、聖銀に至っては5倍近く使用してますよね・・・?金銭が多くかかったのはそれらですよね・・・?」


「うっ・・・」


 そんな会話をしていると、メイドに呼ばれたリーフォンが文字通り飛んで、窓から入って来る。


「王子、どうかなさいましたかな?」


「あぁ、リーフォン。丁度いいところに。いや何。私が捜していたと思わしき烏族の兄妹が発見されたのでな。お前が翼を広げていてくれれば、多少は安心するだろうと思ってな。」


「あぁ、そう言うことでしたか。承りました。」


 ふぅ、これで大丈夫だろう。


 ゲームの俺は、リーフォンの信用を勝ち取れず、真実が見えていなかった。


 リーフォンが黒い翼を出して共にいてくれれば、王家が黒い翼を嫌っているだなんて思われず、ノワールに滅ぼされることもなかっただろうにな・・・


「では、連れてまいりますか?」


「いや、私が行こう。位置はわかっているしな。」


「はて・・・?」


「あぁ、治療術士がきちんと木板を持たせていましたからね。」


「そう言うことだ。」


 そう言って私は、立ち上がり、刀を握りしめる。


「転移!」


 その言葉と共に、視界が白く染まる。




 ぱぁっと木板が光輝いたことに驚いた黒い髪の少年は、驚いてバッと放り投げる。


 その板から魔方陣が展開され、そこから放出された光が収まると、この国の王族特有の紫髪金瞳の少年と、緑髪緑瞳の少し耳が尖った騎士、そして執事服を着た白髪で白い髭が生えた黒い翼の男性。


 ・・・黒い翼?少年は困惑した。


「わぁ、綺麗・・・」


 妹がそんなことを口走ったので、少年は慌てて視線の先を追う。


 あぁ・・・視線は王族に対して向いていた。


 その王族が口を開く。


「やぁ、ノワール君、シエル君。私の名前はリンネハルト・ドゥ・リーデンハイト。この国の第二王子で、君たちの味方だよ。」


 そう微笑む彼が、妹を熱意がこもった目で見ていたことに、ノワール少年は気付いた。


 そして、一つの確信を得た。


 それは、確実に面倒なことになる、と言うことであった。




 リンネハルトは、ある意味恋焦がれたと言っても過言ではないその少女が健康体で目の前にいることに感動し、じっと見つめていた。


 そして、一つの疑問が脳裏を過ぎる。


 まだ14歳にもなっていないのに、シエルが重病?つまりそれは、自身の行動でバタフライエフェクトが起こったのでは?と言うものである。


 それは事実であり、そうではないともいえる。


 黒い小鳥に本物のリンネハルトが出会った時点で、蝶の羽ばたきは発生しており、彼がこの世界に来たことも生じた竜巻の一つなのだから。


 リンネハルトはそうとは知らず、彼が15歳になるまでシエルに生じた些細な出来事にすら一喜一憂するのであるが、それはまだ彼はおろか、黒い小鳥()すら知らない。





 目の前の身体からふわりとキラキラ光る球が浮かび上がる。


 そのタイミングで、見知った世界への次元孔を開き、空になり寝込んでいるリンネハルトの身体にぶち込む。


 魂が元気だしきっとすぐ目覚めるだろう。


【さて、それよりもこちらだね。彼には葬式を済ませておくと言ったね・・・あれは嘘だ。ま、誰も聞いてないけど。】


 そう言うと、黒い鳥は口からキラキラ光る球を吐き出す。


【うぇっぷ・・・あー、なかなか苦しかった。さて、これをこの体に、っと。】


 黒い鳥がその光る球をリンネの身体に押し込むと、リンネの身体は再び呼吸を始める。


【さて、このままじゃ虫の息だし、軽く、そうだね・・・運よく無事だった、程度にして、周りの人間の記憶を処理すればいいか。いやぁ、この翼で普通にあの世界で飛び回るだけで恐怖の信仰を得られたのは僥倖だったよ。】


 そう言うと黒い小鳥は羽を広げ、黒い波動を空間を満たす。リンネの折れた骨は再生し、噴き出た血は消え、周囲の人はぼーっとした、意識のない瞳になる。


【にしても、つながりが濃いとはいえ、世界を渡ってかかわりのある世界を簡単に覗きに来れるようになるとはね。まさか、あの世界自体がこの地球のゲームへの信仰だけで出来てるとは思わなかったけど。急速に成長し続けていたから、こちらと一時的に同期させることで遅くしてるけど、焼け石に水だよねぇ・・・まぁいいか。弱っていた私に親切にしてくれたのはこの子だけだし、他がどうなろうと知ったことじゃないさ。】


 そう言った後、少し考えこむ。


【・・・リンネ君の様子は見に行くべきだろうし、同期はそのままにしておこうかな。あの世界の黒い羽への恐怖の信仰はエネルギー量の回復に随分と役立つしね。】


 小鳥はそう言うと、自身の力の痕跡を消し、ふわっと姿を消す。


 その直後、付近の人々はハッと意識を取り戻す。そして、リンネお兄ちゃん!と叫んだ少女がリンネに近づく。


「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」


 そう言って揺すった少女は、リンネに外傷が一切ない事に気付く。


「あ、あら?トラックにぶつかって、こんな無事なんて・・・」


 バタン、と音を立ててトラックから男性が降りて来る。


「お、おい、嬢ちゃん!今、無事つったか!」


「え、えぇ。」


「よ、よがっだぁ!俺はもう、殺しぢまっだがど!」


「ちょっと!そんなこと言ってないで救急車呼んで頂戴!私はスマホ持ってないのよ!」


「お”、お”う”、ぞう”だな”!」


 男性はそう言いながらスマホをポケットから取り出し、救急に連絡をする。


【あぁー・・・無事だろうけど、記憶喪失扱いになるんだよな・・・あのおっさんかわいそー。まぁ、事故?事件?自体は私に関係ないし?むしろ死んでないことに対して礼言ってほしいくらいだし?】


 近くの木の上で様子を見ていた黒い小鳥は、そんな言葉をつぶやいた。

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